Text by Megumi Nakamura
台湾最大級のインディ音楽プラットフォーム〈StreetVoice〉と、日本の音楽レーベル〈PANDA RECORD〉によるライブシリーズ『PARK PARK @ Tokyo』特集。前編では、鄭宜農(Enno Cheng/イーノ・チェン)と陳珊妮(Sandee Chan/サンディ・チャン)という、台湾を代表する2人のシンガーソングライターを紹介した。
後編となる今回は音楽性も活動形態も異なる3組をフィーチャー。客家文化を現代へつなぐ生祥樂隊(Sheng-Xiang & Band/シェンシャン・バンド)、圧倒的なライブパフォーマンスで観客を魅了するYELLOW黃宣(YELLOW Huang Hsuan/イエロー・ホアンシュエン)、そして独自の感性で新世代インディを牽引するLÜCY(ルーシー)。それぞれ表現の方法は異なるが、自分たちにしか鳴らせない音を追求し続けている点は共通している。
台湾のインディシーンの豊かさと多様性を体現する3組。その魅力を紹介したい。
客家文化と現代的サウンドの交差点──生祥樂隊
台湾を代表するフォークバンド・生祥樂隊が、7月13日(月)に東京・下北沢ADRIFTで『江湖卡夫卡(江湖カフカ)』日本盤LP発売記念ライブを開催する。
生祥樂隊の創作の中心を担うのは、作曲を手がける林生祥(Lin Sheng-Xiang/リン・シェン・シャン)と、作詞を手がける鍾永豐(Chung Yung-Fengジョン・ヨンフォン)。2人はともに台湾南部・高雄市美濃出身であり、「客家文化は生活環境であり、成長の糧であり、日常そのもの」と語る。
「客家」とは、中国大陸をルーツに台湾などへ移り住み、独自の言語や文化を受け継いできた人々だ。台湾では人口の約2割を占め、土地の神・伯公(はっこう)への信仰や、稲作とタバコの輪作に代表される農の営みなど、自然とともに築かれた暮らしが今も受け継がれている。
生祥樂隊の音楽は、そうした生活から生まれている。客家の祭礼で演奏される伝統器楽「客家八音」や、農作業の合間に歌われてきた山歌を取り入れる一方、台湾南部・恒春地方の月琴文化から着想を得て独自の「六弦月琴」を考案。鍾永豐は、環境問題や農村と都市の関係をテーマに、現代の農村が抱えるさまざまな姿を描き続けている。
代表作『圍庄(Village Insignia)』(2016年)は第28回金曲奨で審査員特別賞を受賞。最新作『江湖卡夫卡』(2022年)は、日本の音楽評論家・小倉エージが『MUSIC MAGAZINE』2024年度ベストアルバムに選出するなど、日本でも高い評価を受けている。
こうした背景から、生祥樂隊を「土着的なフォークバンド」と想像する人も多いかもしれない。しかし実際に『江湖卡夫卡』を通して聴くと、その印象は大きく変わる。フォークを軸にしながらも、ジャズやラテンのリズムなど、さまざまな音楽的要素が重なり合うことで、フォークを軸にしながらも、ジャズやラテンのリズムが自然に溶け込み、ジャンルを越えた独自のサウンドが生まれている。そのサウンドを支えているのが、ギターの大竹研、ベースの早川徹、ドラムの福島紀明ら、ベテランミュージシャンである日本人メンバーとの化学反応だ。
今回の東京公演は、『江湖卡夫卡』日本盤LPの発売を記念した特別公演。当日は全曲の日本語字幕が投影され、客家語の歌詞を理解しながら演奏を楽しめるほか、ジャズミュージシャン・青木タイセイをスペシャルゲストに迎えた特別編成での演奏も予定されている。ライブ前には同アルバムをぜひ聴いておきたい。客家文化から生まれた音楽が、現代的なグルーヴとして響く瞬間を、ぜひライブで体感してほしい。

