INTERVIEW

佐々木亮介 (a flood of circle)

「なるべく先に行きたかった」――a flood of circle・佐々木亮介が初のソロ・アルバム『RAINBOW PIZZA』でみせた挑戦

a flood of circleの佐々木亮介が、ソロ1stアルバム『RAINBOW PIZZA』をリリースした。

アルバムはChance The Rapperなどを手がけるElton Chuengがエンジニアリングを務め、シカゴで録音した4曲と、ROTH BART BARONの三船雅彦がプロデュースを手がけ東京で録音した4曲の、計8曲が収録されている。

当サイトでインタビューを重ねてきた通り、ロックンロール・バンドであるa flood of circleのスタイルとは対照的に、ソロ・プロジェクトではグローバルなR&B/ヒップホップ・シーンとの同時代性を意識した音楽性を展開してきた彼。

しかし、ラップ・ミュージックとロックを独自の方法論でミックスした新作は、そこからのさらなる飛躍の見られる1枚となっている。「何でもあり」がキーワードだという本作について、佐々木亮介に語ってもらった。

Interview & Text by Tomonori Shiba
Photo by Kohei Nojima


――アルバムを聴いて「こう来るか!?」と思いました。すごくよかったです。

佐々木:ほんとですか、ありがとうございます。

――前回、「Fireworks (feat.KAINA)」を配信リリースした段階でのインタビューではシカゴでChance the Rapperのエンジニアを担当したElton Chuengとレコーディングしたという話までしたんですが、あの段階で、どこまでアルバムの構想があったんでしょうか。

佐々木:シカゴでは4曲録ったんですけど、録りながら思いついたことが結構あったんです。それをやりたいと思っていたのと、もうひとつ、東京でもシカゴのEltonみたいなコラボレーターを探していたんですよね。そこでROTH BART BARONの三船くんとやろうということになった。

――シカゴの4曲をEPのように作品にまとめようという発想ではなかった?

佐々木:最初はそう思っていたんですけど、単純にレーベルとしてはアルバムを出そうという話だったし、そのまますぐに東京で続きを作れば、直後ならではの感覚で、海外に行ったからこそのレコーディングができると思ったので。それで8曲やってみようかなって。

――アルバムは曲名にも「Chicago Mix」「Tokyo Mix」と入っているし、ただ8曲並べただけじゃなく、シカゴの4曲と東京の4曲という打ち出しになっている。そこが大事なことだった、と。

佐々木:はい。自分的には、「何でもあり」が最近のキーワードなんですけど、いろんなジャンルがミックスされているシカゴという街に飛び込んでできた音だし、全然違う価値観を持った街だけど東京に帰ってきた音もその続きだったので。「RAINBOW PIZZA」ってタイトルも、今自分が大事だと思う「何でもあり」というアティテュードを入れておきたいと思ってつけてます。

――三船さんと佐々木さんって、接点はあったんですか?

佐々木:いや、全然なかったです。こっちはROTH BART BARONのことを知ってたし、三船くんもa flood of circleのことはなんとなく知ってくれていたみたいですけど、共通の友達もほとんどいなくて。カメラマンの古溪一道さんの繋がりで知り合った感じです。

――ROTH BART BARONは昔から取材しているんですが、やってることは全然違うけれど、お互い感覚として共有できるものはきっとあったんじゃないかと思います。

佐々木:そうですね。実際会って思ったことですけど、純粋に音楽ファンとして通じ合っている部分があるというのがひとつ。あとは、自分がいる日本で音楽をやるという状況に対しての批評的な部分もすごく似ていた。現地に飛び込んでみないとわかんないからまずは行っちゃうというところも似てたし。あと、写真のイメージはクールだったけど、最初に喫茶店で会った時に「こんなに喋るんだ!」って思って(笑)。すごいチャーミングなんですよね。人間的にウマがあったっていうのもあるし、断絶に橋をかけるチャレンジをしてるんだということも、改めてわかったんで。

――彼に最初にインタビューしたのは1stアルバム『ロットバルトバロンの氷河期』の時だったんですけれど、フォーク・ミュージックにルーツがあるというところからWoody Guthrieの話になったんですよ。佐々木さんも、ブルースやソウル・ミュージックの源流まで遡る発想があるわけじゃないですか。そういうところでもマインドは近いんじゃないかって思ったんですけれど、そこの共感みたいなものもありましたか?

