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特別対談 / RhymeTube × Pecori(後編)


キャリア初期を共にしながらも、現在は別々の道を歩む2人。対談後編ではアルバム『KOZMO』制作背景に迫る

2022.04.11

Rin音や空音、SUSHIBOYSの人気曲をはじめとした数多くのラッパーへの提供や、自身名義での作品でも注目を集めるプロデューサー、RhymeTubeが待望の1stアルバム『KOZMO』を1月に発表。3月末には同作のCDもリリースされた。

『KOZMO』には先述のSUSHIBOYS、空音や盟友・Jinmenusagiをはじめ、多様なラッパー/シンガーが参加。ひとつの集大成とも言える濃厚な内容に仕上がっている。今回はそんな傑作を作り上げたRhymeTubeの今に迫るべく、アルバムの参加アーティストのひとりであり、同郷の友人であるODD Foot WorksのPecoriを迎えて対談を実施。

それぞれのキャリアのスタート地点〜初期、そしてルーツを振り返った前編に続いて、後編ではアルバムの制作背景をじっくりと紐解く。さらに、お互いのこの先の歩みについても、旧友同士だからこその飾らない言葉で語ってくれた。(編集部)

前編はこちらから

Interview by Shoichi Miyake
Text by Shunsuke Sasatani
Photo by Keigo Sugiyama


原点回帰、ありのままの自分で作り上げた『KOZMO』

――ふたりの出会いから話してきましたが、そろそろアルバムの話に移りましょうか。先ほど、自分のアイデンティティを示すためにも今回のフルアルバムが必要だったとお話されましたけど、実感や手応えについてまず聞かせてください。

RhymeTube:今まで関わってきて人たちからの評判はよくて。ただ、ちょっとまだわからないところがあるというか。リリースから1ヶ月経ったんですけど、このアルバムは長いスパンで聴いてもらいたいという思いがあるので。10年後とかに聴いてもいいじゃんってなる感じを目指したし、割とトレンド的なものは意識してないところもあって。

――トレンドをそこまで意識していないというのはビートを聴いていても感じました。

RhymeTube:Pecoriはどう感じた?

Pecori:俺もそう感じましたね。10年後を見据えた作り方って感じ。

RhymeTube:言葉にしたいことはたくさんあるんだけど、どうしてもネガティブに捉えられてしまいそうな言葉になりそうで。上手く言葉にできないけど、いい意味で渋いアルバムなのかなって思う。

Pecori:ネガティブっていうのはどういう感覚なの?

RhymeTube:パンチ的なものがあまりないというか……。自分でミックスまでやっちゃってるので、たぶん飽きてしまっているんですよね。だからもう自分では聴かなくなっちゃってる。今日の取材前に電車で聴いたくらいなんですよ。

――逆に言えば、次にやりたいことがすでに浮かんでいるということですか?

RhymeTube:そうですね。今回のアルバムで意識したのは、自分がこれまでやってきたプロデュース業で生み出してきたビートやこれまで出してきたEPとは対比したものを作ることで。それが完成したから、次からはなんでもアリの曲が作れるなと思ったというか。

――トレンドを意識するものではなく、自分の好きなものを詰め込みたかった。

RhymeTube:僕が学生時代から聴いてきた、好きだった音楽の要素が入っている感じです。ただ、ハウスやガラージみたいなダンス・チューンは以前のEPでやったので、そこは好きだけど省いた。今回は、割とヒップホップに寄せて作ろうって決めていたんです。ブーンバップや00年代の日本のヒップホップの要素を取り入れて作った感じですね。

2019年発表のEP『Feel BLue』収録のダンス・チューン「RUNNIN’ feat. Jinmenusagi」

――それは聴いていてすごく感じました。

RhymeTube:次は……まだ決めてないんですけど、マルチな感じで作りたいですね。遊びまくるようなビートで作りたい。

Pecori:いまの話を踏まえた上で話すと、俺は学生時代からRhymeTubeを知ってるからこのアルバムのよさも人よりわかるというか。

RhymeTube:そうだね。たぶん、僕が音楽を作り始めたときからいちばん聴いてくれてるのが、Pecoriだよね。

Pecori:そう。だから、最初から今までを知ってる上でこのアルバムを聴くと、いい意味で無理をしてないというか。作り始めた頃のものと根本は変わってないんですよ。それがスキルや経験でブラッシュアップされてる。

