FEATURE

Interview / Actress


世界を多面的に見る ―Actress インタヴュー

2014.10.12

芸術作品に付けられたタイトルは、私たちが作品に触れる際のひとつの指標になる。その作品の注目すべき点や作者が込めたメッセージである場合もあれば、作品の本質へと近づくためのヒント、あるいは本質から目を逸らせるためのフェイクかもしれない。タイトルは、絵画であれば、私たちの視点をおそらくまず最初に操作するものであり、音楽であれば、私たちが音を聴いて想像を膨らます際の最も根源に近い起点になり得るといえる。

2014年を迎えて間も無く、Actress(アクトレス)ことDarren J Cunninghamが“R.I.P Music(音楽よ、安らかに眠れ)”というメッセージと共に発表したアルバムのタイトルは、『Ghettoville』―ゲットーの街。彼が所謂ゲットーの土地に何かしらの幻想を抱いているとは思えないし、ビートの風合いから、彼が荒廃したデトロイトを眺めていると思うのはあまりにも短絡的だろう。「Street Corp.」「Corner」「Our」「Time」「Towers」「Skyline」……といったトラックのタイトルがますます頭の中にゲットーヴィルを形作らせようとする一方で、ダウナーなテンポのトラックたちは都市のような大きな物体を形作るには全く相応しくない。何かがおかしい、聴けば聴くほどズレていく。これまでも『Hazyville』や『R.I.P.』という意味深長な言葉をタイトルに用いてきた彼だから、今作も何か、僕の想像できない真意があるのだろうと思った。

このインタヴューでは、その真意に迫った。僕はピンとくるものがあったが、このインタヴューでActressが述べていることが理解できない人もいるかもしれないし、新たな解釈のヒントになるという人もいるかもしれない。しかしそれは大した問題ではない。”物事は本当に様々な見方ができる”から。今からでも遅くない、まずはゲットーヴィルの領域に足を踏み入れてほしい。

Actress Interview

(Interviewer & Header Photo by Hiromi Matsubara, Interpreter by Emi Aoki)

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―ツアーで海外を回る時はいつもスケッチブックを持ち歩いているそうですが、今回も持ってきましたか?

持ってきたよ。

―もう何か描きましたか?

いや、まだだね。いくつかアイディアはメモしたけど、スケッチそのものはまだ。東京の何ヶ所かにタグはしたけどね(グラフィティを描いたという意味)。

―そういうタグをする際に描いたものや、スケッチしたものを元にしてトラックを作ることはあるんですか?

うーん……あるね。でもいつもスケッチから音楽を作っているわけではないよ。スケッチをしているのは別に音楽制作のためではないからね。俺がよくスケッチしているのは、ライターズ・ブロックみたいな状態にならないようにっていうのと、空白の時間を埋めるためかな。俺のスケッチは、多くの場合は幾何学模様が多いんだ。あとは自分の見たものをスケッチする。例えば雲を見た時に、自分なりの雲の形態の解釈をスケッチするんだ……。雲をよりわかりやすい形にするというか、だいたい多角形になってしまうんだけどね。そのスケッチブックにはグリッドがあるから、結構カクカクした形になるんだ。ただ、そこから音楽が生まれるというよりかは、ちょっとしたきっかけになる感じかな。グリッドがドラムマシーンの16ステップのシーケンスと繋がって、そのグリッドにビートを当てはめたり、絵についている色を音に当てはめたりということもするけど、どれもあくまできっかけにすぎない。毎回そうやっているわけでもないしね。

ーアルバムを作る時にインスパイアされるものは作品によって様々だと思います。例えば『R.I.P.』のは”テクノ”と”アンビエント”のように、何かと何かの境界、中間点に対してあなたは意識的になって、それをアルバムとして形にしてきていると思います。『Ghettoville』はどういうものに意識を傾けて作った作品なんですか?

