Momが5月にリリースした2ndアルバム『Detox』に続いて早くも2作のシングル「マスク」「ハッピーニュースペーパー」をリリースした。
「クラフト・ヒップホップ」を標榜し、カラフルかつポップなサウンドを展開した1stアルバム『PLAYGROUND』からわずか1年ほどの期間で、目まぐるしい変化を見せるMom。サウンドの成熟ぶりはもちろんのことながら、その独特の言語感覚有するリリックもより鋭利に、そしてシリアスな内容へと変貌を遂げてきた。
先述の2作のシングルはまさしく新たなMomの魅力が詰まった作品だ。本インタビューではそのシングルを中心に、Momの心情を探ることに。ますます混沌としていく現代において、若き音楽家は何を考え、表現していくのか。彼の言葉の数々に耳を傾けてほしい。
Interview & Photo by Takazumi Hosaka
――1stアルバム『PLAYGROUND』をリリースした直後は自身が期待していたような反響が得られず、かなり凹んでいたと語っていましたが、それを立て直すために自身が言いたいことを綴ったという2ndアルバム『Detox』をおよそ半年という短いスパンで発表しました。その後のMomくんの状況はいかがですか。
Mom:そうですね。たぶん僕の性格上、今もこの先もずっとモヤモヤしているんだろうなって思います(笑)。『Detox』を完成させた直後は確かに自分の中の何かが浄化されたような感覚があったんですけど、それをいざリリースすると、今度はある種の虚無感みたいなものも感じられて。もっともっと多くの人に聴かれたいという気持ちも一貫してありますし、全然まだまだ燻っている感じです(笑)。
――『Detox』リリース後の心境の変化について、もう少し具体的に教えてもらえますか。
Mom:浄化されたのはあくまでも自分の中の感情のことで。でも、『Detox』が世に出てからは、外からの出来事に対して球を打ち返したいという方向に向いてきたんです。曲を作りたいという衝動は変わらないんですけど、そのエネルギーのベクトルが変化していったというか。
――なるほど。
Mom:1stアルバム『PLAYGROUND』はリリックもサウンドも、あの当時のSoundCloud世代の空気感――チープだけどグッド・メロディで、ベッドルーム感もあるような――を取り込んで、それをどういう風に日本語詞でみせていくかっていうのをすごく意識していて。もちろんそれが当時の僕自身のやりたいことだったので、そこにウソはないんです。でも、自然と自分のパーソナルな部分とは少し距離を置いた作品になっていた。だから、『Detox』では逆に自分の中身を曝け出して歌ってしまおうと思ったんです。そこからさらに進んで、今は外に向かったっていう感じですね。一辺倒な方法論ではダメだなって思うんです。
――自分の創作意欲に忠実に従いつつ、一方ではもっと多くの人に聴かれたいという気持ちもある。そういった部分で葛藤が生まれたりはしないのでしょうか。
Mom:元々ポップな音楽が大好きなので、自分の中に築き上げてきたポップネスみたいなモノはある程度信じているんです。それは自分の声とか、ローファイな質感だったりに表れていると思うんですけど。意識的に「ポップにしよう」って考えながら作ることはあまりないですね。どちらかというと、そのポップネスを保ちながら、どこまで歪にゆがませられるか、みたいな方向に興味が向いてしまうんです。
――『Detox』リリース後、創作のエネルギーが自分の内から外へと方向転換したとのことですが、そうやって生まれたのが11月にリリースされた「マスク」と「ハッピーニュースペーパー」になるのでしょうか。
Mom:曲自体は『Detox』を作り上げた直後から書いているんですけど、たぶんこの先人に聴かせることはないようなモノばかりですね。別に完成度がどうこうっていう話ではないんですけど、世に出す必然性が見当たらないというか。『Detox』以降、そういうハードルを越えた曲がこの2曲です。
――「マスク」は人間の2面性のような部分を描くリリックが印象的です。
Mom:こういう人間の2面性みたいな部分って、たぶんみんなが持っているものだと思うんです。そういう当たり前なことをすごく大げさな表現を使って、ちょっと現実離れした感じというか、化け物チックに描いています。でも、切り取り方はあくまでフラットな目線にこだわっています。「怒り」や「悲しみ」「喜び」みたいに、特定の感情に振り切れるのって、「歌」として表現する場合すごく簡単だし一般的だと思うんです。そうじゃなくて、日々生活しているなかでみんな当たり前に捉えている、気づいていることだけど、あまり「歌」として表現されてないよなってことを歌いたいんです。
