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INTERVIEW | Meg Bonus


謎多き新鋭が語る多彩な影響源、創作に対するスタンス

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2025.04.28

君島大空やSMTKを擁する国内重要レーベル〈APOLLO SOUNDS〉の新人として2024年に突如現れたMeg Bonusは、東京出身2005年生まれの野本慶によるソロプロジェクトだ。高校の軽音部から音楽制作を始め、様々な音楽をコラージュするように取り入れた独自の音楽性で注目を集めている。

10代最後のリリースとなった1stアルバム『New,man』は、自身のルーツかつヒーローであると語るKing Gnuやヨルシカから、Frank OceanをはじめとするオルタナティブR&Bに至るまで、幅広い影響を融合させた意欲作。徹底したテクスチャーへの意識と実験性を備えたポップネスという絶妙なバランス感覚は特筆に値するし、情景が浮かび上がる歌詞のセンスも光る。 2010年代以降の音楽を多くリファレンスとする感性は、まさに新世代の登場を感じさせる。

これまで謎多き存在だったが、Tyler, The Creatorのアパレルブランド〈GOLF WANG〉を着こなして取材場所にやってきた彼は、とにかく音楽が大好きな好青年だった。幅広い音楽知識と真摯な姿勢、創作への確固たる考えも備えた彼の大人びたポップセンスの源泉を探る充実のインタビューだ。​​​​​​​​​​​​​​​​

Interview & Text by Shunichi Mocomi
Transcription:Misuzu Yamashita
Photo by Shimizu Elio


King Gnu、ヨルシカ、black midi……契機となった音楽と、レーベル所属までの経緯

――音楽活動を始めたときのことを教えてください。

野本:高校で軽音楽部に入って、ギターを始めたのが最初ですね。1年の終わりにオリジナル曲を作らなくちゃいけないっていう決まりがあったので、それがきっかけでスマホで作曲を始めました。

――バンドではギター & ボーカル?

野本:ギターだけでした。ボーカルは別のメンバーがいて、キーボード、ギター、ドラムという編成の5人組。自分では歌いたくなく、どちらかというとボカロPになりたかったので、初音ミクも買いました。でも、自分のMacBookが対応していなくて音が出なかったんです(笑)。それで面倒になってしまって、「もう自分で歌おう」と。

――軽音楽部に入ったきっかけは?

野本:「音楽好きな友だちができるといいな」くらいで、深い理由はなかったです。一応小3から小6まで小学校の合唱団に入ってはいて、カラオケ行ったら「上手いね」って褒められたりはしましたけど。

――今の音楽性に繋がるような出会いを挙げるとしたら?

野本:中学2年生のときにKing Gnuとヨルシカを聴いたことがきっかけで、本格的に音楽を聴くようになりました。ちょうどそのくらいの時期に、日本のメジャーアーティストがストリーミングを解禁し始めたんです。それ以前のストリーミングには日本のメジャーアーティストの作品はほとんどなかったので、The WeekndやQueenなど海外のアーティストをなんとなく聴いてました。

でも、King Gnuとヨルシカに出会ってからはアルバム全体を通して聴くようになって、音楽に対する見方も変わりました。あと、高校生以降だとblack midiの『Hellfire』(2022年)が衝撃的でした。

――King Gnuとヨルシカに出会ったのはどういう流れなのでしょうか。

野本:どちらも流行っていたからです。King Gnuは“白日”から聴き始めましたし。それ以前から色々な音楽を聴いていましたが、今の音楽性のルーツには全然繋がっていないと思います。​​​​​​​​​​​​​​​​

――Meg Bonusは高校時代に出会ったという工藤八雲さんとのユニットとしてスタートしましたが、それはどういった経緯なのでしょうか。

野本:まず、高校の軽音部でオリジナル曲を作り始めて、作曲にハマったんです。それで本気で音楽をやろうと思ったんですけど、部活のメンバーだとどうしても歩幅に違いがあって。それでたまたま友人を通じて八雲と出会い、「彼なら一緒にやれるかも」と思いました。ただ、最初から僕が作詞作曲で、八雲にはライブでドラムを叩いてもらうというサポート的な関係だったんです。

