iriがニュー・シングル『Only One』を8月29日(水)にリリースした。
国際ファッション専門職大学(仮称、2019年開学認可申請中)TVCMソングとしてオンエアされ、8月1日(水)より先行配信されていた表題曲を含め、Pistachio StudioのESEME MORI、そして初のタッグとなるKan Sanoらと制作した3曲を含む本作は、先鋭的なビート・ミュージック〜R&B、ヒップホップまで、ジャンルや時代といった枷を全く感じさせない自由さと、ポップ・ミュージックとしてのより一層の洗練具合を感じさせる作品となった。
Spincoasterでは、今回表題曲「Only One」の制作を手がけたプロデューサーのYaffleとiriの対談を敢行。彼が小袋成彬と共に主宰するTokyo Recordingsのスタジオにて、ざっくばらんに語ってもらいながらも、両者の視点から本楽曲の魅力に迫ることに。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by You Ishii
ーーiriさんは先日、フランスのフェス“La Magnifique Society”に出演されたそうですね。いかがでした?
iri:フランスに行ったのは初めてで……というか、海外自体も2回目だったんです。
Yaffle:一回目はどこだったの?
iri:初めての海外はNYですね。
Yaffle:iriとして?
iri:オーディションのグランプリを獲った時に行ったんですよ。
Yaffle:へぇ~。ライブはしたの?
iri:その時はちゃんとしたライブといった感じではなく、お店とかでちょっと弾き語りさせてもらったり、セッションさせてもらったりっていう感じでしたね。そもそもまだ大学生でしたし。
Yaffle:そうなんだ。
iri:だから、今回のフェスがiriとしての海外初ライブだったんです。緊張してたんですけど、お客さんもすごく盛り上がってくれて。元々ダンス系に強いフェスだっていうのもあって、そういう踊れる曲寄りのセットにしたらみんなすごく踊ってくれたんです。
ーー言語もカルチャーも違う海外でライブをしてみて、改めて感じたことはありますか?
iri:そうですね。確かにライブでのノリ方なんかは日本とは全然違うなって思いました。あと、フランスの人は日本の音楽っていうより日本の文化みたいなものが気になるみたいで。それこそファッションとかも。その時「サブ・ポップ」ってプリントしてあるTシャツを着てたんですけど、「それ何?」ってたくさん聞かれたりしました。
Yaffle:総じて好意的だよね。
iri:そうなんです。みんな日本好きって感じでした。
ーー今回のシングルの表題曲「Only One」は、“世界のその先へ”っていうのがテーマとして掲げられているとのことですが、そのテーマが出てくるに至った経緯っていうのを教えてもらえますか?
iri:あの曲は国際ファッション専門職大学(仮称)のCMのために書き下ろした楽曲で、先方からある程度の方向性だったりテーマのようなものは頂いていて、それを自分なりに解釈して、今の自分に当てはめて歌詞を書きました。
ーーリリックは誰かを応援するようでもあり、自分に言い聞かせているのかなという風に感じました。
iri:ファッションの専門職大学って、当たり前ですけどファッションを通して自分を表現したい人が集まると思うんですね。それを自分に変換して、音楽で自分を表現するっていうことに焦点を当てみると、自分らしく表現した作品を残していくこと、そしてそれが未来に繋がっていくこと。それが一番大事なことなんだよなって。そういうことをイメージしながら書きました。
ーー特にサビの「今ここにいたって なんか fake 言葉にならぬ veil」という一節は、実体験なのでは? というほどのリアリティを感じました。
iri:確かに自分の体験や感情を反映させた部分もありますね。何ていうか、ルーティーンから抜け出したいっていう気持ちとか、もっと違うことをやりたいとか、そういう何かに挑戦したいみたいっていう気持ちが表れていると思います。
ーー何かしら現状を変えていきたいという想いがあったと?
iri:曲作りもそうなんですけど、慣れてくるとどうしても繰り返しみたいになってくるんですよね。今一度そこから抜け出して、新しい発見とか新しいものを作っていきたいっていう気持ちはあったと思います。
ーー「Only One」のプロデュースに、Yaffleさんを起用した経緯を教えてください。
iri:元々1stアルバムの時からYaffleくんというか、Tokyo Recordingsにお世話になっていて(『Groove it』収録の「rhythm」)。前作の『Juice』でも「Corner」、「Slowly Drive」を作ってもらいましたし。何ていうか、今回は力強いサウンドでいきたかったんですよね。かつ、最先端で尖ったトラック、新しいものを作りたいっていう気持ちもあって。そうすると自然にYaffleくんの名前が挙がってくるんですよね。
ーーYaffleさんは最初にこの曲を聴いてどうでした?
