RhymeTubeが昨年末にリリースした新作EP『Feel BLue』は、客演にJinmenusagi、Tondenhey(ODD Foot Works)、RICK NOVA、YUNGYU、FARMHOUSE(SUSHIBOYS)、さらに韓国のラッパー・TOYCOIN、Kidd Kingを迎え、ヒップホップを軸としながらも2ステップやUKガラージ、フューチャー・ベース、トロピカル・ハウスなどの要素を散りばめた、カラフルかつポップな作品だ。
近年ではSUSHIBOYS、空音、Rin音、野崎りこんといった個性的なアーティストへのビート提供、その他昨年上映の映画『ホットギミック』の挿入歌も手がけるなど、多彩な作風で知られるRhymeTube。同作には、そんな彼の個性と器用さが全面に溢れ出ている。
今回は『Feel BLue』にも参加している盟友・Jinmenusagiとの対談を通して、RhymeTubeというプロデューサー/アーティストの核に迫ることに。共にオンライン上を出自としながらも、現在では幅広いシーンで活躍する両者。音楽、そしてヒップホップへの深い愛と知見が満載の対話をお届けする。
Interview & Photo by Takazumi Hosaka
「一番リスペクトしているのはBACHLOGIC」――RhymeTubeの知られざるルーツ
――まず、おふたりの出会いについてお聞きしたいです。どのようにして出会われたのでしょうか。
RhymeTube:僕の先輩のラッパー、RIHITOさんがジメサギさんと仲が良くて。
Jinmenusagi:彼の「Doppelganger」(プロデュースはHakobune × RhymeTubeからなるROKCHA BEATS)っていう曲を聴いて、「あ、こんな曲作る人いるんだ」って知って。そこで僕からコンタクトを取りました。ドラムンベースで、なおかつキャッチーなトラックで、聴いた瞬間に自分だったら「こう乗っけたい」っていうのがすぐに浮かんできたので連絡させてもらいました。そこから2016年に僕が発表した『はやいEP』に収録されている「きっとこの夜も feat. ハシシ from 電波少女」に繋がり。でも、その時はネットを通じてやり取りしてただけだよね。
RhymeTube:実際にお会いしたのは、今年(2019年)の8月とかでしたっけ。
Jinmenusagi:初めて一緒に曲作ってから3年以上経って、ようやくご対面しました(笑)。ちょうど「きっとこの夜も」を出した辺りから音楽でまともに生活できるようになったので、僕にとっては本当に恩人で。
RhymeTube:いやいや、それは僕が言うセリフです。僕にとっても、ジメサギさんにトラック提供したっていう実績、名刺代わりの作品ができて、当時地元でも一瞬だけ一目置かれました(笑)。
Jinmenusagi:「お前、ジメサギと一緒に曲作ったの?」みたいな?(笑)
――今、「ドラムンベース」という単語が出てきましたが、今回リリースされた新作EP『Feel BLue』でも、ダンス・ミュージック色の濃い作風が印象的でした。RhymeTubeさんの音楽的ルーツについて教えてもらいたいです。
RhymeTube:ダンス・ミュージックっぽくなっちゃうんですよね。何でなんだろう……。
Jinmenusagi:親が聴いてたとか?
RhymeTube:いや、それはないですね。ただ、地元で一時期DJやってたことがあって、当時流行っていたフューチャー・ファンクとかフレンチ・エレクトロ、ニューディスコみたいな4つ打ちも結構聴くようになったんです。今回ジメサギさんと作った曲(「RUNNIN’」)も4つ打ちが軸になってますよね。
Jinmenusagi:ハウスっぽさもあるよね。ハウスはすごい好きだから嬉しかった。
RhymeTube:4つ打ちって、何ていうんだろう、すごく奥が深いなって思うんですよね。
Jinmenusagi:シンプルで万能なフォーマット故に難しいというかね。本当にいいポップスを作るのが難しいのと似ている感じはするかも。
RhymeTube:確かに。ビートとしては単純なのに、曲によってグルーヴが全く異なるじゃないですか。ベースだったり上音が影響していたり、そこには色々な要素が関わってると思うんですけど。
Jinmenusagi:「RUNNIN’」に関して、僕が彼に言ったことはひとつだけで。ラップを録音し終わって、「ここから足さないで、引いて」って。
RhymeTube:結果、上手くまとめられましたかね?
