Bruno MarsやMark Ronsonの世界的ヒットやDaft Punkの生音ファンク路線への回帰、さらにここ日本でもSuchmosのブレイクや日本語ヒップホップのかつてない盛り上がりなどなど、近年様々な舞台、様々なベクトルで巻き起こっている広義でのブラック・ミュージック再評価の流れを語る際、日本国内ではG.RINAの名前を無視することはできないだろう。
“クィーン・オブ・ディスコ・ポップ”の異名をも取る彼女は、数年の休暇期間を経て2015年リリースの前作『Lotta Love』を携え絶好のタイミングでカムバックしただけでなく、その復帰作に招いたゲストの人選も的確にシーンの流れを捉えていた。
そんな彼女が早くも今年早々に新作となる『LIVE & LEARN』をリリースした。今作には土岐麻子、鎮座DOPENESS、田我流、yoshiro(underslowjams)といったベテラン勢から、現場で頭角を現してきた新鋭・Kick A Showまでをもフックアップするなど、相変わらずその視点の鋭さには驚かされるばかりだ。
今回、そんなそんな新作をリリースし、3月には自身のバンド、Midnight Sunを引き連れてのリリース・ワンマン・ショウも控えているG.RINAにインタビューを敢行。ブランク経ての復帰から新作について、さらには先述したような高まり続けるブラック・ミュージック再興の流れについてなど、様々な話を訊いた。
Interview by Takazumi Hosaka
Photo by Yuma Yamada
―育児に際する休暇などを経て、オリジナル・アルバムとしては前作はおよそ5年という月日を経てのリリースとなりましたよね。しかし、そこから今作はおよそ1年という短いスパンでのリリースとなりました。実際に今作の楽曲自体はいつ頃から書いていたんでしょうか?
G.RINA:前のアルバムを出してから半年ぐらい経ってからですね。去年の春ぐらいにアルバムをリリースしないかというお話を頂いて、そこから曲を書き始めて、実際にアルバム制作に入りました。私の場合、曲を書く作業と制作は基本的にいつも同時進行なので。
―架空のファンク・バンドをイメージしたという前作をリリースし、そしてライブ活動にカムバックされましたよね。そこからは実際にバック・バンドであるMidnight Sunを引き連れた活動に移行しますが、そのバンド・メンバーを集めた経緯を教えてもらえますか?
G.RINA:実はそもそも前作は、バンド・セットでのリリース・パーティーを行うということをヴィジョンに据えてから逆算して制作していったんです。でも、制作中にはまだバンド・メンバーも決まっていなかったので、バンドで再現することを考えながら私ひとりで制作していったっていう感じで。制作に関しては今回もほとんど同じで、基本的にはほぼ全部の楽器を自分で弾いて作ってから、プレイヤーの弾き替えなどをところどころで行う感じで。ただ、今回は実際にライブを経験した後だったので、前作と比べると自分で打ち込んだモノのなかでも「これは生音に挿し替えよう」って判断する部分が多くなりましたね。
G.RINA:メンバーの話をすると、キーボードのIg_arashiさんは育児でお休みをする前から、ファンクやディスコミュージックの影響をうけたサウンドで一緒にライヴを始めていたので、パートナー的な存在です。
ベースはGUIROやceroのサポートもしている厚海義朗さんに、ドラムも同じくceroや色々なバンドで活動している光永渉さんにそれぞれお願いして。私が今やっているような音楽は、やっぱりリズム隊が大事だなと思っているので、しっかりとしたブラック・ミュージックの素養のある方にお願いしたくて。
あと、ギターはJINTANA & EMERALDSやPPPのメンバーでもあるKASHIFさん。前のアルバムでも弾いてもらっています。ギターだけは自分で出来ないのですが、自分のリクエストをすぐに理解してくれる頼もしい存在です。
―では、そもそも前作製作時にバンド・セットでリリース・パーティーを行うことをヴィジョンに掲げたというのは、どういうところから発生したアイディアというか、考えだったのでしょうか?
G.RINA:前回のアルバムはすごいイレギュラーで、まず「バンドでライブしませんか?」っていうオファーを頂いたんですね。でもそれだと演奏する曲が結構昔の曲になっちゃうので躊躇していて、そしたら「いや、そのためにアルバムを作ればいいじゃないですか」って言われて。「じゃあ、そうしよう」っていう(笑)。
―外部からのオファーが引き金となっていたと。前作、今作でも実際の制作プロセス自体はこれまでと変わらずに?
G.RINA:そうですね、一通りベーシックは全部自分で作ってから、もっといい音に差し替えたいとか、もっとグルーヴィーにしたいという時にプレイヤーに手伝ってもらうっていう感じですかね。
―tofubeatsやPUNPEE、やけのはら、LUVRAWが参加した前作に引き続き、本作でも土岐麻子、鎮座DOPENESS、田我流など、個性の強いアーティストがゲスト参加していますよね。こういった人選というのは、どのようにして判断し、オファーしているのでしょうか?
