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Interview / Dorian Concept


「キーボード奏者としての部分に立ち返って、感情の込もった温かい音を作りたかったし、どうしたら作品で僕の人間性を表現できるのかということを真剣に試みた」ーDorian Concept インタヴュー...

2014.11.26

確かにDorian Conceptはシンセサイザーと向き合っていたが、鍵盤の上に乗ってる彼の手つきは動きが少なく、次々と滑らかに耳に入ってくる音数とはシンクロしておらず、とてもシンセサイザーを弾いているようには見えなかった。彼の鍵盤を弾く手は、常に綺麗なフォームを保てていなかった。彼は手が大きくて、指が細長いから、少し手を寝かせれば、そこまで動かさなくても十分に弾くことができるのだろう。逆に、Dorian Conceptの隣にいた、Cid Rimのドラムを叩く動作は音数と一致しており、無駄の少ないジャズ・ドラマーという感じで、ステージ上には異なる次元が存在しているようだった。そのコントラストは良い違和感を生み出し、彼らの姿は絶妙に、絵になっていた。彼が1人でmicroKROGを早弾きする姿も、とてもシンセサイザーを弾いている姿とは思えないし、十分に絵になるのだが、それとはまた別ものだ。
彼がピアノに惹かれた一番最初のきっかけは、メロディーや音楽論ではなく、演奏をする姿だったということがこの後のインタヴューで語られているが、最新作『Joined Ends』リリース後初のライヴとなったこの夜は、テクニックのパフォーマンスというより、優雅なパフォーマンス、まさに彼の原体験であるピアノを演奏をする姿の美しさを体現していた。
『Joined Ends』も、彼が一度過去を振り返った後に作り上げた、今(〜未来)の自分の姿、音楽といえる。彼がティーンエイジャーの時に身体に染み込ませたジャズ、ビート・ミュージック、エレクトロニカからの影響がふんだんに盛り込まれている。
彼がティーンエイジャーの時に夢中になっていた音楽が具体的に何であったかも聞くが、とりあえず、まずはWWWでのライヴパフォーマンスのことから聞いていきたいと思う。

Dorian Concept Interview

(Interviewer: Hiromi Matsubara, Interpreter: Emi Aoki)

©Dan Wilton/Red Bull Content Pool
©Dan Wilton/Red Bull Content Pool

―先日WWWで行ったライヴの後半30分ぐらいは、あなたと2人のサポートを加えた、3人編成で演奏をしていましたが、それぞれが何を使って何をしていたか解説をお願いします。

彼らはドラマーと、ベース・プレイヤーで、どちらも15~20年ぐらいの長い付き合いになる友人なんだ。彼らとは長いこと一緒にジャズ・ファンクバンドをやっていたんだよ。
先日のライヴをするにあたって僕たちが大切していたのは、ライヴらしく演奏にインプロヴィゼーションの余地を残しつつも、アルバムを忠実に再現するショーをする、ということだった。ドラムを担当していた彼は、普段はジャズ・ドラマーをしているんだけど、その時のセッティングに加えて電子ドラムパッドを使っていたね。ベースを担当していた彼は、MIDIベースを使っていて、ベースを演奏してシンセサイザーの音を出してた。あとMIDIのミキサーも使っていて、彼がライヴセット全体のミックスを担当していたんだ。それで、僕はシンセサイザー1台と、MIDIキーボード1台と、ルーパーを使ってアルバムでも弾いているようなフレーズをループさせていたよ。

―サポートをしていたのは先日Boiler Roomで新作『Joined Ends』のリリースパーティをした際に共演していたCid RimとThe Cloniousですよね?

