Text by Hiroyuki Suezaki
Photo by Ayaka Horiuchi
さながら「ルンフェス」とでも呼びたくなるような豪華で贅沢なひととき──。シンガーソングライターのRUNG HYANGが4月24日(木)、Billboard Live TOKYOで行った『Billboard Live Tour 2025』最終日・最終公演(2ndステージ)を観て、ふとそんな感想が頭に浮かんだ。
シンガーソングライターとしてブラックミュージックを基盤に幅広い作品を発表してきたほか、大阪音楽大学 特任教授でもあり、指導者として瑛人やeill、YAMORIといった才能を輩出してきたRUNG HYANGにとって、(単独名義として)初めてのBillboard Liveツアー。4月20日(日)のBillboard Live OSAKA公演2ステージを経て、24日の夜、満を持して東京で開催された。
2ndステージは定刻どおりに開演し、まずはオープニングアクトのステージ。自身の単独公演では必ずといっていいほど「ルンゼミ」こと私塾「ルンヒャンゼミ」出身者を起用しているが、今回は昨年8月にソロデビューしたばかりの森田美勇人が登場。公演前のメッセージで、RUNG HYANGのことを「音楽活動を始めるにあたっての基盤を一緒に作ってくれた、自分にとっては神さまのような存在」と話していた彼は、音楽的ブレーンを務めるSPENSRと共にステージに上がり、デビュー曲“Time”と1st EPの表題曲“SIKI”を披露し、得意のダンスも交えて会場を自分の世界に引き込んでいった。
森田のステージが終わり、しばらくすると会場内に伝説的なオペラ歌手マリア・カラスの歌声が響く。プッチーニの歌劇『ジャンニ・スキッキ』の中でも有名な“O mio babbino caro”に乗せて、RUNG HYANGが4階から優雅に登場。印象的な黒のドレスを揺らしながら、3階のステージへ移り、バンドメンバーと共に奏でられたのは、最新アルバム『MOMENT』から“Bounce up all the time”。アマピアノを取り入れたダンサブルなリズムに合わせてステージ後ろのカーテンが開き、まさに「開幕」となった。
六本木の夜景をバックに、続けてライブの定番“AWAKE”でさらに会場の熱を上げていく。今回のバンドメンバーは大樋祐大(Key.)、越智俊介(Ba.)、菅野知明(Dr.)で、「イツメン」のベース・砂山淳一は残念ながら身体メンテナンスの関係で離脱することになったものの、代わりを務めた越智がそのファットでリッチな音でグルーヴを支えた。