RhymeTube:僕が最初に作っていたものに戻ってきた感じ? 個人的にも少し戻りつつあるなって思っていたんだけど。

Pecori:原点回帰した感じはかなりありますよ。当時よりもスキルが上がってブラッシュアップされているけど、なんか久しぶりって感じがしました。RhymeTubeは一番こういう音楽が好きなんだなって思った。

RhymeTube:そう言われると、前までの作品は背伸びしてたのかもしれないね。こうなりたいっていう理想を追求していたというか。今回のアルバムはそうではなく、そのままの自分で作れたということですかね。


0から1ではなく、1から10に――柔軟な制作スタイル

――RhymeTube氏はビートメイカーとして様々な曲を作れてしまう側面もあるので、自分のアルバムで射程をどこに定めるかって難しい部分がありますよね?

RhymeTube:確かに、人のアルバムと自分のアルバムでは使う引き出しが全く違ったので。他人に対してはこういうアプローチができるんだけど、自分にはできないということが結構あったので、そこは難しかったですね。

Pecori:こんなこと言っちゃうとRhymeTubeにマイナスかもしれないけど……、そんなにマルチじゃないというか(笑)。例えば、普通にプレイリストを聴いていて、「この曲RhymeTubeっぽい」って思ったら、ちゃんとRhymeTubeだったりするんですよね。それは提供している曲でも、結構わかるんですよ。ちゃんとRhymeTubeのカラーがあるんですよね。

RhymeTube:それはそう思う。特に提供曲ではそれを求められていたから。でも、これから提供を僕に頼む人が「『KOZMO』のような感じで作ってほしい」って言ってくれたらまた違うものが作れるのかなって感じはしますね。他力本願になっちゃうけど……(笑)。

――そういった部分でも、自分名義のフルアルバムを出すのは大事なことですよね。

RhymeTube:大事だなと思いました。出すことに意味があるというか、出してみないとわからないということがわかりましたね。出すまでは、遠目でPecoriのことを大変そうだなと思って見ていたけど、いざ自分でやってみるとこんなにしんどいものなのかって。楽しいけど、いい意味でしんどい。

Pecori:ソロで出すのとグループで出すのはまた違うと思うけどね。ある種180度くらい違う大変さがあるじゃん?

RhymeTube:グループも大変だよね。たくさん意見が出るとまとまりがつかないところもあるし。

Pecori:アルバムを作るという面だけで言うと、たぶんソロの方がたくさんの困難があると思うよ。だから「よくやった!」って感じですね。

RhymeTube:正解がわかんなくなるっていうのはありますよね。

――自分でミックスをしていると、より感じることかもしれませんね。

Pecori:プロデューサーみたいなこともやってるわけでしょ? アルバム全体のディレクションも自分で考えてる。

RhymeTube:それはできるだけやってる。でも僕だけの一存でGOは出せないから、客演をしてくれる人たちにちゃんと意見を求めましたよ。

――どういう部分で意見を求めるんですか?

RhymeTube:例えば、最後の展開はどうしましょうとか、あとは曲の具体的な部分、構成は僕が決めるんですけどトピックとかは基本的には(客演)アーティストに決めていただいたりとか。いただいたものに寄せていく方が得意なので、客演の方に0から1にしてもらって、それを10にするのが僕の役目かなと思っています。

――自分名義でありながらプロデュースをしていくような感覚も少しあるんですね。

RhymeTube:なおかつ逆ディレクションも少ししてもらいつつみたいな。だから、あんまりプロデューサー気質じゃないないのかもしれませんね。わりと意見を受け入れるタイプだし。自分でも言うのもなんですけど、柔軟だと思っているので。そういう作り方が多かったです。特に、Pecoriの曲はもろにその作り方。基本的に意見はPecoriに出してもらった感じだよね。

Pecori:確かにそうだったかもしれない。

――アルバムを作るにあたって、RhymeTube氏の全体像のなかにはこれだけ客演を呼ぶということは当初からあったんですか?

RhymeTube:ありましたね。できるだけビートメイカーが作ったアルバムにはしたくなくて。インスト・アルバムやビートテープのような作品にはしたくなかった。ちゃんと曲として聴かせたいと思っていたので、だったらボーカルも入ってほしいなと。そしてなおかつパワーあるものを作りたかったんです。だからメンツはパンチがあると思うんですけど、そのなかでも核になっているのは、僕ら世代の93年生まれの客演ラッパーがすごく多いということ。SUSHIBOYSやNF Zesshoもそうだし、Gandharaもそう。あとは、87年世代のラッパーも多いですね。そういう世代で固まるというスピリチュアルがあるんですよね。

――たまたまではあったけど?