そうだよ。彼らもそれぞれプロデューサーとして活動してる。僕たちはみんな同じ音楽を聴いて、同じようにジャズとエレクトロニック・ミュージックの影響を受けて育ったんだ。だから、こうして一緒に旅行できるのは、ミュージシャンとしても友人としても凄くハッピーだよ。

―普段はソロでmicroKORGを弾くスタイルでライヴをされていますが、先日WWWで披露したバンドセットや、Flying LotusやThe Cinematic Orchestraのサポートで弾いたりというような複数人でセッションするのは好きですか?

もちろん。バックグラウンドの異なる同世代のアーティストたちと演奏ができるのは光栄なことだし、重要なことだよ。歳を重ねるにつれて人と打ち解けやすくなっていくことがわかったし、人と作業をするとユニークなエネルギーを得ることができるからね。若い時は独りよがりになってしまって、ひとりで音楽の腕を磨いて、自分の音楽を見つけることに集中してしまうけど、成長するにつれて自分自身に余裕ができて、気心の知れた仲の人と共に過ごすことでお互いに作品のクオリティを高め合うことができるのは幸せなことだよ。

ー楽器を始めたのはいつ頃だったんですか? その際にお手本になったアーティストはいましたか?

子供の頃に、6歳から13歳までクラシックピアノを習ってたんだけど、音符の読み方とか音楽の理論がよくわからなかったからやめてしまったんだ。ただ、ピアノの先生の手の動かし方をイメージで覚えていて、ピアノを弾く姿はフォトジェニックだと記憶していたんだ。15歳からヒップホップを聴くようになって、ヒップホップがサンプリングを用いている音楽だとわかってから、Herbie HancockやJohn Coltrainとかサンプリングのもとになっているジャズを聴くようになってね。そのサンプリングのジャズがきっかけで、ジャズピアノを初めたんだ。シンセサイザーを弾き始めたのは、たぶん21歳からで、エレクトロニック・ミュージックを作り始めたのもそのぐらいの時期だったよ。

ーいまも出身地のウィーンを拠点に活動しているんですか?

そうだよ。

ーSOHNはご存知ですか? ウィーンを拠点にしているアーティストなんですが。

うん、知ってるよ。

ー以前、彼にインタヴューした時にウィーンのことを聞いたら、ウィーンはロンドンより落ち着いていて、ウィーンに住んでいる人も自分たちがウィーンという素晴らしい街に住んでいるということを自覚して生活していると言っていたんです。彼はロンドンから移住した人ですが、生まれてからずっとウィーンで生活しているあなたは、ウィーンをどういう街だと思っていますか?

彼の意見に同感だよ。僕はロンドンを非常にユニークな街だと思っているよ。行くたびに圧倒されるんだ。東京も大都会ではあるけど、どこかゆったりとした雰囲気もあるから、それに比べるとロンドンはクレイジーだと思うよ。洗練された上品な部分もあるけど、カルチャーの発展に関しては、例えば音楽だけをとってみても非常に移り変わりが激しいからね。
ウィーンは凄いゆったりとしたペースの街だから、世界中のどんなトレンドも5年遅れでウィーンに届くんだよ。みんながダブステップを聴き飽きた頃に、やっとダブステップがウィーンでポピュラーになるんだ(笑)。だからウィーンにいるアーティストは他と比べて特別な要素を持っている感じがするね。例えば、映画監督のMichael Hanekeや、アンビエント・ギタリストのChristian Fennezはユニークな性格だし、クリエイティヴなことをマイペースにやってる。ウィーンは外の世界の問題や摩擦から距離を保っていて、クリエイティヴのプロセスへの影響がないから、自由にクリエイティヴなことをしたい人には最適な場所だと思うし、僕もウィーンを拠点にし続けると思うよ。

ー『Joined Ends』を制作する際に、ウィーンから影響を受けたことはありますか?