Yaffle:う〜ん……いい曲だなって思いました。はい(笑)。
iri:(笑)。
ーー今話していた通り、これまでにも度々共作してきたおふたりですが、いつもはどういった手順で制作を進めていくのでしょうか?
Yaffle:結構まちまちですね。例えば1stアルバムの「rhythm」なんかは、最初にギターと歌だけのデモがあって。
iri:あの曲は元々私がギターで弾き語りしていた曲なんです。
Yaffle:そうそう。彼女の中でずっと温めていた曲だったので、その芯みたいな部分は削らないようにアレンジしていきました。前作収録の「Corner」はゼロからここで作り上げていきましたね。で、今回の件は彼女から連絡があった段階ですでにデモがあって、イメージもスッと伝わってきたので、そこからいい感じに肉付けしてあげたっていう感じですね。
iri:今回の曲に関しては、Yaffleくんに渡す前からコードとそこに乗っけるメロディ、歌詞はできていて。まぁ、Yaffleくんだったら絶対に外さないかなって思って。
Yaffle:ハハハ(笑)。
iri:絶対的な信頼があるので、「お願いします!」みたいな感じで(笑)。そしたらやっぱりバッチリな仕上がりになりました。
ーーなるほど。「Only One」はすごく多彩な音色が緻密に組み込まれている印象を受けました。
Yaffle:はい、すごくトラック数多いです(笑)。
ーーYaffleさん的にはどういうイメージで仕上げていったのでしょうか?
Yaffle:やっぱり、まずCMで使われる曲なので、30秒くらいである程度成り立つっていうことは念頭に置きつつ、サビのパンチ感みたいなものも意識しました。彼女のデモにも、コードと歌だけではなくて色々な音が入っていたんですよ。ビート感もなんとなく伝わってきたし。
ーー例えばサビの辺りは個人的にはグリッチホップっぽいと思いました。敢えてブレる、もたつくビートが印象的だったんです。
Yaffle:個人的にはずっとこういうの感じのビートが好きだったんですよ。でも、結構人を選ぶというか、歌にパワーがないとビートに持っていかれちゃうんですよね。その点、iriちゃんなら問題ないなって思ったし、今回の楽曲はメロディの音価が結構長くて、今までよりもスペースみたいなものがあるから、合いそうだなってピンときたんです。あとはGlideの808のベースに個人的にハマってたっていうのと、Chris Daveの新譜(『Chris Dave and the Drumhedz』)を聴いていた時期だったていうことが影響していると思います(笑)。
ーーなるほど(笑)。
Yaffle:ビートに関しては一回打ち込んだ後、かなり手動でズラしていきましたね。聴いていて気持ちのいいところを探しつつ。……何か、アジア感みたいなものが出たと思いません? あの雑多な感じとか。
iri:うんうん。わかる。
ーーあと、ボイス・サンプルの使い方もすごく効果的だなと思いました。
Yaffle:あれはサンプルというか、実は全部iriちゃんの声なんですよ。録った後にイジったり加工したりして。あと、2サビの前の「ヴゥ~」って声も全部本人の声です。
iri:あれ、そうでしたっけ?
Yaffle:そうだよ、あれはiriちゃんの声。レコーディング中めっちゃ笑ってたじゃない(笑)。
iri:そうだそうだ。ちょっと前のことだから忘れてた(笑)。
ーーYafflesさんから見た、iriさんの魅力というのは?
Yaffle:昔から思ってたんですけど、iriちゃんって元からタイム感が不思議だなって思ってて。
ーータイム感が不思議とは?
Yaffle:「rhythm」の時もそうだったんですけど、グリッドに合わせたスマートなトラックでも、iriちゃんの歌が乗ると、ちょっとそれが崩れるというか、独特のグルーヴが出るんです。それは歌詞のハメ方とか、言葉のチョイスとかも関係していると思うんですけど。だから、iriちゃんの曲って他の人が歌うとかなり難しいんじゃないかなって思いますね。
iri:確かに、歌いにくいっていうのはよく言われます(笑)。
Yaffle:前までは、iriちゃんのそういった“いい味”を活かした作り方をしていたんですけど、今回は逆にトラックをズラしてぶつけてみようかなって、実験的にやってみたら上手くいって。声の倍音の量、音域もいいですよね。あまり高音に寄ることもないし。
iri:恥ずかしい。ありがとうございます(笑)。
Yaffle:あとはやっぱり、自分で曲を作ってるっていうのが大きいと思います。何ていうか、神輿に乗ってるって感じはしないですよね。ちゃんと自分で作ってやってるからこそ、軸がブレないというか。
ーー日本だとあまりいない、独特な立ち位置のアーティストですよね。
Yaffle:そうですね。バックボーンも含めて、iriちゃんみたいな人ってあんまりいないですよね。
ーーでは、iriさんから見たYaffleさんの魅力というのは?