G.RINA:どちらも曲を作る前にオファーをして、それぞれの人をイメージして歌詞やアレンジ、曲の世界観を考えました。今回は前作とは違って、自分があまり前面に出ずに敢えてプロデュース・アルバムにしたかったので、役者さんを立てるというか、キャストを選ぶ……自分が作る曲の中で演じて頂く感じだったと思いますね。
―ということはコラボ的な趣が強かった前作よりも、今作ではよりG.RINAさんがハンドルを握っていたと。
G.RINA:そうですね。基本的にはほぼトラックが完成してから「これを歌ってください」っていう感じでお渡ししたので。そういう経緯もあり、皆さんある程度予想通りというか、狙った通りのことを返してくれて。想像以上に楽しかったです。
―G.RINAさんは出産や育児で忙しかった時期でもDJはされていましたが、そういった期間はやはりシーンというか現場からは遠ざかっていたという感覚はありますか?
G.RINA:遠ざかってはいたと思います。DJもずいぶん減らしていましたので。まあ、今もそうなんですけれど。
―現場から少し遠ざかっていた時期を経て、今復帰というか帰還したわけですが、実際に現場の感覚や空気感に変化は感じていますか?
G.RINA:他の人のことはあまりわからないんですけど、私自身のなかで変わったことがあって。以前はDJでもとにかく色んなジャンルに接続するのがチャレンジだったんですが、限られた時間の中で自分が準備に納得して人前に立つためには、ある程度焦点を絞っていかないといけないなと思っています。なので自分の作品に近いテイストの曲で親しみやすい選曲に絞るようになりましたね。トンガったもののエッセンスは制作の中で忍びこませていければなと思っています。
―現場やシーンではなく、マス・レベルの話として、ブラック・ミュージックがここ5年ぐらいでとても盛り上がってきていますよね。こういった状況を、昔から深い愛情を持ってブラック・ミュージックに接してきたG.RINAさんはどのように感じていますか?
G.RINA:あの……まだまだ全然足りないですね(笑)。
世界的にはもっともっとメインストリームだと思うんですけど、日本ではやっぱり音楽的にもガラパゴスな部分があるので、独自の文化が育っているっていう部分はいいところもあるんですが、私としてはもっともっとこういう音楽(ブラック・ミュージック)が広く浸透していったらいいなと思います。
――でも、例えばtofubeatsとか星野源みたいに、上手くポップ・ミュージックにそういう要素を忍ばせる人も徐々にではありますが増えてきましたよね。
確かにそういうことを試みる人の全体数は増えてきてるのかもしれないですね。でも、例えばアイドルの楽曲とかにそういうアレンジを加える人とかは中々増えないなぁとか、ちょっと不思議に感じてる部分もあって。私にもそういう仕事をさせてほしいな、とも思ってます(笑)。
―やはりブラック・ミュージックが盛り上がっているとはいえ、それはまだ現場レベルの話しというか、マス・レベルでの浸透はまだまだだと。
そうだと思いますね。まだクラブ寄りというか。その中でもヒップホップは最近はお茶の間にも…。
―確かにそうですよね。『フリースタイルダンジョン』が地上波で放送されたり。
G.RINA:入り口はなんにしろ、少しでもこういう音楽に興味を持ってくれる人が増えるだけでも、私はすごくいいことなんじゃないかなって思います。
―一方海外ではBruno MarsやMark Ronsonがクラシカルなソウル〜ファンク路線でドカンとメインストリームで売れた時はどう思いました?
G.RINA:Bruno Marsは(『Unorthodox Jukebox』収録の)「Treasure」が素晴らしかったですよね。でもあのアルバムはレゲエありロックありのポップス・アルバムで、ファンクやソウルはそういう色々な要素のなかの一つとしてやっているのかなって思っていたんですけど、新作『24K Magic』を聴いたら「あぁ、やっぱりこういうのが好きだったんじゃん!」って(笑)。普通にリスナーとしてはブチ上がりっていう感じでしたね(笑)。
―ヒップホップの話で言うと、今アメリカではトラップが全盛ですよね。前作の「Back In Love (Music) feat. PUNPEE」や今作の「想像未来 feat.鎮座DOPENESS」では若干トラップっぽい要素も忍ばせているなと思ったのですが、トラップについてはどう思いますか?