Jinmenusagi:最高でしょ。これはKanye Westの受け売りなんですけど、大体みんな足しすぎることが多いので、曲を制作する時は引き算を心がけているんです。
RhymeTube:わかります。たぶん、トラックメイカーにとって、引き算っていうのは一生の課題で。どうしても音を足したくなっちゃうんですよね。Pharrell Williamsのビートとか、ビックリするくらい音数少ないのにバッチリ成立していて、すごいなっていつも思います。
Jinmenusagi:目指しているのはPharrell Williamsなの?
RhymeTube:一番リスペクトしているっていう意味では、BACHLOGIC(※1)さんなんです。あまり自分からは言わないんですけど、僕かなりBACHLOGICさんのオタクで。もちろん後追いなんですけど、DOBERMAN INC(大阪拠点のヒップホップ・グループ)の頃の作品も全てチェックしていて。
※1. 大阪出身のラッパー、プロデューサー。省略して「BL」と呼称されることも。
Jinmenusagi:じゃあ『花と雨』(※2)収録の「不定職者」の2バース目も?
RhymeTube:もちろん知ってます。トータル・プロデュース作で言えばNORIKIYOさんの『OUTLET BLUES』(2008年)も素晴らしいですよね。
Jinmenusagi:他のラッパーでも、BACHLOGICさんが関わった作品だけ明らかにアカペラの音質が良いよね。
RhymeTube:そうですよね。ここ数年、ずっと僕の中での1位は覆らないですね。
※2. SEEDAが2006年に発表した伝説的アルバム。全曲BACHLOGICがプロデュースを担当。
――RhymeTubeさんがBACHLOGICさんにそこまで惹かれるポイントというのは?
RhymeTube:BACHLOGICさんのベース・ラインに惹かれる人は多いと思うんですけど、僕は上メロが特に好きなんです。それこそ、「きっとこの夜も」のCメロの、コードが変わる部分やブラスの感じも、実は僕の中では「BACHLOGICメソッド」のつもりなんです(笑)。
Jinmenusagi:そうなんだ(笑)。(実際に聴く)あ、言われてみればめっちゃわかる。
RhymeTube:そもそもこのコードも、BACHLOGICさんがよく使うコードなんです。他にも、例えばRHYMESTERの「ONCE AGAIN」のサビだったり、SD JUNKSTA「人間交差点」のBRON-Kさんのフックの後半だったり。4s4kiさんの「Moldy feat. ハシシ(電波少女)」も、僕なりの「BACHLOGICメソッド」で作ったトラックです。
Jinmenusagi:RhymeTubeがBACHLOGICさんに影響受けてるなんて、このインタビューで説明しないと誰もわからなかったんじゃないかな(笑)。
――では、RhymeTubeさんのルーツは完全にヒップホップ?
