オルタナティブR&Bからインディロック、ヒップホップ、ポップスを軽やかに横断する台湾のシンガーソングライター・Andr。近年盛り上がりをみせる台湾のインディミュージックシーンにおいて、一際異彩を放つ存在だ。
2023年のデビュー以来、Spotifyの新人支援プログラム『Best of Radar』や台湾の主要音楽賞『金音創作獎(Golden Indie Music Awards)』『金曲獎(Golden Melody Awards)』でのノミネート、世界最大規模のショーケースフェス『SXSW』(豪・シドニー/米・オースティン)への出演など、グローバルな活動を展開している。
日本での初ライブは昨年実現したばかりだが、早くも再来日の時が近づいている。福岡の野外フェス『CIRCLE’26』、東京での単独公演、そして8月には『SUMMER SONIC 2026』(以下、サマソニ)に出演する。今回のインタビューでは、そのバックボーンやこれまでの道のり、ジャンルや国境を飛び越えながら、「自分らしい音楽」を模索し続ける彼女の現在地に迫る。
また、東京での単独公演およびサマソニでステージを共にする日本のシンガーソングライター・REJAYとのコラボ曲制作秘話や、REJAY本人から寄せられた質問にも答えてもらった。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Interpreter:min an
Photo:アーティスト提供
多様な音楽を聴いて育った幼少期、ターニングポイントとなった出会い
――Andrさんは多様な音楽が流れる家庭で育ったそうですね。小さい頃に聴いていた音楽で、記憶に残っているものは?
Andr:小さい頃に聴いていた音楽は、ほとんどが両親のCDコレクションでした。家のリビングではいろんな音楽が流れていました。海外の音楽だと、たとえばCarpentersは特によく流れていて、馴染みがあります。Ricky Martinなども聴いていたし、あとはラテン音楽、イタリアの音楽などもありました。両親が流すものをそのまま聴いていた感じです。
それから台湾の古い音楽もたくさん流れていました。梁靜茹(Fish Leong/リャンジンルー)、王力宏(Leehom Wang/ワンリーホン)、陳建年(Chen Jian-nian/チェンジェンニェン) など、日本の方にどれほど知られているかわからないのですが。
――ご両親は何か音楽をやられていたのですか?
Andr:いえ、うちの家族には音楽業界に関わっている人は誰もいないです。ちょっと不思議ですよね。両親はただ趣味で音楽を聴いているだけなんです。両親にとって音楽がどれほど大切なのか、どれほど愛しているのかはよくわからないのですが、とにかく家にはCDがたくさんあったんです。
――そういった国内外の音楽が混ざった環境の中で、特に自分に大きな影響を与えた音楽はありますか?
Andr:中学生の頃は独学でギターの弾き語りをしていたのもあって、Taylor Swiftをたくさん聴いていました。特に『Red』(2012年リリースの4thアルバム)がすごく好きでしたね。
Andr:高校生になってからはバンドをやるようになって。いわゆる軽音楽部に入ったので、ロックをたくさん聴いていました。そのあと、自分でFrank OceanやTyler, The Creatorのような音楽を見つけて、編曲にすごく興味を持つようになりました。楽器だけじゃなくて、いろんな音から音楽が作れるというのがおもしろくて、それで自分も楽曲制作を始めるようになったんです。
――中高生の頃は台湾の音楽よりも海外の音楽を多く聴いていましたか?
Andr:そうですね。特に中学・高校の時期は、海外の音楽ばかり聴いていました。古いものも新しいものも。ただ大学に入ってからは、友だちとフェスに行くようになって、台湾の音楽もたくさん聴くようになりました。deca joinsやイルカポリス 海豚刑警など、台湾のインディシーンでお気に入りのバンドを見つけることができました。
――ギターの弾き語り、バンドをやっていたところから、どのようにしてFrank OceanやTyler, The CreatorのようなR&B、ヒップホップに辿り着いたのでしょうか。
Andr:正直、自分でもよくわからないんですが、自分は人より先に新しい音楽を見つけるのが好きだったんです。当時、周りにそういう音楽を聴く人はいなかったので、彼らの音楽に出会って感動したとき、それを大切にして、もっと深く探求したくなったんです。
たとえば、Odd Future(Tyler, The Creatorが率いるクリエイティブ集団)をきっかけに、そこにいるメンバーの曲を探して聴いて、どんな影響を受けているのかを探ったりしていました。私にとっては、全く新しい分野を発見したような感覚でした。
――自分でもそういう音楽をやろうとは思わなかったのでしょうか。
Andr:私の音楽はオルタナティブR&Bから大きな影響を受けていると思うけど、完全にメインストリームの音楽を作りたいとは思っていません。私にとって、それは一番しっくりくるものではないんです。もちろん、反発しているわけでもなく、将来的にはそうなるかもしれませんが、今は自分が好きな様々なジャンルの音楽を組み合わせて、自分らしい音楽を作るのがとても楽しいんです。
アニメでしか見られない師弟関係──創作パートナーとの出会い
――あなたをデビューへと導いたプロデューサー、韓立康(Kain Han)さんとはどのようにして出会ったのでしょう。彼から学んだことは?
