歴史的猛暑を記録し続けるなか、今夏7月27日(金)、28日(土)、29日(日)に渡って、新潟県湯沢町苗場スキー場にて開催された“FUJI ROCK FESTIVAL’18”(以下:フジロック)。
今年はフジロック史上初だという3日間のうち2日間のヘッドライナーをヒップホップ・アクトが務めるラインナップ、またYouTubeにて主要ステージのライブ生配信などにより、開催前から大きな話題を集めただけでなく、会場内でも新たな移動導線や逃げ場の確保など、随所に新たな試みが見られたのも印象的でした。
ヘッドライナー以外でも、もはや世界的スターのPost Maloneを筆頭に、Anderson .Paak & The Free Nationals、Kali Uchis、Princess Nokiaといったヒップホップ〜R&Bアクト。さらに5lack、PUNPEE、Chaki Zuluといった国内ヒップホップ・シーンにおいて独自の存在感を放つアーティストから、ODESZA、Skrillex、Jon Hopkins、HVOBなど、ダンス・ミュージック系も幅広くラインナップ。かといって、ロック系アクトが疎かになることもなく、御大Bob Dylanはもはや言わずもがなですが、新作が待たれるVampire Weekend、Mac DeMarco、Dirty Projectors〜ceroやSuchmos、小袋成彬、シャムキャッツなど、国内外問わず新人〜ベテランまでバランスよく出演。相変わらずその隙のなさに唸らされました。
台風の接近もなんのその。各ステージで素晴らしいパフォーマンスが繰り広げられた今年のフジロックより、Spincoasterのキュレーターの記憶に鮮やかに残ったアクトとは……?
Text by Spincoaster
N.E.R.D
07.27 (Fri.) 21:00 GREEN STAGE
初日のヘッドライナーで圧巻のステージングを見せてくれた、N.E.R.D。すっかりメインストリームとなったヒップホップ・アクトがフジロックの大舞台で迎えられるのは、Eminem以来のエポック・メイキングだったようにも感じた。ハイライトをひとつ挙げるなら、The NeptunesもといPharrell Williamsのプロデュース・ワークなどを投下した2度のメドレー。日本でもお馴染みのヒット・ナンバーが続き、ラストのDaft Punk「Get Lucky」でピークを迎えた頃には、往年のファンだけでなくそこに集ったオーディエンス全員が一体となったかのような、ピースフルな空間が生まれていた。また、Pharrellの必死の呼びかけやエクササイズは、最新のヒップホップ・マナーを通じてファン1人ひとりの居場所を作るためだったのかも。「Lapdance」のサークルモッシュや「Seven Nation Army」と「Everyone Nose」マッシュアップのシンガロング、「Lemon」でひたすら音に身を委ねるファンなど、グリーン・ステージに集った大観衆は、様々な過ごし方でおよそ10年ぶりの来日を分かち合っているかのようであった。あの空間がみんなの居場所となった、まさに「真の意味で誰も死ぬことはない」(No one Ever Really Dies/N.E.R.Dの語源のひとつ)ライブだったように感じた。(Takato Ishikawa)
小袋成彬
07.28 (Sat.) 14:00 RED MARQUEE
https://www.youtube.com/watch?v=sS33yPabFXo
2日目の昼下がり、レッド・マーキーに登場した小袋成彬。今年の頭から大型新人として多くのメディアに取り上げられ、注目の的であった彼を目に焼き付けんと、会場には多くのオーディエンスが集結。スタートする頃には会場も超満員に。そこへラフな服装でひとりステージに表れ、「Game」でライブは開幕。歌い出しのファルセットで一瞬にして虜にされた方も多いのではないだろうか。歌声のみでここまで人を引きつけるアーティストはなかなかいない。その後もアルバム『分離派の夏』の楽曲を立て続けに披露しつつ、フェスでのセットならではか、まさかのフジファブリック「若者のすべて」のカバーには会場も大きな歓声で応えた。終盤の「Selfish」は音源とは大きく異なるアレンジで、Radioheadの「Burn The Witch」のようなストリングスの奏法が印象的だった。
50分間MCは全くなく、ステージも最低限の照明のみ。この一切飾ることのない姿に、“音楽至上主義”とでも呼びたく成る小袋成彬の気概のようなものを感じた。(Toyamer)
ASH
07.28 (Sat.) 16:30 WHITE STAGE
3年ぶりに苗場の地へ帰還した北アイルランド出身のロック・バンドによるパフォーマンスは、これまでのキャリアの総決算ともいえるセットで、この時間にホワイト・ステージへ集まったギター・ロック・フリークたちを見事に沸かせた。「Shining Light」や「Burn Baby Burn」、「Girl From Mars」といった往年のロック・アンセムから、「Annabel」、「Buzzkill」といった彼らの「今」を彩る楽曲まで惜しみなく披露するそのパフォーマンスからは、長いキャリアの中でも常に自分たちのベストを更新し続けている彼らの偉大さを痛感させられた。個人的な話をすれば、同時間帯にレッドマーキーで行われていた(超満員!)Superorganismを途中で抜けてのASHだったが、これがかなり難易度の高いミッションで、この苦労も含めてASHのパフォーマンスが今年のフジロック1番のハイライトであった……。(Yuya Tamura)
折坂悠太(合奏)
07.28 (Sat.) 17:20 Gypsy Avalon