RhymeTube:僕は大学生くらいになるまで、ポップスをほとんど聴いてなくて。高校生くらいまでは「おれはヒップホップしか聴かない」って感じでカッコつけてました。小さい頃からRIP SLYMEやKICK THE CAN CREWはみんなと同じように聴いてたんですけど、最初に「ヒップホップ」を強く意識したのは中学生の時で。〈A BATHING APE〉を好きになった影響で、TERIYAKI BOYZも聴くようになったんです。そしたら「TERIYAKI BEEF」(※3)が起こりまして。
Jinmenusagi:あれは本当に最高だったね。
RhymeTube:SEEDAさんとOKIさんの動きを完コピできるくらい観ましたね。両方(TERIYAKI BOYZとSEEDA & OKI)とも好きなアーティストだったので、ショックっていうのもあったんですけど、その一連の流れ自体がめちゃくちゃカッコいいなって。ユーモアもあるし、曲としてもすごく完成度が高い。思いっきり喰らっちゃったんです。
Jinmenusagi:ちゃんとテリヤキ・バーガー潰した後食べてたりね。本当に上手い。まさに「俺に触れたら落ちる言葉の囲い」(「TERIYAKI BEEF」の一節)。
RhymeTube:「TERIYAKI BEEF」自体は2月くらいに起こったんですけど、そこから6月くらいまで色々なアクションが起こって。そういう動きを追いかけているうちに、日本のヒップホップにどっぷりハマることになりました。そこからGEEKやSEEDAさんの作品もディグるようになりました。
※3. 「TERIYAKI BEEF」:2009年に起こったSEEDA & GEEK OKIと、TERIYAKI BOYZによるビーフ。
RhymeTube:たぶんなんですけど、SCARSとかBESさん、SWANKY SWIPEみたいな『CONCRETE GREEN』(※4)周りのラッパーを聴くようになってから、ビート/トラックのカッコよさに気付かされたというか。
Jinmenusagi:めちゃくちゃヒップホップ・ヘッズじゃん(笑)。SWANKY SWIPEにもBACHLOGICプロデュースの曲あるよね。「愚痴か?否か?」、あれはヤバい。
※4. SEEDA、DJ ISSOによるストリート発のミックスCDシリーズ
RhymeTube:ヤバいですよね。なので、僕の今のルーツは00年代後半のヒップホップって言えるかもしれないです。
Jinmenusagi:結構偏ってるなとは思うけどね(笑)。
――自分でラップをしようとは思わなかったのでしょうか?
RhymeTube:もちろん思いました。ただ、その前に全部自分ひとりで完結させたいって思うようになったんです。それはKREVAさんの影響ですね。
Jinmenusagi:確かにKREVAさんも同じくらいの時期に作品いっぱい出してたもんね。『新人クレバ』(2004年)、『愛・自分博』(2006年)、『よろしくお願いします』(2007年)。その間にシングルもポンポン出してて。
RhymeTube:KREVAさんを通してMPCを知って、自分でトラックも作れることがわかったのが高3くらい。そこからMPCを1000、2500、1000BKと乗り継ぎ、最終的にはCubase(DAW)に辿り着きました。……そのきっかけが、実はももいろクローバーZ(以下、ももクロ)との出会いなんです。
Jinmenusagi:おっと、話の方向性が大きく変わってきたぞ(笑)。
――確かPecoriくんも大学生の時にももクロにハマったって言ってましたね。
RhymeTube:そうですね。Pecori(※5)が先にハマっていて、僕は彼に教えてもらいました。結果、大学3年留年することになり(笑)。
※5. ODD Foot WorksのPecoriとRhymeTubeは地元の同級生であり、一緒に音楽ユニット・角巛エンタープライズを組んでいた。
Jinmenusagi:見出しになるね(笑)。推しは誰なの?
RhymeTube:百田夏菜子さんです。僕と同じく静岡県出身だっていうのと、周りと被ってはいけないという暗黙の了解も考慮しつつ(笑)。
Jinmenusagi:これを機にももクロの仕事が来るかもしれないからもっと言っておけ(笑)。
RhymeTube:いつでもお待ちしております(笑)。最初は普通にアイドルとしてももクロのことが好きだったんです。頑張ってる姿を観て、自分のモチベーションに繋がったり。でも、それが音楽制作と接続したのが、(ももクロのプロデュースも手がける)前山田健一さん(a.k.a. ヒャダイン)が出演した『情熱大陸』なんです。そこでPCでも音楽を作れることを知って、「こんな作り方あるんだ!」みたいな。それを観てすぐにMPCを売りました(笑)。
――DTMに変えて、制作する音楽も変わったのでしょうか?
