Text by Masako Takeuchi
Photo by GIMA提供
11月2日(土)、台湾の音楽アワード『第15回 金音創作奨(Golden Indie Music Awards、以下:GIMA)』が台湾・台北市の台北流行音樂中心で開催された。
今年のテーマは「Shout Out / Shout Out to(全ての音楽創作の先駆者に敬意を表します)」。メインビジュアルはBlob Clubがデザインを担当した。
GIMAのGを輪郭とし、耳の形、そして音波のシンボルを組み合わせてデザインされたこの作品は、音楽を通じて人々が共鳴し合う様子を表現していて、まるでもやしの芽のように見える形は、本アワードが全てのアーティストにとって自由に成長できる舞台であることを象徴している。
審査委員長を務めた滅火器(Fire EX.)の楊大正(Sam Yang)は、各賞の審査の難しさ、そして大部分の賞がわずか1〜2票の差で決まったことを語った。「例えば『Best Album』では、審査員たちは約一時間にわたって議論を続け、一時は意見が割れて膠着状態に陥る場面もありました。その結果、最終的に布萊梅(Bremen)の新作『The Great Bremen Show』が受賞しました。この作品は、一作目のアルバム『Taured』のストーリーを引き継ぎつつ、音楽的にさらに多様な要素を取り入れています。個性豊かなキャラクターや物語の進行を通じて、異なる雰囲気や音楽スタイルを展開している点が特徴です」。
また、続けて「GIMAは創作を奨励するという重大な使命を担っている」と語り、「審査員それぞれが考える視点は少しずつ異なりますが、布萊梅の作品が全員の支持を得られたのは、彼らがステージ上で話したように、たとえ我々の文化がまだ若く未熟であっても、それに注目し、育てる価値があるからだと思います。GIMAが台湾のすべての音楽クリエイターたちと共に、長い道のりを歩んでいけることを願っています」とコメントした。
『Shout, Shout, Let It All Out』と題された最初のパフォーマンスでは、共に台北発のロックバンド・當代電影大師(Modern Cinema Master)、傷心欲絕(Wayne’s So Sad)が登場。ポストロック〜オルタナティブ要素強めの當代電影大師、同じくオルタナティブロックを軸としながら、よりパンク色の強い傷心欲絕。交互に演奏するのかと思いきや、中盤からなんと2バンド同時演奏によるコラボパフォーマンスへと移行。台湾インディーズの新しい扉が開いた瞬間だった。
式典の司会者はコメディアンの黃豪平(Hau Ping Huang)。出過ぎず、引き過ぎず、会場の温度をゆっくりと温めながら盛り上げていく進行は、観ていてとても心地良かった。
個人的に気になった受賞者をいくつかピックアップしていく。「Best New Artist」ではGMA(Golden Melody Awards / 金曲獎)でも注目を集めた Plutato、同じくGMAで新人賞を受賞しているMakav 真愛、何かと話題のAndrといった注目者揃いのノミネーターたちを差し置き、ラップサバイバル番組『大嘻哈時代 The Rappers2』で優勝を果たした(台湾の公用語である台湾華語ではなく)台湾語ヒップホップの阿跨面(Taiwan rap handsome man)が選出。受賞の謝辞の際、顔にはバンドエイド、“台湾と言えば”のぶかぶかの青白サンダル(藍白拖)を履いた台湾スタイルと共にステージに上がり、喜びを隠しきれない姿が印象的だった。
「Best Jazz Song」を受賞したのは、日本でも積極的にライブ活動を展開している謝明諺(Minyen Hsieh)の“Chamakana”。明諺は受賞後のコメントで「とてもびっくりしています。この曲は日本のスガダイロー、細井徳太郎、秋元修と出会い、一緒に演奏し共作した作品です。嬉しい、ありがとう台
湾、ありがとうGIMA」と感謝の言葉を伝えた。
そして、毎年誰が受賞するのか気になるのが「Best Rock Album」。今回は日本でも頻繁にライブを行い、日本でのファンベースも厚く、台湾語で歌うバンド・拍謝少年 SorryYouthが受賞。薑薑(Giang Giang / Ba.)は謝辞の中で、「『ミュージシャンの前に、まず台湾人でありたい』、この言葉を皆さんに贈りたいです。私たちはまず台湾人として、台湾の物語を歌い、私たちの物語を皆さんに届けたい」と話した。
