ブラックミュージックのエッセンスを感じさせる新鋭バンド・Doona(ドゥーナ)。全員が2002年生まれかつ音楽専門学校卒のメンバーによるアップカミングな5人組だ。
昨年バラエティに富んだ5曲を収録した1st EP『Humanistic Psychoiogy』をリリース、今年2月には独自の活動やさまざまなコラボレーションでも注目を集めるクリエイティブコレクティブ/レーベル〈w.a.u〉から01sail、Kota Matsukawaをプロデューサーに迎えた最新シングル“BY MY SIDE”を発表。ニュージャックスウィングを基調としたこの作品でまた新たな面を知らしめた。
目まぐるしい変化の最中にある彼らは今、何を見据えているのか。今後シーンに繰り出していくにあたってどんな仕掛けを用意しているのか。サプライズのネタばらしは避けつつ、話せる範囲で聞かせてもらった。
Interview & Text by Kei Hasumi
Photo by Kenta(WEEAVE)
ソロプロジェクト〜バンドへ。音楽専門学校出身の5名が集った経緯
――みなさん音楽系の専門学校出身ということですが、もともと卒業後はスタジオミュージシャンやコンポーザーではなく、自分のバンドでやっていきたいと考えていたんでしょうか。
GENKI:俺はそうですね。Doonaはソロプロジェクトとして始めましたけど、最初からゆくゆくはバンドにするつもりでした。
――では、学校はある意味メンバー探しの場でもあった?
GENKI:そうですね。
SOTA:あんまり来てなかったじゃん。
GENKI:喫茶店か雀荘にいる時間が長かったです(笑)。
SOTA:俺もバンド志向でした。俺は石川県出身なんですけど、周りに楽器やってるやつが全然いなかったんです。高校の文化祭で初めてバンドを組んだんですけど、そのときもドラムを先生に頼んだくらいで。
――そんなに少なかったんですね。
SOTA:しかも結局コロナ禍に入って文化祭自体なくなっちゃって……。だから専門学校に入るモチベーションとしても、「とにかくバンドやりたい!」「音楽やってるやつらと出会いたい!」っていう。逆に他のメンバーはもともとそこまでバンドにこだわってなかったんじゃない?
RYO:SOTAの言ったとおり、俺は特に「これになりたい」とかはなかったですね。高校までは曲の作り方も知らないでただベースを弾いてたので、とにかくちゃんと学びたいなっていうモチベーションでした。その後の進路については、音楽の仕事ならなんでもって感じでした。作曲でもサポートのベーシストでも、なんなら先生(講師)でもいいなって。
ZAKKI:自分も同じ感じです。
RINTA:俺も音楽で食べていきたいなってのは思ってたんですけど、特に絞って考えてなかったですね。やってくうちに編曲・作曲もできる、サポートもできる、自分のバンドも調子いいっていう無敵人間になりたいって思うようになっていったんですけど、気づいたらこのバンドにいたっていう。

バンドの幅を提示した1st EP
――昨年リリースの1st EP『Humanistic Psychoiogy』について伺います。どのようなコンセプトのもとに制作したのでしょうか。
GENKI:とにかくそのとき持ってる曲を入れなきゃって感じでしたね。5曲それぞれ方向性がバラバラなんですけど、それは意識的にやってて。
SOTA:1個に絞る必要ないなって。
GENKI:自分たちのやれることの幅を見せておきたかったってのはあります。その意思表示というか、アートワークもいろんな色を使ってるし。今後もその時々で自分たちがやりたいと思ったことをやっていきたいと思ってるので、「いろんなことをやるやつらなんだ」ってのを最初に見せておきたかったんです。
――収録曲の中で一番古い曲は?
GENKI:“Ivory”です。自分のソロ時代からある曲ですね。ソロをやりはじめる前、渋谷のライブハウスにしょっちゅう遊びに行ってて、中でもブラックミュージック系のバンドに惹かれて。自分もそういう音楽、バンドをやりたいと思って作りました。
初ライブでは同じ専門学校に通ってたSOTAとRYOちゃんを誘ってサポートで入ってもらったんですけど、ライブが終わってからSOTAと改めて話して、「バンドとしてやってこうぜ」ってことになって。ライブの手応えとして「この2人だったらいけるな」って思ったんですよね。
――何かシンパシーを感じる部分があったんでしょうか?