『Ghettoville』は、物事が俺にどのように語りかけてくるかというのが一番大きなテーマだったんだ。というのは、身のまわりにあるもの……例えばゴミ箱だったり、そこにある段ボール箱だったり、ゴミだったり、ホームレスの人の所持品だったりを見て、それが自分にどういう風に何を語りかけているかということをよく考えたんだ。その解釈をアイディアにして音楽を作ったんだ。さっき例に挙げた人の所持物というのは、所持しているその人にとっては大切なものかもしれないけど、他人にとってみれば、ただのガラクタかもしれないよね。今回はそういった物事の多面性についてよく考えたんだ。
自分のスタジオで生まれたサウンドと、さっき言ったみたいな語りかけてくる物からのアイディアを一緒にして作ったアルバムと言えるね。トラックを作っても、一度完成形にしたら壊して、新たに作り直すという作業をしたんだ。例えば、最初に作ったトラックが150BPMだったとしたら、それを20BPMのトラックに作り替えるみたいな作業。そういうトラックを作り替える作業を繰り返すことによって、次第に人々の所持物がどのような意味を持つのか、ガラクタが俺に何を語りかけてきているのかがわかってきたんだ。

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ータイトル(『Ghettoville』)で使っている”Ville”という言葉は地名や場所を示す言葉ですが、地域性は音楽に影響すると思いますか? 先ほど仰った物の話と関連づけると、例えば、同じゴミでも”アメリカにあるゴミ”と”イギリスにあるゴミ”では物の性質としては明らかに違いますよね。地域が異なると、物があなたに語りかけてくることも変わってくるのではないかと思うんです。

実は『Ghettoville』のアイディアを最初に思いついた時はサンフランシスコに居たんだ。だから今言っていたような地域性が作品に何かを与えることはなきにしもあらずだよ。でもやっぱり俺はイギリスの出身で、アメリカには住んだことないし旅行でしか行ったことがないから、おおまかなルーツはイギリスにあると思ってる。俺はこうして世界中を旅しているから、世界中のいろいろな人に自分の作る音楽を理解してもらいたいと思っているけど、結局のところ音楽を作る時はルーツに立ち返ることがあるんだよね。『Ghettoville』の制作を通じて気付いたこと、得られた感性はとても強烈なものだったんだ。アルバムを作り終えた後は、そういった自身のルーツも含め、全体的に世界の見方が本当に大きく変わったしね。だから『Ghettoville』のコンセプトは今後の作品でも続けていきたいと思っているんだ。
『Ghettoville』は『Hazyville』に続く世界観の作品で、この2つには一貫した流れがあると思うよ。俺は『Splaszsh』と『R.I.P.』も含めて、自分の作品全てを通してひとつの世界観を作り上げたいと思ってる。自分の作品はどれもアートを強調しているんだ。どの作品もコンセプトを強く打ち出しているつもりだし、コンセプトはみんなに信じてもらえるものにしようと思っているからね。けど、それと同時に音楽というのはファンタジーでもあると思うんだ。だから自分の音楽の全てを事細かに説明する必要はないと思うし、人によってそれぞれの解釈があって、世界の見方とか物の見方って人それぞれに違うから、リスナーが解釈できるような余白もちゃんと残したいと思ってる。ただ、普遍的な言語というか……誰が見てもわかる物もあると思うんだ。
例えば、図形とか記号とか線、文字そのものもそうだし、グラフィティやステッカー、あとは土とか。実は昔、グラフィティをただの壁の落書きだと思っていたんだけど、『Ghettoville』以降はグラフィティもある種の重要な意味を持った公式だと思うようになったんだ。自分が『Ghettoville』という作品を上手く表現するとしたら、”近代のガラクタをランドスケープにした”って感じかな。

ーその『Ghettoville』と名付けられた近代のガラクタによるランドスケープは、架空の都市なんですか?

