FEATURE

INTERVIEW | 鶴 The Crane


SIRUP、ALIともコラボする台湾の俊英、これまでの歩みと世界を見据えた野心

2026.05.28

台湾の気鋭シンガーソングライター/プロデューサー、鶴 The Crane(以下、The Crane)。Frank Ocean以降のオルタナティブR&Bに呼応する感性と、インディロックやポストロック、エレクトロニックミュージックを横断するサウンドで注目を集める彼は、これまでに発表してきた2作のアルバムで共に台湾の権威ある音楽賞『金曲奨(Golden Melody Awards)』『金音創作奨(Golden Indie Music Awards)』にてノミネート、受賞し、確固たる地位を築いた。また、日本ではSIRUPやALIとのコラボレーションでその歌声に魅了された人も多いだろう。

去る4月、そんなThe Craneが都市型フェスティバル『SYNCHRONICITY』にて日本初パフォーマンスを行った。Spincoasterでは同タイミングでインタビューを実施。音楽に目覚めた学生時代から、The Craneプロジェクト始動の経緯、台湾R&Bシーンの変化、そして世界を見据えたビジョンについて、じっくりと語ってもらった。

Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by EARTHTONE team


バンドマンからThe Craneへ、音楽的バックグラウンドとキャリアの変遷

――以前インタビューした際、ポケモンが大好きだとおっしゃっていました。渋谷にはポケモンセンターがありますが、行きましたか?

The Crane:東京には年に2〜3回来るのですが、毎回訪れます。どこだったかは覚えていませんが、東京のポケモンセンターには3〜4ヶ所行ったと思います。それから大阪の店舗にも行きました。

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――ポケモンセンター以外で、日本のお気に入りスポットを挙げるとしたら?

The Crane:好きな場所がたくさんあって悩みます。渋谷もすごく好きだし、秋葉原も最高。特定の場所で言えば六本木の21_21 DESIGN SIGHTがお気に入りです。

――秋葉原もお好きということは、日本のアニメ、漫画、ゲームなどのカルチャーにも興味がありますか?

The Crane:今はそこまで多くのアニメを観ているわけではないのですが、子供の頃は大好きでした。例えば『遊戯王』『ワンピース』『HUNTER×HUNTER』……そして大人になってから一番好きなのは『進撃の巨人』です。それと、ゲームもたくさんやるし、漫画も大好きです。それから(ゲームの)『ぽこ あ ポケモン』はすごくいいですね。今年最高のゲームです。

――あなたは高校時代からバンドで演奏されていたそうですが、そもそも音楽を始めるきっかけは?

The Crane:私が通っていた高校にはポッピングみたいなダンスをする部活もあれば、ロック音楽、ポップスの歌のための部活もあって、私はその中のロック音楽やメタルに近い部活に所属していました。そこでたくさんの音楽、特にロック音楽を聴くようになりました。たぶん、高校1〜2年生の期間で膨大な数のバンドを聴いたと思います。自分が本当に音楽が大好きなんだということに気づきました。

それから大人になって大学に入るまでに、自分で曲を書き、音楽を作り始めました。それ以来、それが私の人生の目標のようになり、何をしようと、どんな仕事に就こうと、「音楽を作り続けたい」と思うようになったんです。

――どのようなバンド、アーティストに惹かれましたか?

The Crane:人生にはいろんな時期や時代があると思うんです。ある年齢のときにはある種類の音楽を聴いて、大人になるとまた別の音楽を聴くようになる。私もそんな感じでした。高校時代によく聴いていたのは、たとえばAvenged SevenfoldとかAC/DC、Megadeth、Lamb of Godなどですね。でも、当時一番のお気に入りはRadioheadで、今でもずっと大好きです。

それから成長して、高校3年生くらいになると、みんなポストロックやマスロックを聴き始めました。その後、別のバンドに在籍していたときには、もっとエレクトロニックな音楽に傾倒していたこともあります。

――今のあなたの音楽性に影響を及ぼしているバンドやアーティストは?

The Crane:長年にわたって様々な音楽を聴きながら、多くの自作曲を書いてきました。いろんなジャンルに挑戦していくうちに、「どれが自分に一番合っているのか」「自分は何が得意なのか」「自分の声を活かす方法」について考えるようになりました。だから、ほとんどの人にとって「The Crane」はR&Bのプロジェクトだと思われているかもしれませんが、実際にはオルタナティブロックやインディロックからの影響もあります。過去の自分の一部も残しつつ、自分の得意なこと、自分の声が一番良く響くスタイルを見つけるために、時代と共に変化しているのだと思います。それが私がずっと探し求めてきたものです。