――こういったリリックのテーマはどうやって生まれるのでしょう。
Mom:このリリックは、フレーズ先行で出てきたような気がします。単純にループの部分ができて、そこに歌を乗っけていくうちにリリックも固まってきたというか。この曲に限らず、何か特定の出来事や明確なきっかけみたいなものはあまりなくて、閃くとパパっと完成させちゃうタイプなんです。もしくは何かあったとしても、記憶に残ってなかったり。
――MVに引っ張られている部分も大きいと思うのですが、リリックのテーマも込みで映画『ジョーカー』(原題:Joker)を想起してしまいます。
Mom:そうなんですよね。みんな「絶対そうでしょ」っていうのを前提で話してきます(笑)。
――でも、上映日とリリース日を考慮すると、影響を受けたっていうのは考えにくいですよね。
Mom:はい、全くの偶然です。ただ、何ていうんだろう、「マスク」で描いているような、じっとりとした少し嫌な空気感みたいなものが世界共通であると思っていて、それを反映した作品を発表できたことは嬉しく思います。音楽にしても映画にしても、「何にも伝えたいことがない」っていうような作品を否定する気はないけど、自分としては作りたくないんです。
――MVは同世代のクリエイターだというSekaiseifukuyametaさんが手がけています。彼とはどのようにして繋がったのでしょうか。
Mom:Sekaiseifukuyametaは映像作家としての名義で、僕はKUTOくんって呼んでるんですけど、1年くらい前にInstagramのDMでネット・ナンパされて(笑)。そういうのって少し怖いし、顔見えない人はあまり信用できないので、基本的に会わないんですけど、向こうの「絶対に僕と仲良くなれる」っていう熱量がすごくて。なんかファンタジーみたいな感じだったんですよね。だから、おもしろイベントとして1回会ってみてもいいかなって。それで一緒にハンバーガーを食べに行きました。彼、Instagramにおもしろい写真、画像をUPしているんですけど、本当にそのままの人間性というか(笑)。
Mom:MVはふたりでご飯行ったりしてガッツリ話し合いながらコンセプトを固めて。でも、実際の撮影はその場のノリみたいなものも大切にしていましたね。渋谷のハロウィンの映像も当初はなかったアイディアですし、土手のシーンは僕の地元なんですけど、最初に話し合ってた構図や撮り方とは大きく異なる画になりました。編集は僕の家に泊まり込みでやってもらって、KUTOくんの得意なエフェクトをいっぱい使ってもらって。
――「ハッピーニュースペーパー」のリリックはかなり皮肉が効いていますよね。
Mom:そうですね。日々の生活の中で感じるモヤモヤを綴ったというか。リリックは即興ではないですけど、フリースタイルみたいな感じでパンチラインを多めに意識して、結構ヒップホップのマナーに沿った作品になったと思います。
――「おめでとう人類/よくやったぞ人類」なんかは本当に強烈なラインですよね。
Mom:スケールがでかければでかいほど、残酷な歌になると思ったんですよね。普段生活をしている中で同世代の人たちを見ていると、あまり考えないというか、ずっと無邪気なままだなって思うことがあって。例えばSNSのタイムラインとかもそうですけど、流れてきた情報に対して疑問を持ったり違和感を感じたりしてないんじゃないかって。気持ちはわかるんですけど、ワンテンポ置いて、自分の頭で考える。そして自分の意見を吐き出す。それをやらない人が多いなって思うんです。そういう能天気さが怖く感じられて、このままだとリリックにあるようにめちゃくちゃなことが起きちゃうかもしれないよって。
――「襲う大怪獣ガメラ/インデペンデンスデイ」ですもんね。
Mom:振れ幅が大きいほうが響くかなって思って(笑)。
――流れてくる情報や、自分の置かれている状況に対して思考停止している人へ警鐘を鳴らしていると。
Mom:あと、最近のSNSには揚げ足を取る風潮や、息苦しさも蔓延していると思うんです。でも、それを当たり前だと思わないことが重要なんじゃないかなって。そういう状況に対して、「おかしくない?」っていう気づきを与えられような曲が作りたいと思っていたので、「ハッピーニュースペーパー」がそういう風に機能してくれたら嬉しいです。
――DTMソフトを「GarageBand」から「Logic」に変更したそうですが、そういった環境の変化は作品に影響していると思いますか?