それから〈APOLLO SOUNDS〉にデモを送って、リリースが決まったときに話し合い、とりあえずユニットとしてデビューすることになりました。でも、引き続き八雲は作詞作曲に関わることはなかったので、やはり僕のソロプロジェクトにしようという流れになりました。

――むしろソロになって本来のかたちに戻ったと。

野本:そうです。やってることはずっと変わってないですね。

――〈APOLLO SOUNDS〉にデモを送ったのはなぜですか?

野本:君島(大空)さんが大好きだったからですね(笑)。あと常田(大希)さんのDTMP(Daiki Tsuneta Millennium Parade)も超聴いてたし、八雲がクラクラ(CRCK/LCKS)めっちゃ好きだったりして。彼らの作品は全部〈APOLLO SOUNDS〉からのリリースだったので、憧れの存在でした。

――そのとき送ったデモは最初のEP『18PERSONAL』ですか?

野本:最初のEPに入ってる曲は全部送りました。ただ、当初EPには“mist”を入れる予定はなかったんです。特に自信があったので、他の作品に入れたいなと。でも、阿部(淳)さん(APOLLO SOUNDS代表)がすごく気に入ってくれたので、EPに収録することにしました。

――“mist”が特別な理由を教えてください。

野本:“mist”ができる前、スランプみたいな感じで曲が作れない期間が1年半〜2年くらいあったんです。最初にオリジナル曲を作ってから、満足いくものができなくなっちゃって。そんな中でなんとか“mist”を作り上げて、「あ、これだったら他人に聴かせられる」って思ったのを覚えています。

そこから一気にEPの曲たちができたので、“mist”は転機になった曲なんです。ただ振り返ってみると、今の自分だったら絶対やらない感じもするし、不思議な曲ですね。好きな曲だけど、あんまりライブとかでやる気が起きない。

――Radioheadにとっての“Creep”みたいな?

野本:まさに。そこまで求められてるわけではないですけど(笑)。

――『18PERSONAL』は反応も大きかったと思います。

野本:自分でもびっくりしました。SNSで反応して頂けたり、タワレコに並んでることすら夢見心地みたいな感じで。でも、そのときは驚きつつも、同時にそれに値するくらいの作品を作れたっていう自負もありました。

……とはいえ、自分のやりたいことは変わり続けるので、今聴くと「若いな〜」って思っちゃいますけど(笑)。


NewJeans、Jamie xxから受けた衝撃

――アートワークもご自身で手がけてますよね。「何これ?」と思ってよく見るとすごく奇妙な……。

野本:あれは唯一外に出せるかなってくらい上手くできたコラージュ作品だったんです。ちょうどいい具合にアングラ感というか、インターネットレーベル感みたいなものがありますよね。〈Orange Milk Records〉とか、ヴェイパーウェイヴ感というか。

――今回のアルバム『New,man』のアートワークはさらに不気味さが増しましたね。

野本:あれは本当に意味ないです。「意味がないことに意味がある」みたいなのもないです(笑)。

例えばPink Floydの牛(『原始心母(Atom Heart Mother)』)とかのヒプノシス(イギリスの伝説的なデザイン・アート集団)がデザインしたアートワークもあまり意味はなさそうだけど、インパクトはある。そんな風になればなと思いました。

――デザインするのが好きなんですか?

野本:Pinterestで画像を集めるのが趣味で。そうやって集めた素材をコラージュしていく感じです。

――音楽みたいな作り方ですね。

野本:本当にそうなんですよね。映像も同じような感じで、創作の手順が掴めればどれも似てるなって感じます。

――アルバムタイトルの『New,man』っていうのは、Randy Newmanからきてたり?