GENKI:周りにあんまりテクニカルなことをやってる人がいなかったんですよ。学校の同級生ではこの2人しか知らなくて。結構まっすぐなギターロックの人が多かったんです。
RINTA:俺はその2〜3ヶ月後にバンドに入りました。
SOTA:俺はRINTAがDoonaに入る半年以上前から知り合いでした。共通の知り合いと電話してるときに(Stevie Wonderの)“Isn’t She Lovely”を弾いてたら「うちの学校にその曲ピアノで弾いてるやついるわ」ってことで繋げてもらって。その縁があったから、Doonaでキーボード欲しいねってなったとき「おもしろいやついるよ」って俺から紹介しました。
RINTA:最後に入ったのは俺が紹介したドラムのZAKKIです。
ZAKKI:RINTAと自分が同じ専門学校で。
RINTA:入る前に1回ライブを観にきて、おもしろいって言ってくれて。最初は「サポートでもいいから入ってみる?」って言ってたんですけど、いつの間にかしれっと正メンバーに。
ZAKKI:ライブを観にいく前にRINTAが個人練習してるスタジオに呼ばれたことがあったんです。そこで“GreenTips”を聴いて「めっちゃいい! ライブいつ?」って。ここなら好きなことできそうだなってビシビシ感じて。
――EPは現在のメンバーが揃う前後の、リアルタイムでバンドが変化していく成長過程のムードが記録された作品と言えると思うのですが、このメンバーになって最初にできた曲は?
SOTA:“J-NET JACK”だよね。
――制作のうえでどんなところにソロ時代との違いを感じましたか?
GENKI:一番それを感じるのは作詞の部分ですね。
――てっきり音の面での変化かと思ったんですが。
GENKI:それももちろんあるんですけど、ソロの最初の音源でもベースはRYOちゃんにやってもらってたりするので、音の変化はメンバーが集まっていくごとに少しずつ慣れていけたんですよね。
RYO:GENちゃんの家で「これ弾いて」って言われたのを延々と弾いて録音して、終わったら2000円くれて(笑)。めっちゃ嬉しかったっすね。初めて音楽のギャラもらったって。

GENKI:そんな安かったっけ(笑)。音に関してはそんな感じで、歌詞を書くときのスタンスが変わったことの方が大きいです。ソロの頃は自分が思ったことをただ歌にしてるというか、「こうだったらいいな」「こうあれたらいいのに」って内容が主だったんですけど、バンドになってからはもう少し自分以外の人間に意識が向くようになったというか。
例えば“J-NET JACK”はめっちゃわかりやすく言うと「SNSに囚われるな」って曲なんですけど、ソロの頃はそういう風に外に向けて何かを提示するってスタンスの歌詞は書いてなかったんですよね。
――近年、国内ではブラックミュージックの影響を色濃く感じさせる若手バンドが同時多発的に出現していますが、ブラックミュージック的な成分とロックな成分のミクスチャー具合というか、バランスの取り方はそれぞれに違っています。その部分をDoonaはどう考えていますか?
GENKI:どうなんだろう。
RYO:塩梅とかはあんまり考えてないですね。俺らはそれぞれルーツが違って、セッションしてても自分は結構ファンク系で、ジミヘン(Jimi Hendrix)好きのSOTAはロック感が強いし、RINTAはジャジーなものを弾く。そういう感じで自分たちから出てきたものをそのまま混ぜて、どうしても出てきちゃうそれぞれの魅力を活かすみたいな考え方でやってます。
――シーンとして全体で盛り上げていきたいという気持ちはありますか? それよりは「うちはうち」的な感覚でしょうか。
RYO:割とうちはうちだよねって感じ?
GENKI:繋がりは大事にしてるんですけど、今のモードとしては次のステップに上がるために、一旦自分たちのことに集中する時期なのかなって思っていて。そこは結構強く意識していますね。
――なるほど。ちなみに、GENKIさんが通っていた渋谷のライブハウスというのは?