僕がウィーンで育ったという事情や、街が僕の感情に影響を与えている部分は多少あると思うけど、それよりもウィーンの音楽コミュニティや、似たような音楽を聴いているウィーンの友人からの方が影響を受けていると思う。だから、ウィーンから影響を受けているというよりは、ウィーンに住む人たちから影響を受けていると言えるね。でも、街を形成するのはそこに住む人々だから、間接的にはウィーンから影響を受けていると言えるかもしれないね(笑)。

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©Dan Wilton/Red Bull Content Pool

ー『Joined Ends』は、実際にシンセやピアノを“弾く”という動作によって作られていたり、ハンドクラップの音やあなたのヴォーカルが積極的に使われているあたりから、“人間の動作によって音楽が生まれる”というようなマンパワー的な部分にフォーカスしているのではないかと思ったのですが、実際のところはいかがですか?

そうだね。今作は、microKORGを使ったプラスティックなサウンドで作品を作ることや、これまで僕が作品をつくるにあたって持っていたデジタルな美意識よりも、自分自身のキーボード奏者としての部分に立ち返って、ライヴっぽさを意識して、これまでよりもキーボードを弾くことにルーズにアプローチすることを重要視した。ヴォーカルを入れるアイディアはそういったアプローチの中で偶然に生まれたもので、もともとはシンセサイザーで弾こうと思っていたメロディーのアイディアを忘れないように歌ってヴォイスメモしておいたものだったんだ。でも後からそのヴォイスメモを聴いてみた時に、実際にシンセサイザーで弾いた音よりもヴォーカルの方がアナログでサウンドに温かみがあって面白いと思ったから、そのままヴォーカルとして使ったんだ。だから、君が言ったような人間的な、アナログな部分を意識的に取り入れたというのは確かにあると思うよ。

ー『Joined Ends』は長い時間をかけて作られたそうですが、いまおっしゃったようなヴォーカルや、その他の色々なものに目と耳を向けながら制作をしていた期間は、どういう心境で過ごしていましたか?

今作は、プロダクションの方法を変えて、新しい機材と楽器を使ったから制作に時間がかかったんだ。まずはそういうテクニカル面での変化があったんだけど、僕の感情の面にも変化があってね。どんなアーティストにもアルバムをリリースした次の段階として、内向的になってより実験的になるか、外交的になって様々なものを取り入れて作品を作るかっていう、2通りがあると思っていて、今回の僕の作品はどちらかというと後者を意識したものなんだ。さっき言ったようなヴォーカルの要素であったり、感情の込もった温かい音を作りたかったし、どうやったら作品で僕の人間性を表現できるのかということを真剣に試みたからね。くさいことを言っていると思わないでね……(笑)。時にはアルバムを作る過程でメランコリックな感情になることもあったんだけど、生きていれば悲しくなることもあるし、そういった内面の混乱も全て自分の人間性として受け入れて、表現しようと思ったんだ。

ーアルバムクレジットの“Illustration”の欄にあなたの名前があったのですが、『Joined Ends』のアートワークはあなたが描いたのですか?

そう、これは僕の作品だよ。僕は絵にも興味があったから、音楽を作ると同時に絵も描いていたんだ。これは、もともとは40cm×40cmのレコードのジャケットよりも少し大きいサイズの絵だったんだけど、それを部分的に切り抜いて、切片をのりで貼付けて再構成した作品なんだ。僕はヴィジュアルの要素とオーディオの要素の両方を作品に反映させることを重要視していたから、今回初めてこうして形にすることができて嬉しいよ。

The wonderful #dorianconcept album ‘Joined Ends’ is OUT NOW! We made a few ltd mobiles out of the artwork ⚡️

Ninja Tuneさん(@ninjatunehq)が投稿した写真 –

ー『Joined Ends』におけるアートワークとサウンドの関係性は、具体的にはどういうものですか?

僕は、即興でキーボードを弾いたものをサンプリングして、さらにそのサンプリングに重ねて弾いたものをサンプリングして、という感じで作業を循環させながら組み立てていく、コラージュを作るような手法で音楽を制作をしているんだ。ある種の自己破壊というかね……。アートや音楽のカルチャーはつねに美しいものを求めているよね。僕は一度完成したものをあえて崩して、改めて芸術的価値のあるものを作りだせるかどうかということを音楽制作の中でチャレンジしているから、今回はその手法をヴィジュアルにも反映したんだ。

ー音楽制作のソースになっている、好きなアーティストはいますか?

