INTERVIEW

佐々木亮介 (a flood of circle)

新作EPで世界のオンタイムなポップ・ミュージックと共鳴した佐々木亮介。彼が語る国内シーンの分断と問題意識

a flood of circleの佐々木亮介が、2作目となるソロ作品『大脱走E.P. / The Great Escape E.P.』を10月にリリースした。

昨年リリースされた初ソロ音源『LEO』はソウルやブルースの聖地であるメンフィスに訪れ、名門ロイヤル・スタジオでレコーディングした作品となったが、今作ではそこからさらに飛躍。トラックメイカー的な視点を強く感じさせる楽曲群は、ロックンロール・バンドであるa flood of circle、そして彼のルーツであるブルーズのイメージとも全く異なるイメージを聴き手に与えることだろう。

刺激となったのは、Frank OceanやKanye West、Chance The Rapper、Lil Yachtyなど、グローバルなR&B/ヒップホップの領域で起こっている新たなスタイル。それを日本人のバンドマンとして消化吸収した今作の制作における背景から、今日の邦ロック・シーンが抱える分断、問題意識まで、様々な観点から言葉を交わした(編集部)

Interview & Text by 柴那典


――まずは聴いた第一印象。佐々木亮介というアーティストは、今、日本で最も過小評価されているトラックメイカーだと思います。

佐々木:あはははは! だいぶ嬉しい言葉です。

――もっと話題になっていいし、それこそSpincoasterみたいなメディアで取り上げられていいんじゃないかと思って、今回インタビューしようと思ったんです。

佐々木:確かに、今思ってるのは、もうちょっとリアクション欲しかったなってことで(苦笑)。悔しさもあります。ただ続けようとは思っているし、いろんな野望も膨らんでるところですね。

――なので、インタビューでまず訊きたいのは、何故これを作ろうと思ったのか。というのは、メンフィスに行って作った最初のソロ作『LEO』とは完全に違う作り方ですよね。

佐々木:そうですね。メンフィスの時は向こうのソウルのレジェンドの人たちと一緒にやるというのがテーマで。でも、その時のエンジニアのLawrence“Boo”Mitchellの哲学にすごく感動したんですね。彼はAl Greenとか70年代のソウルをずっとやってきた父親のWillie Mitchellのロイヤル・スタジオというスタジオを受け継いでいて。Mark RonsonとBruno Marsの「Uptown Funk」のエンジニアリングもやっている。そういうところで、いかに古い音楽と新しいプロダクションを混ぜるか、そうやって若い世代にアピールするにはどうすればいいかをいつも考えているんですよ。しかもティーンエイジャーの彼の息子たちはソウルに興味なくて、Lil Yachtyみたいなラップしか聴かなくて。そのロイヤル・スタジオのドキュメンタリー映画が去年に日本で公開されてたんで観たんですけど。

――『約束の地、メンフィス ~テイク・ミー・トゥー・ザ・リバー~』ですね。

佐々木:映画を観ると、例えばSnoop Doggが出演してたりして。若いラッパーはソウルに興味ないって言うけど、Snoop Doggは当然ソウルが好きなんですよね。そういう映画も観て、自分は日本から来た部外者だけど、現場にも行っているわけで。いろんなことを考えて、ならおれにしかできないことがあるだろうなって。それで、次はひとりでやろうと思ったんです。

――その時点で、トラックメイカー的な曲の作り方って、やったことありました?

佐々木:デモを作るというのはずっとやってたんですよ。「GarageBand」っていうソフトがあるじゃないですか。あれにドラマー機能っていう最高のおもちゃが入っていて、トラップのビートも組めるんです。

――それはバンドに聴かせるためのもの?