うーん……そこはさっき言った人の想像による部分だね。人の想像力って偉大で、現実の世界はあるけど、実際に現実世界を歩きながらでも想像力を働かせれば自動的に別の世界に行くことができると思うんだよね。そういう想像できる範囲の世界は、俺にとっては全てリアルなんだ。というのと同じように、物事って本当にいろいろな見方ができるから、人の解釈によって異なると思うよ。
そういう考え方をわかりやすくするために、Nic Hamiltonっていうアーティストと「Our」っていうトラックのヴィデオを作ったんだ。そのヴィデオではたくさんの鉄の棒やプラスチック製の網とか、建設工事現場で使うようなガラクタを、元の使い方ではない全く別の使い方をして美しい物に作り替えてるんだよね。実際にそれを見てもらえらえると俺の考えていることがわかると思うんだけど、ひとつの物でも、全然違う見方、使い方できるということをコンセプトにしたんだ。今俺が着ているこのジャケットも、もともとの素材はペットボトルからできているもので。俺にとっては音楽と環境とエコノミーは近い存在で、エコノミカルな考え方も自分の音楽に反映させてるんだ。Nicと作った「Grey Over Blue」のヴィデオでもゴミやガラクタの集積場を映しているんだけど、俺はそういうものを汚いとは思わないし、むしろ美しい面があると思うんだ。
俺がこういうことを喋ると、ディストピアとか世紀末とかと関連づけて捉えられがちなんだけど、全然そういうつもりはなくて。今現在のこの世界の話をしているつもりでいるんだよね。関連づけられるのは困るんだけど、よくあることでさ(笑)。

ーそうなんですか(笑)。僕は今仰ったことはあまりディストピアとかと関係ないと思います。

よかった(笑)。

Actress – Our from NIC on Vimeo.

Actress – Grey over Blue from NIC on Vimeo.

ーでは、ヴィデオの話とか、先ほどはアートっていう言葉が出たので、そういう話にシフトしていきたいと思います。Actressの音楽は、よく”白”や”黒”という色を用いてレヴューなどでは表現されることが多いように思いますが、ご自身はそれについてどう思いますか?

そうだね……ジャーナリストが俺の音楽を聴いてみた時にあまりに初めてのフィーリングだったからどう表現していいのかがわからなくて、白や黒って表現したんだと思うよ。ただ、白黒って表現しているのはある意味正しいと思う。というのは、俺の音楽はシンプルな方法で作っていて、シンセサイザーとかプラグインは使ってないから、最近のシーンで期待されているようなサウンドよりも、より削ぎ落とされたサウンドになっていると思うんだ。
さっきも話したけど、スケッチから着想を得たり、スケッチを描くように音楽を作ることもあるから、シンプルな色で表現されるのは正しいと思うよ。ただ、もちろん俺の音楽にはカラフルな部分もあるよ。ちゃんと色が着いている世界が見えてるし、色盲ではないからね。君が何色が好きか俺にはわからないように、人が自分の音楽を何色で解釈するかどうかまではわからないけど。
ジャーナリストっていうのは、アーティストがどういう音楽を作っているのかを世間に紹介する人たちだから、彼らが白黒と表現したことがきっかけで俺の音楽に興味を持ってくれるなら良いことだし、白黒だと思って聴いてくれて全然良いよ。俺が好きな色は、紫、青、緑、黒、白、バーガンディー(暗めのワインレッド、ごく暗い紫みの赤)、ターコイズブルー、グレーだから、今挙げた色のような雰囲気は俺の音楽に含まれていると思うよ。

ー2年前にTate Modernで草間彌生の個展が開催された際に、彼女の作品から受けたインスピレーションを基にライヴをするというイベントに参加されてましたよね。彼女の作品はヴィヴィッドなカラーが使われていますが、実際に受けたインスピレーションはどういうものでしたか? イベントに参加した感想も聞かせてください。

ブリリアント。彼女とのあのイベントは本当に素晴らしかったよ。俺がインスピレーションを受けたのは『Infinity Mirrored Room』っていう部屋の中に光が無限に広がっている作品だったんだけど……彼女と俺は根本的に作品の作り方が違うから、いつもと違うチャレンジができたよ。彼女の作品は細密で……繰り返しのように見えるし、細かいものたちが爆発しているような感じだよね。俺はそれを音楽で真似してみたんだ。様々なトーンや様々な要素を持った音を彼女の作品のように細かく配置したひとつのピースを作って、パフォーマンスの時はそれをベースに何度もループさせたんだ。たくさんのチャンネルを使って、そのピースにディレイとかリヴァーブとかエフェクトをかけて、たくさんの種類の似たようなパターンを作って繋げるプレイを1時間したんだ。要は、キャンバスに同じパターンが繰り返されているように見えるけど実際は異なるパターンが無限に広がっている、そういうものを模倣したパフォーマンスをしたんだ。