G.RINA:うーん……好きですね(笑)。私は昔からヒップホップを倍速の他のジャンルと混ぜてDJするっていうことが好きでやっていて、その当時は全然ウケなかったけど(笑)、トラップはまさにビートに対して倍でノる音楽ですよね。あとは……完全にダブステップ以降だなって思いますね。ダブステップは倍だった音楽を半分でノる音楽として産まれたので、トラップはまさにその遅い部分だけ切り取ったような印象で。この倍と半分の関係ですね……ヒップホップとやっと繋がったっていう。「わたしたち、やっと出逢えたね!」っていう。ビート同士の会話が(笑)。そういう大きな音楽の歴史の流れのライン上で見てるとすごい必然性を感じるというか。トラップに限らず、流行の音楽にはそういうおもしろさがありますよね。歴史を踏まえて楽しむっていうか。
―流行りの音楽と歴史という点では、アメリカで人気を獲得している若手ラッパーのLil Yachtyが「2 PacとNotorious B.I.G.の曲なんて5曲も知らない」とインタビューで答えて炎上したという一件もありますよね。それに対してAnderson Paak.が「歴史を知らないことをひけらかすな」とアンサーしたりなど、ちょっとした騒ぎにもなりました。
G.RINA:それに対しては……どうでしょう。発言よりも、そのひとの音楽が豊かなものを感じさせてくれるかどうかじゃないですか。知識がいくらあってもなくても、退屈な作品を作っていたら騒ぎにもならないだろうし。発言よりも作品で、そのアーティストを見たいですよね。確かに歴史のなかには宝があるんですけどね……。
わたしは単純に新しいモノも好きだし、ブラック・ミュージックって変わり続けてるところが最大の魅力だと思うんです。特にヒップホップとかR&Bは、一番ブッ飛んでることが一番ポップになり得るジャンルでもあって。すごい先進的なことがど真ん中で成り立ち得るところが魅力。流行っているものの中にも、後々までこころに残るものと泡みたいなものもあるけど、それは聴いた人がそれぞれ感じたり、あとから考えたりする問題でしょうね。
―だいぶ歴史を積み重ねてきた結果、全てを網羅するのはどんどん難しくなっていますもんね。
G.RINA:好きな時代もみんな違ったりしますし。どのタイミングでどの年代の音楽に触れるか、これだけ情報があると、正規ルートみたいなものなんてないし、自分で自由に掴まえていく感じですよね。
―話がちょっと脱線してしまいましたが、G.RINAさんは前作から80年代のテイストを強く押し出していますが、今80年代にこだわるというか、惹かれる理由みたいなものを教えてもらえますか?
G.RINA:シンセ・ファンク、ダンス・クラシック的な音楽については、実はずーっと好きなんですよね。レコードを買い始めた頃からヒップホップと一緒に虜になって。制作に関しては、80年代だけでなく90年代の質感も織り交ぜているんですが、それはやっぱり自分が敏感な年頃に強く影響を受けた音楽なので。
でも大事なのは、レトロなものを完全にカバー・バンドみたいな感じではやりたくないなってずっと思ってて。今の音、今の方法で再解釈、再構築しながら同時にその時代への愛情みたいなものも出したいっていつも思っています
―それに加えて、日本語でのポップスっていう部分も確実に軸としてありますよね。
G.RINA:はい、日本語で歌うことに対してのこだわりっていうのは……やっぱり日本に住んでるからですかね。英語の曲もたまに書きますが、それをメインに考えていたらきっと英語圏に引っ越してますね。私は日本が好きなので、これからも日本に住んでいたいし、日本に住んでる人に聴いてもらいたい。そして日本語表現のおもしろさはきっとまだまだ奥があるはずなので。
―日本語のポップスとしての影響源とかはあったりするのでしょうか? 例えば日本語をメロディーに乗せる際に参考にしたアーティストさんだったり。
G.RINA:阿久悠さんとか松本隆さんといった作詞家の作品もすきですし、松任谷由美さんとか桑田佳祐さんといったシンガーソングライターも、普通に好きで聴いています。
―G.RINAさんの歌詞は大げさに言っちゃうと幻想的というか、ちょっとSFチックというか、物語的というか、現実というよりはまた別の世界な気がしてるんですけども、リリックに関してはどういうところからインスピレーションを受けて、どういった風にアウトプットしているのでしょうか?
G.RINA:自分では結構現実的な世界観かなと思ってるんですが。常に意識しているのは、あんまり私語りにならないようにしようっていうことで。物語的に作るとしても結局それを分解すると、自分の経験のコラージュでできていたりするんですけど、「ズバリ私は〜」っていう感じにはならないように、ちょっと距離や遊びをつくっているつもりです。あと、韻を踏むのもすきです。
―その遊びっていうのは言葉のチョイスとかの部分で?
G.RINA:そうですね。歌詞って、やっぱり話し言葉とか説明とかではないので、生活感と同時になるべく想像が膨らむような書き方をしたいなぁとは思っていますね。
―物語の一部というか、断片を切り取ったかのようなリリックとかも多いように思いますが、G.RINAさんの頭の中には物語の全体があるのでしょうか?
