自らもマイクを握るプロデューサーのRhymeTubeが1stアルバム『KOZMO』を1月にデジタル・リリースし、この3月にはCDとしてもパッケージ化された。
Rin音「snow jam」や空音「Hug feat.kojikoji」、SUSHIBOYS「DRUG」などヒット作を手がけてきた彼が、現行のフィーリングも取り入れつつ、主にブーンバップや2000年代の日本語ラップから受けた影響をバック・トゥ・ザ・ルーツ的な視点と方法論をもって昇華した本作。SALU、SUSHIBOYS、Jinmenusagi、week dudus、空音、莊子it(Dos Monos)、Wez Atlas、Campanella、ZIN、NF ZESSHO、FARMHOUSE、FRAME、Gokou Kuyt、Gandhara、そして、今回この対談でも招いたODD Foot WorksのPecoriと、総勢15組もの多彩な客演陣が参加している。
RhymeTubeとPecoriは、ともに静岡出身で、学生時代からの友人であり、かつては角巛エンタープライズというユニットも組んでいた。ふたりの出会いを皮切りに長年の友人だからこそ交わせる軽妙なやり取りで、『KOZMO』の制作エピーソードやそれぞれの現在地をたっぷり語ってもらった。なお、この対談記事は前編と後編に分けてお届けする。
Interview by Shoichi Miyake
Text by Shunsuke Sasatani
Photo by Keigo Sugiyama
MPCを組み込むことを模索したバンド時代
――RhymeTube氏のアルバムの話をする前に、まずPecori氏との出会いから話していった方がいいかなと思いまして。いちばん照れる話題だと思いますけど、ふたりの出会いから教えていただけますか?
Pecori:RhymeTubeとは学校は違ったんですけど、高校で俺がバンドを始めたとき、田舎だったので限られた人数しか音楽をやってるやつがいなかったんですね。だから他校まで範囲を広げていかないと見つけられなかった。そんななかで、「F高校ってとこに音楽をやっているやつがいる」と小耳に挟んで、地元の祭りに行くわけです。
RhymeTube:別に会いに行こうとかは意識してないですよ(笑)。Pecoriも僕もただ普通にその祭りに行っただけなんですけど。
Pecori:そしたら共通の友人がRhymeTubeを見つけて、「お前が、RhymeTubeか」って。出会い頭に「バンドをやらないか?」って誘ったら、「いいよ」って言ってくれて。
RhymeTube:止まることもなく、すれ違う感じで話したよね?
――そんなことってあります?
RhymeTube:本当なんです(笑)。でも祭りってすごく混んでるじゃないですか。だからなかなか止まって話せないんですよ。すれ違うときに「今度ライブやるから出ろよ」とか言ってきて。「じゃあ、連絡して!」という感じの初対面。そこから本当に連絡がきたんです。
Pecori:そこからあんまり記憶がないんだけどね。
RhymeTube:そこからは、mixiのメッセージで連絡をとったのかな? 「リハーサルに来いよ」とPecoriが言ってきて。当時、僕はMPCを使って遊んでいたんですけど、MPCをどう組み込むか、みたいなことを話しましたね。
――生バンドにMPCを持って行って、何かできることはあるのかみたいな?
RhymeTube:今考えたら、それが10年後くらいにPecoriのソロ・ライブでバックDJをやったときに繋がる初期プリセットみたいになってる気がするんだけどね。
Pecori:なってるかな? まあ、いいように言ったらそうかも。そのバンドにはドラムもいて、今のODD Foot Worksのサポート・メンバーとしてMPCを叩いてくれているTaishi(Taishi Sato)の感じにちょっと近いというか。RhymeTubeはウワモノをMPCで叩く感じですね。当時は無理矢理、どうやったらMPCをバンドに導入できるかなという着想からだったから。何回かライブもやったよね?
RhymeTube:ライブは本当に酷くて(笑)。酷かったから一生記憶に残って話せるわけなんだけど。
Pecori:俺の記憶にないってことは、きっと酷過ぎて消してるんだな(笑)。
RhymeTube:まず当時、Pecoriはボーカルではなくギターで。サイド・ボーカル的な役割だったんです。メイン・ボーカルは他にいて、ドラムがいて、ベースがいる。でもベースのやつはベースが弾けないんですよ(笑)。弾いてるフリをするだけなので、ベースの音が出てない。
Pecori:リハでは音が出てるんですけど、本番になったら全然アンプから音が出てなくて。
――ちなみに、当時はオリジナル曲をやっていたんですか?