野本:それもありますが、頭の中に「ニューマン」っていうワードが出てきたんですよ。言葉の響きがよくて。……たぶん新宿のNEWoManからきてるんですけど(笑)。

で、改めて「ニューマン」っていう言葉について考え始めたら、Randy Newmanがいるじゃんって思って。自分の音楽の原体験がディズニーの音楽だったこともあり、1stアルバムにディズニー作品を数多く手がけている彼の名前を冠するのがドラマチックに思えたし、「新しい男性」だし、いろいろピタッとハマりました。カンマを付けたのも意味を広げるためです。

――アルバム『New,man』ができた経緯やコンセプトをお聞きしたいです。

野本:10代最後のアルバムだし、今まで聴いてきた10年代の邦ロックから、エクスペリメンタルなものまで、全部ごちゃ混ぜにしようっていうコンセプトでした。だからリファレンスも1曲あたり10曲〜20曲ずつぐらいあります。

途中までは英詞のR&Bテイストな曲たちでまとめようと思ってたんですけど、(制作期間が)半年くらいあったので、R&Bじゃないタームにも入っちゃって……。

――そのR&Bというのは、どの辺りを指していますか?

野本:Frank OceanやChildish Gambino、SZAとか、Odd Future周辺などですね。あと小袋成彬さんもめっちゃ好きで聴いてました。元々は小袋さんがソロの前にやられていたN.O.R.K.の感じをやりたいなとも思っていて。

――オーセンティックなR&Bというよりは、2010年代以降のオルタナティブR&Bみたいな。

野本:とはいえ、Stevie Wonderとかもめっちゃ聴いてるし、影響を受けた範囲はもっと広いかもしれないです。あと、R&Bって言っていいか分からないんですけど、PinkPantheressとかもめっちゃ好きで。

――なるほど、確かに『New,man』の全体的な軽やかな感じは、PinkPantheressにも通ずる要素かもしれません。

野本:低域を詰め込みすぎないようにしていたのが、全体のムードに効いてるかもしれないです。​​​​​​​​​​​​​​​​というのも、NewJeansのさいたまスーパーアリーナでのライブ(『Coke STUDIO LIVE 2024』10月19日、20日)がすごくデカかったんですよね。“Bubble Gum”でバンドからトラックに切り替わった瞬間、ベースがボンッて響いて「やばっ」って思いました。それまでライブは絶対バンド派だったんですけど、トラックも作り込むとこんなにカッコいいんだって。NewJeansって他のK-POPグループより軽めのサウンドなのに、ヤオヤ(TR-808)が鳴ったときの衝撃がすごくて。

その後、Jamie xxの来日公演(at 豊洲PIT、11月27日)を観て、完全にトラックのカッコよさにハマっちゃいました。ベースの音色選びも大事だなって。

野本:実は9月頃に“For?”、“?Rof”、“Jet”、“Vitaminc”などR&Bテイストの曲をレーベルに提出していたんですけど、この2つのライブの影響で全部作り直したんです。最初はピアノとエレピベースだったのが、全部シンベとシンセになりました。


コラージュ的手法で作り上げた、日記のようなアルバム

――新しいものをどんどん吸収しながら作ったんですね。

野本:昔から好きなものを入れようとしてるけど、実際に音像として表れてるのは直前に聴いていたものかもしれないです。だから日記みたいなんですよね。

ミックスを始める頃には「この曲なんだっけ?」っていう感覚にもなります。ラストの“魔法”はミックスの3日前とかにできたので、そのままのヴァイブスでいけたんですけど、昔作った曲をもう一度ミックスし直すときは、もう自分のモードが変わっていたり。

――普段、音楽はどういう方法でディグっていますか?