iri:Yaffleくんって、「rhythm」を作った時から、聴いたことのない音色とかをいっぱい使ってきて。「これ、どうやって出してるんだろう?」っていう音がいっぱいあるんですよ。それが刺激的だし、でも、ただおもしろいだけじゃなくて、すごくポップに作用するし。
Yaffle:今回で言えばサビの頭のところでハープとかも使ってるけど、たぶんみんなわからないんじゃないかなって思います(笑)。あと、実験的なところで言ったら、マリンバが8分音符5つのパルスで鳴っていて。そのズレがSteve Reichみたいだなって(笑)。
iri:(笑)。
Yaffle:さっきの話にも被りますけど、今回はそういう拍をズラすことは意識しましたね。あとはiriちゃんの声をサンプラーに入れて、フェイクっぽいところを演奏してみたり。
ーーそういう話を聴くと、改めてじっくりと細部まで聴き返してみたくなりますね。
iri:本当にそうですね(笑)。
ーー本作は4曲入りのシングルとなっていますが、これはiriさんの今後の方向性を示唆する作品と言えるでしょうか?
iri:今回、シングルの表題曲になった「Only One」はエレクトロニックな音像だと思うんですけど、他のカップリング3曲に関しては、結構生音を大々的に使った楽曲になっています。もちろんダンス・ミュージックやエレクトロニックな音楽も大好きなんですけど、元々私もギターの弾き語りで活動していたし、今後はもっとバンドと一緒にライブすることも考えていいのかなって思っていました。そういった点で、生音を入れるちょうどいい割合みたいなものを気にしながら作った作品だと言えると思います。4曲目の「飛行」何かは私がギターで作って、それをKan Sanoさんにアレンジしてもらいました。
ーー以前のインタビューではトラックメイクに関してももっと上達したいとおっしゃっていましたよね。
iri:そうですね。DTMに関しても引き続き修行中です。今回で言えば、「stroll」はベースのトラックを自分で作っています。
ーー今後のiriさんの目標は?
iri:もっと隙間を作って、自分らしい言葉を詰めた楽曲を作りたいなって思っています。あとは海外のアーティストとコラボしてみたいですね。Yaffleくんがやってるように。
ーーなるほど。Yaffleさんはソロ名義で海外アーティストとのコラボ曲を多数リリースしていますよね。
Yaffle:はい。今のところ全部海外のアーティストで。まだリリースしていない曲もいっぱいあるんですよね。
iri:Yaffleくんの作品をこの前聴かせて頂いて、すごく爽やかで驚いたんですよ(笑)。
Yaffle:え、爽やかじゃないイメージだった?(笑)
iri:いや、そういうわけじゃないんですけど(笑)。……プロデュースしてもらっている時とかは結構攻めてるというか、マニアックな側面が印象的だったんですけど……。
Yaffle:意外とロマンチストなんだよ(笑)。
iri:(笑)。
ーーYaffleさんはプロデューサーとして仕事をする際と、アーティスト名義での制作では、どういった意識の違いがありますか?
Yaffle:結構自分は独善的な人間だと思っているので、そんなに意識の違いはないような気がしますね。ただ、めちゃくちゃ人に影響されやすいので、コラボ相手だったり、共同作業する人のカラーに染まりやすいというか。iriちゃんと作ったらiriちゃんに引っ張られるし。でも、作業している時は、自分名義の曲か、他人の曲かっていう区分けは一切していないですね。むしろ全部自分の曲ってくらい没頭していると思います。
Yaffle:じゃあなぜ自分の名義での活動を始めたかと言うと、やりたいことができてなかったからっていうわけでは決してなく。ただ自分で書いた曲の行き場がなかったんですよね。一番最近にリリースした「Summer」っていう曲も実は2〜3年前にくらいにできていたんですけど、発表する場もなければボーカルもいないので、完成させることもできなかった。やっぱり根っこはポップな歌モノが好きなので。
ーー世界中のアーティストとコラボしていく中で、一番印象に残っているコラボ相手は?