佐々木:そうです。でも、バンドのメンバーにハットが32分音符とか64分音符で入ってるのを聴かせても「できないよ」で話が終わっちゃうんで。で、バンドは新しいメンバーが入ったのもあって、プリミティブな方向になってきてるんです。でも、自分自身のアウトプットをやりたい気持ちが育ってきちゃって。2年くらい溜めておいた中からいいヤツを選び出して、形にしたのがこれです。

――ここ最近の曲を集めたというよりは、2年間くらいずっと作っていた。

佐々木:デモは何十曲とあるんですよ。もちろんバンドのデモもあるんですけど、『LEO』でメンフィスに行く時にデモを作って先に送らなきゃいけなかったので、ソロのために作り始めたのはその必要からですね。その時にはもうちょっとソウル・マナーのある曲も作ったりしていたけど、ちょうどFrank Oceanの『blonde』が出た頃で、それに刺激を受けてエレピで何か作ろうと考えて。そしたら「これ、いろんな機能があるぞ」ってなって。そこからビートを入れたりしているうちに、作り方がわかってきたという。

――1曲目とか4曲目とか、トラップの要素がすごく入っていますよね。これはリスナーとしての刺激が大きかった?

佐々木:そうですね。単純におもしろいと思ったし。ただ、アトランタのトラップのマナーをそのまま真似してもしょうがない。今はもう、ただ真似しても「どうなの?」って思うくらい定番になっているじゃないですか。でもバンドマンがギターと歌でやってる人は、まだいないんじゃないかなって。トラップ・ビートがどうしてもやりたかったというよりは、そういう、誰もやってないけど、どっちにも語り掛けるものができるかもしれないっていう希望を持っていた。

――なるほど。ただ、新作は6曲入りだけど、サウンドのマナーは統一されていないですよね。

佐々木:そうですね。

――なので、聴きながら読んでわかるように、1曲ずつ、どんな要素が入ってるかを解き明かしていきたい。

佐々木:わかりました。それ、やりたかったですね。

――では、まず1曲目の「大脱走 / The Great Escape」。これは、ブルースのギター・リフから始まりますが。

佐々木:このアルバムは、ギター弾くやつがやるぞっていう宣言をしておこうと思ったんです。最初は全然ギターが入ってなかったんです。でも、それだと自分の記名性が薄いなと思っちゃったのがあって。トラップ・ビートなのにグレッチのギターを持ってやってるっていうおもしろさを出そうと思ったのはありますね。この曲については、The Smashing Pumpkinsの「Today」の、静かなアルペジオから始まってサビでドーンとバンド・サウンドになるやつをトラップのビートでやってみたいっていう。そこに自分が好きなソウルとかブルース、メンフィスで経験したものと、日本のロック・バンドであるっていうことと、The StrokesとかThe Libertinesとか、2000年代初頭のロック・バンドのフィーリングという、自分の中で4つくらいの柱があって。その間をとろうというのが最初のアイディアだったんです。それはまだ誰もやってないって。

――しかも1分20秒であっという間に終わる。

佐々木:びっくりさせたかったんですよ。1曲目で、ギターは聴かせるけど裏切りたかった。いきなり30年くらいの音楽を跨ぐ曲を最初に置いておけば、パッと聴いて意味はわからないかもしれないけれど、意味がわかってきた頃にグッとくるかなって。

――ただ、やってることの意味がわかる人は今はまだいないかもしれない。

佐々木:おれ、最近目標を遠くに置くようにしてるんです。バンドで言ったら、プリミティブなものをずっとやってきたけど、今はUSのチャートを見ていてもラップとブラック・ミュージックが強い時代で。Coldplayみたいなバンドも生ドラムじゃない前提でみんな聴いてる。ということは、つまりみんながグリッドに合わせたビートでしか踊れなくなってると思うんです。ただ、この世界を通過した先にある、グリッドに合わせていないバンドになれたらいいなっていう目標を持っていて。そこを目指しているんです。

――それがa flood of circleの遠い目標である、と。ソロの方はどうでしょう?

佐々木:おれがひとりでやろうとしていることも、限りなく近いんですけど。自分がやってきた、例えばギターの弾き語りとかもそうだし、楽器を使った身体の表現みたいなものを踏まえて、今言った、グリッドのあるビートの世界に立ち向かわなきゃいけない気がおれはしているんですけどね。しかも、日本にいて、日本人にしか思わないことがあるはずだから、そういうテイストも混ぜていきたい。

――わかりました。では、2曲目の「The Night Of Star Fish」はどういうアイディアから生まれた曲ですか?

