「デトロイト出身のラッパー、Danny Brownが古巣のFools Goldを離れ、UKの老舗エレクトロ・ミュージック・レーベル、Warp Recordsと契約、新作を制作中」という報が流れた。もちろん、新たな化学反応によって傑作が生まれるのではないかという期待も高まるが、この契約自体はそこまで意外性のあるものではないし、この度公開された3年ぶりとなる新作(タイトル未定)からの新曲「When It Rain」を聴く限り、彼はUKの最先端のビート・ミュージックへと駒を進めながらも、未だ変わることない地元デトロイトへの思い入れもしっかり持ち合わせているようだ。
Danny Brownはそもそもその未熟な少年のような声や、忙しないトラップや最先端のビート・ミュージック(時にはグライムにも似た)に載せたエロネタ・ラップ(かと思えば時に内省的…)からしてUSラッパーとしてはかなりの異端児であった。また、世界中のメディアで絶賛された前作『Old』で、大半をUKのプロデューサーであるPaul WhiteとRustieが手掛けていたこと、そこに収録されている「Dubstep」で新鋭UKラッパー、Scrufizzerと共演していたことも考えれば、彼がデトロイトを拠点としながらもあのDrakeよりもずっと深くUKのアンダーグラウンドへ傾倒していたこと、従来の枠には収まりの効かない個性派であることがわかるだろう。また、Rustieといえば2014年のあのボム・トラック「Attak」でDanny Brownのことを知った、という人も少なくないかもしれない。
また、一方のWarp Records自体も古くはAntipop Consortium、より最近ではJeremiah Jaeなどラッパーと契約すること自体珍しくはなく、こうした両者の経緯を考えればそこまで意外性があった契約というわけではないし、ここで紹介する「When It Rain」でも再びPaul Whiteがプロダクションを担当し、確かにDannyのそういった路線は推し進められている。
緊張感のあるトラック自体、BPMが150くらいと、つい最近若手グライムMC、Novelistが提唱したグライムよりも一段と高速なトラックにラップを乗せる “Ruff Sound” を思い出させるし、Danny Brown印の高速ラップも健在だ。ついでにロウファイなミュージック・ビデオにまでグライムっぽさもある。
しかし、この「When It Rain」の面白さは、そうした彼の “UKアンダーグラウンドへの傾倒” だけでは語りきれないところにあり、リリックを初め彼の心は未だデトロイトに置かれていることを強調しておきたい。
Dannyはこれまでも、ギャングたちとは距離を置きつつもドラッグを売りさばきながらでないと生活できなかった過去をラップで語ってきたが、この曲でも、キーとなるフック「銃が撃ち込まれたときは身を屈めろよ」を筆頭に、デトロイトの暴力と隣り合わせの現実についてや、「Ain’t no water, How flower gon’ grow? (水がなくてどうやって花が成長できるんだ?)」と自動車産業が衰退し冷え込んだ街について嘆くことをやめない。更に、フックの「When it rain, when it pour」は日本語で言う「泣きっ面に蜂」の意味だし彼はデトロイトという街のいまに対して悲観的である。
とはいえ、デトロイトのハウス、テクノや、彼の所属するコレクティブへの言及も聴くことが出来るし、それでもデトロイトという街を愛していることも確認できる。そして “デトロイト愛” といえば何よりここで語られるべきはミュージック・ビデオだろう。映像を敢えてロウファイにすることで、ストリートの混沌とした様子を強調しているこのビデオでは、シカゴ・ジュークのデトロイト版=ジット(Jit)のダンス映像も収められている。これが実現できたのも、このトラックのBPMの速さ、忙しなさがジュークやフットワークのそれとも近いからだろう。
Warp Recordsと契約し、ますます最先端のビートとの距離を縮めているように思えるDanny Brownだが、リリックのコンテンツという意味でも、「音楽的リファレンス」という意味でも、デトロイトへの気持ちは未だに深いようだ。
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(Text By Daichi Yamamoto)