デンマークはコペンハーゲンを出身の4人組、Iceageが、満を持して通算4作目となる新作『Beyondless』を5月4日(金)にリリース。それに先駆け、4月にはNY、LA、東京、京都にてスペシャル・イベント“Opening Nights”を開催し、国内外の音楽リスナーから大きな話題を集めた。
初期のハードコアやポストパンクを咀嚼した性急なサウンドから一転、前作『Plowing Into the Field of Love』(2014年)では、マンドリンやトランペットなどを導入。カントリー〜カウパンク的な要素を感じさせるなど、よりサウンドの幅が広がった作風となっていた。そして、そこからおよそ4年ぶりのリリースとなった本作『Beyondless』は、前作との地続き感がありつつも、より豊潤な音楽体験が詰まった快作。ドッシリと構えたバンド・サウンドは、より骨太なグルーヴと壮大なサウンド・スケープを獲得。さらに、リード曲「Pain Killer」にはキャリア史上初となるゲスト・ボーカル――しかもあのSky Ferreiraを招くなど、明らかにバンドとして新たなステップへと昇ったことを告げるような内容となっている。
今回は先述の来日時にIceageの4人にインタビューを敢行。インタビュアーを担当したのは、東京のアンダーグラウンド・シーンで注目を集めるMs.Machineのボーカル・SAI。彼女はコペンハーゲンを訪れたこともあり、メンバーとの交流経験もあるとのことで、気になる質問を遠慮なく4人にぶつけてもらった。
Interview by SAI (Ms.Machine)
Text by Takazumi Hosaka
Photo by Takayuki Okada
――お久しぶりです。3年前、私はデンマークに行って、コペンハーゲンのバーであなた(Elias)に会ったことがあるのですが覚えています?
Elias:イエス、覚えてるよ。確か僕の誕生日頃だったよね?
――そうです! 覚えていくれてて嬉しいです。早速なのですが、今回あなたたちがNY、LA、そして日本で開催した“Opening Nights”というイベントは、どのような経緯で開催に至ったのでしょうか? また、何かイベントとしての狙いがあれば教えてください。
Johan:ただショウを行うだけではなく、様々なアーティストと、様々なアートの形でコラボすることが目的だったんだ。そして、世界中の、小さい会場でやりたいっていうのも狙いだったんだ。そうすることで、人との密度、親密さも増して、特別感が出るんじゃないかなって思って。
――渋谷DUOでのライブでは、ライブが始まる前にポエトリーディングが行われましたよね。それもコラボレーションの一環だったのですね。
Dan:彼はオーストラリアのTOTAL CONTROLというバンドのシンガー、Danielなんだ。様々なアーティストとコラボを果たすに際して、誰が良いかを考えた時に、彼が浮かんできてね。彼は詩も書いていて、賢く、博識で、何よりも人柄が最高で。僕らとは2012年のツアーで知り合ってから、ずっと仲もいいんだけど、ここ最近はしばらく会ってなかったし、オーストラリアは比較的に日本にも近いから、今回呼ぶことにしたんだ。
――土曜日には東信(AZUMA MAKOTO)とコラボしたインスタレーション・ライブが行われましたが、あれはどのような経緯で実現したのでしょうか?
Dan:元々僕の奥さんがAZUMA MAKOTOの大ファンで、僕にも教えてくれたんだけど、そこで個人的にもすごく興味を持ったんだよね。そしたらデザイナーの倉石一樹(adidas OriginalsやTHE FOURNESSのディレクションも担当するファッション/グラフィック/プロダクト・デザイナー。〈Posh Isolation〉とKappaによるコラボーレーションも手がけている)と、〈Big Love〉の春果が繋がっていたから、「ぜひとも一緒にやりたい!」って伝えたんだ。そしたら快諾してくれて。最初はひとつだけイラスト作品を作ってもらおうと思ってたんだけど、最終的には大きなイラストレーションになったんだよね。
――彼の作品のどこに惹かれますか?
Dan:花の捉え方、扱い方にすごくオリジナリティがあるよね。彼の独特の美意識を、花を通して表現している。そこが素晴らしいんだ。もちろん日本古来のアートである生け花にも通じる部分もあるんだろうけど、それを超えた彼独自の作品を作り上げていると思う。花道家というだけではなく、それを超えたアーティストなんだっていう風にもね。
――形は違えど、自分たち自身で表現する者同士として、東さんと自分たちの表現に通ずるものなどは感じたりしますか?
Dan:共通点があるかはどうかはちょっとわからないけど、お互いのアートを評価し合っているので、それは僕らが繋がっているっていう証拠なんじゃないかなって思うよ。
――Iceageは過去にはElizabeth PeytonがEliasとコラボを行なっていますよね。
Elias:彼女もすごく仲のいい友達で、コラボも沢山していて、今回の“Opening Nights”の全てのアートワークも手がけてもらったんだ。今回、実は30以上のアートを持ってくるつもりだったけど、アメリカから日本に船で送る時に通関で引っかかってしまって辿り着かなかったんだ。今回、皆に見せることができなくて残念に思うよ。元々はアート・パフォーマンスを行う予定だったんだ。
――そうなんですね。元々はどのようなアートを行う予定だったのですか?
Dan:アートワークがないCDに、彼女が色々なアートをくっつけるという内容だったんだ。そこには歌詞もなくて、音楽もないっていう。彼女が用意していたアートワークの中には羽生結弦の写真が使われている物もあったよ。
――彼女はMarching Churchの写真も撮っていますよね?
