Text by Silent Trade
ナイジェリアのミュージック・シーンが世界に轟いています。人口2億人を超えるナイジェリアで、1000万人以上の居住者を抱える最大の文化都市、Lagosの名を冠した自身のアルバム『Made in Lagos』が第64回グラミー賞の「Best Global Music Album」にノミネートされているWizkid。同アルバム収録曲で同じナイジェリア出身のシンガー・Temsをフィーチャーした「Essence」も「Best Global Music Performance」にノミネートされるなど、名実ともに現代のナイジェリアを代表するアーティストです。
さらに2021年末にEd Sheeranを迎えた「Peru」をリリースしたFireboy DML、1月14日(金)にリリースされ、すでに高い評価を得ているFKA twigsの新作ミックステープ『CAPRISONGS』収録曲「jealousy」でフィーチャーされているRemaなどもナイジェリア出身。ヒット・チャートを眺めれば、どこかに彼の地を出自とするアーティストの名を目にすることが増えました。
ナイジェリアといえば「アフロビート」というジャンルを思い浮かべる人が多いかもしれません。ファンクやジャズの流れを汲むアフロビートの代表的なアーティストであるFela Kutiもナイジェリア出身です。60年代から70年代にかけて勃興したアフロビートに対し、前述したアーティストを中心とするナイジェリアやガーナの現代的な音楽シーンをアフロビーツ(英語表記で“AFROBEATS”)と呼び、区別していることはすかさず覚えておきたいポイントです。
アフロビーツはアメリカのヒップホップやR&Bといったジャンルからの影響を強く感じさせるエレクトロニック・ミュージックで、英語だけでなくヨルバ語による独特な歌いまわしも聴くことができます。連綿と受け継がれてきたリズムやメロディに新しい息吹を与えているかのような側面があるのも特徴。アフロポップやアフロフュージョン、アフロトラップ、アルテ(Alté)など、目まぐるしく更新されながら自由に音楽が弾けている様も実に刺激的です。
今回はそんなナイジェリアの音楽シーンから2022年にリリースされる新作、そして“とある共通点”をもとに3組をピックアップします。
2月4日(金)に待望のアルバム『Catch Me if You Can』をリリースするAdekunle Gold。先行曲の「Mercy」はゆるやかに情熱を湧き上がらせるような印象のミドルテンポなR&B。アフロポップらしさがにじみ出る歌いまわしや軽妙なビートが気持ちいいです。
WurlDが3月11日(金)にリリースする『My WorlD With U』からの先行トラック。徐々に熱を帯びていくようなビートとボーカルが聴きどころ。
祖国ナイジェリアの独立記念日をタイトルに配したBrowny PondisのデビューEP『OCTOBER FIRST』。Browny PondisとGemma Griffithsのボーカルの聴き心地がよく、縦横無尽に空間を縁取るようなベース & リズムを味わえる1曲です。
このようにナイジェリアを起点とするシーンからこれほどまでに多くのアーティストが世界のメインストリームに躍り出ているのは、もちろんその音楽的な注目度の高さもさることながら、それを後押しするプラットフォームの存在も欠かすことができません。
特にApple傘下の〈Platoon〉は南アフリカやガーナ、ナイジェリアといった国々のアーティストと契約し、音源制作のためのアドバンス資金の提供や流通、マーケティングのサポートを行い、その中から数々の逸材を輩出しています。ちなみに“とある共通点”と前述しましたが、今回ご紹介した3組も〈Platoon〉が手がけるアーティストです。
アフリカの地で素晴らしい音楽が発掘され、Apple Musicをはじめとするネットワークの中で多くの耳目を集めることにより生み出される新しい価値観。過去の流通システムでは出合うことが難しかった音楽との邂逅が新鮮なリスニング体験を生み出し、メインストリームで世界中の人々を魅了しています。果てしなく広大な音楽の海を泳ぐことはまだまだ我々に残されている楽しみなのです。