野本:今回のアルバム制作に際して、Spotifyのプレミアム会員になったんですけど、音楽の世界がすごく広がりました。それまで別のストリーミングを使ってたんですけど、SpotifyはUIが使いやすいし、レコメンド機能も優れていると思います。SNSとかで音楽探すのもいいけど打率は3割くらいで、Spotifyだと9割くらいの感覚。アルバムが日記みたいになったのは、Spotifyの影響もあると思います。

――大量のリファレンスをどのようにして音楽に落とし込んでいるのでしょうか。

野本:テクスチャーとして取り入れていると思います。「こういう曲を作りたい」っていうより、なんとなく曲の全体のイメージがあって、そこにいろんな曲のテクスチャーをコラージュしていくみたいな作り方かもしれない。だからこそリファレンスにもすごく気を遣ってます。

音楽はいろんなものを肯定したいし、否定はしたくないんですけど、それでも音楽的にダサいテクスチャーみたいなものは存在しちゃうから。古く聴こえちゃうものとかは選ばないようにしました。

――具体的には?

野本:“喝采”のサックスの音色は特に気をつけましたね。全部Spliceのサンプル音源なんですけど。

以前、小袋さんがインタビューで、サックスが前に出てくると必殺技みたいになってしまうという趣旨のことを話していたんですけど、それはすごくわかります。サックスは特に古くなりがちだと思います。だから、そうならないようにSam Gendelとか最近のサックス奏者を参考にして、どうにか80年代とかの甘い感じにならないようにしたいとは思ってましたね。エンジニアの向(啓介)さんは元々サックスを吹いてた人だから、詳しくて助かりました。

あと“喝采”のイントロの部分で、ちょっと前にローファイヒップホップで流行っていたような音作りを試してみたんです。ハイ(高音域)がカットされてる感じというか。でも、実際やってみたら「古っ」て感じがしちゃって。特に2016〜17年くらいのあのテクスチャーを今やると厳しいなって思っちゃう。

――あと10年待った方がいいみたいな感じですよね。

野本:その通りで、70〜80年代ぐらいまで古くなっちゃえば1周回って大丈夫になるんですけどね。

――ギターソロとかも難しいですよね。

野本:ほんとそうですね。下手したらマジで古くなりますね(笑)。

それでいうと、“魔法”とかはベースにこだわりました。ちょっと前にみんながBillie Eilishの真似をしてたような感じになるのは嫌だなと思って、Billieのロー(低音)を出すのではなく、FKA twigsみたいに暴力的な出し方にしようとか。そういうことを意識して。

……だから、Nujabesとかレジェンドって言われる人たちの作品ってなんで全然古く感じないんだろうって考えるようにもなりました。結論は出てないですけど。

――古くならないのが音像を作っていく上でポイントだった?

野本:「古くならない」は若干ニュアンスが違うような気もします……。自分が新しいと思っているものも、いずれは「あの頃はよかった」って絶対なると思うから、それに対して抵抗しているつもりはないけど、今この時点でカッコいいと思えるものにしたい。今の僕の場合、それは平成の匂いがしないようなものだったりするから、それを避けた、ぐらいのニュアンスかもしれないですね。

――「新しい音楽を作りたい」というのとも違う?

野本:新しいっていうよりは、おもしろいことをやりたいなと思っています。というのも、Bandcampでエクスペリメンタルな音を掘っているうちに、「新しい音楽なんてあるのかな」って思っちゃって。

今、話題になるようなサウンドって、ほとんどがリバイバルじゃないですか。だから「新しい」っていう考え方自体が古くなっていて。これからはAIが音楽を作るだとか、結果ではなくプロセス的な部分に「新しさ」みたいな視点が移っていくのかなぁとすら思ってます。

――ギターが入ってる曲もありますが、ギターを入れる際にはどのようなことを考えていますか?

野本:今の気分的に、ギターはあまり入れたくないんです。テクスチャーとしてだったらいいけど、ストロークとかはあまり入れたくなかった。なので、Arto Lindsayとかを聴いて、曲とあまり関係ないようなギターを入れようと思ってました。

ギターが入ることによって曲が外に向く、つまりポップになるっていう話を阿部さんともしていて。“喝采”の場合ははちゃんとリード曲として外に向けようと思ったので、ギターを入れました。

――Meg Bonusの曲ってエクスペリメンタルに思えて、実は素直にポップな歌でもあるという印象は確かにあります。

野本:ポップスは元々好きだったので。音楽好きな人が「これ聴いてる人はミーハー」って言うような偏見が僕には全然なくて、ポップなものを作るのも楽しいんです。それと同時にエクスペリメンタルな音楽も好きだし、最近そういったタイプの作品をよく聴いてるので、自然と(エクスペリメンタルな要素も)入ってくる。ピアノとギターとドラムとボーカルだけの曲とか、音楽通が「つまんない」って言いそうな曲も全然作ってみたいです。​​​​​​​​​​​​​​​​

――他にギターを入れた曲だと?