佐々木:これは、結構ギターが鳴ってるんです。それはPhoenixとかThe Strokesとかの世界ですね。で、おれ、Kanye Westもめちゃめちゃ好きなんですけど、Kanyeが好きになった理由が、最初はもっとソウルっぽいラップだったからなんですよね。クラシックなものを愛しているタイプ。こないだ出た『Ye』とか、彼のアルバムは生ドラムをどう料理するかみたいな聴かせ方をしていて、シンパシーがあったんですよね。そのJ Dilla的な遅いビートが流行ってる感じを基準にして、さらに生っぽい音のビートにして、で、Phoenixみたいなギターが鳴ってて、歌が分裂してるっていうのをテーマにしていました。Frank Oceanとか、分裂してるのがOKって前提でみんなやってる気がしていて。

――分裂している?

佐々木:なんというか、文化やジャンルや価値観がひとつに統一されていないからこそ新しいって感じがあるんですよね。Anderson .Paakもそうだけれど、ああいうザラッとした質感も許されているし、整えないくらいがいろんな価値観が入る器になるんじゃないかって。歌も、おれが10人ぐらいいるんです。バンドとソロでかなり分裂したことをやっていると思うんで、それを肯定したいっていう気持ちもあるし。あとはKanye WestとかChance The Rapperって、ゴスペル的な文化が入っていますよね。そういうの、バンドマンでは絶対やらないと思うんですよ。一人で多重録音とか。

――あとは符割り、フロウのあり方もありますよね。この曲は今までにやってない、新しいところに攻めている感じがしましたけれど。

佐々木:そうですね。そこはかなり意識的にやりました。かなり、語り切れないくらい参照点は山ほどあるんですけど、自分がしっくりくるスタイルにまとめようって。自分の柱はThe Beatlesとスピッツなんですけど、そこのテイストは外さなければ、何を混ぜても許されるかなって。まとまらない自分を肯定したいっていう気持ちがあって。まとまってない時代を進もうと頑張ってる人を見ると燃えるし、自分もそうありたいな、と。

――3曲目の「Nude & Rude」はブラック・ミュージック・テイストですね。

佐々木:確かに。これが一番メンフィス・テイストを入れているかもしれない。

――これは、どんなふうに作っていったんですか?

佐々木:先に1曲目、2曲目、4曲目ができてて、1曲目と4曲目はトラップっぽいビートを取り入れていたので、メンフィスで思ったことや経験したことも入れておきたいと思ったんです。佐々木亮介名義の二枚目なので、ちょっとだけ踏襲しようかなと。メンフィスの音楽のいいところって、ジャズとかファンクとかブルースとか、分類しやすいものが意外と分かれてないんですよ。ブルースっぽいピアノを弾く人もジャズ弾くし、ジャズっぽい中に普通の3コードでブルースっぽく進行したりとか、でもノリはずっと16ビートだったり、意外と一言でまとめられなくて混ざってるんです。ソウルって呼びたくなるんだけど、それだけでもなかったりする。で、メンフィスの時にMichael Tolesというギターを弾いてくれた人がいて。彼のギターにはそういう感じがあったんですよね。しかも彼はCyndi Lauperとも仕事をしていて、ポップな感覚もある。ジャズで言うと、The Internetみたいなジャズっぽいバンドもいるし、Robert Glasper的な世界もある。そこで、コード的なところを分析して、あまりロック・バンドがやらなそうなコード進行を取り入れながら、そのメンフィスで経験したことをミックスできないかなと。ドラムも、生ドラム風なんだけど、AIのドラムならではの無茶苦茶さがおもしろくて、ドラマーは叩けないフレーズになっている。

