ヒップホップは地域性が強く表れる音楽で、近年はそれがより顕著になっている。例えばKendrick Lamarによる昨年のアルバム『GNX』はLAのカルチャーが詰まった作品だったし、Playboi Cartiが今年リリースしたアルバム『MUSIC』にはアトランタのヒップホップへのオマージュが随所に入っていた。地域と紐付いたサブジャンルも多く、2010年代以降に全てを塗り替えたトラップも元を辿ればアトランタで始まったものだ。
あっこゴリラの最新作『キメラ』は、もしかしたら地域性の強さが再注目されている現在の流れに国内ヒップホップで最もフィットした作品かもしれない。活動するシーンを跨いで収集した個性豊かな面々と共に作り上げたサウンドは、世界中のダンスミュージックを取り入れながらも和楽器のような日本の要素を随所に注入。和を前面に押し出すのではなく、混沌とした情報量の中から時折ルーツ的なものが顔を見せるような絶妙のバランスに仕上げている。
ルーツへの視線はアルバムだけに限らず、1月に開かれたリリースパーティ『キメラ祭り』には民謡ユニット・こでらんに~を迎え、4月には民謡アンバサダーへの就任も発表。表現手段としてはラップでありながら、民謡への関心を強く見せながら活動を続けている。
また、ユニークなだけではなく動きも活発だ。今年からスタートしたアルバムのリリースツアーでは東京や大阪ではなく全国に訪れ、先日最後の山形でのライブを終えたばかり。今回はそんなあっこゴリラに、民謡の魅力やアルバムにかけた思い、これからの活動などについてたっぷりと語ってもらった。
Interview & Text by アボかど
Photo by 本人提供
民謡に惹かれる理由、ラップとの共通点
――民謡アンバサダー就任が発表されましたよね。
あっこゴリラ:民謡にハマって、民謡のパーティとかにめっちゃ行ってたんです。そうしたら日本民謡協会の方と繋がって、お誘いいただきました。民謡についての知識はまだまだだけど、もっと追求したい気持ちがあったので、審査を受けることにして。高校か大学のとき以来に履歴書を書きましたね。正直、なんで受かったのか自分でもわかんないです(笑)。
――民謡のパーティというと、お祭りみたいな?
あっこゴリラ:色んな角度があります。それこそダンスミュージックとしてDJがプレイしているパーティもあるし、トラディショナルなやつだったり、地域のお祭りみたいなのもある。いろんなところに民謡ラバーがいるんですよ。民謡って、ダンスミュージック好きの人がハマることが多いっぽいですね。レゲエやジャズ、ヒップホップ好きの人も多い印象です。
――あっこゴリラさんは民謡のどういった部分に惹かれたのでしょうか?
あっこゴリラ:ラジオ(※J-WAVEであっこゴリラがナビゲーターを務めていた音楽番組『SONAR MUSIC』)でダンスミュージック目線でレクチャーしてもらったことがきっかけでした。「こんなダンスミュージックがあったのか」っていう出会い方。そのときはスランプになっていた時期で、自分の音楽的なスタイルがどんどん固まってきて、それを意識的に崩そうとしても何かの模倣に感じてしまう、みたいな。
そうやって悩んでいた時期に、民謡と出会って救われた感じがしました。民謡って歌っている内容もすごいしょうもなかったりして、その井戸端的な部分は「ストリート感」と言い換えることができるんじゃないかなって。
――ラップと民謡はストリート感で共通するのかもしれないですね。
あっこゴリラ:通ずる部分はめちゃくちゃあると思います。あと秋田民謡のフロウがすごいラップなんですよ。うちのお母さんが秋田出身で、私も小さい頃から秋田民謡をめっちゃ歌ってたんですよね。だから、私が最初に歌ったラップって秋田民謡なのかもって思っていて。ちなみに、WWWでのワンマンではうちのお母さんに秋田民謡を歌ってもらいました。「かませ~!」って言って(笑)。

あっこゴリラ:ラップと民謡は自由なところが似てるなって思います。民謡ってリズムや拍の取り方も不定形というか、意外とちゃんとしていないんですよ。その「ちゃんとしてなさ」がめっちゃ人間っぽくていいなって思いました。ラップも「こんなに自由なものはない」って感じじゃないですか。そういうところが似ているなと思うからこそ、ラップをもっと自由に使いたいって改めて思いました。
――日本民謡協会のサイトに載っているプロフィールにも「民謡とダンスミュージックの融合」と書いてありますが、アルバムもまさにそういう内容だと思いました。
あっこゴリラ:『キメラ』はまず最初のトライみたいな感じです。でも、作っていて「これ一枚じゃ終わんないな」と思いました。「民謡ヤバい」「お祭りヤバい」ってなったときに、久しぶりに長年のテーマに出会った感じがしたんですよね。「一生楽しめるもの見つけた」と思いました。
――ということは、今後『キメラ2』的な作品が出る可能性もあるのでしょうか?