RhymeTube:いや、カバー曲ですね。
Pecori:Green Dayの「American Idiot」しか覚えてないな。あと、AKB48はカバーした。
――AKB48の何をカバーしたんですか?
Pecori:「RIVER」ですね。
RhymeTube:「RIVER」は僕的にビートがカッコいいと思ってるので。MPCで何かできないかなって思ったりしてましたね。
ヒップホップとの出会いと、ももクロ愛
――なるほど。そこからバンド活動をともにするわけですけど、ふたりのなかで音楽的な趣味が合うなという認識はあったんですか?
RhymeTube:Pecoriは色々な音楽を聴いていたので、受け入れるのが早かったんですよ。当時はそんなにヒップホップを知らなかったけど、教えたら自分でディグるタイプでしたね。僕はBACHLOGICの影響が大きくて。BACHLOGICを知ると、今まで聴いてきたビートが「これもBACHLOGICだ」ってわかってくる現象があるんですけど、その現象に2010年頃になったんですよ。確か、「I REP」(※1)が出たくらいじゃないかな。
※1:DABO、ANARCHY、KREVAによるポッセカット、プロデュースはBACHLOGIC & DJ HAZIME
――それが高校生のとき?
RhymeTube:高校2年生くらいですかね。1年生くらいのときに「HELL’S KITCHEN(feat. サイプレス上野 & BACHLOGIC)」が出たので。当時めっちゃ好きでしたね。あとは、KREVAさんとか、ブランドの〈A BATHING APE®〉が好きだったので、TERIYAKI BOYZ®とかも好きでした。当時、“TERIYAKI BEEF”(※2)があったじゃないですか。それが地元でも話題になって、そこからSEEDAやGEEK、SCARS、〈CONCRETE GREEN〉を知っていくという流れです。
※2:2009年に起こったSEEDA & GEEK OKIと、TERIYAKI BOYZによるビーフ。
――では、Pecori氏はRhymeTube氏からヒップホップの背景やおもしろさをレクチャーされた部分があるんですね?
Pecori:そうですね。だって、当時RhymeTubeは普通に喋れなかったですもん。フリー・スタイルでしか喋れなくて、そういう人なのかなって思ってました。
RhymeTube:今の話、誇張してるなって思ったけど、そうでもない気がします……。確かにフリー・スタイルで結構喋ってた。
Pecori:出会い頭に人の服装の点数を決めるっていう。『TOKYO DRIFT』(ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT)とかにいそうな危ないやつっていうか(笑)。「YO メーン お前の服装70点」みたいなことをずっと言ってました。
RhymeTube:うん。ずっと「アーイ」って言ってた気がする(笑)。
Pecori:ライブとかじゃなく、日常生活の会話で言ってたね。
――Pecori氏はRhymeTube氏と出会ってからラップを始めたんですね。
Pecori:そうですね。
――それってすごく大きな出会いですよね。
RhymeTube:でも、ラップを始めたのはだいぶ後ですよ。大学の4年生とか?
Pecori:そんなに遅くないよ!
RhymeTube:Pecoriのラップが今の手法になる過程があって。以前は、もっと歌寄りだったんですよ。
Pecori:今のスタイルになったのは、完全にODDをやってからですね。
RhymeTube:だいぶ歌だったよね。他のアーティストの名前を出すのはアレだけど、ふたりでやっていたときは、underslowjams的なノリもあったので。僕がラップをする感じでした。
Pecori:そうそう! こいつはラップをするから、俺はフックやメロディ・ワークを担当しよう、みたいな感じ。
RhymeTube:もっと言うなら、ビートはどちらかというとPecoriが作っていたんですよ。僕は当時ラップをやっていこうというモードでもあったので、今とは逆というか。僕がラップよりビートというモチベーションになって、Pecoriがフロントマン気質になっていった。
――当時から考えると今の立ち位置は想像しづらかった?
Pecori:いや、必然だったと思いますね。当時、ふたりでいわゆるヒップホップ・グループ的なユニットをやっているときもそこまでパッとしないというか。奥歯に何かが詰まっている感じがあったよね?