――今起こっている世界の音楽のおもしろい部分って、ひとつはトラップ以降、ビートの革新によって歌とラップのフロウの新しい在り方が開拓されているというところがありますよね。もうひとつは、、Robert Glasper以降、Kamasi Washingtonもそうだし、ジャズという音楽がヒップホップを経てブラック・ミュージック全般に“作法”としてアップデートされることで起こってるイノベーションがある。すごくざっくり言うと、前者はトラックメイキング的なもので、後者はプレイヤー的なものである。で、この曲は後者側の、プレイヤーの世界で起こっている革新を解釈しようとしたものだと思うんです。

佐々木:そうですね。今の人たちはジャズもファンクもラップも、メタ視線で混ぜていく。それに追いつこうとなると、さらにメタになっていく発想になるんですよね。生っぽいグルーヴでジャズ的なものを混ぜている人たちを後から見て、それすらも機械でやってみるっていう発想ですね。

――4曲目の「光あるうち光の中をゆけ / Walk In The Light While There Is The Light」は、話に出てるようにトラップのビートを大々的に使った曲ですが。

佐々木:そうですね。ハットが細かいタイプですね。

――この中では、4曲目が一番好きかな、個人的には。

佐々木:嬉しいです。おれもこれが最初に気に入っていて。エンジニアの池内亮さんという、最近のサニーデイ・サービスとかもやっている人がすごく評価してくれて。「これリード曲じゃない?」って言ってくれたんです。っていうくらいおれも気に入ってますね。

――この曲は、どういうアイディア、どういう要素が入っている?

佐々木:これがトラップ的なものを実践しようとした初めての曲だったんです。だから、実はアイディアありきっていうか、ビートを一回組んでみて、この上で何ができるか色々考えて作った曲ですね。最初はギターを弾かないっていうルールを自分に課して、エレピで作っていった。そうしたら全然自分になかった扉が急に開けてきたっていうか。さっきおっしゃっていたような、ラップのフロウをバンドにどうやって入れるかを悩んでいた時期でもあったので、その実践版が去年のアルバムでいうと「Where is My Freedom」っていう曲だったりしたんですけど。バンド・サウンドに乗せないでやってみようと思って最初に作った曲です。

――元々90年代とか00年代は、ボーカリストとラッパーって別物だったと思うんです。今の日本の音楽シーンでも、ラッパーと歌手は別のスタイルでやっているイメージがある。でも、それこそ今日ではDrakeやPost Maloneを聴いてると、どこまでが歌でどこまでがラップかわからない。この状況をボーカリストであり、バンド出身の佐々木亮介はどう捉えているのかを訊きたいんですけど。

佐々木:最高じゃんって感じです。

――ははは!

佐々木:やっと色々な垣根が壊れてきたと思うし、さっき言ったように、アトランタのラッパー然としたものをそのまんまやっても意味ないと思うし、格好悪いなと思うんですね。その垣根が壊れるほど参入しやすいと思うし。日本だと鎮座DOPENESSさんとか、かなり最初からフリースタイル・バトルとかでも歌ってるんですよ。それこそ浮いてるくらい。フロウもメロディがあるし、ピッチがめちゃめちゃいい。だから、ラップ上手い人は歌も上手いんじゃないかっておれは思うので、それがやっと表れてきた気がしますね。それがあるとおれもやれるなと思うし、こういうトラップみたいなゲームの中に自分が参入した時に、ロックンローラーというキャラでやれるから。おれはそもそも聴き手として垣根を感じてなかったけど、みんなの価値観の中で垣根がなくなってくるならやりやすいかなって。

――どうでしょう、バンドのサウンドではなく打ち込みでやってみたら自分の歌のどういう部分が開花したと思います?