RhymeTube:いや、実は変わらず。DAWを使ってるのにサンプリングでヒップホップを作り続けていて、「何も変わらないな」って(笑)。買って3年くらいはそんな感じでした。今はもうサンプリングはやめて、打ち込みにシフトしています。
「予想は裏切ってほしいけど、期待は裏切らないでほしい」――2人のトラップ論
Jinmenusagi:最近、作るトラックの方向性変わったよね。話を聞いてると確かに根っこにあるのはヒップホップなんだけど、ハウスとかメロウなR&Bとかも作るし。それは何で変わったの?
RhymeTube:やっぱりSoundCloudをディグるようになったからですかね。それこそ韓国のラッパーたちの作品とかを聴くようになったのが大きいかもです。
Jinmenusagi:ある時期、彼が「こんなトラック作ってみたんで、聴いてみてください」って送ってきたトラックが全部トラップで。僕の中ではまだ出会ったばかりの頃のイメージのままだったので、「一体どうした!?」みたいな。そこで「こいつは何でも作れるんだな」って思うようになったんです。
RhymeTube:ありましたね。でも、それも周りの影響ですね。
Jinmenusagi:「たぶんトラップってこうやって作るんだろうな」って感じで作ったっていうのは伝わってくるんだけど、すごくクオリティが高くて。本当に器用だなと。
RhymeTube:ありがとうございます。でも、仰る通りあれは練習みたいな感覚で、めちゃくちゃ浅い。
Jinmenusagi:言い方アレだけど、確かにタイプ・ビート感は少しあったかも。
RhymeTube:その通りだと思います。でも、実際に作る前と後とでは、理解度が全然変わるんですよね。なので、どういうサウンドでも気になったら一度自分で作ってみるようにしているんです。
――なるほど。
RhymeTube:ついでなのでトラップの話を少ししたいんですけど、僕が良いと思うトラップって、トラップじゃないというか(笑)。808のベースやキック、チョップ・スネア、カウベルみたいなセオリーがあるじゃないですか。そういった音を使うと、すごく簡単にトラップっぽくなるんです。でも、本当にいいなって思えるトラップのビートって、スネアだけ少し変な音になってたり、そういう良い意味での違和感みたいなものがあるように感じていて。
Jinmenusagi:なるほどね。
RhymeTube:セオリーで作ってるトラックの方が、セオリーじゃない。そういう矛盾するような、絶妙なバランス感覚の間で揺れているというか。
Jinmenusagi:予想は裏切ってほしいけど、期待は裏切らないでほしい、みたいな。
RhymeTube:そうです。そこを振り切れる人ほど強いというか。マナーやセオリーを知りすぎると、そこに寄せなければっていう使命感みたいなものから離れられなくなるんじゃないかなって。
――トラップを軸としているラッパーにも同じことが言えると思いますか?
Jinmenusagi:おれはSnoop Doggと同じ意見で、トラップで一躍有名になった人はいっぱいいるけど、ずっと聴き続けられるのはやっぱりベーシックなラップが上手い人。過去のヒップホップもしっかりと通ってないと応用が効かないし、銃とゴールドのことしかラップできない人は3年後消えてると思います。
RhymeTube:確かに。
Jinmenusagi:あと、トラップは流行りのBPM帯も次々に変わってるよね。3〜4年前はBPM 100/50くらいだったのが、最近は170/85くらいの曲が多くて。
RhymeTube:僕は遅い方が好きですね。プロデューサーで言うとRonny J(※6)とか。
※6. マイアミ出身のプロデューサー。Denzel Curry、XXXTentacion、Ski Mask the Slump God、Smokepurppなど、いわゆる“SoundCloudラップ”と言われるシーンに大きく貢献している。
Jinmenusagi:Ronny Jは最高だよね。ビットクラッシャーの使い方がすごく上手くて。ただ、本人のソロ作はダサいっていう(笑)。トラップのおもしろいところは、BPMを半分にしたり倍にしたりできるっていうところで。それこそ彼と作った「RUNNIN’」なんかは、ハウスから突然ハーフのノリ方になってトラップ的展開になる。しかも僕の大好きなスネアの音色を使ってくれて。
RhymeTube:あそこはセオリーですよね。ジャンルを横断するタイプの楽曲だからこそ、そこは忠実に沿いました。
「ラップのグルーヴ感」――ラッパー・Jinmenusagiの魅力
――RhymeTubeさんからみたラッパーとしてのJinmenusagiさんの魅力についても教えてもらえますか?
