INTERVIEW

佐々木亮介 (a flood of circle)

シカゴRECのソロ新曲をリリースした佐々木亮介。ブルース、ソウル、ヒップホップ――豊かな音楽の歴史紡ぐ彼の地での制作背景に迫る

a flood of circleの佐々木亮介が、「佐々木亮介 / LEO」名義のソロ新曲「Fireworks (feat.KAINA)」を本日4月24日(水)にリリースした。トラップ・ビートを基軸にバンドとは全く方向性の異なるサウンドを追求した新曲。レコーディングはシカゴのClassick Studiosで行い、エンジニアリングはChance The RapperやSminoなどを手がけるElton Chuengが担当。フィーチャリングにはSen Morimotoのアルバム『CANNONBALL』にも参加していたシカゴ在住の女性ミュージシャン、KAINAが参加している。

グローバルなR&B/ヒップホップのシーンとの同時代性を意識しつつ、日本人のバンドマンとしてその影響を昇華するスタイルのソロプロジェクトを始めた彼。いよいよ本格的に足を踏み出した今作の制作の背景、現地での体験について語ってもらった。

Interview & Text by Tomonori Shiba


――今回の新曲「Fireworks (feat.KAINA)」はシカゴでChance the Rapperのエンジニアを担当したElton Chuengとレコーディングしているわけですが、まず、なぜシカゴに行こうと思ったんでしょうか?

佐々木:自分の場合はソロの前にバンドがあって、バンドはいい意味で制限があるんですよね。みんなでやってるし、メンバーとの化学反応を楽しむためにやってるんで。でも、ソロは本当に何でもアリだったんで、とにかく今一番自分がホットだと思うところを突き詰めよう、と。で、前回の『大脱走E.P. / The Great Escape E.P.』で、トラップのビートで曲を作るっていうひとつのトライをしたんで、その流れで次を作るという発想もあって。

――前回、ソロ作品『大脱走E.P. / The Great Escape E.P.』を出して、Spincoasterでインタビューを掲載したのが去年の12月のことでした。そこから数ヶ月あって、反響はどうですか?

佐々木:もうちょっと何かが起こるかなと思って期待したんですけど、正直、最初の反響は全然なかったですね。でも、ツアーをやって出会ったバンドマンの100人に1人くらいは「ソロ、ヤバいですね!」って言ってくれるようになった。じわじわとだけど、触れてくれた人は「何かが起こってる」って感じを感じ取ってくれてると思います。で、その取材でお会いしたくらいの時にシカゴのClassick Studiosに連絡してたんですよ。最初のソロの『LEO』の時にメンフィスに行った経験があったんで、現地に挑戦しようという発想が俺にもスタッフもあったんですね。

――なるほど。『LEO』でメンフィスに行った、Al Greenとか70年代のソウルのレジェンドがレコーディングをしてきたロイヤルスタジオでエンジニアのLawrence“Boo”Mitchellと一緒にやったというのが、最初のきっかけになっている。

佐々木:そうですね。無謀なチャレンジかもしれないけどやってみる、と。で、シカゴのラップ・シーンのブームは少し前からありましたけれど、シカゴという街自体、たとえばBuddy Guyみたいにそもそも自分のルーツであるクラシックなブルースのシーンがあったところなんですよね。そこから繋がってる歴史もあるし、最近のKanye WestとかChance the Rapperも好きだし、改めて端から端までシカゴが好きだと思って。次のトライするならこの街だということを決めたということです。

――ということは、今回のレコーディングは自分が好きなスタジオ、エンジニアにラブレターを書くところから始まった。それがElton Chuengだった。

佐々木:そうですね。

――Elton Chuengのどういうところがいいと思ったんでしょう?

