音楽家・原摩利彦が発起人としてスタートした『THEY ARE HERE』より、新たなサウンドドキュメント『20250902』が本日9月2日(火)に発表された。
『THEY ARE HERE』は、ガザ地区の人々との交流を起点に、彼らが提供するフィールド音源や写真を素材として作品を構築するサウンドドキュメントプロジェクト。今年7月に始動し、ピアノ即興演奏『To-the-sea』や、共同発起人である篠田ミル(Miru Shinoda / yahyel)、プロジェクトに賛同したSimon Fisher Turner(サイモン・フィッシャー・ターナー)とともに制作された『Reminder』の2作を発表。いずれもガザで録音された音声や環境音が使用されている。
1945年9月2日、日本政府はポツダム宣言を全面的に受諾する「降伏文書」に調印した。これは1945年8月15日の終戦の玉音放送に続く正式な降伏手続きであり、日本側代表が無条件降伏文書に署名した日として、第二次世界大戦が終結した正確な日付とされている。一方で、1948年のパレスチナ、ナクバでは、イスラエル建国に伴う戦争によってパレスチナ人の過半数が故郷を追われ、難民化した。本年は終戦から80年目となるが、ガザでは戦争がいまも続いており、封鎖が続く地区では飢饉に近い状況と深刻な人道危機が起きていると報告されている。
このような歴史の重なりの中で発表された最新作『20250902』には、篠田ミルに加え、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文(Gt. / Vo.)、バイオリニスト・須原杏が参加。ガザからは写真集『リタのまなざし』の主人公として知られるリタさんより届いた音源を作品の素材として起用。原摩利彦のピアノループを起点に、篠田ミルの福島でのフィールドレコーディング音源、後藤正文の電話マイク録音、さらに須原杏のストリングスなどが加えられている。
本作の収益はこれまで通り、主に音源や写真を提供してくれた人々への制作協力費として支払われ、残りの利益もガザの人々に届けられるという。




【20250902 Statement】
青い空に遠くの方で巨大な積乱雲を見ると、ああ8月だなと思う。少年時代の夏の思い出の懐かしさだけがふと蘇ってくる。そして心の片隅に「八月十五日の青春」という言葉が浮かぶ。これは旧制大阪高等学校生の手記を集めた文集で、私の亡き祖父も8月15日の出来事を書いている。ラジオを聞いて悲しい気持ちも嬉しい気持ちも何も湧かず、ぼんやりと、なんだかよくわからなかったと祖父は話してくれた。
文集に手記を寄せた人たちはその後、それぞれどんな人生を過ごしたのだろう。
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日本でのデモ活動をフィールド録音しているロバート・ケンシさんより、ガザのリタさんが 「THEY ARE HERE」のプロジェクトで音楽を一緒に作りたいと言っていると聞いた。そして彼女の歌っている動画を送ってもらった。リタさんのことは須藤祐太郎さんとの共作本『リタのまなざし』で知っていたし、また直接何度かメッセージのやりとりもしていた。久しぶりに連絡を取って、あの歌で音楽を作りたいと伝えた。
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8月のある日に、どうしても手紙を書きたいという気持ちが高まり、でもそれは言葉ではなく音楽かもしれないと思ってピアノに向かった。手先から生まれた小さな音楽を録音して篠田ミルに送ると、彼はビートと福島のヒグラシの音を入れてくれた。しばらくして、後藤正文さんから送られてきたデータは不思議なことに未来の誰かに宛てたメッセージだった。その奥でゆれる蜃気楼のようなストリングスを須原杏さんが作ってくれた。
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正式に戦争終結した日からちょうど80年後の今日、この音楽を発表します。
原 摩利彦
【リリース情報】

Marihiko Hara x Miru Shinoda x Masafumi Gotoh x Reta x Anzu Suhara 『20250902』
Release Date:2025.09.02 (Tue.)
Tracklist:
1. 20250902
Vocal:Reta
Voice & Text:Masafumi Gotoh
Piano & Synthesizer:Marihiko Hara
Arrangement & Field Recordings:Miru Shinoda
Strings Arrangement, Violin, Viola, Cello:Anzu Suhara
Photography:Saja
Design:Masumi Muranaka