あっこゴリラ:正直、『キメラ』を3枚くらい出さないとひっくり返せないと思ったんです。「あっこゴリラってこういうアーティスト」っていう部分って、たぶん人によって全然違うと思うんですよね。そんななかで、『キメラ』は「私はこういう者です」と言えるような作品にできたと思うんですけど、ひっくり返すにはまだまだ時間がかかるだろうなと。
私、フジロックでも「FIELD OF HEAVEN」*1に出演したいんです。でも、人に話すと「え? そっち?」って言われたりする。私はむしろそこしか見ていなかったんですけど、自分の鳴らしている音とキャラクターやイメージがズレてるというか。そこは今でもなかなか理解してもらえないなって思っています。
*1:会場の奥に位置する木々に囲まれたステージ。ヒッピー/サイケデリックな雰囲気も漂う
――アルバム3枚分くらいになりそうなところを1枚に仕上げたということは、絞った部分もあるのでしょうか?
あっこゴリラ:いや、結構ギリギリな感じで作ってたんですよね。なんとなく「3枚作る」って思ってはいても、「果たして3枚作る体力があるのか」というのがあって。だから、絞るっていうよりは「これで後悔ないようにしよう」って気持ちでしたね。矛盾した言い方かもしれないですけど、あまり未来を見ていないというか。でも、ツアーを回って「まだまだやれるわ」ってなりました。

「私、旅ミュージシャンになる!」
――ツアーをやってみておもしろかったことは何かありましたか?
あっこゴリラ:全てがヤバ過ぎました。これまでツアーらしいツアーはやったことなかったんですよ。ラジオをやっていてまとまった時間が取れなかったというのもあって。回ったとしても大阪、名古屋、東京だけとか。それが今回、日程を組むところから全てひとりでやって。金銭面もすごく大変で、ホテルも高いから(友人の?)家に宿泊したり。
いい箱、いいミュージシャンと関わることができたし、どのエリアもその土地ならではのおもしろさがありましたね。同時にちゃんと厳しさもあったのがよかった。すごい楽しかったな……「私、旅ミュージシャンになる!」って思ったんですよ。この感じでドサ周りをやった方がいいと思って、車の免許を取りましたもん。
――免許取得はそれと繋がっていたんですね。
あっこゴリラ:そうそう。1月にアルバムをコンセプトにした『キメラ祭』っていうパーティをやったんですけど、それが超大成功だったんです。演者はシーンもジャンルもバラバラなんだけど、「祭り」という一点だけで成立しているみたいな。まさにアルバムを象徴するような奇跡的なイベントができたなって。お客さんも年齢層がバラバラで多国籍。それって私がずっとやりたかったことだったんです。今度はそれを東京だけじゃなくてもっといろんなところでやれるようになりたい。だから車をゲトって、いろんなエリアを開拓したいと思ったんです。
――車に乗るようになって、音楽的な面で何か影響はありましたか?