佐々木:『大脱走E.P. / The Great Escape E.P.』を作った時は、全部の楽器を自分で作って、ミックスだけ池内亮さん(バンドのレコーディング・エンジニア)にお願いするというスタイルだったんですね。歌もトラック・メイキングもできるけど、エンジニアリングの技術が自分には全くなかったんで。で、ラップの音楽は、ラッパーとトラックメイカーだけじゃなく、エンジニアが大きいってことを作りながら気付いたんです。トラック・メイキングする人がミックスするパターンも多いんですけれど、自分がやりたいことの中にトラック・メイキングも含まれているから、そこを他の人に任せちゃうのは違う。だけど、Chance the Rapper周辺の作品はエンジニアが独立しているんですね。そこで、いいエンジニア、今のエンジニアと触れあいたいというのがまずありました。

――なるほど。

佐々木:Elton ChuengはシカゴのClassick Studiosっていうところでやってるんですけれど、Classick Studios自体が昔からの伝統あるスタジオというわけじゃなくて、ここ10年くらいの流れの中にあるんですね。何よりスタジオにドラムセットがないんですよ。そのくせ『Grand Theft Auto』は置いてある、みたいな。

――『Grand Theft Auto』ってゲーム・ソフトの? すげえな!

佐々木:そんな感じも今っぽいし。メンフィスとは逆でリアルタイムで新しいものを作っている感じがある。で、そもそも自分のやりたいことというのが、ソウルとかブルースとか昔の音楽と今の音楽をスピッツ育ちの自分が混ぜたら面白いものができる、ということなんで。俺以外にはできない文脈で音楽をやれるのが大事なんですよ。そういうことを考えたときに、Chance the Rapperが俺に一番影響を与えてくれたのは「作れる」ってことだったんですよね。Kanye Westを聴いてた頃はこれを作れると思えなかったんですよ。でも、機材とかソフトの進化もあって、その感覚が変わってきた。

――Kanye WestとChance the Rapperは、それぞれどういうところが好きなんでしょうか。

佐々木:やっぱり自分はロック・バンドの人なんですよ。Kanye Westを好きになったのも、ラップ・ゲームの中の人たちからしたら嫌われそうな聴き方ですけど、ソウル・ミュージックのサンプリングの仕方とかCommonのプロデュースをした時のやりかたとか、そっちから入ってるんですよね。ロックの耳で聴いちゃっている。逆に言うと、Kanye Westがおれにラップを聴く耳を作ってくれた感じがあって、それができてからChance the Rapperを聴いてるという。Chance the Rapperはラップが当たり前になった時代の人で。『Coloring Book』が出た頃に『GQ』の表紙をやってて、それをメンフィスで買って読んだんですよ。そうしたら、Chance the Rapperは、自分の名前の「Rapper」をKanye Westのことだと思ってつけたみたいなことを言っていて。いわゆるギャングスタとかじゃなく、Kanye Westこそがラッパーなんだ、って。ああいう自由な人のことだ、と。

――なるほど。今考えると、『808s & Heartbreak』とか『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』は間違いなく金字塔ですよね。あれはThe Beatlesの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』みたいなものだって思うんですけれども、あれ以降のシカゴから出てきたのがChance the Rapperという印象がある。

佐々木:そうですね。Kanye Westがソウルのサンプリングをやめて、ダフト・パンクみたいな音を使って、そこからだんだん歌モノになってきた歴史があって。それ以降で。Classick Studiosの僕らが使ったスタジオは壁が真っ赤なんですけれど、『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』のジャケの中が額縁に入れて飾られていたりしたんですよ。俺もその流れ、その文脈の中にいる感じがします。そこへのリスペクトがあって、その後にドリルとか、もっとビートが細かい音楽が出てきて、それとゴスペルが混じっている。

――その一方で、Buddy Guyのような古いブルースもシカゴにはあった。

佐々木:そっちに関しては、自分はティーンエイジャーの頃から好きだったんで。Buddy Guyのバーがあるのもそのその頃から知ってたし。そもそもブルースのファンだったから。Kanye WestとCommonの街というだけだったらシカゴに行こうと思わなかったかもしれないけど、自分がメンフィスでやったソウルとかブルースとも接点が持てるし、Chance the Rapper周辺のスタッフと一緒にやるだけじゃなくて、自分のルーツとも接点があったんで。いろんなものがつながって、それでシカゴでやろうと思ったんですね。