野本:“春になれ”の最後のギターも最初入れる予定じゃなかったけど、あれが入るだけで難解さがなくなって、外向きなものになるかなと。だから、ギターは好きだからっていうよりは必要に応じて入れるっていう感じです。

――ギターは戦略的だとすると、ピアノも同じ感じですか?

野本:音的にはピアノの方が好きですね。ピアノとサックスは入れたいと思って入れてます。でも、全部打ち込みやサンプル音源だから、ライブで弾けって言われてもできない。そこに憧れみたいなものがあるのかも。逆にギターはある程度弾けるからこそ想像の範囲内で収まりがちで、だからおもしろくないって思っちゃうのかもしれません。

――ピアノとサックスが好きなのはジャズの影響だったり?

野本:John Zornみたいなフリージャズは好きです。DTMPを追いかけていたときに、阿部さんがDTMPをNaked City(John Zorn率いるアバンギャルドミュージックグループ)に喩えていて、それがきっかけで聴き始めました。

今思えば、RadioheadとかFlying Lotusも常田さんの影響で好きになったし、君島さんも新井(和輝)さん(King Gnuや君島大空合奏形態などでも活躍)と一緒にやっていたから知ったのかも。この前もKing Gnuのライブに行って、前方でずっと叫んでました。それくらい自分にとってはヒーロー的存在で、実際にお会いできたら泣いちゃうかも(笑)。


朝5時までかかった椿三期とのレコーディング

――野本さんの作品は構成が入り組んでるというか、2曲で1曲みたいな曲が多いですよね。わかりやすいのだと“Chicago→narita”や“2019,2025”。あと、“魔法”も後半で雰囲気がガラッと変わりますね。

野本:インスト曲とかも入れたいけど、アルバム全体の構成を考えたときに難しそうだなって思って。だからインタールードとして前後を繋げつつ、自分の趣向も入れたっていう感じですね。

――1曲目の“New,man”はゴスペルからトライバルというかインダストリアルなハウスという流れで、音像もクラブ寄りだしてんこ盛りですね。

野本:(2曲目の)“喝采”のイントロが最初4つ打ちだったんです。なので、そこに自然と繋げようと思ったんですよね。もちろんこれはJamie xxの影響です(笑)。

でも、いきなりハウスから始まるとアルバムとしての収拾はつかなくなるかなと思って変更しました。“New,man”がゴスペルっぽい感じで始まるのは、ちょうどKanye West(現Ye)を聴き返していたからですね。

――もしかして“Chicago→narita”も、Kanyeの出身地であることと関係ありますか?

野本:あります! 行ったことはないのですが、Chance The RapperやJamila Woodsなどなど、シカゴのシーンも好きでよく聴いていたので。“Chicago→narita”は“Jet”の後なので、飛行機でシカゴに行って、そこから成田に帰ってきたっていうイメージ。本当は“narita→Chicago”も作る予定だったんですけど、間に合わなくて……。

――“For?”と“?Rof”にはどんな繋がりがあるのでしょうか。

野本:これは本来1曲の予定で、Tyler, The Creatorがいつもアルバムの10曲目でよくやるスプリットタイトル(“GONE, GONE / THANK YOU”など)にしたかったんです。でも、作っていくうちに曲間がなんとなく繋がってるだけになったので、スラッシュは取って、“For?”の反対側から読んで“?Rof”にしました。これも全く意味はないです。

――曲名はあんまり意味ないんですね。

野本:なんとなくその場のノリだけで、ほとんど意味はないです。“Jet”は空飛んでるっぽいから、“喝采”は作りながら浮かんできたから、“Vitaminc”は曲名を考えてるときにパソコン閉じたらビタミンCのサプリの袋が見えたから。

――“tempura”は?