あっこゴリラ:そもそも『キメラ』も車の影響が大きくて。私が免許を取る前に、夫のさんちゃん(※KANDYTOWNのラッパー・BSC)が車をゲトってドライブするようになって。車内でDJのミックステープとかをよく聴いていたんです。その影響で曲間が繋がった構成になったり。
――アルバムの冒頭4曲はまさにミックステープのような感じですよね。
あっこゴリラ:18曲通して聴いてもらうことを意識しました。なんか最近……「人生おもしろいな」って思うんですよ(笑)。ここに来ていろんな変化があって、まだまだ知らないことがいっぱいあるなと。音楽の聴き方も変わりました。テクノとかアンビエントって以前はあまり興味がなかったんですけど、「雪の中で聴くとこんなに最高なのか」みたいな体験もあって。めっちゃおもしろいです。
――アルバムの話に戻ります。今回の作品では民謡の影響を受けつつも、例えば三味線の音を前面に出すようなことはしていないですよね。そういうわかりやすい和テイストは、敢えて避けているような印象があります。
あっこゴリラ:それは意識していました。「クール・ジャパン」「トラディショナル・ジャパン」みたいなのって、なんかあんまりワクワクしないんですよね。民謡はおもしろいと思ったけど、そっくりそのまま取り入れるのではなく、私は「ダンスミュージックとしての民謡と、自分の生活、自分の人生を混ぜていったらどうなるのか」って気持ちで作ったんです。
実は三味線もトライしたんですけど、結構難しくて……。それと、私は東京生まれ東京育ちだから、例えば渋谷のスクランブル交差点のカオスな感じとかに日本らしさ、東京らしさを感じるんですよね。そういう自分の生まれ育った街の感じを出したかったんです。お祭りに参加したり盆踊りを踊ったりもしてきたけど、同時にUS、UKとか世界中の音楽を聴いて影響を受けてきた。そのカオスこそが私なんだって思うんです。だから、インスタントな「日本らしさ」みたいな感じにならないように、気をつけていましたね。
――そういった作り方のヒントになったような音楽は何かありましたか?
あっこゴリラ:いろいろと参考にはしていると思うんですけど、今回は本当に実験的というか、試行錯誤を重ねた感じでしたね。さっきの三味線もそうですけど、ボツにした曲もいっぱいあるし。ただ、ミックスの面では私の好きなUKのアーティストに寄っている気がします。ヒップホップやジャズ、レゲエなど、UKの移民たちが作る音楽が大好きで、影響を受けたアーティストもUKが多いと思うので。
――たしかにパキパキした音の感じはUKっぽさがありますね。
あっこゴリラ:この前も同じようなことを言われました。「あっこゴリラの音楽って結構ひんやりしている」とか。
――“danziri”、“from zero”ではレゲエやダブを取り入れているじゃないですか。あれもUK影響下という感じがします。
あっこゴリラ:“from zero”は意識してなかったんですけど、たしかにちょっとダブっぽいところがありますね。モノマネっぽくなっちゃう気がしていて、これまではそういった部分をあまり出さないようにしてたんですけど、民謡と出会ったからこそ、自分の音として上手く取り入れることができたんじゃないかなって思います。

「やっと私のヒップホップが始まったって感じ」
――“danziri”はタイトル的にも民謡っぽい感じはあるんですけど、ビート的には民謡的なものがないのが興味深いと思いました。
あっこゴリラ:基本的に今回のアルバムは、全曲で民謡をサンプリングしたり、民謡をフィーチャーしているかって言われるとそうじゃない。全部を民謡にすると、それこそ「クール・ジャパン」みたいになっちゃう気がして。私は日本、US、UK、アフリカで作られたみたいな、カオスな作品にしたかったんです。……と言っても私が通ってきたものに限定されるんですけどね。
――あっこゴリラさんは『SONAR MUSIC』でいろんな音楽に触れてきたので、逆に取り入れなかった要素もたくさんあるんじゃないかと思うんですよね。そこの手を伸ばさないラインはどういうところになるのでしょうか?