佐々木:まず、叫ばなくていいってことですね。これはメンフィスでもそうだったんですけど。メンフィスって、めちゃくちゃ貧乏な時代を経ている人が多いので、ゴスペルがすごい大事で。教会だと安全だし、教育もある。だから、みんな歌とかがすごく上手くなるんですけど、普段からマイクを使わないことも多いから、上手い人はみんなハードシャウトになっちゃうんですよ。Al Greenも、最初のヒット曲出すまでは、ずっとハードシャウトだったらしいんですけど、「Let’s Stay Together」ってヒット曲を出したときに、初めてWillie Mitchellに「シャウトもいいけど、ファルセットで歌うのもやってみろ」って言われて、それが一番売れたという。それを聴いて「いい話!」って思って(笑)。

で、おれもそれを言われたんですよ。それで『Leo』の時はファルセットを活かすようなボーカルを録ってたんです。でも、a flood of circleに帰ると、それがなかなかできなくて。あの生ドラムを活かすには、ファルセットじゃ対抗できない。もちろん、あのうるさいドラムが好きだから一緒にバンドをやってるっていうのもあるし。で、この曲は打ち込みで隙間のあるビートを組んで、長いアンビエントっぽいエレピを入れて、そのうえでやるボーカルは自然とこうなった。メインのボーカルは多重録音で3人くらい同時に歌ってる感じなんですけど。ゴスペルっぽいところもあるし、ファルセットで重ねてるっていうのは、これまでの経験があってやっていると感じます。

――ゴスペルっていうキーワードで言うと、5曲目の「Baby 君のことだよ / Baby It’ s You」もかなりゴスペルの要素が入っている。この曲はどうですか?

佐々木:まさにゴスペル的なところですね。これは2年くらい前の曲なので、参照点として名前を出すとしたらFrancis and the Lightsとかかな。声の聴かせ方がかなり変わってきたので、それを自分でどう実践するかをじっくり考えていてやっていた感じです。

――この曲はボーカルにオートチューンがかかってますよね。

佐々木:結構入っています。

――これはFrancis And The LightsやBon Iverがやったようなヴォイス・シンセ、デジタル・クワイアの手法に刺激を受けた?

佐々木:それもあるし、単純に自分の作業として、パソコンでやる作業を通して気付いたことがあって。生ドラムと生ギターで作った録音にオートチューンの声を当てると気持ち悪いんですよ。データ上では合ってるのに、ジャストにならない。でも、打ち込んだエレピとかトラップ・ビートにオートチューンを合わせると、バッチリ合うんです。数値的にというより、モノとして合ってるなって思うんです。それは誰かに影響を受けたというより、みんな自然とここにいくのがわかるな、っていう。しっくりくる感覚がある。メンフィスのままだったらオートチューンをかけると思っていなかったし、ソロの作業だからこういうことができたんだと思います。

――6曲目の「ラブリー・アワー / Lovely Hour」はライブ会場限定CDにだけ入っている曲ですよね。CDと配信で収録曲を分けた意図は?

佐々木:最初は5曲入りで考えていたんです。でも、自分たちの事務所、、と言ってもバンドのメンバーとマネージャーしかいないんですけど、おれらがやってるところから出すって決めていて。会場で買ってほしいよね、ここで実入りがないと次のソロ作も作れないしっていうのも当然ありつつ(笑)。自分としては攻めた状態でまとめたかったんですけど、「ラブリー・アワー / Lovely Hour」はこれまでの自分の弾き語りのソロっぽいんですよ。曲自体は今までのa flood of circleのアルバムに入っていてもおかしくないくらいのもので。

――ということは、この作品はそもそも5曲入りで、6曲目は会場まで来てCDを買ってくれるファンのためのボーナス・トラックみたいな位置付けである。

佐々木:まさにそうです。おれのライブに来てくれる人たち、これを買ってくれる人たちにとっては、入り口はこの曲のはずなんですよ。この曲は、5曲目までのソロと全然違う世界で、メンフィスで作ったものとか、5曲目までが、バンドの対極にある感じで。