野本:アルバムの中で個人的に一番好きな曲が“tempura”なんです。浮遊感あるサウンドに、日本語を上手く乗せられたと思っていて。本当は“Jet”でそれをやりたかったけど、難しくて英詞にしたんです。でも“tempura”は自分の中で革命が起きたくらい上手くいって。なんていうか、これは日本人にとって大事な曲になるだろうと思って……。

――“SUKIYAKI”(坂本九“上を向いて歩こう”の英題)のオマージュみたいな……?

野本:そうです(笑)。“SUKIYAKI”の次にいい歌なんじゃないかと思って“tempura”にしました。今思えば、天ぷらが日本発祥なのかわからないんですけど……。

――調べないでおきましょう。“春になれ”もいい歌だなと感じました。後半の椿三期(元ろくようび)さんのドラムがすごいですよね。

野本:(椿三期からは)パンクを感じますよね。おもしろいし、人柄もいい。それが全部ドラムに出てる感じ。

実は最初はドラムを入れるつもりじゃなかったんですけど、エンジニアの向さんに「劇伴のデモみたい」って言われて、このまま出せないなと思ったんです。スタジオでの楽器レコーディングは初めてだったので悩みましたが、青春っぽい曲だから同世代の若くてヴァイブスのいい人に叩いてもらいたいなと。

それで以前、阿部さん繋がりで少しだけ喋ったことがあった椿三期を思い出したんです。石若(駿)さんの弟子でもあるし、ヴァイブスもいい感じだったので、お願いすることにしました。最初はスネアの位置などを軽く指示してたんですけど、途中から「あまり言わない方がいいかも」となり、最終的には「自由に叩いていいよ」と伝えました。30テイクぐらい重ねていくうちにどんどんいい感じになってきて、結局朝5時までかかったんですけど、合間にご飯食べたり全然関係ない時間もあって。最終的にそういうヴァイブスも全部出ていて、本当に入ってもらってよかったです。これからもお願いしたいですね。

――曲聴いててめちゃくちゃびっくりしました。椿三期さんはライブもすさまじいですよね。

野本:三期と昔からやってる人は最初のハイハットだけで「三期だ」ってわかるらしいです。ドラマーは自分の音を特徴づけるのが難しいのに、彼のプレイは一聴してわかるのがすごいなと思います。​​​​​​​​​​​​​​​​


歌詞へのこだわり、固有名詞の難しさ

――“春になれ”は歌詞もいいですね。

野本:これも歌詞が上手くできたなって思います。ずっと春の情景の散文詩がいっぱい連なってる感じです。自分にとって一番の作詞家は、くるりの岸田さん(岸田繁)で、あの感じも出てるかなと思います。

宇多田ヒカルさんもそうなんですけど、全部情景が浮かんでくるというか、わかりやすいのに詩的。それでいて固有名詞の狙いすぎ感もない。くるりの岸田さんはその究極系だと思います。

――確かに《メール無視して/ネトフリでも観て》はここ数年で最も優れた固有名詞の使い方だと思います。

野本:ですよね! 「ネトフリ」って聞いた瞬間に歌詞に入り込んじゃいますよね。

――歌詞へのこだわりも強いですね。

野本:それは一番気をつけてるかもしれない。音のテクスチャーと同じ感覚ですね。難しすぎるとそれはそれで狙いすぎ感があるんですよね。

あと、君島さんや長谷川白紙さんに似ていると言ってもらえることもあるんですけど、似てるのは音のコラージュの仕方だけな気がしています。君島さんと白紙さんは個人的に好きすぎるので、意識的に似ないように避けてる部分もあります。