RhymeTube:自分たちのカラーみたいな部分では特にね。
Pecori:これじゃない感じがずっとあったんですけど、今思うと役割が逆だったんだなって思います。
――なるほど。ふたりでユニットを組むことになった経緯についても教えてください。
RhymeTube:当時、僕らはももクロが好きだったんですよ。その思いを音楽で表現しようと思ってね?
Pecori:そうだね。きっかけは彼女たちが所属しているスターダストプロモーションに曲を送るためっていう感じでしたね。tofubeatsさんもカップリング曲を担当していたので、ヒップホップの庭で僕たちも狙えるんじゃないかと思って。高校生のバカみたいな期待から送ったというか。
――それでは、ももクロの存在も仲良くなった共通点として大きかった。
RhymeTube:たぶん、それがなかったらそこまで仲良くなってないと思う。ライブも一緒に行ってましたし、Pecoriが東京の大学に行ったので拠点になりやすかったんですよ。僕は遠征みたいな感じで、さいたまスーパーアリーナや横浜アリーナ、国立競技場にも行きました。
Pecori:完全にオタクでしたね(笑)。
――ももクロがキッカケになって、ふたりでの制作経験が生まれたわけですね。そこから、ユニット・角巛エンタープライズとして独立していく過程はどういう流れなんですか?
Pecori:お互い大学生になったんですけど、現実逃避というか、俺らは音楽を頑張るから大学はいいか、という感じで学校には行かず、夜から朝まで電話しながら曲を作ることがルーティン化してしまって。それによってお互い単位を落としまくるんですけど、曲を作りまくってました。当時は曲を人前に見せる術がネットしかなくて、アップロードすれば聴いてもらえる環境だったから、作ってはアップしての繰り返しだったよね?
RhymeTube:大学に行ってないわけだから留年しちゃうじゃないですか。だから留年の理由が欲しかった。なんとかしてヒットを出したいじゃないですけど、頑張っていたんですよ。でも、結果としてそれが僕たちの大学生活には悪影響になっていた感じ。ただ、僕たちはすごいのになんでみんなは聴いてくれないんだろう? ってずっと思ってました。
「RhymeTubeはプロデューサー気質ではなくアーティスト気質なんだよ」(Pecori)
――ユニットが解散に向かったのは、自然消滅だったんですか?
RhymeTube:僕がやっていくモチベーションがなくなったというのが大きいかもしれないです。2MCグループという感じだったけど、僕がもうラップをするモチベーションじゃなくなった。あとはライブですかね。Pecoriは今でもライブ気質ですけど、僕は部屋気質というかインドアなタイプなので、マインドが真逆になって、その辺りから分岐していったのかな。お互いの大学生活とかの心境もあって、だいぶ僕がナードな方にいったというか。
Pecori:当時はショックだったよ。俺はふたりでやっていこうという気持ちがあったし、大学卒業してどうなるかは置いといて、とりあえず音楽ができる環境があったわけですから。そこからふたりとも才能あるし希望の活路もあると思っていたなか、RhymeTubeが「本当にラップがしたくない」とすごくネガティブな方向に行ってしまった。最初は励ましながらやっていたんですけど、どうやら本気だなって。
RhymeTube:「本当にお願いします」って感じで、LINEを送ったんですよ。
――その一番の理由はなんだったんですか?
RhymeTube:ギャップがすごかったんです。ライブにも何回か出ましたけど、僕らが思い描いていた華々しいライブではなかった。だいぶ酷かったじゃん? まず僕らも酷いし、あまりいい場所でできるわけでもなかったから反応もよくないし。なんかカラオケ大会みたいなイベントに出たことあったじゃん?
Pecori:六本木のビルの28階で午前10時にライブみたいなね。
RhymeTube:ずっとそんな感じだったんですよ。ずっとストレスを抱えながらやっていた感じ。
Pecori:でも結局、それは全部俺らのせいというか。歩き方も歩く道もわかってなかった。外との繋がりも理解してなかったんですよ。ふたりのなかでのコミュニケーション=音楽だったんです。それを外に向けて発信する方法が全くわかってなかったから、間違った方向に進んでいった。
RhymeTube:だからその状態から頑張っていこうと思ったPecoriがすごいなって思ってる。
――では、Pecori氏がこういう風に表に出続けると思わなかった?