GENKI:LUSHです。俺たちみんなあそこに入り浸ってて、4月のツーマン企画に出てくれるBillyrromも、元々LUSHでよくライブを観てたんです。
――そういう縁があったんですね。
SOTA:LUSHはだいぶ家。一時期は週5でいたしね。
GENKI:終電逃したらとりあえず行くみたいな。
SOTA:LUSHだと落ち着いてライブできるよね。
GENKI:スタッフもお客さんも顔見知りが多くて、お兄ちゃんお姉ちゃんに観てもらうみたいな感じでできるんですよね。いつか何かの形で恩返ししたいっすね。

外部プロデューサーと作り上げた“BY MY SIDE”
――続いて最新リリースであるシングル“BY MY SIDE”について伺います。ニュージャックスウィングをベースにした楽曲ですが、このアイデアは元からあったものでしょうか?
SOTA:そうですね。最初からニュージャックスウィングやりたいよねってのはありました。
――プロデュースに〈w.a.u〉から01sailさん、Kota Matsukawaさんを招いて制作されています。この人選はどのような経緯で?
GENKI:プロデューサー探しはスタッフさんとも結構ラリーして、案を出していく中で最終的に「この人とやりたい」となったのがそのおふたりでした。
SOTA:そもそもセルフプロデュースじゃなく、「プロデューサーを入れてやりたいよね」っていうのも俺らから言い出したことで。シンプルにこの5人だけじゃできないものを、いろんな人と仕事してきたプロデューサーの方と作ってみたかったんです。
――バンドという形態で、かつ動きはじめて間もない今の時期だと、自分たちだけでやりたいというバンドも多いと思うんですが、その点はどう考えていたのでしょうか。
GENKI:単純にDoonaがもう一段ステップを上がる時期なのかなって思ったのはありますね。
SOTA:俺らは結構すぐ実験してみたいというか、「こういうのやってみたくね?」っていう衝動で動いてるところがあって。今回プロデューサーの方に入ってもらうのもそういう「やってみたくね?」の一環って感じです。

――組んでみていかがでしたか?
GENKI:いやもう、学びになりましたね。
SOTA:曲作りの面で、「なるほど、こうやるのか」っていう。
GENKI:俺らは5人が5人、作曲に関してうるさいというか、譲りたくない部分を持ってて。作曲の過程ではそれがゴチャついちゃうときがあるんです。各々が好きなフレーズを好き勝手入れようとして、上手くまとまらないみたいな。
SOTA:だからたぶん、Doonaは他のバンドに比べてボツ曲がかなり多いんじゃないかなと思ってます。
GENKI:そういう制作にあたっての整理の部分はプロデューサーさんから学んだことが大きかったですね。最初は俺らも疑問を抱いちゃうことが多かったんですけど、最終的には納得させられたというか。
RINTA:感動したっすね。
SOTA:今思えば、最初のデモは5人全員が主張した、ゴチャゴチャな音源になってたんですよね。
RYO:そうそう。それがレコーディング当日に対面で会ってディスカッションしながら進めていくうちに、ね。
SOTA:提案されたものをリアルタイムで聴きながら進めてると、「めっちゃよくなった」って素直に思いました。
ZAKKI:実際会ってみたら本当にやりやすかったよね。
RYO:自分たちがどうしても譲りたくない部分については「じゃあこうしてみよう」って一歩先の提案をしてくれたり。そういうコミュニケーションがあったから、いい感じの塩梅を攻められたと思います。
――ここまでお話を伺って、「とにかくやってみよう」、「できなかったこともやれるようになるしかない」という意識も、ひいては外部のプロデューサーと一緒にやりたいと思えたのも、みなさんが音楽の専門学校にいたことが案外作用しているのかもと感じました。音楽で食っている方々から直接教えを受けたわけですし、中にはプロデューサーの立場の方もいて、身近な存在だったでしょうし。
RINTA:たしかに。先生の中には作曲家とかアレンジャーとか、プロデュース側の人が何人もいましたけど、その人たちに言われた言葉が今になって刺さってたりします。
GENKI:俺たち、性格も結構バラバラなんですよね。俺が一応リーダーというか、Doonaを始めたのは自分なんで、それぞれのいいところ悪いところを理解して、いいものが作れるようにバランスを考えるみたいなことは密かにやってます。