――そもそも野本さんはギタリストではないですもんね。

野本:そうなんです。ギターは好きだけど、君島さん的な愛情はないと思います。

――その違いは歌詞にも表れてるってことですね。

野本:歌詞にこそ一番表れているかもしれないですね。白紙さんも君島さんもどちらも個人的な歌詞だと思います。逆に大衆に向きすぎると、さっきお話したような固有名詞の難しさにぶつかるし、その中間を行きたい。やっぱ固有名詞を使うのは難しいですね。今まで1回も使ってないかもしれないです。​​​​​​​​​​​​​​​​

――歌詞もコラージュ的な作り方ですか?

野本:僕はあんまり長い文章は読めないけど詩集は読むんです。いつもよさげなフレーズができたらメモに書き留めていて、そこから連想することが多いかもしれない。いつもメモの中に4行くらいの詩がいっぱいあるから、それをつなげていく感じですね。

――そういえば、“2019,2025”ってなんですか?

野本:これは一番意味がある曲名かもしれないです。初めて音楽で衝撃を受けた2019年と今年2025年のことです。

2019年の中2くらいのとき、STUDIO COASTでヨルシカのライブを観たときに、ぼんやりと「音楽やりたいなぁ」って思ったんですよ。なので、喜びに溢れてる感じのアンビエントにしました。

――最初の話に戻ってきましたね。

野本:おもしろいことをしたいという上で、毎回ルーツに立ち帰るのも意外に重要だと思います。その時期にハマっていた音楽を聴くとやる気が出ます。

――音楽理論などを勉強したりはするんですか?

野本:実は音大に進学もしたんですけど、すぐに辞めちゃいました。声楽科だったんですけど、先輩たちがすごすぎて。自分みたいな人間はここにいるべきじゃないって思いました。なので、理論的な部分もマジで苦手ですね。この前サポートの人に楽譜を渡したら、キーから全部間違えてたらしくて、「耳コピした方が早かったよ」って言われてしまって……(笑)。

――ライブでは以前、ベースにMarty Holoubekさんが参加されていたみたいですね。これはどういった経緯で?

野本:自分からの希望で実現しました。石若さんのライブでDJをしていたMartyさんに、阿部さんが「Meg Bonusっていう新人の子なんだけど、よかったらサポートやってくれない?」みたいに紹介してくれて。音源も聴かずに「いいよ!」って即答してくれました。

――6月にはアルバムのリリースパーティとして、初のワンマンも開催予定とのことですが、ライブの見どころは?

野本:バンドでもトラックでもカッコいいパフォーマンスができると思います。アルバムの楽曲がどうやってアレンジされるのか、楽しみにしていてほしいです。あと、DJをDos Monosの没さんにお願いしました。

――最後に、「Meg Bonus」ってなんですか?

野本:雪印のコーヒーが好きで、メグミルクのMegと、「給料(ボーナス)でメグミルク買えたらいいな」っていうのでMeg Bonusです(笑)。


【リリース情報】


Meg Bonus 『New,man』
Release Date:2025.04.09 (Wed.)
Label:APOLLO SOUNDS
Tracklist:
01. New,man
02. 喝采
03. Vitaminc
04. For?
05. ?Rof
06. Jet
07. Chicago→narita
08. tempura
09. 春になれ
10. 2019,2025
11. 魔法

配信/購入リンク


【イベント情報】


『Meg Bonus 1stアルバムリリースパーティ “broccoli”』
日時:2025年6月13日(金)OPEN 19:00 / START 19:45
会場:東京・青山 月見ル君想フ
料金:ADV. ¥3,500 / DOOR ¥4,000 / 学割 ¥2,000(各1D代別途)
出演:
Meg Bonus(Solo + Band Set)

[BAND MEMBER]
野本慶(Vo., Gt., etc)
小金丸慧(Gt.)
高橋佳輝(Ba.)
椿三期(Dr.)

[DJ]
没 aka NGS

※オールスタンディング

チケット詳細(e+)

■Meg Bonus:Instagram / X


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