RhymeTube:ジメサギさんを知ったのが大学1年生の頃で、当時ネット・ラップ、ニコ・ラップと言われるようなシーンで注目を集めていた電波少女の「蝸牛」っていう曲にめちゃくちゃ喰らって。SCARSとかSEEDAさんとかを聴いてきたからこその衝撃というか。ジャンルとして新しすぎた。
Jinmenusagi:かくいう僕もSCARSとかを通ったラップをしていたので、何か通じたんでしょうね。
RhymeTube:しかもめちゃくちゃラップ上手いし、フロウもヤバい。「この人たちは何者なんだ!?」って。そこからはずっと作品を追いかけています。
Jinmenusagi:でも、今はあの頃と比べるとめちゃくちゃスタイル変わってるよね。
RhymeTube:変わってますね。僕的に、ジメサギさんのターニング・ポイントのひとつになったんだろうなって思うのが、フリー・シェアしていたミックステープ『#R2BA』(2013年)で。リリックやフロウもよりリスナーに届けることに意識を置くようになったなって思うんです。あとは何て言うんでしょう、ラップに独特の乾きがあって。
Jinmenusagi:うん、それはその通り。声質に関しては、あの頃ブラックニッカでうがいしてたから、ガサガサしてたんだよね(笑)。
RhymeTube:アルバム通して一番好きなのは、世間的にもかなり注目を集めた4th『LXVE 業放草』(2014年)なんですけど、3rdアルバムの『胎内』(2013年)もDubbyMapleさんがトータル・プロデュースを手がけたということでビートにまとまりがあってすごく好きです。
Jinmenusagi:めちゃくちゃおれのファンじゃん(笑)。
RhymeTube:でも、今のは盤として出ている作品の話で、本っ当に好きなのはフリーで発表したミックステープ『恐怖』(2015年)なんです。大げさだよって言われるかもしれませんが、あの作品は「世界で通用する!」って思いました。UKグライムみたいなことにも挑戦していて。尺も短くて今っぽいし、ミックステープ全体通しても聴きやすいんですよ。
Jinmenusagi:当時、HyperJuiceにイケてるベース・ミュージックを教えてもらって。「こういうのビート・ジャックしてみたら?」ってアドバイスもらったりして作った作品ですね。確かに周りからの反響もよかったし、発表して5年くらい経った今も海外のDJとかから「この音源をくれ」って連絡きたりしてます(笑)。
RhymeTube:DubbyMapleさんとの『はやいEP』(2016年)も、『恐怖』と地続き感があるような気がして。「BUDDY BYE」とかは特に。
Jinmenusagi:なるほど、確かにそうだね。
RhymeTube:僕、間があるというか、もっさりしてしまってるラップがあまり好きじゃないんです。そういう部分で「もったいないな」って思ってしまうラッパーさんも結構いるんですけど、ジメサギさんはそれがない。ラップにすごいグルーヴ感があるんですよね。例えば、Sweet Williamさんとの曲「cheat」(2018年発表のSweet William & Jinmenusagi名義でのアルバム『la blanka』収録)の「酸いも甘いも知ったSweet willyのshit / ジメヌサギ合わさればそれはcheat」っていうラインとか。
Jinmenusagi:子音を同じ場所に配置しているからだよね。
RhymeTube:口に出してラップしてみるとすごく気持ちいし、グルーヴが出るんですよね。同じ曲の「ここテスト出します」っていうラインとかもグルーヴの要になっているなって思っていて。文節と文節の繋ぎも上手いし、語感も良い、間がもっさりしないんですよね。
Jinmenusagi:さ行の母音を飛ばしたりしてスピード感を出したりとか、同音異義語を使うことは意識してる。あとは日本語だけど英語に聞こえるとか、そういう発音とか発声とかね。でも、そういうところに突っ込まれるのなんて、年に一回くらいしかないけど(笑)。
RhymeTube:あと、HANZO REIZAさんと一緒にやってた「Super」も、フロウがすごく上下するというか。僕の友達に日本語ラップが聴けないやつがいて、そいつはUSの90年代、J.Dillaが活躍した年代とか、Pete Rockとか大好きなんですけど、そんな彼でもジメサギさんのラップだけは「ヤバい」って言ってくれました。
Jinmenusagi:あのリリック、40分くらいで書いてるんだけど。こんなに褒めてくれるとは思ってなかった(笑)。
RhymeTube:あと、ジメサギさんはビートも自分で作るじゃないですか。だから、ビートメイカー心もあるのかなって。ジメサギさんってビートは何で作ってるんですか?