あっこゴリラ:そこに関しては、私がしっくりフィールしたかしないかだけですね。別に嫌いじゃないけど、自分がやることではないなっていうのはたくさんある。例えばインターネットっぽいサウンドとか。カッコいいなとは思うけど、私がやるとコスプレだなと思う。
――モノマネやコスプレっぽくない感じっていうのが大事なのかもしれないですね。
あっこゴリラ:自分が音楽を聴いてワクワクしたりするのは、「これはこの人にしかできないことだな」っていうところなんです。柔軟にいろんなサウンドや要素を取り入れられるのは素晴らしいことだと思うんですけど、たぶん私はそんなに器用じゃない。インプットしてから、「これは自分の音だ」って思うまでに時間がかかる。自分の生活とそのサウンドやビートがしっくりきたときに、ようやく自分のものになるというか。例えば、ドラムンベースは日本で生まれたスタイルじゃないけど、私のものなんですよ(笑)。
――『SONAR MUSIC』関係の話だと、以前「AOR(アダルト・オリエンテッド・ラップ、キャリアを重ねたからできる大人向けのラップ)」を特集した回がありましたよね。これは以前SpincoasterでDie,No Ties,Flyにインタビューした際に出た概念なんですけど、あっこゴリラさんも「私も“AOR”かもしれない」って話をしていましたよね。
あっこゴリラ:『キメラ』で煮込まれてきて、やっと私のヒップホップが始まったって感じもします(笑)。これまで失敗したり、「なんでこんなことしちゃったんだろう」ってことがいろいろとあったから自分のことがわかったし。結果、全部OKみたいになりましたね。シンプルに自分が歳を取ってきて……今、おもしろいんですよね、生きていて(笑)。
――デカい。
あっこゴリラ:私もこんな感じになると思わなかったんだけど、今すっごい楽しいんです。自分でもびっくりするくらい。こんなに崖っぷちなのに、なんで楽しいんだろう。20代のときに信じてきたことが意外と上手くいかなくて、その一方でプライドみたいなものが肥大化して、「30代めんどくせぇな」って思っていたんです。……けど、なんか全然ぶっ壊せるんだな、みたいな(笑)。まだまだこれから過ぎてウケる、みたいな心境になってきました。『キメラ』で元気になっちゃったんですよね。
■参考記事:AOR(アダルト・オリエンテッド・ラップ)とは?(アボかど(にんじゃりGang Bang)note)
04/30(TUE)🔥#jwave #sonar813
📻 TODAY'S THEME
新ジャンルを定義しよう!
大人のラップを考える"AOR"
〜アダルト・オリエンテッド・ラップ〜大人のラップとはどういうもの?