個人的にこの日が初見ながら、その唯一無二の歌声に魅了。途中移動する予定が、気づけばライブ最後まで見入ってしまっていた。牧歌的でありながらも、随所で感じる生々しいソウルやブルースのようなフィーリングには思わず鳥肌が。かと思えば柔和なメロディで夢見心地に誘ったりと、肩肘張らないリラックスしたムードながらも、完全にオーディエンスを魅了……いや、掌握していた折坂悠太。その証拠に、ホワイト・ステージとフィールド・オブ・ヘブンの中間に位置するこのステージに、思わず足を止めてしまうオーディエンスも多く見受けられた。大自然に囲まれたこの環境で、古典的ではあるが芳醇な音楽を存分に堪能できたことは、幸運に他ならない体験であった。(oden)
Kendrick Lamar
07.28 (Sat.) 21:00 GREEN STAGE
2日目グリーン・ステージ、大雨が降りしきる中、定刻をやや過ぎてから登場したKendrick Lamar。bjorkの真裏だったということもあり、辛辣な集客面が話題に上がることの多かった2013年から5年、まさしく待望の来日が実現した。4人編成のバンドを引き連れてのセットであったが、メンバーはそれぞれステージ端に配置。その様子は、まるでグリーン・ステージへ集まった大観衆を、マイク一本握りしめたKendrickがひとりで魅了し、その場の空気を全て掌握していくかのようだった。バンド編成での楽曲群は、よりタフで骨太なグルーヴを生み出し、Kendrickのフロウはもちろん切れ味抜群。SNSなどで話題となっていた、オーディエンスに大部分を歌わせる「HUMBLE.」も、日本のオーディエンスに配慮したのか、ほぼKendrick本人も歌っていたり、リリック中の「Nigga」という単語を使用していなかったとの報もあるなど、彼がこのステージへ細かい配慮をしていたのがよくわかる。合間にはスクリーンに彼のオルター・エゴでもあるKung Fu Kennyの成長物語が投射されたり、剣舞やコンテンポラリー・ダンスのような舞をみせる女性ダンサーが登場。ほぼMCもない長尺セットにおけるアクセントとして機能していた。
ラストに披露された映画『Black Panther』主題歌でもある「All The Stars (with SZA)」では、オーディエンスへスマートフォンのライトを掲げるよう促し、グリーン・ステージが光りに包まれた。その光景は同曲のリリック、そしてMVともリンクする、ただただ感動的なシーンとなって、数多くのオーディエンスの脳裏に焼き付いたことだろう。(hosaka)
Kacey Musgraves
07.29 (Sun.) 14:40 WHITE STAGE
https://www.youtube.com/watch?v=4aaQeP0dBGw
米ナッシュビルを拠点として活動するSSW、Kacey Musgraves。今年3月にリリースしたメジャー4作目となるアルバム『Golden Hour』ではPitchforkにてBEST NEW MUSICを獲得したほか、世界中のメディアから称賛されていただけあり、楽しみにしていた音楽リスナーも多かったのではないだろうか。
フジロック3日目、生憎の雨の中煌びやかな衣装を身に纏い登場したKacey。「Lonely Weekend」の演奏中には狙っていたかのように雨が止み、晴れ間が出てくるというミラクルも。カントリーを軸としたハートウォーミングなサウンドと、現代的なポップスの要素が同居する彼女の最新モードはまさに唯一無二。彼女の美声が高らかに鳴り響き、まるでホワイト・ステージ全体が濃厚な多幸感に包まれたかのよう。ラスト・ナンバーとなった「High Horse」では、日本の舞妓さんを引き連れてパフォーマンスをするという奇想天外な演出には、彼女の日本文化に対する愛情が強く表れていた。(Takashi Komine)
Anderson .Paak & The Free Nationals
07.29 (Sun.) 14:50 GREEN STAGE
3日目快晴のグリーン・ステージに登場したAnderson .Paak & The Free Nationals。「Come Down」、「Bubblin’」といったヒップホップ・ナンバーでは鋭いラップと圧巻のドラム・プレイで盛り上げ、かと思えばディスコ・ファンク調の「Put Me Thru」では心地良いグルーヴでフジロッカーたちを踊らせる踊らせる。ラップして歌ってドラムを叩いてと、そのマルチ・プレイヤーっぷりと愛嬌のある笑顔は、おそらく所見のオーディエンスをも完全に魅了したことだろう。人気曲「Am I Wrong」ではグリーン・ステージ後方までオーディエンスの両手で埋め尽くされるなど、多くの人がKendrick Lamarに並ぶベスト・アクトとして語るのも納得のパフォーマンスであった。(Eriko Sakai)
CHVRCHES
07.29 (Sun.) 22:30 WHITE STAGE
ライブ・メンバーとして今年から加入した、CHRCHES第4の男Jonny Scott。彼の存在が非常に効いていたライブであった。前々からドラムがいればもっと音に厚みが出るだろうなとは思っていたが、よもやここまでハマるとは。史上最高のCHVRCHES。“打ち込みと生演奏のミックス”という方法論は今の時代それほど珍しくありませんが、そのバランスについては今も多くのアーティストが模索中。恐らくこれからもその完全なる答えは出ないと思うが、この日のCHVRCHESにはその暫定的ベストを見た気が。シンセの高音、リズム隊、そしてLauren Mayberryの透き通るボーカル、そしてJohnnyのドラム……。優秀過ぎるフジロックのPAの手腕も相まって、ほどよく強調されるキックと、完璧な音作りであった。(Yuki Kawasaki)
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【イベント情報】
“FUJI ROCK FESTIVAL ’18”
日時:2018年7月27日(金)、28日(土)、29日(日)
場所:新潟県 湯沢町 苗場スキー場
■オフィシャル・サイト:http://www.fujirockfestival.com/