G.RINA:自分の中では繋がった画で見えているんですけど、きっとそれは聴いている人それぞれで見えている物語は違うんでしょうね。
―今作でいうとディスコやブギー、ヒップホップの要素が前面に出てると思うのですが、そういったブラック・ミュージックにご自身が惹かれ続けるのは一体なぜだと思いますか?
G.RINA:う〜ん、なんでなんですかねぇ……。
―例えばトレンドに敏感な人が、今ブラック・ミュージックに引っ張られるっていうのはすごくわかるんですけど、G.RINAさんはずっと昔からですよね。
G.RINA:なんでですかね……改めて考えてみると難しいです(笑)。幼い頃からずっと好きなので。う〜ん……憂いなのかな。
―陽気なサウンドの中にも影あるというか。
G.RINA:そうですね、さっきもお話したように多様なリズム、そして憂いですね。
―それは自身のサウンドにも表れていると思いますか?
G.RINA:そうですね。トラック作りをするのはリズムやダンスビートに取り憑かれてるからで、憂いについては……元々あんまり明るい人間ではないので(笑)、ただただしっくりくるとしか言い様がないです。
―では、自分のアルバムを入り口に、リスナーにもそういったブラック・ミュージックの世界へと足を踏み入れて欲しいという思いはありますか?
G.RINA:そうですね、まぁでも、あんまり深く考えずに、その気になったら、って言う感じで。そのブラック・ミュージックの蓋を開いちゃったら、自然とその魅力の虜になってしまって、もう抜け出せなくなると思うので(笑)。
―なるほど。では、最後に3月2日のワンマン・ライブについてもお訊きしたいと思います。まず、どういった編成で臨む予定なのでしょうか?
G.RINA:バンド・セットなのはもちろん、今回はさらにダンサー、コーラスも入れた編成で、踊れるライブにしたいなと思っていますし、本当に「今夜が最後かな?」くらいに豪華な布陣でのライブになると思います。
―言うなればG.RINAさんのバンドの、豪華フルセットみたいな感じでしょうか?
G.RINA:そうですね、フル編成でこのアルバムを再現できるかなと。みんなが集まるのは中々に難しいので、この機会を見逃さないで欲しいですね。
―ライブに来るファンの方々にはやはり踊って欲しいですか?
G.RINA:あんまり恥ずかしがらずに、自由に踊ったり体を揺らしてくれればいいなって思います。あとはオシャレして……まぁオシャレしなくてもいいんですけど、好きな格好でハジけて欲しいですね。私が皆さんの先頭を切っていきますので(笑)、思い思いの格好で踊りにきてくれると嬉しいですね。
【イベント情報】
“G.RINA & Midnight Sun LIVE & LEARN リリースワンマンショウ with Guests”
日時:2017年3月2日(木) 19:00時開場/20:00時開演
料金:前売 3,300円(1ドリンク別) *特典あり(限定ステッカー)
チケット:一般発売中
プレイガイド情報:e+ / ローソンチケット / WWW店頭
問い合わせ:渋谷WWW TEL: 03-5458- 7685
[ゲスト]
鎮座DOPENESS
土岐麻子
yoshiro(underslowjams)
田我流
Kick A Show
※アルバム収録順
[Midnight Sun]
KASHIF(Gt.)
光永渉(Dr.)
Ig_arashi(Key)
厚海義朗(Ba)
asuka ando(Cho)
Yacheemi(Dancer)
【リリース情報】
G.RINA 『All Around The World feat. 土岐麻子 / しあわせの準備』
Release Date:2017.03.01 (Wed.)
Label:PLUSGROUND / VICTOR (JPN)
Price:¥1,800 + Tax
A1. All Around The World feat. 土岐麻子
B2. しあわせの準備
==
G.RINA 『LIVE & LEARN』
Release Date:2017.01.11 (Wed)
Label:Victor Entertainment
Cat.No.:VICL64700
Price:¥2484 (Tax In)
Tracklist:
01. 想像未来 feat. 鎮座DOPENESS
02. close2u
03. All Around The World feat.土岐麻子
04. そばにおいで
05. フライデーラヴ feat.yoshiro (underslowjams)
06. 街のレクイエム
07. memories
08. 夏のめまい feat.田我流
09. ヴァンパイア ハンティング feat.Kick A Show (Y2FUNX)
10. しあわせの準備
■iTunes Store:https://itunes.apple.com/jp/album/id1183167903?app=itunes&ls=1
■レコチョク:http://recochoku.jp/album/A1005723019/
■mora:http://mora.jp/package/43000005/VICL-64700/
他、LINE MUSIC、Apple Music、AWAなど、主要定額制聞き放題サービスにて配信中