ひとつは難しいから色々なものを挙げるね。音楽だと、63~65年のモードジャズ。John Coltrain Quartetが素晴らしいアルバム、ライヴ作品を作っていた時代が好きなんだ。あとは、90年代後半のエレクトロニカ。レーベルで言うと、〈Ninja Tune〉、〈Warp〉、〈Ghostly International〉だね。90年代後半のエレクトロニカからはたくさんの影響を受けているよ。最近気に入っているヴィジュアルアーティストは、Lin Xueっていう香港在住の中国人のアーティストだね。竹をペンみたいに使って、巨大なスペースに非常に細かいドローイングを描いた作品は、アプローチを含めて素晴らしいと思うよ。あと、今作を制作する際にたくさんの映画を観たんだけど、中でもTodd Solondzという監督が1998年に作った『Happiness』という作品が好きだった。社会的なドラマなんだけど、コメディの要素もたくさんあって、ダークな感じもあって、不思議な映画なんだ。いま挙げた3つのジャンルのものが最近特に気に入っているものだね。

ー〈Ninja Tune〉が好きということは、いまこうして一緒に仕事ができているのは嬉しいことですね。

本当そうだね。僕はThe Cinematic Orchestraを聴いて育ったから、10代の頃の夢が叶ったんだ。まさか彼らと共演できるとも思っていなかったし、10代の頃の自分に「将来、The Cinematic Orchestraと一緒に演奏するよ」と言ってもきっと信じないだろうね(笑)。


Dorian Concept : Website / Twitter / Facebook / SoundCloud

Dorian Concept ライヴレコーディング@WWW


■Biography

ウィーン生まれの独学マルチ楽器奏者/プロデューサー、オリヴァー・トーマス・ジョンソンによる音楽プロジェクト。YouTubeで公開したmcroKORGの即興演奏動画で各方面から高い注目を集める。1stアルバム『When Planets Explode』がアンダーグラウンドで高い評価を得る一方、ライヴ・パフォーマーとして世界中をまわるようになり、フライング・ロータスやザ・シネマティック・オーケストラのライヴ・メンバーにも名を連ねる。レーベル20周年記念のコンピレーションに楽曲を提供したのをきっかけに〈Ninja Tune〉と契約。EPを一枚リリースした後、わずか5年の間に宅録プロデューサーからロイヤル・アルバート・ホールの舞台に立つパフォーマーにまで上りつめた彼の軌跡を凝縮した2ndアルバム『Joined End』を完成させた。

Dorian Concept - Joined Ends

『Joined Ends』
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Dorina Concept再来日!!

Dorian Conceptがサポートアクトを務める、Flying Lotus単独公演のアフターパーティー開催が緊急決定!
FLYING LOTUS – AFTER PARTY –

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2014年12月5日(金) 恵比寿リキッドルーム
OPEN/START 23:30
featuring : Flying Lotus DJ Set, Dorian Concept, Daddy Kev, 真鍋大度, OMSB, 駕籠真太郎(特殊似顔絵会)and More

前売:¥3,500 / 当日¥4,000
ステラボール公演来場者優待割引チケット:前売¥2,000
※当日ステラボール公演会場内にて販売・・・お1人様1枚のみ購入可能。
※20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため、顔写真付きの公的身分証明書をご持参ください。(You must be 20 and over with photo ID.)

前売チケット取扱い:11/28(金)~
e+(イープラス)、tixee、RA
diskunion(渋谷クラブミュージック/新宿クラブミュージック/下北沢クラブミュージック)、Beams、HMV record shop、Technique、BEATINK
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