【INTERVIEW】まだ見ぬホームを求めて──mikahが語る、自身を深く掘り下げた3部作『Homesick』

ハワイ出身のシンガーソングライター・mikahが3曲入りのシングル『Homesick』を11月18日（火）にリリースした。

mikahは16歳で4人組グループ・INTERSECTIONのメンバーとして日本デビューした後、2021年には中国最大級のオーディション番組『創造営（CHUANG）2021』に出演。同番組の最終回でINTO1のメンバーに選出され、中国デビューを飾った。2つのグループでの経験を経て、2023年よりソロ活動をスタートさせ、昨年は『SUMMER SONIC』で日本初パフォーマンスも実現。代表曲“so I don’t forget”のライブパフォーマンス動画がYouTubeで800万再生を超えるなど、グローバルな存在感を高めている。

今年9月にリリースした“Butterflies”から〈88rising〉とタッグを組み、さらなる飛躍が期待されるなか発表された本作『Homesick』には、「ホームシック3部作」と位置付ける“Escape”、“In Between”、“Dream”の3曲を収録。ハワイ（アメリカ）、日本、中国とさまざまな場所を渡り歩いてきたmikahが常に抱えてきた孤独、迷い、勇気といった感情が、インディポップやオルタナティブR&Bを軸に表現された、シンガーソングライターとしての魅力が大いに発揮された作品だ。

今回のインタビューでは、ソロアーティストとして深化し続けるmikahの現在地と、作品に込めた思いを訊いた。

Interview & Text by Kaori Komatsu
Photo by Motomi Mizoguchi

〈88rising〉との協業、ホームシック3部作が生まれた背景

――今年9月にリリースされた“Butterflies”から〈88rising〉と組むことになったのは、どういう経緯があったんでしょう？

mikah：〈88rising〉の方から、ある日「コラボしませんか？」と連絡がきたんです。自分のルーツのひとつであるアジアを代表するレーベルで、しかも10代の頃から好きな〈88rising〉と組めるのはひとつ夢が叶ったと思ってます。いい足がかりにしたいですね。

――“Escape”、“In Between”、“Dream”というホームシック3部作を制作した背景は？

mikah：これまでは恋愛について書くことが多かったんですが、それ以外のモチーフを追究したいと思うようになりました。僕のこれまでの経験の中で他の人にも共感できることについて書いていきたいと思い、「ホームシック」というコンセプトを思いつきました。僕は今の自分と比較して昔を懐かしむことが多いんです。例えば、「あの頃の自分はある程度満たされていたのに、今はなぜ穴が空いているんだろう」と思ったり。また、夢のために故郷を離れたり、同じようなことを考える人も少なくないと思ったので、リスナーのみなさんにも何かを感じるいい機会になったらいいなと思いました。

――mikahさんはハワイ、日本、中国と移り住んできたこともあり、これまでも喪失感や寂しさを感じる曲が多かった印象があります。そう考えると、ホームシックというテーマはmikahさんらしいのではと思いました。

mikah：確かに故郷を離れてからずっとホームシックの感覚はあったので、自分にとって新しい体験ではないんですが、それをリスナーのみなさんとシェアできたらいいなという気持ちが強かったです。3部作の楽曲を聴いて、ホームシックを感じた方がSNSなどにコメントを書き込んでくれるのですが、僕の音楽が多くの人を癒していることを実感できて嬉しかった。これまではラブソングばかり書いていて、そういう実感があまりなかったんですよね。ハッとするような発見でした。

「アーティストとしての自分を深く掘り下げることができた」

――最初から3曲の具体的な方向性は考えていたんですか？それとも1曲ずつ制作していったんでしょうか？

mikah：最初から考えてました。僕はハワイで生まれ育ち、日本、中国というロケーションに移住したので、それぞれの状況を曲に表したいなと思いました。自分にとっての映画みたいな感覚ですね。パート1の“Escape”は逃避、パート2の“In Between”は旅路、パート3の“Dream”は帰還。

“Escape”で子ども時代から抜け出して、“In Between”では大都会に移住したことで目の当たりにした困難を描き、最後の“Dream”ではさまざまなエンディング──例えば故郷のハワイに戻ったり──が考えられましたが、結局ホームである場所は特別なので、なかなか見つからない。それで夢を見ているという曲になりました。