RhymeTube:正直思わなかったですね。高校のバンドのイメージがあったから応援する気持ちももちろんあったけど、「また、そんなの作るの?」ってだいぶシニカルな見方をしてたと思います。ただ、ODD Foot Worksの最初のEP(『ODD FOOT WORKS』)をミックスしてほしいと言われて聴いたときに、「これはすごいかもしれない」って。たぶん売れるんじゃないかなと思ったんです。
Pecori:売れてないけどね。全然。
RhymeTube:いやいや、当時の俺らからすると1000倍くらいの売れ方してんじゃん! 僕たちはルートA、ルートBみたいな感じになってると思うんですよね。僕はPecoriの逆を行ったので。ふたりとも違う道を行ってちゃんとお互いに音楽をやっている現状がすごいなって思います。
――RhymeTube氏もここ数年でいろんなアーティストに曲を提供したりプロデュースしたりしていますよね。なかでも空音さんやRin音さんの楽曲は大きなヒットを記録しました。
RhymeTube:確かにその2つはすごい跳ね方をしましたね。でも、そのふたりがすごいラッパーであって、たまたま僕が曲を作ったという部分があるんだけど。ただ、それによってみんなに名前を知ってもらえたということは確かにありましたよね。
――そこで自分の曲への手応え、RhymeTube名義でのポピュラリティーを実感することはなかったんですか?
RhymeTube:正直なくて。結局、僕はプロデューサーで、裏方なので。音楽業界に携わる人は僕の名前を知っているかもしれないけど、リスナーの方たちはよっぽどのヘッズかクレジットを日常的に調べる人しか知らないだろうと。それはなんとなく理解していたから、この曲たちがすごく再生されてはいるんですけど、僕の影響ではないっていうのはちゃんと認識しないとなって。
Pecori:確かに、これがRhymeTubeの力とは俺も思わないというか。思わなかったからこそ、いくら曲がヒットしてもRhymeTubeのことをすごいとは思わなかったんです。でも、韓国のオーディション番組を観ていると、RhymeTubeの作った曲が課題曲になっていたりするんですよ。全然違う場所でこいつのトラックが流れるとすごいと思ったりもするというか。
RhymeTube:提供した人たちがすごくヒットしてよかったと、自分はあくまでも第三者目線という感じなんですよね。トラックを作ったりプロデュースする人は誰しもがこういう感情を抱くのかなと思いますけどね。だからこそ、今回のアルバムで空音くんやRin音くんに提供したような曲が作れたら本物だなっていう気持ちがあったんですよ。
――まず自分のアイデンティティを示すためにも、RhymeTube名義のフルアルバムが必要だったということですね。
RhymeTube:そうなんです。今名前が出た人たちの曲が強過ぎて、イメージもあると思うんです。RhymeTubeの名前を知ってる人からしたら、空音の「Hug」かSUSHIBOYSの「DRUG」かRin音の「snow jam」かってなってしまうから、「いやいやこんなアルバムを出しているんだよ」って提示できるように。
Pecori:そう考えると、あれですね、話は戻るけど角巛が解体ときの話からすると、やっぱりRhymeTubeはプロデューサー気質ではなくアーティスト気質なんだよ。
RhymeTube:そうかもしれない。
Pecori:だって、「Hug」とかが一人歩きしていると悔しいと思うわけじゃん。
RhymeTube:ハイブリット的なのかもしれないね。そこを捨てきれてないみたいな。僕は最初からずっとDJやビートメイカーって感じでやってきたわけではないから。
【リリース情報】
RhymeTube 『KOZMO』
Release Date:2022.01.26 (Wed.)*
Label:Manhattan Recordings
Tracklist:
01. KOZMO
02. FLOW (feat. FARMHOUSE)
03. Romeo (feat. Pecori & 空音)
04. Blessings (feat. Wez Atlas)
05. B.O.M.B.E.R (feat. Jinmenusagi)
06. PURGE (feat. Pecori & 荘子it)
07. Walk Alone (feat. ZIN & NF Zessho)
08. SWIMGOOD (feat. Campanella)
09. ON AIR (feat. week dudus)
10. InhaleExhale (feat. FRAME)
11. np (feat. Gokou Kuyt)
12. DOMINO (feat. SALU)
13. Ungravity
14. SPACE (feat. SUSHIBOYS)
15. HANMENBOY (feat. Gandhara)
*CD:3月25日(金)リリース