今年からキュレーターで参加させていただきました。普段は、フリーでライターしつつたまにDJもしております。保坂さん、上野さんと同じく私もシンコー・ミュージックさんの『CROSSBEAT YEARBOOK 2016-2017』に参加しておりますので、そちらもチェックしていただけたらと思います。
ベストは、それぞれコメントが長くなってしまいましたが、選ぶのが大変だった、それだけ語りたいことが多かったということだと思います。
5. Carnage x Section Boyz / Bimma
英国におけるブラック・ミュージックの祭典”MOBO Award”にて2015年に最優秀新人アクト、今年は最優秀ヒップホップ・アクトの部門を受賞した6人組モブ、Section BoyzがCarnageと共演した「Bimma」は、今年一番中毒性のあった楽曲。その理由の一つがフックにおける何度も繰り返される「Zim zimma / A who have de keys fi de bimma」というラインにあるが、このパートがジャマイカン・ダンスホールのクラシック、Bennie Manの「Who Am I」からサンプリングされているのが、いかにも英国ヒップホップ的なアプローチである。
グライムの熱は落ち着いてしまった感がある英国シーンだが、Drakeとも共演、マッチョな雰囲気から、高音、力の抜けたものまで6人6色のラップが聴けるSection Boyzは2017年もその動きが楽しみなアクト。それと、Carnageはこういうダウン・ビートのトラックの方が良いなと感じた。
4. D.R.A.M. / Broccoli feat. Lil Yachty
4月にリリースされたこの曲の5ヶ月かけてのBillboard Hot 100でのトップ10入りは、今年最大の感動的な瞬間の一つ。
昨年、後から発表されたDrake「Hotline Bling」が酷似していることも話題になったレゲエ調の「Cha Cha」でブレイクした可愛らしいキャラクターとゆる~い雰囲気でもお馴染みのD.R.A.M.。
そして特に従来のヒップホップ・ファンからMumble Rap(何を言っているかよくわからず、メッセージ性もあまりないラップ)とバカにされながらも、超絶ミニマムなビートに時にメロも乗せながら独自のライムを切り拓く、Lil Yatchy。
2人の象徴的な新世代ラッパーによる、雑にまとめてしまえば「パーティ中のビッチのケツが最高、ブロッコリ(ウィード)吸いたい」というだけの、それこそ大した意味のない一曲。だが、ゆる~い雰囲気と一度聴けば耳から離れないピアノ・リフに、MV中のご満悦そうな2人の表情が相まって、今年あった色々な気の滅入る出来事も忘れさせてくれるパーティ・ソングに。
3. BLACKPINK / 붐바야 (BOOMBAYAH)
「バダ ビン バダ ブーン / パンパン パラパラ パンパンパン / チャンチャンチャン / トゥドゥルッパウ / ランボ!……」
いきなりの「Blackpink in Your Area」という攻撃的なフレーズ。兎に角体を激しく動かし、且つセクシーなダンス。いかにもアジア人らしい麗しいボーカルがあったかと思えば、ハードなラップも余裕でこなす。そして、Ariana Grandeと Zeddによる「Break Free」を思わせるところもある完全なるEDMベースでありながら、BPM125のトラックはよりハードに……。
8月にYG Entertainmentからの8年ぶりの女性グループとしてデビューした4人組Blackpinkはこの「BOOMBAYAH」において他のどのグループよりも韓国語・英語・そして特に意味を持たない発声(色々調べてみたけどタイトルの「Boombayah」でさえ特に意味がないらしい)を混ぜることによるケミストリーを楽しんでいる。そして度々比較される2NE1同様、そのコンセプトとファッションで同世代のガールズ・グループと差異を図っている。