Jinmenusagi:昔はFL Studioで、今はAbleton Live。あとラー油をこぼして部分的に音が出なくなったキーボードで作ってる(笑)。でも、自分のビートの良し悪しってわからないんだよね。
RhymeTube:まず、めちゃくちゃ音質というか鳴りが良いと思います。「業放キープローリン」(2015年発表『ジメサギ』収録曲。同アルバムは全編セルフ・プロデュース作となっている)とか「BABEL feat. Mato」とか。低音の鳴りがすごいんですよね。
「エゴは少なめ」な新作『Feel BLue』
――今作『Feel BLue』の表題曲ではRhymeTubeさんもボーカルを披露していますよね。
RhymeTube:はい。前作では自分のラップも入れてたし、機会があれば今後もどんどんやっていきたいとは思ってるんですけど、今作ではどうしても歌詞が書けなくて。妥協するくらいならやめようと思ったんです。それで、歌にしました。これまであまりボーカル曲もなかったので。「Feel BLue」はサウンド的に前作の「ALL 4 U」を引き継ぎついた2ステップ的なトラックで。前作から今作へ切り替わるようなイメージですね。
――改めて、おふたりのコラボ曲「RUNNIN’」の制作プロセスを教えて下さい。
RhymeTube:ビートは元々できていたんです。実は前作『ALL 4 U』の時にもジメサギさんにお声がけしていたのですが、スケジュールの都合で実現できなくて。なので、今回のコラボは僕にとっては待望でした。それくらい、最初からこのトラックはジメサギさんにお願いしたいっていう強い気持ちがあって。
Jinmenusagi:そんなに長いこと想ってくれていて申し訳ないけど、リリックは1日で書きました(笑)。
RhymeTube:スタジオ書きですよね?
Jinmenusagi:ほぼスタジオ書き。最初に聴いた時、サビのリズムとメロディは思い浮かんで。後はその時考えていたことをスタジオに入って、ザーッと書き上げました。これは言っておきたいんですけど、フックで「I can’t say nothin’ about it」って歌ってるんですけど、文法的には「I don’t say」の方が正しい。そうすると「I can’t say」の場合、そこに続くのは「anything」になるんですけど、どうしても「nothin’」と「runnin’」で踏みたかったので敢えてそのままにしています。
RhymeTube:そうやって文法よりも語感やライムを重視するのも、時には大事ですよね。
――では、リリックのテーマなどを共有することもなく?