――なるほど。分裂というキーワードが出てきましたけど、めちゃめちゃ分裂してますよね。今の佐々木亮介というミュージシャンの持っている音楽の指向性は。

佐々木:ですね。

――これ、僕はめちゃめちゃおもしろいと思ってるんですよ。何がどう分裂しているかというと、まず何より佐々木亮介という人はバンドマンである。a flood of circleはロックンロール・バンドで、ブルースをずっと追求してきた。最近メンバーが4人になって、よりプリミティブな、肉感的で肉体的なバンドになっている。で、二つ目はソロでやってきたライブの世界がある。そこには弾き語りが主体のパーソナルな表現がある。で、リスナーとしての佐々木亮介がいる。それはトラップを聴いているし、Kanye WestやLil Yachtyが好きだし、たぶんアジアのポップ・ミュージックも追っていたりするんじゃないかと思うんですけど。

佐々木:そうですね。「どうやったら〈88rising〉に入れるのかな」とか考えてたりします(笑)。

――で、このソロEPは3番目、リスナーとしての佐々木亮介に一番近い。

佐々木:そうかな、はい。

――だからトラックメイカー的な作り方をしているけれど、表現する時は当然ロックンロール出身、バンドマン出身というキャラが乗っかってくる。そういうものをやらなきゃ意味がないと思っている。そういう意味では、めちゃくちゃ複雑な作りになっている。

佐々木:そうなんです。だから、柴さんくらいしか解きほぐせる人がいないんです(笑)。「なんじゃこりゃ?」って感じなんですよ。

――その「なんじゃこりゃ」がおもしろいと思っていて。

佐々木:嬉しいです。

――これを作ったことで、自分の中で、分裂が整理できた感覚はありますか?

佐々木:整理って言うより、もっと分裂しているかもしれないかな。分裂していていいやって思っていて。2曲目の「Star Fish」はヒトデのことですけど、ヒトデって分裂して再生して増えていくみたいなんですよね。めちゃくちゃ気持ち悪いんですけど、それに近いというか。前までは諦めていたところもあったけど、今はガンガンいっちゃいたいなって。

――このEPの先でもやりたいことは沢山ある。

そうですね。まだ決まってないんですけど、いろんな人と一緒にやれたらいいなと思ってますね。有名かどうかにかかわらず、おもしろそうな人を紹介してもらって参加してもらうとか。何か起こったらいいなと思っています。

――ソロとa flood of circleは当然両立してるわけですけれど、今回のソロのアウトプットはバンドにどんなフィードバックがあると思いますか?

佐々木:バンドの方は、やっぱりさっき言ったグリッドに合わせなきゃいけない世界観の先に行きたいってことですね。

――グリッドに合わせなきゃいけないというのは、つまり、生バンドでも打ち込みのスクエアなビートに合わせて演奏しなきゃいけない、そうじゃないとオーディエンスが踊れなくなっている、という話ですよね。

佐々木:特に“ROCK IN JAPAN FESTIVAL”に出た時にそれを感じたんです。どんなバンドも、みんなクリックを聴いてる。100組いたら2、3組くらいしかそうじゃない(クリックを聴いていない)バンドはいない。「ああ、グリッドないと無理なんだ」って思ったんですよ。で、XXXTentacionなんてNirvanaみたいな感じじゃないですか。ライブの映像を観てもみんなダイブしまくりで、「ロック・バンドが何をやったらこいつらに勝てるの?」って思う。でも、もしかしたらこの時代の先に、The Stoogesばりに全然グリッドには合わせてないけど、最高にバンドらしいグルーヴで、ボーカルのプロダクションとか曲作りに関してだけ現代的なものができるかもしれない。それをやるっていうアイディアが、自分の中にある。それはソロを経て思ったことですね。

――なるほど。a flood of circleは、ある種、今のモダンなグローバルなポップ・ミュージックのトレンドからすると、完全にアウト・オブ・デイトなフォーミュラに基づいてやってるわけですよね。でも、敢えて次の時代に一番新しいことをやるためにそのスタイルを研ぎ澄ますみたいな発想がある。