Mom:ソフトが変わっただけで、基本的には一緒ですね。音はクリアになったなって思いますけど。ただ、以前はGarageBandのローファイな質感を活かした作品作りをしていたんですけど、今はもうローファイっていうのが形骸化しているように感じていて。サウンド面でも映像面でも、表面的なモノが溢れているなと。なので、僕はもういいかなって。そういう音像や雰囲気ではなく、今は真っ向勝負でおもしろいビートを作りたいですね。
――それこそ「マスク」なんかはベース・ミュージック的ですよね。フューチャー・ベースの要素も感じられます。
Mom:はい。これまでの自分ではあまりやったことのないサウンドに挑戦できました。
――では、今後の展望については?
Mom:僕はアルバムっていうフォーマットが大好きなので、完全にそこへ向けて制作を進めています。今の時点で7割〜8割できているんですが、いつもここからが長いので、まだ読めない部分が多いですね。曲もコンスタントに作っているので、これからどういう感じに変わっていくのか、楽しみにしていてもらえると僕も嬉しいです。
――Twitterでは「期待を裏切りすぎて」と言っていましたよね。
Mom:僕、いじわるなんですよね。性根が悪い(笑)。人から思われてるであろう自分像みたいなものを壊したくなっちゃうんです。あとは単純にみんなを驚かせたいという気持ちもありますし。
期待を良い意味で裏切りすぎて逆にみんな俺のこと愛くるしく感じちゃうみたいな、またやってるよみたいな、そういう味わいある関係性作っていきたいですよね。
— Mom(マム) (@karibe_mom) November 29, 2019
――何ていうか、損な性格ですよね(笑)。人から求められるキャラクターを演じたり、流行りのサウンドを素直に取り入れたりした方が楽なはずだけど、それができない。
Mom:すごく飽きっぽくて。常にフレッシュなことをしていたい。それが僕が音楽を作る上で一番大事な部分なんです。流行りのサウンドに関しては、それが今まで聴いたこともないようなインパクトがあったり、逆にリヴァイバルでも今の時代にすごくシックリきたら飛びつくと思います。そういう肌感覚みたいなものは大事にしたいと考えていて。でも、「どこそこのシーンで流行ってる」みたいな、小さいトレンドのようなものにはあまり興味が沸かないんですよね。
――今後の作品について、リリックはどういう方向を向いていると思いますか。
Mom:今回と同じく一貫して外に向いていると思います。世の中の出来事に対して沸いてきた自分の感情を元にしつつも、しっかりと物語を描くことが。めっちゃいいアルバムになると思います(笑)。
――それは楽しみです。次の作品へのヒントを掴みたいので、最近のMomくんのアンテナに引っかかった作品やアーティストがいれば教えてもらいたいです。
Mom:JPEGMAFIAですね。彼の新しいアルバム(『All My Heroes Are Cornballs』)にはめっちゃ喰らいました。あと、世間的にはあまり評価が高くないみたいですけど、Bon Iverの新作(『I, I』)も個人的にはすごく好きですね。共通言語として、コラージュ感覚みたいなものが挙げられると思っていて。サンプリングっていう大きな文化の一歩先に進んでいるような気がするんです。
Mom:僕はなぜサンプリングに惹かれるんだろうっていうことを考えた時、軽薄さとか違和感みたいな部分が好きなんだなって。ジャズをサンプリングしてもジャズはやらない、メタルをサンプリングしてもメタルはやらない。それをより細かく、めちゃくちゃに刻むことで、言い方悪いけどすごく薄情な音楽になるんです。盛り上がったかと思えばいきなり落ちたり。そういうコラージュ感って、楽器を演奏するだけではできないと思うんですよね。それが今はすごくシックリくる。
――今でも制作にサンプリングの手法は取り入れていますか?
Mom:自分が弾いたギターのフレーズを刻んだり、自分の昔の曲から引っこ抜いてきたりはしていますね。昔作った曲の質感の違いみたいなものが逆におもしろかったりするので。色々試行錯誤しながら作っています。
――バンド編成でのライブ・パフォーマンスを控えていますが、いかがですか?
Mom:単純に気持ちいいですね。もう、D’Angeloになったつもりで歌ってます(笑)。当たり前ですけど、トラックに乗せて歌うのとは全然違いますし。自分の曲の中でギターの音がフィーチャーされてたり、バンド感のある曲やっぱり映えますよね。その場の高揚感で自分の歌も変わるし、いっぱい無駄な要素を入れたくなったりするんですよね。やっててすごく楽しいです。
【リリース情報】
Mom 『マスク』
Release Date:2019.11.06 (Wed.)
Label:Life Is Craft
Tracklist:
1. マスク
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Mom 『ハッピーニュースペーパー』
Release Date:2019.11.27 (Wed.)
Label:Life Is Craft
Tracklist:
1. ハッピーニュースペーパー