――以前、The Other(他者)というバンドで活動していましたよね。バンドからソロプロジェクトへと以降した経緯を教えてください。

The Crane:なぜなら私は自己中心的で、独裁者だからです(笑)。すべてを自分で決めて、自分の音楽をコントロールしたいんです。違う立場にいると、感じ方も違います。それは誰にとっても言えることだと思います。The Otherに在籍していたとき、私はキーボーディストであり、半分プロデューサーのような役割でした。だからバンドの他のメンバーの意見を聞こうと努めましたし、何を作るか、曲にどう変化を加えるかについて話し合っていました。

The Crane:曲のタイトルをどうするか、歌詞は何をテーマに書くかなど。学校のチーム課題みたいな感じですよね。みんなの前で何かを発表しなきゃいけない、みたいな。バンド時代のそういった経験を経て、他のミュージシャンとどうコミュニケーションを取るかについて多くを学んだと思います。そしてその後、別にやりたいことができました。それが「The Crane」です。

――あなたはドラムもプレイできるんですよね?

The Crane:それは間違いです。確か、一部のWEBメディアには私がドラマーだと書いてあるんですよね。でも違います。1回だけドラムの前に座って、スネアをちょっと叩いてトークしたことがあって、たぶんそのせいです。ただふざけて遊んでいただけなのに、それが誤って伝わってしまったんだと思います。


「期待に応えること」と「新しい表現」のバランス間隔

――2022年リリースの1stアルバム『TALENT』は、台湾の主要音楽賞にノミネート/受賞されるなど高い評価を受けました。この成功は、以降のあなたの活動にどのような影響を及ぼしましたか?

The Crane:キャリアがビジネスになりました。だから、他のアーティストへの楽曲提供やセッションミュージシャンなどの仕事を辞めて、自分の活動に集中して、より真剣に取り組むようになりました。もちろん、2つの賞のおかげでもありますし、台湾のオーディエンスに認知され始めたことが大きかったです。

――大きな注目を集めることで、プレッシャーを感じることはありますか?

The Crane:私自身としては、まだ成長したいし、広がっていきたい。グローバルに活躍したいし、日本とか香港、シンガポール、アメリカやヨーロッパみたいな他の場所でもショーをしたい。だから、新しいジャンルの音楽だったり映像だったり、おもしろいことをたくさん試してみたい。もっと挑戦したいんです。

でもその一方で、すでに自分を好きでいてくれるオーディエンスのことも大事にしなきゃいけない。だから、「ファンのためにこれまでと同じような音楽を作り続けるべきなのか」「それとも新しいことを試すべきなのか」といったバランスは、ずっと課題です。私にとってのプレッシャーのひとつはそこですね。

――昨年リリースした2ndアルバム『Same Stories, Different Narratives』はどのようにして生まれた作品でしょうか。テーマやコンセプトがあれば教えてください。

The Crane:前作『TALENT』は、私が生きてきた数年間を綴った日記のような作品だったんです。家族のこと、人間関係のこと、そして私がどのように育ってきたかについて綴りました。一方の2ndアルバム(『Same Stories, Different Narratives』)では、逆に新しい世界を作り出そうとしました。最初に完成させた“VILLAIN”という曲がきっかけです。

“Villain”を作った後、「新しい人物、新しいキャラクターを作って、彼の声を通して語ってみてはどうだろう?」と思ったんです。もうひとりの自分、つまりオルターエゴ。このキャラクターも「The Crane」という名前ですが、曲名通り私の悪役(ヴィラン)という側面を持っています。そして、このキャラクターを1970年代に配置し、彼の声を通して語ってみたらどうなるだろうって思ったんです。

また、アナログレコードを作ったんですけど、そのパッケージの中にはたくさんの写真や小さなアイテムを入れています。例えば、このキャラクターの日記や、歌詞、フォトカードなど。それらを見ることで物語がパズルのように読み解けるようになっています。「この人物は何者なんだろう」となり、聴き進めていくと、「あぁ、これは過去の話なんだ」とわかる。この人物は1970年代に生きているんです。


同じ物語なのに異なる解釈──2ndアルバム制作背景

――1曲目“Same Stories”では「心の安らぎ/平穏」を求める様が綴られていたり、3曲目の“DISEASE”ではSNSやデジタル社会からの逃避を歌いつつ、同時に承認欲求を完全には手放せない自分の姿も描かれています。

The Crane:アルバムは全体を通して、主人公が平穏を探そうとしている話になっています。アルバムからの先行シングル“DISEASE”もそうで、SNSやデジタル社会みたいなものについても言及しつつ、自身の内面の不安についても歌っています。

――4曲目の“TRUST”では「I wasn’t like this before the end of last April(去年の4月末まではこんな状態じゃなかったのに)」と歌っています。物語というにはあまりにも生々しいリアリティを感じさせます。

The Crane:“TRUST”は憎しみや裏切りについての曲。ここで描かれている出来事は、現実だったりフィクションだったり、その境界線は非常に曖昧です。でも、ここで歌っている感情は間違いなく本物です。

――アルバムは“Same Story”で始まり、“Different Narrative”で終わります。この『Same Stories, Different Narratives』というタイトルにはどのような思いが込められているのでしょうか。