ーでは、William Steinが手がけた『Ghettoville』のシンプルなアートワークは何を意味しているのですか? 一見、ちょっとしたスケッチや習作のようにも見えますし、完成形として見るなら魔法陣のようなある種の統一感を観て取れます。

彼の絵の描き方は原始的というかね……パソコンや最近のデジタルテクノロジーを一切使わずに、実際に手で鉛筆や絵の具を使って描くんだよ。彼にアートワークを頼んだのは、そういうテクノロジーに影響されない姿勢に感心したからなんだ。手を動かして作業をするのは集中力を必要とするし、かなりストイックな人じゃないとできないよ。確かに伝統的なアートの手法だけど、伝統的にしようとしているというよりかは、ただ彼はピュアリストなんだと思うんだよね。彼自身、自分の手を動かして描いた方が面白いアイディアが生まれて、今まで生まれてきた面白い作品は、やっぱり実際に手を動かすという原始的な方法で生まれてきたんだと信じているからそういう手法で作品を作っているんだと思うよ。俺は原始的なものは近代的、原始的なものは新しいと考えてる。『Ghettoville』のサウンドは俺にとっては新しいものだったから、そういう部分で彼の作品と通じるものがあったんだ。Williamに感心したのは、彼は丸、三角、四角っていうシンプルで基本的な形を使っていろいろな変化を生むことができて、そういうところが凄く面白いと思うんだよね。彼は色も使うけど、使い方が結構変わっていて、シンプルな短い不規則な曲線、殴り書きみたいなぐちゃぐちゃっとした感じで使うんだ。シンプルって言って良いのかわからないけど(笑)。彼はアーティストになろうと意識していないのが良いところで、変な言い方だけど子供の描いた絵みたいな感じがするよね。そういう極端な手法って、自分に厳しくないとできないし、律儀だと思うんだ。そういう姿勢が、『Ghettoville』を通して俺が考えていたことと似ていたから、彼にアートワークをお願いしたんだ。もし自分がアーティストだったら、彼と似たようなことをしていたと思うよ。
(ここでActressが自身のiPhoneに保存していた何枚かの写真を見せてくれる)これはほんの参考で、俺が住んでるところの駐車場で撮った写真なんだけど、彼の作品はこういうものと近いと思うんだ。どれも人が試しに壁にペンキをただぶちまけたぐらいのもので、どの写真も似ているだろ。こういう日常性に溢れた世界観のものが好きなんだ。こういうものが音楽を作る時の良いアイディアになるんだよね。

ーどれもナチュラルな雰囲気で美しいですね。僕もナチュラルであればあるほど美しいと思います。

イェア。全くその通りだよ。俺はナチュラルな姿のものが好きなんだ。

 


■Biography
アクトレス (Actress) ことダレン・J・カニンガム (Darren J Cunningham)。2004年に〈Werkdiscs〉レーベルを設立し(設立当初は〈Werk Discs〉と表記された)、アクトレス自身はもちろん、ゾンビー (Zomby) やローン(Lone)、スターキー (Starkey) など、現在のベースミュージック・シーンにおいて、最も注目を集めるアーティストの作品を世に送り出し、アーティストや評論家たちの間で大きな注目を集めた。エレクトロ、テクノ、ミニマル、ニューウェイヴ、アンビエント、ダブテック、、、作品ごとに様々なスタイルを取り入れるその独創的なサウンドデザインや楽曲の構成から、音楽メディアや評論家によって新感覚派を代表する異端児と評され、あのトム・ヨークも革新的なインスピレーションとしてアクトレスの存在を上げている。また2012年にロンドンのテート・モダンで行われた草間彌生の個展にも参加。草間彌生作品をサウンドで表現し、喝采を浴びた。

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