Elias:そうだね。彼女とMatthew Barneyのコラボレーションを経て繋がて、その後写真を撮ってもらうようになったりしたよ。
――Iceageはアートとの結びつきが強いように思うのですが、音楽以外のアートとコラボすることの狙いや、意義はどういった点にあると言えるでしょうか?
Johan:単純に、自分たち自身が他ジャンルのアートに興味があるから色々なコラボをしてるだけなんだ。でも、ライブ自体もただ同じようなベニューで演奏するだけっていうよりかは、他のアーティストとかとコラボしたりする方が、観る側も演奏する側もおもしろいよね。
――そういえば、コペンハーゲンの工場街ではアートが盛んだそうですね。
Jacob:アート・ギャラリーだけじゃなくて、自分たちがよく使っているメイヘム(Mayhem)っていうリハーサル・スペースなんかも、実は元々工場だったんだよね。他にも工場を改装してスタジオとか、ムエタイジムなんかも作られてて。そうやって上手く再利用しているエリアがあるんだ。
――あなたたちのライブ・パフォーマンスの見せ方について考え方をお聞きしたいです。どのような体験をオーディエンスに与えたいと思っていますか?
Elias:レコードとは異なる体験を与えたり、特別な瞬間をオーディエンスと共有することが大切だと思う。やっぱり、音楽ってステレオだけで聴くものではないと思っていて。自分たちのエナジーや音楽に対する愛を感じてもらったり、何か聴覚以外の感覚にも刺激を与えたいし、直接的なコミュニケーションの場にできたらいいなって思う。それが僕らにとってのライブ・パフォーマンスかな。
Johan:僕らのライブは、どこか遠くの、「音楽が全て」といった空間を作り上げたい。いいパフォーマンスをすると、演者も観客も一緒にその場に身を捧げることができるんだ。
――ニュー・アルバムについてお訊きします。前作『Plowing Into the Field of Love』からおよそ4年ぶりのリリースとなりますが、この4年間は、Iceageにとってどのような期間だったと言えることができますか?
Elias:……色々あったね。ただビーチサイドに座ってピニャ・コラーダ(カクテルの一種)を飲んでいたわけではなくて、ライブもしないといけなかったし、休憩を取る必要もあった。音楽以外の様々なこと、セカンド・ジョブもやったりして、すごく充実した4年間だったよ。実際にはピニャ・コラーダも飲んだけどね(笑)。
――ハハハ(笑)。では、そのセカンド・ジョブというのは?
Jacob:カフェや葬儀場で働いたり、アパートメントのペインティングをしたりとか。Danはすごく頭がいいから、非常勤の先生をしてる。Eliasは何もせずに、お金がないときはお金がないままだよね(笑)。
Johan:僕は障害者の人のための活動をしていたりとか、幼稚園でも働いたりしてた。今はバーで働いています。
――それは生活のためなのでしょうか?
Jacob:そうだね。今の時代、ミュージシャンにおけるマネタイズって、レコードの売上とかよりもいかにツアーを回るかにかかってるんだよね。なので、ツアーが入っていないときは全然お金がなかったりする。それに、家にずっと引きこもって何もしないよりかは、何かしていた方がいいだろ? そしてそれがお金になるならなおさらさ。もちろん音楽制作の合間の気分転換にもなるし。
――デンマークは芸術活動に対して、国から援助が出るという話を聞いたこともあるのですが。
Jacob:それは事実だね。僕らも何回かアート・カウンセルから支援してもらったことがあるよ。でも、それはずっと継続するものではないから。何もせずに生活できるほどの金額でもないんだ。実は今回の“Opening Nights”の開催も、支援してもらってるんだよ。
――なるほど。アルバムの話に戻りますが、オフィシャル・インタビューによると、全員が「今だ!」と感じてから一気に制作に取り掛かったとありました。メンバーが「今だ!」となったのは、なぜだったのでしょうか?
Elias:最初に何となく曲のアイディアが浮かんできて。それをリハーサル・スタジオに持って行ってみんなで演奏してみた時に、何ていうんだろう、とにかく特別な手応えを感じて。これは「何かができるな」っていう感覚になったんだよね。それからその勢いのまま制作を続けることにしたんだ。
――あなたたちはティーンエイジャーの頃にバンドを組んで、すでに10年ほど経ちますよね。この期間でミュージシャンとしてはもちろん、人間としても大きく成長していると思いますが、そういったことが作品やバンド活動に置けるスタンスに変化や影響を及ぼしていると思いますか?
Dan:いや、あまり成長していないよね(笑)。
Elias:ハハハ(笑)。でも、それはやっぱりあるよ。僕らのアルバムは、どの作品もその時々の自分たちを映し出しているような作品だから。でも、そういう変化っていうのは、ただ「歳をとった」とか、そういう言葉で簡単に説明できるようなものではないんだ。確かに進化し続けているとは思うんだけど、僕ら自身にもそれが何かっていうのは上手く説明できないんだ。
【リリース情報】
Iceage 『Beyondless』
Label:MATADOR / BEAT RECORDS
Cat.No.:OLE13762
Price:¥2,200 + Tax
Tracklist:
1. Hurrah
2. Pain Killer
3. Under the sun
4. The day the music dies
5. Plead the fifth
6. Catch it
7. Thieves like us
8. Take it all
9. Showtime
10. Beyondless
+ Bonus Track for Japan