定義を考えるトークセッション!🔻GUEST#poivre @poivre0529#アボかど @cplyosuke
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――やっとヒップホップが始まったというのもそうですが、1stアルバムを出した人みたいなフレッシュさがあるんですね。
あっこゴリラ:マジでそれです。「もう人生疲れたよ〜」って感じなのに、同時に「やっと生まれた、私!」みたいな(笑)。なんか、歳を重ねて幼児化していく人っているじゃないですか。私、それなのかな。
――でも、家賃が上がった曲(“その1万で”)とかは幼児化とは真逆な感じがしますよ。あれは大人にしか書けない曲だと思います。
あっこゴリラ:「人生最高」みたいなこと言っているけど、実際は普通に最悪なんです。この社会/世界は終わってるっていうのがベースにあって、そこから目を逸らしたくない。とはいえ、自分が傷付かないように防衛して生きるのもキツくて、だったら心を剝き出しにして生きるしかない。それって超しんどいんですけど、だんだんと「一生しんどいのマジでウケる。それでも私ってまだ楽しめるのかな」って感じになってきたんです。
例えばパーティでみんなラブ & ピースを掲げたりするけど、私はピースだけじゃ本当の意味では浄化されないタイプなので、全部言いたい。「家賃が上がった」とか、「円安うぜぇ」とか。
“その1万で”は超おもしろくて、東京では反応がいいんですけど、他のエリアではあまり盛り上がらないこともある。この前、山形で歌ったときに「米が高い!」って叫んだら、お米農家の人に「米は適正価格だから」って言われて。「わかった。私は自分の思いを叫ぶけど、間奏でマイクを渡すから、そっちサイドのことも叫んで」って(笑)。あれは理想的な形でした。私のライブは自分の声だけじゃなくてみんなの声も聞きたい。どんどんマイクジャックしてほしい。
――みんなが参加できる感じって、ある意味お祭りっぽいとも言えますよね。そのうち神輿とか担げそう。
あっこゴリラ:いいですね、それ。私のパーティは気づいたらステージ上に知らないヤツがいっぱいいて、「お前誰?」みたいなことがありがちで(笑)。そういう場所をいっぱい作っていきたいんですよね。「ワンマンが見たい」って言ってくれるファンもいるし、だから秘密基地も作っとこうと思って。
――そういえば、定期開催ワンマン『GANANIKA HOUSE』を始めるそうですね。
あっこゴリラ:月一から隔月くらいのペースでやれたらと思っています。基本ひとりですけど、友だちにゲスト参加してもらったりはするかも。私がもうちょっと人気が出たら地方でもやりたいです。でも『キメラ祭』をできるくらいにならないと『GANANIKA HOUSE』もできないんで、地方開催はたぶんもうちょっと先かなと思います。でもね、ここからですよ。毎月いろんななところに行ってもっと頑張ります。めっちゃ楽しみ。
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— あっこゴリラ AKKOGORILLA🦍🌴 (@akko_happy_b) May 26, 2025
ラップって最強じゃないですか?
――アルバムの話に戻ります。“着火”はレゲトンでしたよね。
あっこゴリラ:バイレファンキやレゲトンは前から使っている、馴染みのあるビートなんですよね。基本的に今回のアルバムは全曲先にデモを作って、それを元に完成させていったんです。“着火”はデモの段階からレゲトンでした。
――デモはご自身で作っているんですか?
あっこゴリラ:基本はそうですね。リリックも全部できた状態のデモをビートメイカーに渡して、仕上げていきます。ロンドンでセッションして作った“D.P.D.G.”は最初にビートがありましたけど、ビートメイカーに先に提供してもらって、そこから内容を考えていくっていうことはあまりやりません。最初にスケッチみたいなのを作って、そこにラップを乗せて、その後ブラッシュアップしていくみたいな作り方も昔したことがあるんですけど、そうすると自分の音楽って感じがしなくなるというか、そのビートメイカーの色になってしまう。
なので、『キメラ』は一緒に実験するところから始めました。“逆境天使”をプロデュースしてくれたXLIIはすごく作家性のある人で、本来は一緒にスタジオに入ってその場でビートを組んでいきたい人なんですけど、今回は私のデモから作ってもらいました。「とにかくチンドン太鼓をサンプリングしてくれ。こういう感じ!」ってお願いして。こういうやり方って嫌がる人もいると思うんですけど、XLIIは快く引き受けてくれたし、でき上がったビートも最高で。
でも、このやり方を続けていくのは大変だから、自分で作れないとなって思っています。今はまだ自信がないけど、次作からは自分のビートを増やしたいなと。
――今はビートメイクを勉強中?