――“Dream”は3曲の中でもエモーショナルなインディポップという印象がありましたが、どんなイメージがあったんでしょう？

mikah：実はこの曲は3部作の発想が生まれる前にあった曲で、歌詞は今よりも少しラブソング寄りだったんです。これまでの曲とはタイプが違うけれど、いい曲だったので絶対にリリースしたいと思っていました。その後、ホームシック3部作のコンセプトが浮かび、“Dream”は高揚感がある曲なのでエンディングに相応しいんじゃないかって思ったんですね。“Escape”と“In Between”は悲しい雰囲気の曲ですが、最後に“Dream”を持って来ることでストーリーとしてポジティブな着地になると思いました。

――“Dream”は夢の中では全てを手に入れているけれど、現実は残酷だという切実な曲に聴こえました。

mikah：基本的に聴く人それぞれが自由に解釈してくれたら嬉しいのですが、“Dream”は歌詞の通りの曲です。この曲を仲間や仕事が自分の居場所だということを歌う曲にもできましたが、それは僕にとって真実ではありません。僕はずっと何かを探し求めてるし、今と昔を比べているので、ホームと呼べる場所はまだ見つけられてない。でも夢の中では自分にとってどういう場所がホームなのかを感じることができるんです。

――ホームシック3部作を作ったことで次のビジョンは見えてきたのでしょうか？

mikah：自分がずっと抱えているホームシックは、曲にしたからといって解消はしてないんですが、いい形でリスナーのみなさんにお届けできたとは思ってます。アーティストとしての自分を深く掘り下げることができた手応えもあるので、今後も今回のようなクリエイティブな制作を続けたいですね。

ソロアーティストとしての新たなビジョン

――1st EP『bleached』リリース時の取材ではSZAやJustin Bieberをよく聴いていると言っていましたが、ホームシック3部作を作る上で特に影響を受けたアーティストはいましたか？

mikah：他にこういったコンセプトの作品を知らなかったので、自分の頭の中でゼロから作り始めたような感覚があります。自分を信じて作っていくしかなかった。でも現在進行形で書いてる曲は、Justin Bieberの最新作『SWAG』と『SWAG II』がとてもよくて、それに影響を受けている部分はあります。

3部作やこれまでの曲と比べて、気持ちが高揚するようなグルーヴ感のある曲を作っていきたいと思ってます。Mk.GeeやNamiといった昔から好きなアーティストがJustin Bieberの新作に関わっていることを後から知って興奮したんですが、彼は新作でビジュアルも含めて大きな方向転換をしているので、僕もそろそろ新しいスタイルを模索するタイミングなのかなと。

これまではメロウで悲しげな曲をよく聴いていたけれど、“Dream”を完成させた後は聴く音楽も変わってきて、エネルギーのある曲が好きになってきています。僕も“Dream”のような高揚感のある曲が作れるんだっていう実感を得たことが大きかったんだと思います。ライブでもメロウな曲ばかりやるのではなく、ステージで走り回ってマイクに向かって叫ぶような曲をやってみたいです（笑）。

――（笑）。2025年は〈88rising〉とタッグを組み、ホームシック3部作をリリースするという分岐点となる年だったと思います。来年に向けてどんなビジョンがありますか？

mikah：先ほどの話と重なりますが、歳を重ねてきてこれまでの作風に自分自身が飽きてきたところもあるので、変化していきたいと思ってます。日本は小中高がそれぞれ6年、3年、3年ですが、アメリカはエレメンタリースクール・ミドルスクール・ハイスクールと3〜4年ごとに必然的に大きな変化が起こるんですね。なので、生活の中に自然とそのサイクルが組み込まれているようなところがある。僕もソロになって3年目なので、そろそろ大きな変化があっていいんじゃないかと思っています。成長した上で、さっき名前を挙げたMk.Gee、あとDijonやDominic Fikeといった自分が影響を受けているオルタナティブR&Bやオルタナティブロックのアーティストのようなテイストのある曲を作っていきたいと思っています。

――目標はありますか？

mikah：多くのリスナーに届く曲を書きたいというのはどのアーティストにとっても夢だと思います。今回、この3部作に対するみなさんの反応によって、自分の曲が大変な状況を乗り越える力になったり、人のためになるということにとても感動しました。もっといい曲を書きたいという想いが強くなりましたね。