彼らがステージから戻る際、拍謝少年のライブ会場でよく耳にする宗翰(Chung-Han / Dr.)の名前に由来するコール「謝天謝地謝宗翰」が巻き起こるなど、会場に駆けつけたファンからも喜びの声が届けられた。
台湾の音楽シーンでも盛り上がりをみせているヒップホップ。今年の「Best Hip-hop Song」には新人賞を受賞した阿跨面、夜間限定(wannasleep & GummyB)、Flowstrong、smashRegz、神經元、Robot Swingの6組がノミネート。こちらも誰が選ばれても不思議ではない顔ぶれだ。
プレゼンテーターは馬克、阿夫、阿法、艾密莉AMILIの4人から成るラップグループ・BSB。「自分たちは誰もノミネートもしたことがないけれど、今回はプレゼンターなんだ」とユーモアを忘れない彼らも、とてもクールだ。
今年受賞したのは、夜間限定(with 熊仔 Kumachan)の“ABC”。ちなみに、Gummy Bは昨年のGIMAで「Best Live Performance賞」、「Best Hip-hop Song賞」(“敦化南路 Revisit”)を受賞しており、2年連続での快挙となった。2人は白(Gummy B)と黒(wannasleep)の衣装にそれぞれ身を包み、短く感謝の言葉と希望を伝えた。
今年のGIMAは台湾・韓国・日本など7組のコラボレーションがとにかくすごかった。特に惹き込まれた3組を動画と共に振り返ってみたい。
ヒップホップアーティスト・陳嫺靜(Hsien Ching)は、ポップ/ヒップホップ系エレクトロニックの作曲家・Dacとコラボパフォーマンスを披露。音楽関係者の中では以前から注目されている陳嫺靜だが、まだライブ活動はあまり行っていなく、大きな会場でのライブは今回が初とのこと。タイトなラップを聴かせる“吸塵器 維他命”からヒット曲“輕輕”ではメロウに、そしてDacとコラボした“沒辦法”では華やかに、それぞれ異なる表情で観客を魅了した。
「Best Hip-hop Song」を受賞した夜間限定は、韓国のラッパー・SINCEとのコラボステージを披露。共にバンド編成で、夜間限定、SINCEの順にパフォーマンスし、最後にSINCEの楽曲“Dream”にGummy Bとwannasleepが新たにヴァースを加わえる形で共演。国境を越えた、GIMAでしかありえないような貴重なコラボレーションが実現した。
また、シンガーソングライターの鄭宜農(Enno Cheng)も同じく韓国の民謡歌手・李瀧(Lang Lee)とコラボ。それぞれのソロパフォーマンスの後に、ステージ左右の端っこ、ある意味遠く離れて歌う2人の姿は冷たいようでいてとても美しく、それぞれの歌声が共鳴し合い、強くて暖かい表現へと昇華された。
「華やかなK-POPの世界とは異なる、韓国のインディーズ音楽の厳しい状況」を語った李瀧の言葉は、きっと多くの音楽人に響いたことだろう。素晴らしい音楽を作り続ける彼女らの今後の活動にも期待したい。
最後に紹介したいのは「特別貢献獎 Special Contribution Award」。今年は「人」ではなく、GIMAと同じく今年15年目を迎えた、現代台湾音楽シーンの形成に大きな貢献を果たしてきたイベント『THE NEXT BIG THING』に贈られた。
同イベントは毎月一回、Legacy Taipeiにて開催されており、タイトル通りこれからの活動に期待したいニューカマーをいち早くフックアップしてきた。聞くところによると、これまでに老王樂隊、椅子樂團、YELLOW 黃宣など多くのバンド/アーティストを輩出してきたという。
特別ゲストは「King of Rock」こと伍佰(Wu Bai)。スピーチでは用意されたメモを途中で捨て、自身のロックオペラ『成功之路 How to Be a Rock Star』に掛けて「参加したときはまだ誰も知らないが、この道のりを辿らなければ、未来はどうなるのか? それは永遠に分からない」と語り、会場から大きな拍手が送られた。
最後に、冒頭でも触れた、「Best Album」「Best Rock Song」に輝いた布萊梅の受賞後の言葉をそのまま伝えたい。
「GIMA、そして応援してくださるみなさんに心から感謝します。私たちの文化はまだまだ若く、未熟な状態です。サブカルチャーに至ってはなおさらです。台湾のレーベル、ライブハウス、フェス、エージェント、ショーケース、そして様々なイベントのオーガナイザー……特に、肥頭音樂(Fat Head Music)、FINAL、吸膠少年(Suck Glue Boys)、雙峰唱片(TWIN PEAKS Records)に感謝を送ります。