佐々木:そう。だから、さっき言った「目標が遠い」っていうのはそういう意味で。価値観がひっくり返るまで続けないといけないと思っています。

――で、ソロの方は、モダンなポップミュージックの感覚をどんどん吸収したい。

佐々木:そうですね。それと並行して、メンフィスの人たちと一緒にやってるし、それから日本のロック・フェスに出てるっていう。その3つのバランスを持ってるのは、他にはいないだろうと思っているので。全部研ぎ澄ませようと思っています。で、それが混ざったところで、奇跡的に針の穴が通ることがあればみんなに伝わるだろうという気がしています。それを狙ってますね。

――なるほどね。でも、正直、思うことがあって。「邦ロック」という言葉がありますよね。日本のロック・バンドが出る大きなロック・フェスに行けば、だいたいそこに共通したスタイルとフォーミュラがあることがわかる。その一方で、アトランタや南部にはトラップがあり、NYやLAではジャズを共通言語にどんどんアップデートされているブラック・ミュージックの世界があり、Frank OceanやDrake以降、さらに更新されているR&Bやヒップホップの世界がある。でも、日本の若い音楽リスナーを見てると、かなりハッキリと分断されてるのを感じるんですよ。邦ロック界隈の人は海外の音楽の動向を追ってなくて、逆に海外の音楽を聴いてる人は邦ロックの世界を見ていない。僕は両方好きなんです。邦ロックも好きだし、トラップもR&Bも好き。でも、同じような嗜好を持ってる若い世代のリスナーになかなか会えない。もちろんいるとは思うんですけれど。

佐々木:おれもそうなんですよ。だから、今自分に必要だなと思っているのは、批評的な意味での知性と破壊力だと思っていて。自分が音楽を聴いていたり、世の中を見る時は批評眼が大事だなと思うし。自分がいる場所を勇気をもって批評することも必要だと思う。ただ、批評眼だけで音楽は生まれてこないので、何かを作る時は破壊力と気合いが無いとダメだと思う。その勇気をずっと持ってないとヤバいなと思いますね。安全地帯でやっていく方が簡単だけど。

――そうなんですよね。自分が今いるコミュニティのお客さんが求めるものをやってくか、もしくはトレンドに追従していくか、どっちかに専念してしまったほうが楽である。

佐々木:最近、中国のHowie Leeっていうトラックメイカーのインタビューを読んだんですけど、彼はイギリスのベース・ミュージックに中国独自の楽器とか音楽を取り入れてやってるんですね。で、「なんでそうなったんですか?」って質問に対して、イギリスのベース・ミュージックはもうあるし、普通のことをやってもしょうがないし、イギリスの真似をしたパーティをやっていても人が入らなくて、逆に中国っぽくしたら人が入るようになってきたから、とにかくビジネスとしてそうしただけだ、って。それが羨ましいって思うんですよね。

佐々木:日本でロック・バンドをやってると「すでにあるもの」に合わせないと売れないとみんな思ってるし、実際そうした方が売れるっていうのも肌感でわかる。保守的なんですよ。チャレンジしようとすると「メディアに載らないよ、それじゃ」ってモードになりやすい。だからもう、環境を変えるくらいのパンチを放たないと絶対に変わらないなって思いますね。ただ、それは他人にシステムを変えてくださいって頼むことじゃないから、作品でパンチを出すしかないんだけど。

――わかりました。まとめると、今は分断の大きな溝の上にいながら、暗闇に向かって球を投げてる感じである、と。

佐々木:そうですね。でも、キャッチする奴はいるだろうと思ってます。


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【リリース情報】

佐々木亮介 『大脱走 E.P. / The Great Escape E.P.』
Release Date:2018.10.02 (Tue.)
Label:AO
Cat.No.:AO-001
Price:¥1800 (Tax in)
Tracklist:
01. 大脱走 / The Great Escape
02. The Night Of Star Fish
03. Nude & Rude
04. 光あるうち光の中をゆけ / Walk In The Light While There Is The Light
05. Baby 君のことだよ / Baby It’ s You
06. ラブリー・アワー / Lovely Hour

※ライブ会場と通販限定販売

a flood of circle オフィシャル・サイト

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