『Galaxy Garden』のアートワークに起用されて以降、Lone(ローン)の音楽に付属している、Tom ScholefieldことKonx-Om-Pax(コンクス・オム・パックス)がデザインしたヴィジュアルは、色鮮やかな蛍光色の触角か毛のようなものと、海洋生物的な少しグロテスクな柔らかさを持っていて、触手を揺らしながら不気味に漂ったり、呼吸をしているような動きを見せる。とりあえずいまは電気ウミウシや電気クラゲなどと呼んでおこう。しかし不思議なもので、ひとたびLoneの音楽が加わってみると、メロディックなサウンドとカラフルなヴィジュアルが共鳴して、電気ウミウシや電気クラゲの輝きは幻想的に映り、ひとつひとつの動きがチャーミングに見えてくる(それでもMr. Scurffのバクテリアほどはチャーミングに見えてこない)。おそらくLoneの音楽が無ければ蛍光色がフラッシュしたり、ヴィデオで撮った世界中のランドスケープが映る少し綺麗な映像という感じなのだが、音楽が加わることによって“電気ウミウシくんの大冒険”的な一大ストーリーがそこにあるように思えてくる。Konx-Om-Paxのヴィジュアルは波打ち際にズームしたシーンから始まる。
最新作『Realty Testing』のリリース後からツアーでLoneがKonx-Om-Paxと共に披露している『Live A/V Set』の狙いはまさにそこにあって、異なるベクトルで作られたオーディオとヴィジュアルが合体するとどうなるか、という、それぞれの表現の特徴によって人に与える影響が異なるということを、五感が開放的になる享楽的な空間の中であらわにしているのだ。
オーディオとヴィジュアルは切っても切れない縁にある。オーディオを完全に音のみで受け取ることは難しいし、ましてや音のみで保存することは不可能に近い。色が取り払われてもそこには文字記号というヴィジュアルが残る。逆に、プロデューサーの中には、絵画や少数の文字記号から着想を得たりする人や、John Cageのようにオーディオを図形として保存をしたする人もいる。20世紀を代表するフランスの画家であるHenri Matisseの『Jazz』シリーズや『Dance』が描く、多様な人物の動作や色彩には、1つのアルバム以上のダイナミズムがある。
以下のインタヴューでは、Loneにとってのオーディオとヴィジュアル(イメージ)の関係性について聞いている。インタヴュー中、柔和な表情をしているLoneの隣には鋭い目つきでこちらを見るTheo Parrishがいて、目の前はなかなかの景色だった……。たしか『DummyMag』にあった『Realty Testing』のレヴューの中には、Loneが新作にピックアップしたサウンドの例えとしてTheo Parrishの名前が使われていたっけな……。
Lone Interview
(Interviewer & Header Photo : Hiromi Matsubara)
—EMAFで披露されたLive A/Vセットのコンセプトを教えてください。あなたのアルバムのアートワークを手がけているTom Scholefield(a.k.a Konx-om-Pax)との共作だそうですね。
そうだね。もとからトムが手がけてくれた過去2作品(『Galaxy Garden』と『Realty Testing』)のアートワークをかなり気に入ってたんだ。あと、前からよりライヴ感の強いパフォーマンスをしたいと思っていたんだけど、僕がラップトップひとつで演奏をしても面白くないし、どうしたらいいのかなって考えてて。その時に、最初に頭に浮かんだのがトムだったんだ。コンセプトは、異なる2つの表現を同時に行って1つの作品として見せること。彼のヴィジュアルと僕のオーディオっていう、それぞれが別々に作ったものを同時に披露することによって、その空間で1つの作品になるっていうことだね。
—そのあなたとトムのライヴパフォーマンスによって生まれる1つの作品は『Reality Testing』の作品性と一貫しているものですか?
いや、全く別のプロジェクトとして作っているよ。トムがリスボンで撮ってくれたMVとか『Reality Testing』の要素は確かに出てくるんだけど、ヴィジュアルのほとんどはトムがデザインした作品で構成されているから、ライヴはまた別の作品なんだ。
—そうなんですね。Live A/Vに登場したトムのヴィジュアルは『Galaxy Garden』のアートワークと同じシリーズの作品ですよね。個人的にあのヴィジュアルは、海洋生物のような幻想的なものにも、あるいは臓器のようなグロテスクなものにも見える、非常に不思議な形をしていると思うのですが、あなたは彼の作品をどのように観ていますか?