ライブという場は、ミュージシャンにとって非常に重要な『栄養素』です。そして私たちが音楽の道を歩む中で、決して孤独ではないことを実感させてくれます。さらに、自分なりの方法で文化に貢献し、おもしろいことに挑戦している人たちがたくさんいます。知らないバンドのライブを観る度に、規模の大小やメジャー/インディーズといった枠を超えて、それぞれの美的センスが表現されているのを感じます。
だからこそ、私たちはいつも様々な活動に触れ、世界各地の異なる雰囲気に影響されているのです。ありがとう。私たちの文化はまだとても若く、未熟です。サブカルチャーに至ってはなおさらです。とにかく、地元をサポートして自分たちらしくやりましょう!」
今年、現地に趣き肌で感じたのは、台湾の音楽業界の中で確実に増大する、インディーズアーティストの存在感。そして国を跨いでの新しい出会い、そこからのコラボレーションへと続く流れ。様々な枠組みを越えて拡大し続ける台湾インディの勢いを感じずにはいられなかった。
▼第15回金音賞 受賞者一覧(アーティスト名/作品名)
■ベストアルバム賞
布萊梅 Bremen Entertainment Inc.(プロデューサー:吳羿緯 Michael Wu)『The Great Bremen Show』
■ベストバンド賞
大象體操 Elephant Gym『世界』(World)
■ベストシンガーソングライター賞
王若琳 Joanna Wang 『Hotel La Rut』(破爛酒店)
■ベスト新人アーティスト賞
阿跨面Taiwan rap handsome man『心』(SIM)
■ベストプレイヤー賞
鄭嘉富 Cheng Chia Fu『Pluto Potato』 – Drum, Electronic, Effects
李茂嵩 Mao-Sung LEE『草本藥師MANAGONA』 – Synthesizer, Marimba, Percussion, Drums
簡聿民 FlyingPP『幾何碼』 – Drums
■ベストライブ賞
Robot Swing『“Is It Alive?”』
■ベストアジアクリエイティブアーティスト賞
Silica Gel『POWER ANDRE 99』
▼ジャンル別音楽賞
■ベストロックアルバム賞
拍謝少年 Sorry Youth『噪音公寓』(Noise Apartment)
■ベストロックソング賞
布萊梅 Bremen Entertainment Inc.“Peace and Quiet (Bremen announcement)”(『The Great Bremen Show』)
■ベストフォークアルバム賞
邱淑蟬 Shuchan Chiu『繭的形狀』(Shape Of Life)
■ベストフォークソング
農村武裝青年 TUDI-VOICE“Native Tongue”(『The Song for You』)
■ベストヒップホップアルバム賞
SmashRegz『三不管』(WHO CARES)
■ベストヒップホップソング賞
wannasleep & Gummy B feat. Kumachan“ABC”(『BS』)
■ベスト電子音楽アルバム賞
笑琴 Chill Qin『美麗的灣』(Wonderful One)
■ベスト電子音楽ソング賞
笑琴 Chill Qin“美麗的灣”(Wonderful One)(『美麗的灣』)
■ベストジャズアルバム賞
Plutato『Pluto Potato』
■ベストジャズソング賞
謝明諺 Minyen Hsieh“Chamakana”(『Our Waning Love』)
■ベストR&Bアルバム賞
問題總部 It’s Your Fault『我在這裡』(moment:now)
■ベストR&Bソング賞
ØZI“SEX TAPE (feat. 落日飛車)”(『SEX TAPE』)
■ベストオルタナティヴ・ポップアルバム賞
我是機車少女 I’mdifficult『I’mdifficult』
■ベストオルタナティヴ・ポップソング賞
大象體操Elephant Gym“Jhalleyaa (feat. Shashaa Tirupati)”(『World』)
▼審査員賞
■審査員賞
劉暐Wayne Liu『劉暐個人專輯』(Wayne Liu’s Solo Album)
▼特別貢献賞
■特別貢献賞
THE NEXT BIG THING(Legacy Taipei / StreetVoice Taiwan)
【イベント情報】
『第15回金音創作獎(15th Golden Indie Music Awards)』
日程:2024年11月2日(土)
会場:台湾・台北市 台北流行音樂中心