デビュー当初から「Fifth Harmonyと対等に勝負できる唯一のグループ!」なんて思っていたが、Fifth HarmonyからCamila Cabelloが脱退した現在、Blackpinkが2枚目のシングル『Square Two』でそのレパートリーの幅広さを示してしまった以上、Blackpinkは世界一ホットな女性グループと言って過言でない(韓国国内に目を向けてみれば、2NE1が解散してしまった2016年に登場したのも象徴的)。
2. Solange / Cranes In The Sky
アメリカにおけるアフロ・アメリカンの女性の立ち位置について、怒りを表現するでもなく、リスナーを強く鼓舞するでもなく、寄り添い、一緒に悲嘆しながら且つ優しく治癒するように、オーガニックなタッチを通して表現したSolangeのアルバム『A Seat At The Table』は、似たテーマも扱いながらも対照的に彼女らしい”パワーの強さ”も見物だったBeyonceの『Lemonade』と共に今年最大の収穫。
その中からのベスト・トラックがこの「Cranes In The Sky」。アルコールを摂取してみる。髪を切ってみる。セックスをする。ショッピングをしたり、旅をしてみる。恋人と別れ独りになってみる。そうした企てを試みても逃れられない悲しみが、Raphael Saadiqの指揮の下の、ストリングス、ベース、ピアノ、ドラムのみのとことん無駄をそぎ落としたトラックの力を借りて、柔らかに描かれる。これは多くの困難を経験した2016年に最も必要とされたメディテーションだ。
1. Heize / And July ft. DEAN and DJ Friz
昨年はKOHHが参加した「It G Ma」が北米でヴァイラル・ヒットになったり、そして今年はかなりの数のアーティストを網羅し、しかも自分の足を使って集めた情報もふんだんに詰め込まれた『ヒップホップ・コリア』なる素晴らしい本が発売されたりと、直ぐ側の国、韓国のヒップホップ・シーンの熱はここ日本でも十分に話題になっているが、2016年は「R&Bも負けてません」、という印象を抱き続けた一年であった。そしてその中でも群を抜いて活躍していたのが先月の来日も記憶に新しいシンガー、DEAN。キャッチーなバラードや未来的ビートのトラックなど、多彩な表情をみせていたアルバム『130 Mood: TRBL』も素晴らしかったが、それ以上にこのHeizeとのコラボ・ワークはメインストリームとアンダーグラウンドを自在に行き来するDEANのポテンシャルの真骨頂といった感じ。ブームバップっぽい90年代のヒップホップ/R&B仕様のトラックはとてもスムースで、Heizeのキュートな歌/ラップと、Deanのどこか陰のあるセクシーな歌によるデュエットが最大限に活きている。2016年のベスト・ポップ・ソング、そしてコリアンR&Bは「来年も特に目の離せないシーン」という意味も込めて、ベスト・トラックに選出。
Comment
いままでの常識では起こりえないようなことが幾つも起きた2016年。そこから何かを受け取って表現に変えた作家たちと、その表現の面白さがリンクしていた、特に北米のシーンはそれもあって豊作の一年だったと思います。
その北米のシーンの動きに音楽的な部分で、アジア各地のシーンが追い付いていた、それどころか同時進行で発展していることを楽しめたのが今年の個人的な収穫。特にK-Popからヒップホップ/R&Bまでたくさん韓国のものを聴きましたが、これらの音楽は日本よりも東南アジアで各地で熱狂的に受け入れられているように思えて、いろいろ考えさせられました。
いろいろなシーンを横断する新しい表現に出会い続けられるよう、2017年も積極的にいろいろトライしていきます。
番外編 マイ・ベスト
【ベスト・モーメント】
「北海道日本ハムファイターズ日本一」
少年時代からずっと応援していたファイターズが、自分が中2の時以来の10年ぶりの日本一に。西武ドームまで行ってリーグ優勝の瞬間に立ち会い、日本シリーズ最終戦は東京のファイターズ・ファンの集まる場所でパブリック・ビューイングして喜びを分かち合ったりと、最高のシーズンでした。世間が「カープ!カープ!」(雑)という感じだったので、一時は日本一は難しいかなという気持ちもありましたが、一年間若いチームでよく頑張りました。来年は連覇を!