そこから最新作の表題曲であるディスコブギー“MOMENT”へ。ここではビートボックスデュオのJairoがゲストとして登場。当初は大阪公演のみのゲストだったが、2日前に東京公演にも出演することがアナウンスされたのだ(ちなみに片割れのYAMORIも「ルンゼミ」出身者)。世界大会で優勝を果たした彼らの圧倒的な技巧によるスリリングな「リミックス」仕様となった“MOMENT”は、まさに「間違いないmoment」を生んで、会場の熱は最初のピークを迎える。
ここから一旦Jairoがステージを奪い、2月に発表したばかりの1st EPより“Blue Girl”~“Cosmic Boy”~“Dance Alive”を次々と披露。「世界一」の振動が、文字通り会場を揺らした。
Jairoがステージを後にすると、熱狂冷めやらぬ会場をクールダウンさせるかのように、波の音のSEが流れ、白いドレス姿に着替えたRUNG HYANGが再登場。会場中央のピアノを自ら弾き、愛しい存在への想いを歌うバラード“Part of me”をしっとりと聞かせる。
続けて最新作より、在日三世としてのルーツと自身の体験を歌にした“ウリアリラン”。直前のMCでは、10代の自分はどこにも自分の「ホーム」がないと感じていたことを振り返りながら、「ホーム」は場所ではなく記憶の中にあるのだという気づきを語り、「今夜はいまこの瞬間が私のホーム」と伝えていた。母や祖母が子守唄のように聞かせてくれたという朝鮮民謡の“アリラン”も織り込まれたこの曲に包まれながら、オーディエンスはそれぞれの「ホーム」について思いを馳せたのではないだろうか。
同じく最新作『MOMENT』より、2000年代初頭のネオソウルを彷彿とさせる“week by week”を挟み、再びゲストを迎えるステージに。まずは『MOMENT』のアートディレクションも務めたTAIL(向井太一)を迎え、2022年のEP『ROMANTIA』収録の共演曲“Puzzle”を披露。プライベートでも仲のいいふたりの息の合った掛け合いは、その後のMCにも続いた。
続いて今度はKan Sanoを呼び込み、彼がカバー及びリミックスしたことも話題となった“Trapped”で共演。RUNG HYANGの代表曲のひとつが、Kan Sanoのリリカルなピアノと優しい歌声を伴って新たな輝きを放ち、六本木の夜の谷間に落ちていく。
あっという間に時は過ぎ、ライブは早くも終盤。今回のツアーで“My vintage”というドレスコードを設定した意図、取扱い注意の荷札を模した「Vintageステッカー(ドレスコード着用者特典)」に込めたメッセージを語って、温かなソウルナンバー“Life is vintage”へ。最後は、かねがね「大人の遊び場をつくりたい」と語っているRUNG HYANGの近年のテーマソングともいえそうな“オトナの時間”でフロアを心地よく揺らし、本編を締め括った。
名残惜しい拍手の音に応え、ツアーグッズTシャツに着替えたRUNG HYANGが再度ステージに登場。自分は「ひとりじゃない」なんて言えない、みんなひとりで、同じように「ひとり」で戦っている人が隣にいて、こうやって「ひとり」が集まって一緒に歩いている。そんなことを考えて生きてもらえると嬉しい── と語り、RUNG HYANGひとりのピアノ弾き語りで紡がれたのは“Our story”。途中、歌詞が飛んでしまう場面もあったが、Tシャツ姿でリラックスして聴かせる姿は、さながらRUNG HYANGの家に呼ばれておもむろに歌い出した姿を目撃しているようであり、RUNG HYANGは会場の一人ひとりに語り掛けるように歌う。なお、今回のツアーでは全てのステージでそれぞれ異なる楽曲が披露されたようだ。
いよいよ本当に最後ということで、バンドメンバーだけでなく、森田美勇人、Jairo、TAIL、Kan Sanoとゲストもすべてステージに呼び、“嫌いな人”を全員でセッション。オリジナルのレコーディングでも披露されていたYAMORIによるマウストランペットを生で聴けるのも贅沢だが、Jairoのビートボックス、Kan Sanoのピアノ、TAILと森田美勇人の歌声も交えた、実にレアな掛け合いが繰り広げられ、これ以上ないという大団円を迎えた。
最新作『MOMENT』のリリースを祝し、ちょっとしたフェスになりそうなほどの豪華な顔ぶれが揃った「RUNG HYANG Billboard Live Tour」ファイナル。しかし、ただ豪華なだけでなく、「大人の遊び場」として特別な演出が施されていたことは、たとえば、フラワーコラボレーターの志村大介によってシックな色合いのバラ ──その名も「ヴィンテージ」という品種だ── でステージが飾られ、いつものBillboard Liveの会場とは違う雰囲気を醸し出していたことからも伺えた。この夜過ごした時間は、きっとそれぞれにとって「my vintage」な記憶として、時が経つほど味わいが増すに違いない。
1. Time
2. SIKI
▼RUNG HYANG
1. Bounce up all the time
2. AWAKE
3. MOMENT (with Jairo)
▼Jairo
1. Blue Girl
2. Cosmic Boy
3. Dance Alive
▼RUNG HYANG
4. Part of me
5. ウリアリラン
6. week by week
7. Puzzle (with TAIL)
8. Trapped (with Kan Sano)
9. Life is vintage
10. オトナの時間
En1. Our Story
En2. 嫌いな人 (with Jairo, Kan Sano, TAIL & 森田美勇人)
【イベント情報】

『RUNG HYANG Billboard Live Tour 2025』
日程:2025年4月24日(木)
会場:Billboard Live TOKYO
[OPENING ACT]
森田美勇人
[SPECIAL GUEST]
TAIL
Kan Sano
Jairo
[BAND MEMBER]
大樋祐大(Key.)
越智俊介(Ba.)
菅野知明(Dr.)
[DRESS CODE]
My vintage
※1日2回公演
【リリース情報】

RUNG HYANG 『MOMENT』
Release Date:2025.04.02 (Wed.)
Label:RUNG HYANG
Tracklist:
1. MOMENT
2. week by week
3. ウリアリラン
4. Bounce up all the time
5. レリロー
6. Life is vintage
7. Part of me
8. 嫌いな人 (☆Taku Takahashi Remix)
9. Trapped (Kan Sano Remix)
