全体での話し合いのときも個人的に話すときも、お互いうまく伝えられるように、できる範囲で気を回すというか。SOTAとは作曲のことでやりとりが多いからそういうことが自然にできるんですけど、たとえばZAKKIは最後に入ったのもあって、一歩踏み込んだ意見を言いにくいのかなってことを感じることがあって。
ZAKKI:(静かに頷く)
GENKI:そういうのをほっとかずに自分家に呼んでぶっちゃけた話をしたり、ラフに2人で曲作りしたり、一緒にライブ観に行ったり。そういうのはやってるっすね。
ZAKKI:いつもありがとう(笑)。

「やりたいことをやり続けるために」
――みなさんの次の動きがシングルなのかアルバムなのか、はたまたワンマンなのかフェスなのか、言えないことも多い中でこれまでの歩みを伺ってきました。ここからは自分たちの現状に感じていることを伺いたいです。
GENKI:それで言うと、歌詞については課題を感じてます。自分から自然と出てくる歌詞はかなり抽象的なもので、それをいいねって言ってくれる人はもちろんいるんだけど、それだけじゃ駄目だとも思っていて。もう1ステップ上がるためにはもうちょっとストレートというか、誰もが理解できるような表現も身に付けなきゃって思っています。そのうえで、なんで自分がDoonaとして歌を歌ってるのかっていう意味をちゃんと持っておくために、バランスを模索しているというか。
――今後はもう少し具体的な言葉で表現していきたいということでしょうか?
GENKI:俺はポジティブにもネガティブにも感じられるような表現がおもしろいなって思うタイプで、だからこそ「俺はこう思ってます」っていうのを明確に提示することはあんまりしてこなかったんです。
例えば“BY MY SIDE”では心情として穴に落ちていくような状態のときに、大切な人がそばにいるっていうシチュエーションを歌っているんですけど、「穴に落ちた後どうなったか?」は書いてないんですね。そこをリスナーそれぞれに想像してほしいっていうのがあるから、それはそれとして満足してるんですけど。
――今後はそういう作品だけではなく、結果や結論を明示する曲も作っていかなければ、と。
GENKI:そうですね、そういう方が響く人もいるだろうなってのが、これまでやってきてわかったんです。今後はガラッとそういう風に変えていくってわけじゃなくて、「試してみたいな」ってスタンスなのは変わりないんですけど。
SOTA:考えてもわかんないからやってみようって感じですね。大前提としてメンバー全員それは思ってて。やりながらどんどん変わっていくと思うし、そのとき考えようっていうか。
――今後目指しているもの、やり遂げたいことなどはありますか?
RYO:俺たち、これを達成したいっていう具体的な目標が明確にあるんです。曲作りもライブのメンツも全部、それを見据えて考えてやってるとこがあって。
――その目標というのはこの場では口にしないでおきたいものですか?
全員:そうですね。
――ではこれ以上は聞きません。大事に秘めておくべきですね。
GENKI:さっきの歌詞の話もそうですけど、これまでの荒削りなところを、そのよさは残しつつ、もっと大衆に伝わるものも出せるようにならないといけないんじゃないか? っていう。それも全てはその目標に向けてのことですね。
ニュージャックスウィングに挑戦した“BY MY SIDE”の次、俺たちがどうなるか見ててほしいっすね。もし俺自身がDoonaじゃなかったら全く想像つかないなっていう動きなんで。おもしろいと思いますよ。
SOTA:やりたいことをやり続けるために新しいことをやり続けるって感じですね。やっぱこれで食ってかなきゃいけないんで。
GENKI:楽しみにしててください。
【リリース情報】
Doona 『BY MY SIDE』
Release Date:2025.02.12 (Wed.)
Tracklist:
1. BY MY SIDE
【イベント情報】
『Doona presents special two-man live “DUAL NOISE”』
日時:2025年4月25日(金)OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京・下北沢 ADRIFT
料金:一般 ¥3,900 / 学割 ¥3,400(各1D代別途)
出演:
[LIVE]
Doona
Billyrrom
[DJ]
Kuniii
・チケット
一般発売(ローソン):~4月16日(水)23:00まで
※オールスタンディング
※整理番号付き