RhymeTube:一応最初に仮のタイトル、テーマだけは送りました。何か、人間が宇宙人に攫われる、みたいな感じの(笑)。
Jinmenusagi:僕がそれをガン無視しました(笑)。結局、最近の自分の生活を書いたものになりましたね。「27の夜 自分に酔う」「もうベロベロ / 誰か一緒にいてくれよ / それで楽になんのか?」とか。僕と近い世代、20代後半〜30代前後の方に響きやすいんじゃないかな。
RhymeTube:ものすごい内省的ですよね。
Jinmenusagi:トラップになる部分は特に気持ちが込められていて。「気持ち落ちる速度秒速何センチメートル?」とか。
RhymeTube:新海誠ですよね。僕はシンプルなんですけど「負けるな ジメサギ」が好きですね。ジメサギさんってそういうパンチ・ラインを生み出すのがすごく上手くて。
Jinmenusagi:照れるね(笑)。でも、自分でも良いリリック書けたなって思います。僕も結構多動気味なので、ずっと同じような感じのビートより、変化のあるトラックが好きなんです。
――ODD Foot WorksのTondenheyさんをフィーチャーした「Dive in qo’s」ではGファンクっぽさも感じられます。
RhymeTube:僕としてはヴェイパーウェイヴっぽさを意識したのですが、たしかにGファンクっぽさもありますね。実は元々2017年くらいに作っていた曲で、Tondenheyも「昔の曲過ぎて恥ずかしい」って言ってて。それを僕が無理やり出しました(笑)。
――今作では全体を通して「憂鬱」がテーマとして挙げられていますが、そういったテーマはどうやって生まれたのでしょうか?
RhymeTube:テーマは結構後付けの部分が大きくて。「Blue」という言葉を「憂鬱」と変換しています。すごい暗いわけではないけど、かといってポジティヴでもない。そこが自分っぽいかなと思いまして。表題曲の「Feel BLue」は、他の5曲が出来上がり、テーマも決まってから作りました。
――ちなみに、「Feel BLue」の「L」が大文字になっているのは?
RhymeTube:それは……あえて秘密にさせてください(笑)。
――「SOH BLue feat. YUNGYU, FARMHOUSE」ではフューチャー・ベースのような音色使いが印象的ですし、RICK NOVAさんをフィーチャーした「Aurora Sauce」はどこかトロピカル・ハウスっぽさもあります。一番最初にも言いましたが、こういったダンス・ミュージックに寄った作風というのは、ご自身の今のムードなのでしょうか?
RhymeTube:自分のムードというよりは、まだ自分のサウンドを探っている段階という方が正しいかもしれません。前作『ALL 4 U』はその時の自分のやりたいことに正直になった作品だったんですけど、今作は「こういう作品を作ってみたら、どうなるだろう。どういう反響があるんだろう」っていう考えもあって。エゴはちょっと少なめです。
Jinmenusagi:じゃあ、そういったマーケティングを経てリリースされる次の作品はめちゃくちゃいい作品になるんじゃない?
RhymeTube:一応、すでにヤバいトラックできてるんで、また送りますね。
Jinmenusagi:お、楽しみにしておく。よろしく。
――次回作もすごく楽しみです。では最後に、おふたりの今後の展望について教えて下さい。
Jinmenusagi:僕は『はやいEP』を一緒に作ったDubbyMapleとまた作品を作っていて。アルバムとして2020年に発表できると思います。良く言えばオリジナリティ溢れる、悪く言えばわがまま、自分勝手な方向に進んでいきたいですね。
https://www.youtube.com/watch?v=QrQLNyteG1k
――RhymeTubeさんはいかがでしょう?
RhymeTube:この作品を出したら、もう当分の間は自分名義の音源は出さなくていいかなって思っていたのですが、今作を作ってみたらまたどんどん出したい曲、試してみたいアイディアが湧いてきてしまい。おそらく、2020年中には僕も何かしら発表できるんじゃないかなって思います。あとは、いつかBACHLOGICさんにお会いできればいいな、と。
Jinmenusagi:会えると良いね。
【リリース情報】
RhymeTube 『Feel BLue』
Release Date:2019.11.27 (Wed.)
Tracklist:
1. Feel BLue
2. RUNNIN` feat. Jinmenusagi
3. Dive in qo`s feat. Tondenhey
4. Thumbs feat. TOYCOIN,Kidd King
5. Aurora Sauce feat. RICK NOVA
6. SOH BLue feat. YUNGYU,FARMHOUSE
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