ノルウェーの首都・オスロから、若いリリシストが頭角を現してきました。Ivan Ave(イヴァン・アヴェ)は11月10日(金)に、2ndアルバム『Every Eye』をリリース。昨年のデビュー作『Helping Hands』では、全楽曲のプロデュースを手がけたMndsgn(マインド・デザイン)のほか、DJ Harrison、Kaytranada、Dâm-Funkらによって彩られた本作は、Ivan自身の音楽の道を切り開くものにもなったようです。
彼は以前まで、アナログ・レコードからトラック制作の素材をサンプリングしていましたが、その切り刻まれたジャズやファンク、ソウルなどは手放したとのこと。しかし、それらの音楽の悦びは今回のアルバムになおも宿っています。まずは、Mndsgn流のシンセが効いた「Bike Lock」をどうぞご堪能ください。
(2017.11.23 UPDATE:MVが公開されたので差し替え)
80〜90年代のファンクやフュージョンからおいしい要素を絡め取り、スムースに落とし込みつつも、過度に“メロウ”を押し付けて来ないこの軽妙な感じ。そこへIvanのラップが乗ることで、シンプルながらも本質を射抜くナンバーとなっています。
(唐突に、私的な話になりますが)最近、尾道・城崎・奈良へ行って参りまして。3ヶ所全てが偶然にも、志賀直哉(白樺派を代表する小説家のひとり)ゆかりの地であったので、小さな感動を味わいました。
なぜその名を出したかと言うと、この楽曲は(そしてアルバムとしても)まさしく彼の紡ぐ言葉のようだと感じたからです。この2人を比べるのも変な話ですが、その精錬されたところに通ずるものがあるように思いました。文学と音楽が重なる姿……いや、それを読んだときの所感と、それを聴いたときの所感が一致する様、といった方が正確ですね。そのハーモニーが文化的な輝きを放つことを、小径を散策するなどの簡単な実践の中で私は知りました。ひとりで旅していると、環境音のほかに音楽を聴いてしまうことはどうしてもあって。イヤホンで耳を塞いでしまうのはいかがなものかと少し躊躇いますが、むしろ感性が生き生きとしてくる場合もあるので、それもまた一興かと。
ところで、Sir Froderick(サー・フローデリック)とDJ Harrison(DJハリソン)は、今年3月に2人名義でのアルバム『Songs About H.E.R.』をリリースしています。その内の1曲「Bokchoy」は、BADBADNOTGOODとも同期するようなアシッドな音色が印象的です。この度、そこへIvanがリリックを付したことで、「Jellylude」として新たな魅力を持つこととなりました(他には、「Bassed Eyes」が「One Eye」へ)。
重く深く打ち込まれるビートの上で”very very very cool”と、彼のラップは浮雲のように漂って。風景の孤高を一層魅力的にみせてくれる存在には感謝するばかりです。
とは言え、日本古来の深みとヒップホップの相性に対してあなたがまだ疑いを抱いていたとしても、それは当然のことでしょう。もちろん、アグレッシヴなビートやラップとは合わないかもしれません。しかし、アブストラクトやダウンテンポ、『Every Eye』のようなチルアウト系のヒップホップであれば、内省的なものと対外的なものとのクロスオーバーが果たされるはずです。“実践”をオススメします。
インターネットのおかげでn次創作というカルチャーが生まれ、音楽に限らず全てのコンテンツが(データベースと化すことにより)それ単体で消費されるだけの時代は終わりました。例えその事実を抜きにしても、ヒップホップこそ引用の得意な文化圏にあるわけですから、逆にそれそのものを自らの行為へとインポートするというのもきっとおもしろいはずですよ。Spotifyが提案した“料理 × テクノ”のように。
Ivanとそのプロデューサーたちの小説的で、趣ある響きに触れ、その意外性をぜひ感じてみてください。
【リリース情報】
Ivan Ave 『Every Eye』
Release Date:2017.11.10 (Fri.)
Label:Jakarta Records
Tracklist:
1. Now You See Me
2. Monitor
3. Steaming
4. Fast Forward
5. Bike Lock
6. Jellylude
7. One Eye
8. Warm Coture
9. Running Shoes
10. George Duke
11. Squint
12. Old Eye
13. Young Eye
14. Now You Don’t
■Ivan Ave SoundClound:https://soundcloud.com/ivanave