RhymeTube:もしかしたら僕が無意識的に好きな世代の音楽なのかもしれないです。

Pecori:93年生まれが当時、原体験的にヒップホップで聴いていたのが、87年世代のラッパーかもしれないね。

RhymeTube:そうかもしれない。5lackさんとかもそうだもんね。


表舞台に立つ勇気。数年後の再会を見据えて

――Pecori氏に2曲参加してもらうっていうのも最初からイメージがあったんですか?

RhymeTube:そうですね。SUSHIBOYSとPecoriは横並びでずっとやってきたので、気軽に思いついたら声掛けれるじゃないですか。だから2曲になった感じですね。

――空音さんと一緒に歌ってもらうというのはプロデューサーとしての視点という感じなんですかね? 組み合わせの妙というか。

RhymeTube:これは、空音くんがODD Footが大好きなんですよ。だからPecoriに対してちゃんとリスペクトを持っていて。影響を受けてる部分があるかわからないけど、好きなのはわかる。当初はPecori単独で作ろうと思っていたんですけど、空音くんと組ませたらおもしろいかもという単純な発想です。Pecoriに「空音くんとどう?」って聞いたら「やらせていただきます」みたいな(笑)。まあ、空音くんの方が売れてるんでね。

Pecori:クレジットでは、僕の名前が後でいいのでよろしくお願いしますってね。

――曲のあり方としてもフレッシュですよね。空音さんのカマしてやるという意識もすごく伝わってきますし。

RhymeTube:あんまり年下とやるのってない?

Pecori:そうだね、ないね。

RhymeTube:僕としてはちゃんとリードして欲しかったんですよ。だから、最初にPecoriにリリックを書いてもらったし、サビを作ってもらった。それを空音くんに聴かせて、Pecoriに対抗する構成にしたかったんです。

――フロウの感じも空音氏が新しい自分を見せていますよね。

RhymeTube:ふたりともだいぶいいですよね。特にPecoriのバースは異次元な感じがしたよ。

Pecori:それは空音くんとやるというのも含まれているかもしれない。舐められないようにね。

RhymeTube:Pecoriはソロでのよさもあるんだけど、客演という経験はバンドとしかない気がしていて。ラッパー対決みたいなところはないのかなって。だからちょっとオフェンス的な動きをして欲しかったのはありますね。わりと「PURGE」もそういう意味合いが強いかも。Pecoriもレベルアップみたいな側面もある。

Pecori:俺からしてもありがたいよ。

RhymeTube:お互いにメリットはあったかなって思う。

Pecori:違う顔の見せ合いみたいなね。

――「PURGE」のビートは悪い感じがありますよね。

RhymeTube:あれは、ちょっと前のトラップを作りたかったというのはありますね。あんまり意識してないですけど、今回、「今やったら古くない?」とかは考えずに全曲作っているので。このアルバムを作っていたとき、JPEGMAFIAやMac Millerが遺作としていくつも曲を出していて。それをすごく聴いていたんです。そのドライな感じがインプットされていて、それが00年代の自分が聴いてきた音楽と混ざり合っているのかなと。サウンド的にも気に入っているんです。

――Pecori氏は荘子it氏と交わるのはどうでしたか?

Pecori:よかったです。アレは2往復してて、俺が最初に書き上げたやつに荘子くんが乗せてくれたやつを踏まえて、ブリッジ・ヴァースみたいなのがあるんですけど、それをまた新規で書いてという風にやっているから、ちゃんと交わっている感じがする。

――あとは、ふたりの共通の同郷の友人である、Gandhara氏も客演として参加しています。

RhymeTube:なんならふたりともルームシェア経験があるという。Gandharaがいることは僕にとって強みなんですよ。例えばですけど、Drakeってすごく売れてますけど、DrakeにGandharaはいないわけですよ。でも僕にはGandharaがいる。それが強みなんですよ。

Pecori:どういうこと? 哲学的すぎてわからない。

RhymeTube:DrakeのアルバムにGandharaは呼べないじゃないですか! というかDrakeは呼ばないじゃないですか。じゃあ、呼ばないのはなぜか、それはGandharaがいないからですよ。僕は呼べるんです、Gandharaがいるから。

――概念の話ですね?