Yaffle:う〜ん、まだリリースされていないんですけど、いきなり「コーヒー飲ませろ」って言ってきたイタリア人とか、6時間遅刻してきたLAのラッパーとか、本当にみんなキャラが濃くておもしろいですよ(笑)。
iri:(笑)。
ーー制作方法は直接出向いたり、データの交換だったり、まちまち?
Yaffle:いや、直接会わないのは一回もないですね。基本的には僕が出向くことが多いです。それもやっぱり相手の土俵に引っ張られたいっていう気持ちがあったりするからで。……あ、Benny Singsとのやりとりもおもしろかったですね。曲をこっちで作って、ボーカルはオランダに帰ってから録ってくるって言われたので、デモのインスト・トラックを送ったんですよ。そしたらなぜか頑なに僕のオケでレコーディングしてくれなくて(笑)。
自分で作ったちょっと雑なオケに合わせたボーカルを送り返してきたんです。もちろんグルーヴも合ってないし、尺も全然違くて。でも、それを無理やり調整して自分のオケに当てはめてみたら、すごくいい感じになって。「流石だな」と思いましたね。
Yaffle:それこそ今回のシングル曲「Only One」と同じく、合わせすぎないタイム感みたいなのは今っぽいですよね。何か、アメリカのインディR&B系のプロデューサーで、作曲作詞して、オケ作って、ボーカル入れて、そこからオケを消して、いちから新しいオケを作り直すっていう手法を取る人もいるみたいで。そうすると、結果的に全くトラックを考慮しないボーカルが生まれて、グルーヴ感みたいなところで新たな発見があったり、人の空間認識みたいな感覚がズレるんでしょうね。
iri:すごい。そんな作り方があるんですね。
ーーYaffleさん的には何か今後の展望などは?
Yaffle:ソロ名義の方で言えば、その国々だったり、その言語圏でしかほとんど認知されていない、でもその特定のリージョン内ではすごい人気を誇るような、ローカル・スターって言ったら語弊あるかもしれませんが、そういうアーティストとコラボしていきたいですね。それこそフランスやアジアとか非英語圏の方がおもしろそうだし。
ーー最後に、国内の同世代ミュージシャンの盛り上がりについて、当事者たるおふたりはどう感じていますか?
Yaffle:iriちゃんに比べたら僕は年寄りなので……(笑)。
iri:いやいやいや(笑)。でも、どうなんだろう。自分たちだとあまり実感しにくいかもしれませんね。
Yaffle:僕は今の国内シーンを勝手に(今までのJ-Popに対する)断絶組と継続組みたいなものに分けられるなと思っていて。僕らのような断絶している組は、盛り上がっているとはいえ、まだまだお茶の間レベルのところまではリーチできていない。だからこそ、これからなのかなって思いますけどね。まぁSuchmosはひとつ頭抜けたけど。
iri:Suchmosがすごいレベルでブレイクしているのを目の当たりにすると、確かに「何か変わってきているのかな」って思いますけど、シーンとしては、まだこれからですよね。
ーーおふたりの動向も含め、シーンの今後に期待しているファンも多いと思います。
iri:それに応えられるよう、頑張っていかなくちゃですね(笑)。
【リリース情報】
iri 『Only One』
Release Date:2018.08.29 (Wed.)
Label:Victor Entertainment
[初回限定盤]VIZL-1404 ¥1700 + Tax
[通常盤]VICL-37406 ¥1200 + Tax
01. Only One ※
02. stroll
03. Come Away
04. 飛行
※国際ファッション専門職大学 TVCMソング
※タイトル曲は8月1日より先行配信予定
※初回・通常ともにCD収録内容は共通
※初回盤DVD収録内容「Only One」MV、「iri documentary in France」
【イベント情報】
iri Presents “Night Dream” 2018
日時:2018年12月17日(月)OPEN 18:30 / START 19:30
会場:東京・代官山UNIT
[Guest Act]
STUTS
KEIJU
[info]
クリエイティブマンプロダクション 03-3499-6669
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日時:2018年12月20日(木) OPEN 18:30 / START 19:30
会場:愛知・名古屋CLUB QUATTRO
[Guest Act]
唾奇
[info]
サンデーフォークプロモーション 052-320-9100
==
日時:2018年12月21日(金) OPEN 19:00 / START 19:30
会場:大阪・梅田Shangri-La
[Guest Act]
SIRUP
[info]
清水音泉 06-6357-3666
チケット一般発売:2018年10月13日(土)
前売り¥3,800 / 当日 ¥4,500 (各1D代別途)
※シングル『Only One』CD封入最速先行予約(8月29日18:00~9月4日)、詳しくはCDに封入のチラシをご覧下さい。