このアルバムは、誰かと喧嘩したり、何かについて意見が食い違ったときの話なんです。それを友だちに話すと、同じ物語なのに異なる解釈(Narratives)になるということ。あなたの側から見ればあなたが善人で、私の側から見れば私が善人になる、というように。

世の中には、解決できない、修復できないこともあると思うんです。それはただそこに存在し、私たちは人生の中でそれを受け入れるしかない。それがこのアルバムのインスピレーションになりました。

世界中には、過去2000年……あるいは4000年以上前から、数多くの映画や小説、神話が存在しています。例えばラブストーリーで言えば、どのラブストーリーも大体同じようなものです。映画の中や私たちの現実の生活のように、ほんの少しずつ異なるだけです。ラブストーリーも、憎しみや裏切りに関する物語も、どこか似ているところがあると思います。つまり、同じ物語でありながら異なる形をしている。そういった2つの理由から、アルバムを『Same Stories, Different Narratives』と名付けました。

――ネガティブな感情を作品として昇華することで、心が軽くなったりすることはありますか?

The Crane:いいえ、嫌いな人は嫌いなままです(笑)。ただ、それを美しく見せようとしているんです。それも人生の一段階だと思うし、ただ受け入れて、そこに置いておこうとしている。そして、何かいいものとして残しておきたい。

――サウンド的にはよりジャンルの幅が広がったように感じました。サウンド面で何か意識したことはありますか?

The Crane:プロダクション面は常に改善し続けてきたと思います。その一例として、『Same Stories, Different Narratives』の制作では、ランダムに映像を選んで、ひとつのディスプレイでそれを流しながら、もうひとつのディスプレイで音楽を作るということを試みました。確か、Kanye Westも同じような制作方法をしていたと話していたはずです。

例えば片方の画面でウォン・カーウァイの映画を流しながら、それに合わせて音楽を作り、映像と合っているかどうかを聴いて確かめる。それが音楽制作の助けになりました。映像を観ながら制作することで、まるでひとつの物語のように響くんです。


台湾の音楽が世界から注目されるためには

――現在は新曲を制作中とのことですが、どのような作品になりそうですか?

The Crane:これまでと違うのは、そこまで親しくないミュージシャンと積極的に仕事をしている点です。他の素晴らしいアーティストやミュージシャンたちと、新しい音楽の方向性についてブレインストーミングをする時期に来ていると思っていて。今の私のステージにおいては、他の人たちと仕事をすることもプラスになると思っています。

――現在の台湾のR&B/ヒップホップシーンについても教えてください。あなたの目にはどのように映っていますか?

The Crane:2020年頃にThe Craneのプロジェクトをスタートさせた理由のひとつは、自分が求めているようなサウンドを作っているR&Bやヒップホップのアーティストが、あまりいなかったから。でも、この数年で、そういった音楽シーンはどんどんおもしろくなってきています。

最初は、自分が好きでよく聴いていたけど、当時の台湾には存在しないサウンドを表現したかった。Frank OceanやTyler, The Creator、Daniel Caesar、Tom Mischみたいな音楽です。でも年月が経ち、そういったサウンドを鳴らすアーティストが増えてきました。

だから、私自身がどうしてもやりたいと思わない限り、もう同じようなものを作る必要はなくなったんです。この目標はすでに達成され、状況は良くなっていると思います。今はもっと新しいもの、あるいはもっと自分自身に正直なものを作ろうと努めています。それが今の目標のひとつです。

――では、アジア全域のなかで、台湾の音楽シーンが持つ強み、そして課題についてはどのように考えていますか?

The Crane:今の目標は、より多くの海外リスナーに届けることです。台湾の音楽シーンの特徴と言えるかもしれませんが、台湾の音楽で多くの人々に知られているのは、ずっと周杰倫(Jay Chou)のようなマンドポップ(中華圏のポップスの総称。C-POPとも呼ばれる)だけでした。

マンドポップは世界中どこであれ、北京語(一般的な中国語)を話すオーディエンスにしか届きません。今、日本にはJ-ROCKやJ-POP、アニメなどがあり、それが国際的なオーディエンスに届いていますし、韓国にはもちろんK-POPがあります。個人的には、台湾の音楽が世界から注目されるためには、少なくとも英語を少し取り入れて、他国の人たちとコミュニケーションを取ろうとする何かを作る必要があると思っています。

だからこそ、私は自分の音楽の中で、おおよそ70パーセントくらいを英語で歌うことを選びました。でも同時に、私の曲のほとんどには3〜4行の北京語の歌詞も入れていて、いつも聴いてくれるリスナーにも届くようにしています。

――日本での正式なライブは今回が初ですよね。どのようなパフォーマンスを予定しているか教えてください。

The Crane:SIRUPとのコラボ曲も歌う予定です。Geminiで日本語のMCの準備もしました。きっといいライブになると思います。


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