佐々木:たぶん、めっちゃあると思います。三船くん的にも、きっと、俺がトラップ以降のサウンドで何かやってるから興味があるっていうよりは、ブルースのルーツが好きな奴が今こうなっているっていう意味わかんなさをおもしろがってくれているっていうのはあると思う。彼自身もそうだと思うし。彼だって『HEX』でElton Chuengに音源を送ってもらってミックスしてもらってるわけで、そういう感覚はシェアできているんじゃないかなって思います。

――いろんな意味で状況と文脈と感性を共有できる、数少ない相手だった、と。

佐々木:そうです。短い時間で一気に友達になりました(笑)。

――アルバムの制作を時系列で訊いていくと、まずはシカゴに行って4曲を作ったわけですよね。

佐々木:はい。たしか2月だったかな。

――そのうち「Fireworks (feat.KAINA)」については前回に訊いているんですが、その他の3曲、まず「Meme Song」はどういう風に作ったんでしょう。

佐々木:この曲は「Fireworks (feat.KAINA)」に近くて、GarageBand(DTMソフト)でやれるおもしろいことをやろうという前提で作った曲ですね。その条件を課した上で、音圧があって隙間のあるポップ・ソングを作ろうという。そういう感じで作った曲です。

――「Bi-Polar Tokyo」はどうでしょう? この8曲の中では最もダークで、中指を立てているタイプの曲ですが。

佐々木:そうですね。これはもちろんトラップ的なものを踏まえていたけれど、ギターを入れようというのは決めていたんですよ。シカゴに行けば誰でもできるっていうものは絶対に作りたくなかったので。タイトルの「Tokyo」ってのも含めて、ロックンロール・バンドを普段やっている日本人の自分がこれをやるっていう。そこは大事にしていたので。あとは、フルートの音が入ってるんですよ。Futureの『Mask Off』とか、トラップって、フルートの入っている曲が多くて。それも意識しつつギターがちゃんとうるさい。そういうバランス感覚で作った曲かな。

――この曲はいわゆるトラップのビートの上でラップをしているわけですよね。前作の延長線上としてこういうタイプの曲が並んでいてもアルバムは成立すると思うんです。そうしたら「ああ、なるほど、佐々木亮介のソロはトラップをやろうとしているのね」という意味で、すごくわかりやすくなると思うんですよ。でも、そうじゃない。

佐々木:そうなんですよ。やっぱり「何でもあり」を体現したいんですよね。「今の自分のモードはこれだ」みたいにして縛りたくない。ひとつのアルバムの中でもどれだけ自由にできるかみたいなことは考えていましたね。

――なるほど。実際「Just 1 Thing」が「Bi-Polar Tokyo」の後に来ることで、アルバムの“謎っぽさ”が一気に増すと思うんです。

佐々木:そうですね。自分でもそう思います(笑)。

――これはブギー・ファンクっぽい曲調ですが、どういうアイディアだったんですか?

佐々木:これはメンフィスで録った『LEO』からの流れもあったし、自分のルーツを今のシカゴにミックスして曲を作りたいっていうのもあって作った曲ですね。シカゴのいいところって、ラップ以降の文化がもちろん強いし、そこにもChief Keef的なPCで作るドリル・ミュージック以降のラップもあるし、Chance The RapperのいるSavemoneyクルーみたいな生バンドのラップもあって、どっちも混ざってると思うんですけど。それだけじゃなくて、今もブルースとか、ブルースの後のブラック・ミュージックの流れもあって、それが繋がっていると思うんです。で、「Fireworks」のピアノもそうなんですけど、メンフィスでやってきたことは自分の中の武器だと思うし、Savemoney的なものに目配せするなら生バンドのフィーリングは絶対アリだと思ったので、トライしたかったっていう。あとはElton Chuengがclairoのひとつ前の『diary 001』というEPを手がけてるんですよ。彼女もシンセ・ポップなんだけど、ちょっとファンキーな要素もあったりして。そういうこともあって、自分がやりたかったものと混ざった感じですね。

――向こうではどんな反響でした?

佐々木:喜んでましたよ。前も話したけど、シカゴのClassick Studiosって、トラック・メイキングが前提なんですよね。楽器を弾いてレコーディングするスタジオじゃなくて。だから「ここでギター・ソロ弾いてるところ初めて見たよ」とか「ギター上手いね」とか言われて(笑)。で、やっぱりギターの鳴り方がロック的ではないんですよね。ラップ・ミュージックをミックスしている人の耳で作っているから。たとえばJanelle Monáeの『Dirty Computer』もそうなんですけれど、あのアルバムのエレキ・ギターって、ロック的じゃないんですよ。SZAのアルバムもギターが効いてるけど、普通のアンプの音じゃない。録音をやってくれたColeが音を作ってくれたら、やっぱりそういう感じの音になって。それもおもしろかったですね。

――なるほど。で、シカゴの4曲を先に録ったあとに、東京の4曲を録った、と。曲を作ったのもシカゴから帰ってきたあとですか?