――で、OKをもらって、実際に行ってみてどうでした? 会ってみての第一印象というか。

佐々木:メールの段階では熱く盛り上がったというより、もうちょっとドライな感じでした。最初に会った時も、メンフィスの方が温かいんですよね。ファミリー感があって。Classick Studiosはみんな若いんですよ。ボスのChris“Classick”Inumerableってヤツも俺と同世代で、ミュージシャンもみんな若いし。感じは違いましたね。チャラいというか。メンフィスのほうが老練な感じでした。

――メンフィスのスタジオはPro Tools以前からある、アナログレコーディングの伝統があるスタジオなわけですよね。でも、Classick StudiosはPro Tools以降のスタジオである。みんなが当たり前に家で音楽を最後まで作れるようになった時代に、それでも必要なものとしてのスタジオである。

佐々木:そう。それが完璧な解説ですね。Royal Studiosはアナログの鳴りを大事にするから建物も壊さないし、楽器の場所も音が変わるから5 mmも動かさないんです。でもClassick Studiosは若い奴らが集まってる、小さいロビーがあって、ミックス・ルームとボーカル・ブースがあるだけの場所で。あと、みんなライバルだと思うんですよね。録音はEltonじゃなくて、彼と一緒に仕事をしているColeってヤツがやってくれたんですけれど、やってる間もラップトップでヘッドホンして競い合うように作業してるんですよ。必要最低限の場所でいいんだけれど、その環境じゃないと生まれない集中力とかサウンドがある。そういう感じがしました。

写真右側、座っているのがCole、その隣がElton

――曲自体は佐々木さんがDAWで作っていったんですよね?

佐々木:そうですね。声以外はあらかじめ録音して、そのステム・データを持っていって相談しながら作っていくみたいな感じでした。

――それを受けてのリアクションはどういう感じでした?

佐々木:特にColeは緊張してたのか、ツンとしたヤツで。レコーディングの時間も短かったんで、最初は「ヤバいな」と思ってたんですよ。でも、トラックを気に入ってくれて、ミックスしていくうちにだんだん上がってきて。最終的にはインスタ教えてくれって。ドキドキしましたけど、ステム・データを渡して音を作っていく中でテンションが上がっていったっていうのは嬉しかった。一番楽しかったのは、KAINAにゲスト・ボーカルをお願いして、スタジオに来てもらって、一緒に歌ったんですね。彼女はSen Morimotoとも一緒にやってるから、シカゴは今こんな感じだって教えてくれて。それで、KAINAとEltonもColeも、4人でミックスを考える時間があって。それがめちゃめちゃ楽しかったですね。KAINAも自分のアイディアを言ってくれるし、EltonとColeとも曲をこうしたらおもしろいんじゃないかって話をして。Classick Studiosはシカゴでも治安の悪い場所で、不良っぽいところもあったんだけど、「音楽に国境はないよね」ってしみじみ喋ったりして。そういうピュアさとか希望みたいなものは、メンフィスもシカゴも一緒だった。

――曲はいつ頃に作ったんでしょう?

佐々木:「Fireworks」のピアノのリフはメンフィスで作ったんです。そこの経験を次につなげたかったんで。でもそれにトラップ・ビートを重ねるとは思ってなかったんですけれど。でも、そこに自分が日本人のバンドマンだってアイデンティティを絶対入れたかったのでギターも弾いて入れて。シカゴ行く前からネタはあったけれど、完成像が見えたのはシカゴに行くって決めてからですね。

――どういうモチーフで曲作りは進めていったんでしょうか。

佐々木:『大脱走E.P. / The Great Escape E.P.』の時にやれたこととやれなかったことがあったんで。それはビートの側面もあるし歌の側面もあるし。それを突き詰めてやりたいという感じですね。

――まずビートに関してはトラップ・ビートのスタイルでやっている。そこに振り切ろうというのがあった。

佐々木:そうですね。――歌に関してはどうでしょう。佐々木:英詞っていうチャレンジもあったし、歌とラップがひとつになっているとしても、その中でバランスはあると思っていて。もう少しラップよりになっていると思いますね。

――これまで、英語詞はほとんどなかったですよね。これをやろうと思った理由は?