Pecori:急に怖いんだけど……。

RhymeTube:他のアーティストにはない要素なんです、僕にとっては。

Pecori:それって、地元のラッパーをフックアップするっていうモチベーションではなく、普通にいいラップするラッパーが俺しか呼べないから呼ぼうという感じなの?

RhymeTube:そうそう! ODDが使わないなら俺が先に使ってもいい? って感じのノリ。まだ世に出てない逸材って感じで使える。アルバムの最初と最後の曲って大事なんですけど、締めとしてはちょっと尖ってるというか。大多数の人からみたら誰かわからないラッパーを最後の曲にして「なにこれ?」という不協和音的なトラックリストにしたかったんです。

Pecori:曲のテーマはどっちが考えたの?

RhymeTube:それは僕。ヴァースとサビまで作ってそれに合わせてもらったという感じ。僕もPecoriもだいぶ天邪鬼なんですよ。ただそれだけの曲って感じですかね。反骨心のような。全てにおいて、みんなが右に行っているから左に行くじゃなくて、みんなが右に行くからどうせ左に行くんでしょ、じゃあ、右に行くよみたいな、1周まわった天邪鬼みたいなところがあるじゃん、僕たち。それが曲に出てるかなって思います。

――RhymeTube氏にとってはこのメンツも含めて、とても濃いアルバムになったんですね。

RhymeTube:いつもお世話になっている人から、初めて絡む人、いろんな人に協力してもらって作って、リリースして。ストリーミングなどでも僕だけだったら考えられないくらい聴いてもらってるんですよ。それはすごく嬉しいですよね。でもこのメンツを呼んだらもっと聴いてもらえるとも思っていたので、客演の方たちに申し訳ない気持ちもあります。本当に、Gandharaの「HANMENBOY」以外はみんな100万再生くらいいくと思ってたので!(笑)

――このアルバムを経て、今後どのように遊んでいきたいと思っていますか?

RhymeTube:少し戻ってじゃないですけど、エレクトロやハウスなどが好きで、ずっと作っていた時期があるんですよ。今またそのモードになりつつあって、またダンス・ミュージックとかもいいかなと。でも次はそれでと決めるのではなく、ちょっと作ってみたいな気持ちがあるって感じですね。ハイパーポップとかもいいですね。

――Pecori氏はどうですか?

Pecori:この対談がいいセーブ・ポイントになりましたね。だからまた3年後くらいに対談できるようにね。

RhymeTube:今度は逆に呼んでね、Pecori側の対談で。

Pecori:じゃあ、俺がソロ・アルバムを出したタイミングで!

――今後のRhymeTube氏に期待したいことはありますか?

Pecori:どうしても俺は、表現は違うかもしれないけど表舞台にというか、身を削るという表現も違うけどさ。

RhymeTube:言ってることはわかるよ。何かリスク背負えって感じでしょ?

Pecori:わかってほしいんですよ。世間にRhymeTubeを。

RhymeTube:そのためには嫌なことをやんなきゃいけないというか。表に出るってことは勇気がいることなので、それを怖がるなって感じのことを彼は言ってるんですよ、きっと。

Pecori:今日、ルーツから話してて、RhymeTubeは表舞台に立ったときの楽しさというのを全然知らないまま来ているから。俺はODD Footの活動を通して超楽しいこともめちゃくちゃあるということを知ったし、そこから得れるものがたくさんあるんだってことを教えておきたいなっていうのはあるかな。

RhymeTube:まあ、そうだね。このアルバムのリリース・パーティじゃないにしろ、いつか表舞台の姿を見せれたらいいですね。


【リリース情報】

RhymeTube 『KOZMO』
Release Date:2022.01.26 (Wed.)*
Label:Manhattan Recordings
Tracklist:
01. KOZMO
02. FLOW (feat. FARMHOUSE)
03. Romeo (feat. Pecori & 空音)
04. Blessings (feat. Wez Atlas)
05. B.O.M.B.E.R (feat. Jinmenusagi)
06. PURGE (feat. Pecori & 荘子it)
07. Walk Alone (feat. ZIN & NF Zessho)
08. SWIMGOOD (feat. Campanella)
09. ON AIR (feat. week dudus)
10. InhaleExhale (feat. FRAME)
11. np (feat. Gokou Kuyt)
12. DOMINO (feat. SALU)
13. Ungravity
14. SPACE (feat. SUSHIBOYS)
15. HANMENBOY (feat. Gandhara)

*CD:3月25日(金)リリース

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