Andr:学生時代に1、2回会う機会がありました。オリジナル曲を作って、友だちと即席のバンドを組んでコンテストに出ていたんです。たまたま彼が審査員だったので、私たちの曲を「奇妙だけどおもしろい」と思ってくれたみたいです。それで話しかけてくれて、お互いにいろんなジャンルの音楽が好きだということがわかりました。音楽の相性もよかったので、徐々に一緒に活動するようになったんです。
彼から学んだことは本当に多くて、一言では言えません。パートナーでもあり、師匠のような存在です。
――Andrさんから見た韓立康さんは、どのような人物ですか? 他のインタビューによると、時には言い合いをしたり、「お互いに譲らない関係」なのだとか。
Andr:すごく抽象的な話になるのですが、最近、子どもの頃に大好きだったアニメの実写版を観たんですけど、彼とのやり取り、あるいは暗黙の了解のようなものは、そういったアニメでしか見られない師弟関係のようなものだなと感じました。現実世界ではなかなか出会えない関係というか。
私は正式な音楽教育を受けたミュージシャンではないので、アイデアも能力もかなり雑多で予測しづらいところがあります。それを理解して整理してくれる存在がいるのはとても貴重なことだなと。制作では議論や衝突も多いですが、一方的にねじ伏せられることはなく、お互いに説得し合う関係です。
――あなたはデビューしてまもなく、台湾の主要音楽賞『金音創作賞』『金曲奨』に次々とノミネートされるなどして一躍脚光を浴びました。こういった成功体験は、ご自身の音楽活動にどのような影響を与えましたか?
Andr:とても幸運なことだと感じています。自分たちの作品には自信を持っていますし、本当に気に入っています。自分たちが作った音楽を心から愛しています。でも、世の中には素晴らしい作品がたくさんあって、多くのミュージシャンが次々と新作を発表している。そんな中で、自分の作品を誰かに届けるということはとても難しいことだとも感じています。だからこそ、アワードなどをきっかけに、自分の音楽が多くの人に聴いてもらえることは、この上なく幸せなことだと思います。
これからも、どんな音楽に挑戦するにしても、自分たちの音楽を聴いてくれる人、つまり「適切なリスナー」へと届けたいと思っています。
――プレッシャーを感じたりはしませんでしたか?
Andr:もっと上達しなければ、とは思います。毎回のライブで、どうすればお客さんに新しいものを届けられるか、どうすれば音楽的に理想の状態に近づけるのかを考えています。
――過去にはタイのシンガー・mindfreakkkや、日本のプロデューサー・A.G.Oさんともコラボしています。このような国境を越えたコラボはどのようにして実現したのでしょうか。
Andr:自分たちから「一緒にやってみたい」と思って連絡したこともあるし、向こうから連絡してきてくれたこともあります。基本的には世界中どこの音楽家でも、一緒にやれる機会があるならやってみたいと思っています。
やっぱり育ってきた環境や背景が違うので、話してみると「好きな音楽は結構同じだね」となることもあるんですけど、最終的にはひとりでは作れない、コラボならではの作品になることがおもしろいです。
(A.G.Oとのコラボ曲)“Cat & Mouse”に関しては、元々デモを作ってたんですけど、最初はもっとシンプルな形だったんです。ここにもうひとり、違うプロデューサーによる新しい解釈を加えたらおもしろいんじゃないかと思って。それでA.G.Oにデモを渡して、完成形にしていきました。
REJAYとのコラボ、不思議な共通点
――4月には日本のシンガーソングライター・REJAYさんとのコラボ曲“Hangover”がリリースされました。こちらの経緯についても教えてください。
Andr:“Hangover”はREJAYから連絡をもらって、コラボすることになりました。REJAYの作品を聴いてみたらすごくおもしろい音楽だと思ったし、一緒にやったらいい作品が作れそうだなと感じました。
――制作はどのように進めていったのでしょうか。
Andr:最初、REJAYがいくつかサンプル音源を持ってきてくれて、その中でドラムループが特に印象に残りました。それを聴いてSteve Lacyのスタイルを思い出し、そこから色々なアイデアを試してみました。
デモ音源には、すでにメロディのアイデアがいくつかありました。気に入った部分はそのまま残しつつ、いろんな組み合わせを試しながら新しいコーラスを作って、グルーヴィーでキャッチーなバージョンに仕上がりました。お互いにアイデアを出し合いながら、曲を完成させていった感じです。レコーディングとMVの撮影は、2月に東京で行いました。
――“Hangover”というタイトルだったり、お酒による酩酊感と、恋の盲目的な感情を重ね合わせた歌詞のテーマはどのようにして生まれたのでしょうか。
Andr:歌詞はそれぞれで書いて仕上げたんですけど、最初のデモの段階から、恋愛の中でちょっと目眩がするような感覚があったんです。「今何が起きているんだろう、これは恋なのか?」みたいな状態。その方向で自然に歌詞を書いていって、書き終えたあとに“Hangover”というタイトルが一番しっくりきました。
――REJAYさんと実際に会って、どのような印象を受けましたか?