佐々木:まず英語で歌う気持ちよさがあるなって思って。今、SoundCloudにどんどんカバーをあげてるんです。こないだはPost Malone & Swae Lee の「Sunflower(Spider-Man : Into The Spider-Verse)」を歌ったりして。英語で歌う楽しさが出てきちゃったし、ネイティブではないんだけど、無理してやってるというよりは楽しめてやってる感じがあって。で、トラックに関しては、たとえば「Fireworks」のコード進行は、自分がやってきてる日本語のロックの世界だと定番な進行だったりするんですよ。でも、そこにメンフィスのキーボードが乗って、シカゴ・スタイルのミックスダウンがあるという。そういう重なりを作りたかった。そこへのトライがありました。

――批評的なことを言うと、英語でやるって言うのはリスクも大きいと思うんです。ネイティブでない言語で歌うというのは、どうしても拙さとかイビツさが出てしまう。そこをクリアにしないとポップにならないという考え方も大きい。ただ、逆に訛りがナラティブとしてユニークになるんじゃないかという発想もあるかもしれない。

佐々木:そこに希望的観測は持ってますね。ただ、英語がイビツなことをおもしろがってほしいというのは違っていて。やっぱりマンブルラップを聴いてたりすると、変な発音とかへろへろな声でラップしてたりするじゃないですか。Higher Brothersがアリになってるんだったら、俺も日本人のロックンロールをやってる人っていうキャラで勝負できるんじゃないかなって。

――女性ボーカルをフィーチャリングで入れようという発想は作っている段階であったんでしょうか?

佐々木:それはありましたね。メンフィスでピアノ・リフを作った段階ではなかったんですけど。出会いたい、ってのがあったんですよ。さっき言ったようなスタジオの仕組みなんで、言っちゃえば、データを送ったらミックスして返してくれるんです。でも、空気を吸いに行ってるわけだし、人と出会わないと直接行く意味はないだろうと思っていたんで。シカゴでこの曲をやると決めてからは向こうでボーカルを探そうと思ってました。

――KAINAにフィーチャリングをお願いしたのは?

佐々木:Eltonの周りにいる女性ボーカルを調べてリストも作ってたんです。ラップしてもらうかコーラスを一緒に歌ってもらうかを考えたんですけれど、「Fireworks」に関しては歌が強い曲なんで一緒に歌ってほしいと思ったんですね。「Cry」という曲があるんですけれど、歌ってるキーも近かったんでイメージもできたから、彼女のマネジメントにオファーしました。

――一緒にやってどうでした?

佐々木:めちゃめちゃよかったですね。器用なタイプではないのかもしれないけれど、歌も上手いし。自分はこういう曲でもグレッチを持っていって弾いてるし、自分がやりたいこととも、シカゴでやってる人の尊敬している部分もミックスしていることだ、っていう話をしたんですよ。だから年齢も生まれも見た目も全然違うんだけどこれが混ざることにする意味があると思ってやってるんだって言って。そう伝えたら「わかる」みたいな感じで来てくれたんで。そのあたりはやりながら通じ合えたのかって思います。

L→R:KAINA、佐々木亮介

――MVでもスタジオでギターを弾いてますよね。

佐々木:そうですね。ラップっぽい曲なのにギター・ソロがあるっていうのがミソなんで。フレーズはブルース風なんですけれど、音色はトラップのビートと合うギターの音を探して作ったんです。

――「Fireworks」は自分のどういう側面を象徴している曲になったと思います?

佐々木:基本的には自分が好きだってことをひとつも否定しないスタンスでやってるんで。全部混ぜるっていうスタンスは一緒なんですね。ただ、強いて言えば、シカゴで英語で歌う意味も考えたんで、歌詞には時間かけたし。英語で書くということにはこだわったんで。韻の踏み方も、歌い方も、日本語とは全然発想が違う。これまでの自分の音楽表現の枠の中ではできないとこまで行けた気がする。バンドマンが新しい扉を開いてるっていう以上に、ひとりの作家として自分が全く違うところに来た気がする。ここまでのひとつの代表曲だと思えるものを作れたという感覚はありますね。


【リリース情報】

佐々木亮介 / LEO 『Fireworks (feat.KAINA)』
Release Date:2019.04.24 (Wed.)
Tracklist:
1. Fireworks (feat.KAINA)

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