佐々木:「Game Over」と「Snowy Snowy Day,YA!」はもとからあった曲ですね。三船くんとやるって決めた時点でデモがいっぱいあったんで、10曲くらい送ったんですけど、全部コメント返してくれて。三船くん的にハマってそうなのが「Game Over」と「Snowy~」だったんで、それをやろう、と。で、「Sofa Party」と「We Alright」はシカゴから帰ってきて思い付いたアイデアをやりたくて作りました。

――「Sofa Party」は、イントロのピアノの鳴りがいいですよね。この曲はピアノとギターを軸にしたサウンドですが、そのあたりは、シカゴから帰ってきて思い付いたことと、どう結びついているんでしょう?

佐々木:具体的に言うと、あの場でColeが作ってくれたサウンドとか、Eltonがミックスしてくれた音を聴いて、自分がGarageBandで作っているサウンドがどう進化するかのプロセスを感じられたんです。「めっちゃ音よくなってる!」って感じだったので。だから、今ピアノの音を褒められて、めっちゃ嬉しいです(笑)。今のアメリカの、隙間がいっぱいある音楽って、ほんとに楽器が少ないんじゃなくって、一つひとつがめっちゃ重なっているんですよね。で、空間がいっぱい作られている。Billie Eilishもそうらしいですけれど。

――歌い方やメロディに関してはどうですか?

佐々木:そこに関しては、声が小さいからの表現ですね。東京で録った場所は、BEAR BASE Studioって呼んでるんですけれど、三船くんの家なんですよね。そこでアイス・コーヒー飲みながら録っていたので、リラックスしたチルの感じになっている。トラックも、バンドみたいに圧のあるサウンドじゃないんで、声もささやくんだけど前に出ているような感じになった。それも今っぽくなったと思いますね。三船くんとはjojiの話をしたんですけれど、トラックとヴォーカルの関係がまた新しく進化している時代になってるかもしれないって話をして、ボーカルの録り方も彼とかなり相談しながらやりました。近いんだけど弱く歌うとか、無理して高い声を出さないとか、声を張らない、とか。そういう歌い方がこういうトラックと相性がいいんだと思います。

――「Game Over」は、このアルバムでは一番エモーショナルというかサッドな曲ですね。歌詞は基本的に「Bi-Polar Tokyo」の、いわば裏返しのような感じになっている。

佐々木:そうですね。これは三船くんが推してくれたんです。これまで、自分は基本的に能天気な人間だし、歌詞も最終的にポジティブにしちゃうんですよ。でも、三船くんには「最後までネガティブで行っちゃえば?」って言われて。だからダウナーな日のことを書いたというか。何かを飛び越えたい、混ぜてやりたいっていつも思ってるんですけれど、やっぱりその難しさに絶望する日もあるんで。だから歌詞は<I’m tired>で終わっているっていう。

――そして、「Snowy Snowy Day,YA!」。これも異色の曲ですね。2010年代前半のインディ・ロックの感じがあって。

佐々木:そうですね。Phoenixとか、そういう感じかな。これも三船くんのリアクションがよかったんですよ。バンドっぽい曲ではあるんですけど、ベースがシンセ・ベースだったり、ドラムが生じゃなかったり、全然バンドじゃない音で。

――こういう曲を作ろうと思ったのは?

佐々木:やっぱり、ラッパーになりたいわけじゃないんで。これも自分のルーツなんですよね。20歳くらいの自分が一番聴いていたものだし。シカゴに行ってわかったのは、ラップ・ミュージックとブルースもそうだけど、インディ・ロックも繋がってるんですよ。Vic Mensaのデビュー・アルバム『The Autobiography』に「Homewrecker」っていう曲があるんですけれど、その曲ではWeezerの「The Good Life」をサンプリングしていて、フィーチャリングにRivers Cuomoが参加していたり。で、そのVic MensaがメンバーにいたKids These Daysというバンドのデビュー・アルバム『Traphouse Rock』はWilcoのJeff Tweedyがプロデュースしている。だからインディ・ロックとラップ・ミュージックを切り離して考えるのはすごく不自然なんです。三船くんも、もちろんそこが視野に入っているので。ロック的なものを排除しようという発想はなかったです。