Andr:会う前から、彼女の音楽やビジュアルのスタイルにどこか親近感を覚えていました。だから、きっと共通の趣味があるんだろうな、と思っていて。そして、実際にMVの撮影で会ってみて、共通点が多く見つかったし、自然に話せる感じでした。おもしろかったのは、お互いのスマホとデスクトップの壁紙が、同じアーティスト──Dominic Fikeの画像だったことがわかったんです。すごい偶然ですよね。本当に楽しい体験でした。
――実はこの取材のために、REJAYさんから質問を3つ預かってきているんです。まずひとつ目は、「“Hangover”を作る旅の中で、1番思い出に残ってる事は?」
Andr:私にとっては初めての海外レコーディングだったんですけど、REJAYの歌声が本当に素晴らしかったです。レコーディングスタジオで聴いた彼女の歌声は、本当に感動的でした。
当日、私はちょっと緊張していたんですが、(REJAYのプロデュースを務める)JQさんがレコーディングを見ながらお菓子を食べていたんです。その姿がすごくカッコよかった!(笑) 帰るとき、プロデューサーの韓立康さんとずっと彼の存在感の強さについて話していました。

――2つ目の質問です「1番インスパイアされたミュージシャン/音楽は?」
Andr:……3人挙げていいですか?(笑) Frank OceanとRemi Wolf、そしてThe Japanese Houseです。それぞれ違った側面があり、どれも私が本当に追求したい何かを持っていると感じます。
でも実際、ここ数年で私の好みは徐々に広がっているように感じているので、1年後か2年後にまた同じ質問をされたら、もしかしたら違う答えになっているかもしれない。それも楽しみです。今のところは、この3人ですね。
――そして最後は「日本で1番エンジョイしたことは?」
Andr:食べること! 日本に行くたびに、お腹いっぱいになるまで食べます。
――特に気に入った食べ物は?
Andr:うーん、たくさんありすぎて難しいですね……。前回の日本旅行で食べた花山うどんは美味しすぎてびっくりしました。すごく印象に残っています。でも、日本には美味しいものがたくさんありすぎて、ひとつだけ選ぶのは難しいですね。

「いろんな人に出会って、想像もしていなかったような反応をもらうこと」
――REJAYさんからの質問は以上になります。ちなみに、日本のアーティストで他に気になっている存在、今後コラボしてみたい方はいますか?
Andr:以前、King Gnuのライブを観る機会があったのですが、ただただ感服しました。すごくカッコよかった。素晴らしすぎてコラボレーションする勇気はないのですが(笑)、「あなたたちの音楽が好きです」という気持ちは伝えたいです。
――台湾の若いミュージシャンには、グローバル志向な方が多い気がします。Andrさんから見て、近年の台湾の音楽シーンはどのように変化していると思いますか?
Andr:台湾のインディシーンには、常に多くの魅力的なミュージシャンが次々と登場しています。透明雑誌のようなベテランアーティストから、deca joinsのようなバンドだったり、私と同世代のアーティストまで、それぞれが全く異なる個性を持っていると思います。台湾国外、もっと多くの人々に彼らの音楽が届くことを心から願っています。誰もがそういう機会を望んでいると思います。
――Andrさんは今後、どのようなアーティストになりたいですか?
Andr:うーん……難しいからパスしていいですか?(笑)
――(笑)。では、夢や目標のようなものはありますか?
Andr:行ったことのない場所へ行って、演奏して、いろんな人に出会って、想像もしていなかったような反応をもらうこと。実際にこれまでの活動の中で、たくさんの人に出会えました。本当に、それが私が求めていることです。
――今年は福岡のフェス『CIRCLE’26』と、東京での単独公演、そして先日発表されたサマソニへの出演が予定されています。どのようなパフォーマンスを行う予定ですか?
Andr:昨年、日本でライブをしたとき、観客のみなさんにすごく感動したんです。私自身も心が満たされるような体験でした。前回観に来てくれた方々にまたお会いできるのが本当に楽しみです。もちろん、新しい方にもお会いできたら嬉しいです。お友だちと一緒に、ビールを飲みながら、おしゃべりしながらショーを楽しんでもらえたら最高です。私も精一杯楽しみたいと思います。
【イベント情報】

『Andr [Shedding Skin 脫皮] 2026 Asia Tour in Tokyo』
日時:2026年5月14日(木)OPEN 19:00 / START 19:30
会場:東京・青山 月見ル君想フ / Moonromantic Aoyama
料金:ADV. ¥5,500 / DOOR ¥6,000(各1D代別途)
出演:
Andr
[GUEST]
REJAY
■公演詳細
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『CIRCLE ’26』
日程:2026年5月16日(土)、5月17日(日)
会場:福岡・海の中道海浜公園 野外劇場
※Andrの出演は5月16日(土)
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■Andr:Instagram