僕も彼の作品を観るとゾッとするし、すごい恐ろしいと思うよ(笑)。でも、“恐ろしさ”と同時に“美しさ”がちゃんとあると思うんだ。もともと僕の好きな音楽がそういう音楽だから、彼の作品が気に入ったんだろうね。
—“恐ろしさ”と“美しさ”が共存している音楽というのは、例えば誰の音楽ですか?
Aphex Twinの音楽かな。静けさを感じるほどの綺麗な音が流れているのに、何か恐ろしいものがくるんじゃないかっていうゾクゾク感が常に伴っていて、いつも怖いもの見たさに聴いてしまうんだ。Autechreもそうだね。あとは、Radioheadもそういうタイプの音楽だと思う。
—アルバムを制作する際は、先に音楽を制作して、後からアートワークやMVといったヴィジュアルの要素をプラスしていくと思うのですが、『Reality Testing』のヴィジュアルはどういうことを重視しましたか?
『Realty Testing』は、街の中のホコリっぽい、汚くて生々しい部分を表現したサウンドトラックにしようと思って制作したから、それをアートワークにも反映したんだ。僕の友達に世界を旅しながら写真を撮ってはブログにアップしている人がいるんだけど、彼の写真が『Reality Testing』で表現した街のザラつきを写していて、非常に良いインスピレーションを受けたから、その写真をトムに見せて、アートワークをデザインする際のベースにしてもらったんだ。
—逆に、特定のヴィジュアルからインスピレーションを受けて音楽を作り始めることはありますか?
いや、それはないね。いつも自分の頭の中で音楽が鳴っているから、制作の際はいつも、まずは頭の中の音楽を形にすることから始めてるよ。でも、もちろん自然とか星とかを見て心を動かされることは日々あるから、その影響が音楽に現れることはあると思うけど、基本的に制作の出発点になることはないね。
—タイトルに使われている『Reality Testing』という言葉は、“夢の中でどれだけリアリティを意識できているかをテストする”という意味の心理学の用語ですが、夢からインスピレーションを受けることはありますか?
もちろん。自分でも夢というものをまだ理解し切れていないから、夢とは一体何だろうと考えることはよくあるね。時々、夢の中で、自分が自分に対して問いかけていることがあって、その時に予期せぬ答えを得たり、自分が潜在的に何を疑問に思っているのかということを学ばされることがあるんだ。その答えがどこから来ているのかわからないんだけどね(笑)。よく夢の中で音楽を作ってることがあるんだけど、起きた時にはどういう音楽を作っていたかハッキリと覚えていなかったってこともある。人々も夢が何かよくわかっていないし、コンセプトとして魅力的だから僕もよく夢について考えるんだよね。
—『Reality Testing』は、アナログなサウンドを取り入れた際に生まれる温かい感覚が、アルバム全体のドリーミーな雰囲気やチルアウトする感じを強調している作品だと思うのですが、実際にそういったことは意識されましたか?
確かに今までの作品の中で1番チルアウトした作品になったと思う。そうなった理由は自分でもよくわからないんだけど、今回はこれまでの作品性とは反対のより穏やかな雰囲気の作品を作ってみたいなという気持ちになったんだ。
—『Reality Testing』にはヒップホップからの影響も含まれているそうですが、個人的には〈Low End Theory〉や〈Brainfeeder〉などのLAのビート・ミュージックに近いフィーリングを感じました。制作の際にLAのビート・ミュージックを意識した部分はありましたか?
個人的には〈Brainfeeder〉の作品やLAのビート・ミュージックが好きなんだけど、特に自分の作品に影響を与えたということはなくて、どちらかというと90年代のヒップホップやラップに影響を受けたんだ。おそらく〈Low End Theory〉でプレイしているアーティストや〈Brainfeeder〉のアーティストも僕と一緒で、90年代のヒップホップやラップに影響を受けて音楽を作っているから、近いフィーリングがあるんだと思うよ。
—なるほど。気に入っているLAビート・シーンのアーティストはいますか?
実は最近あまりフォローできてないんだけど、Samiyamはとても面白い作品を作っているよね。ちょっと前にしばらく彼の作品を聴いていた時期があったよ。
Lone : Website / Twitter / Facebook / SoundCloud
Lone ライヴレコーディング@EMAF
Lone (ft Konx-om-Pax) Boiler Room Moscow Live/AV Set