生祥楽隊『江湖カフカ』日本盤 LP 発売記念ライブ
日時:2026年7月13日(月)OPEN 18:30 / START 19:30
会場:東京・下北沢ADRIFT
料金:ADV. ¥4,500 / DOOR ¥5,500(各1D代別途)
■生祥楽隊:Instagram
ジャンルを超え、身体でグルーヴを伝える──YELLOW黃宣
台湾でライブパフォーマンスに定評のある音楽家、YELLOW黃宣が、7月16日(木)に東京・代官山UNITへ出演する。
ソウル、ファンク、ジャズ、R&Bを自在に融合する個性的なサウンドを持ち味とするその独自の音楽性について、本人は「相反する音色を組み合わせ、混沌の中から秩序を見いだすようにより深く、広がりのある音楽を生み出しています」と語る。
その姿勢は、第30回金曲奨で最優秀シングルプロデューサー賞を受賞した“不開燈俱樂部 BKD CLUB”にも表れている。ソウルやファンクを軸に、緻密なリズムアレンジと大胆な展開を組み合わせた、ジャンルの境界を軽やかに飛び越える代表曲だ。
しかし、彼の魅力は音源だけでは語りきれない。YELLOWはライブを「レコーディングでは決して得られない、生々しいエネルギーの伝達」と表現している。「リズムに乗り、グルーヴを信じることができれば、身体が真実を語る。そして観客もまた、そのグルーヴの一部になる」。そのステージは観客を巻き込みながら、その場限りの一体感を生み出していく。
今回の東京公演『SOUND of YELLOW』のテーマは「Resonance(共鳴)」と「Vibration(振動)」。東京の観客との出会いから生まれる空気を楽しみにしているほか、この日だけのサプライズも準備しているという。
ライブ前には、台湾ドラマ『想見你』の挿入歌“一天”と、アルバム『BEANSTALK』の表題曲“BEANSTALK”を聴いておきたい。そして「あなた自身がグルーヴになる瞬間」を、ぜひ会場で体感してほしい。

『SOUND of YELLOW』
日時:2026年7月16日(木)OPEN 18:30 / START 19:30
会場:東京・代官山UNIT
料金:ADV. ¥7,000 / DOOR ¥8,000(各1D代別途)
■YELLOW黃宣:Instagram
自分の直感を信じ、変化を恐れない──LÜCY
台湾の新世代を代表するシンガーソングライター、LÜCYは、7月22日(水)に東京・渋谷WWW Xで来日公演を行う。2021年のデビュー以降、ドリームポップやインディフォークを基調としたサウンドで注目を集め、日本のバンド・羊文学とのコラボレーション楽曲“OH HEY”をはじめ、台湾にとどまらず海外でも支持を広げてきた。
LÜCYの音楽は、音数を絞ったアレンジと、ささやくような歌声が印象的だ。しかし本人は、特定のスタイルを守ることよりも、自分の直感を信じることを大切にしている。「成功したサウンドを一生続けるなら、人間ではなく機械になってしまう」と語るように、その時々の感情や日々の小さな出来事を出発点に、正直な音楽を作り続けてきた。
björkやSigur Rós、青葉市子から影響を受けたほか、映画やアニメーション、写真、風景なども創作の源になっているという。「物語を語るというより、音や質感、空間を通して言葉では表現しにくい感情を生み出すアーティストに惹かれる」と話し、楽曲には敢えて余白を残すことで、聴き手それぞれが自由に意味を見つけられる表現を目指している。
こうした姿勢は、デビューアルバム『LÜCY』(2022年)にも表れている。同作は第34回金曲奨新人賞にノミネートされ、第13回金音創作奨で最優秀新人賞を受賞。静かなサウンドの中に繊細な感情や景色を描き出し、台湾インディシーンを代表する存在へと成長した。
今回の東京公演では、ライブ初披露となる新曲も準備しているという。「私の音楽を初めて生で聴く人も多いはずだから、自分の音楽をどう伝え、記憶に残る体験をつくるかを考えています」とLÜCY。さらに、イヤモニを外し、観客と同じ空間や感情を共有できる瞬間が何より好きだという。
ライブ前には、代表曲“EYE(S)”と2ndアルバム『Dance on the Shoreline(夢の浜辺で踊るとき)』を聴いておきたい。音や質感、空間の広がりを大切にした彼女の表現は、ライブでより鮮明に感じられるはずだ。

『LÜCY 2026 TOUR in Tokyo』
日時:2026年7月22日(水)OPEN 18:30 / START 19:30
会場:東京・渋谷 WWW X
料金:ADV. ¥6,000 / DOOR ¥7,000(各1D代別途)
■LÜCY:Instagram
鄭宜農が魅せた「言葉を超える一夜」
6月19日(水)、東京・EX THEATER ROPPONGIで『PARK PARK @ Tokyo』第1弾となる鄭宜農の東京公演が開催された。アンコールを含む全21曲で日本語字幕が投影され、観客は歌詞を追いながら楽曲の世界に耳を傾けた。
Photo by Hayato WATANABE
MCも日本語を中心に行われ、アンコールではこの日リリースされた新曲“心 滾來滾去”をアカペラで披露。同曲は谷川俊太郎の詩“こころ ころころ”に曲を付けた作品で、日本への思いを象徴する1曲でもある。全編を通して、日本へ音楽を届けたいという真摯な思いが随所に感じられ、その思いは観客にも確かに伝わっていた。
鄭宜農の公演は、言葉の壁を越え「豊かで成熟し、変化し続ける現代台湾の音楽シーンを日本に届ける」という本ライブシリーズのコンセプトを象徴する一夜となった。今後控えている陳珊妮、生祥樂隊、YELLOW黃宣、LÜCYの来日公演にも期待したい。
Photo by Hayato WATANABE
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