――WilcoのJeff Tweedyがポイントだったんだ。

佐々木:そうなんですよ。Jeff Tweedyって俺にとっては超重要人物で。Mavis Staplesのプロデュースもしているし、南部のミュージシャンもやっているから、メンフィスとシカゴも繋がるし。Kids These DaysにはNico Segalってトランペッターがいたんですけれど、彼はSavemoneyクルーだからChance the Rapperとも一緒にやっているし、そう考えるとWilcoがいろんなものを繋いでる感じがあって。自分はそういう混ざってるところが好きで、だから3連のフロウとギターをくっつけるのはアリだって感じはあったと思います。

――なるほど。アメリカで起こっていることを表面的に見るとラップ・ミュージックが流行ってロックの勢いがなくなったみたいに思えるけれど、実は街単位のシーンでは、ちゃんとその繋ぎ役になっている人がいた、と。

佐々木:そんな感じがします。

――これ、話はずれるけど、いわゆるエモ・ラップに関してもそうなんですよね。Blink-182のTravis Barkerが2010年代の前半からKid Cudi と一緒にやっていたりして、それがXXXTentacionやLil Peep、Trippie Reddとの仕事に繋がっていたりする。Lil Nas Xの『7』もロック的なサウンドになってるんだけど、それをプロデュースしていたりする。

佐々木:そうなんですね。今はロックの派手な部分、エモさとかロックスター的なものは全部ラップに持っていかれてるなとは思うけど、そこにはバンドマン目線で希望があるなって思ってますね。

――そして最後の「We Alright」。これは三船さんがプロデュースだけじゃなく、ボーカルでも参加している。

佐々木:実はね、彼は全曲歌っているんですよ。

――そうなんだ!

佐々木:彼、おもしろいのは、ミックスとかデモを聴きながらずっと歌っているんです。ハーモニーをつけたりして。「それ、いいじゃん!」って言って入れてたら、結局全曲で歌ってることになった。ただ、「We Alright」はメイン・ボーカルをとってもらうパートがあったので、それだけ名前を入れたんですけど。

――この曲は三船さんありきで作ったんですか?

佐々木:そうですね。そこも大事でした。やっぱりコラボレーターがいた方がおもしろいし、三船くんの個性や彼のアイデアは、なるべく受け止めてやろうと思っていたので。基本的に彼がやりたいって言って却下したことは一個もないんじゃないかな。で、この曲は前にThe StrokesとかThe Libertinesの曲をトラップでカバーしてSoundCloudで発表したんですけれど、そこからの流れでできた曲なんです。そうは聴こえないかもしれないけれど、トラックの元ネタはThe Strokesなんですよ。で、声に関してはBon IverとかFrancis and the Lightsの感じも入っている。かなり新しいところまで行けた気がするんで、今はそれが大事かと思っています。トラップ以降のラップだけじゃないし、実はロック的なところも入っている。自分が好きなものを勝手にミックスすることができれば、もしかしたらまだ誰もタッチしていないおもしろい手触りのものができるかもって。

――なるほどなあ。アメリカにもイギリスにも今はまだない音楽のミックスにチャレンジしている。

佐々木:なるべく先に行きたかったんですよ。どうにかして先に行けないかな? と思って、2020年代に当たり前になってほしいなっていうところまで、いろいろ混ぜてみた感じです。

――全体を通して、歌とラップのバリエーションも増えましたよね。

佐々木:それはありますね。歌はかなり意識してやったと思います。こういうトラックをやればやるほど、バンドをやってきた自分を考えたりしたので。最近の曲を聴くのと同時に、Eddie CochranとかProfessor Longhairみたいな50年代の古いロックンロールもめちゃめちゃ聴いてるんですよ。そうすると、意外にラップっぽい歌が結構あることに気付いて。ロックンロールを研究すればするほど、今に帰ってきているものがある。だから、もう一周して古き良きロックンロールをミックスするポイントがあるんじゃないかって思います。


【リリース情報】

佐々木亮介 『RAINBOW PIZZA』
Release Date:2019.08.21 (Wed.)
Label:IMPERIAL RECORDS
Tracklist:
01. Fireworks feat.KAINA (Chicago Mix)
02. Meme Song (Chicago Mix)
03. Bi-Polar Tokyo/双極東京 (Chicago Mix)
04. Just 1 Thing (Chicago Mix)
05. Sofa Party (Tokyo Mix)
06. Game Over (Tokyo Mix)
07. Snowy Snowy Day,YA! (Tokyo Mix)
08. We Alright feat.三船雅也 (Tokyo Mix)

■佐々木亮介:Twitter / Instagram / SoundCloud

a flood of circle オフィシャル・サイト

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