あっこゴリラ:はい。あとDJも始めたいと思っています。それもあって『GANANIKA HOUSE』を始めるんですよ。DJも自分でやって、まだ世に出すには早い音源もかけたり、実験的なことをやりたい。
――チンドン太鼓の話で気になったのですが、今回は和楽器の音を結構使っていますよね。あれは一回録ったものを素材としてエディットしているのでしょうか。
あっこゴリラ:そうです。オンライン上からサンプリング素材をダウンロードすることもできるんですけど、アナログなやり方で録っています。なんでかっていうと、ライブでその人たちに演奏してもらいたいから。この前のWWWでそれができたのはすごく嬉しかったです。
――楽器の音をきちんと録るのはかなりのこだわりポイントですね。
あっこゴリラ:楽器だけじゃなくて、イントロの“noroshi”での「ウワ~」みたいな声も、わざわざ川に行って録ってるんです(笑)。意味わかんないですよね(笑)。半分遊びですけど、そういう謎ヴァイブスが伝わるといいなって。家でサクっと作るだけじゃおもしろくないじゃないですか。
――あとボーカル面の工夫としては、発声方法もいろいろと変えていますよね。
あっこゴリラ:私は声がデカくて、さんちゃんにもよく「うるさい」って怒られるんです。だから、いつもの自分の声で歌い続けるのは、聴く側からしたらしんどいかもなと思って。それで発声方法のレパートリーも増やしたいと思いました。これまではブチ上がってるか、めっちゃ落ちてるかのどっちかが多かったので、その間の曖昧な感じを意識しました。これもたぶん、ドライブするようになったからですね。
――ラップ面でおもしろかった曲と言えば、“magma rave”はラップしていない時間も多く、異彩を放っていますよね。
あっこゴリラ:あれは最初「とにかくフロアタムを叩きたい」「フロアタムを叩けそうなビートを」ってお願いして作ってもらったビートで。それをもう一回Gimgigamさんに練り直してもらい、さらにMASA君にディジュリドゥを吹いて重ねてもらいました。元ネタは2年前にできていて、フジロックとかでも披露していたんです。
私、もうちょっとインスト率を上げたいと思っているんですよね。打楽器が好きなので、自分でドラムとか太鼓を叩くような曲を増やしたい。“magma rave”のようなインストというか、ラップというよりは声ネタとして自分の声を入れる、みたいな曲はもっと増やしたいですね。
――ああいう曲が入っているラップ作品ってあまりないような気がします。でも、あっこゴリラさんの表現の主軸はやっぱりラップですよね。いろんな音楽に触れてきて民謡への関心も高まっているなか、それでもラップをやり続けることについて、どのような思いがあるのでしょうか?
あっこゴリラ:私、ラップが一番だと思ってるんですよ。ラップって最強じゃないですか?(笑)。
――最強ですね(笑)。
あっこゴリラ:あと、たぶんスタンスとしてのラッパーが好きなんだと思う。いろんなアーティストと関わってきたけど、ラッパーほど自分の世界を生きている人はなかなかいない(笑)。誰も言えないことを言っちゃうような剥き出し感がいいですよね。
私は歌ったりもするけど、ラップがスタイルとして固まってきているし、もっともっとラップで冒険したい。そこも次の課題というか、やりたいことです。

解放装置になる場を
――今回ラップを書くのが大変だった曲はありますか? 以前audiot909さんから「“RAT-TAT-TAT”は何回も書き直したらしい」と聞いたことがあって。
あっこゴリラ:たしかに“RAT-TAT-TAT”はめちゃくちゃ書き直しましたね。ビートメイカーさんからのオファーで入るときって、テーマの部分だったりで苦戦することが多いんです。でも、今回のアルバムではあまり書き直したりはなかったですね。“逆境天使”は少し時間かかったかもだけど。
「何が言いたいのかわからない」ってよく言われるので、今回はわかりやすさを意識しました。あとは“キメラ”も大変でしたね。木崎音頭をこっそりとサンプリングしていて、ジャングルみたいなビート感と祭囃子のちょっと怖い感じを上手くミックスできるか不安だったんです。ビートがイケるかもってなってからも、リリックのテーマで悩んで。「キメラ」という言葉を見つけるまでは苦労しました。この曲ができたからこそ、アルバムの他の曲もスムーズに書けた気がします。
――ビート面ではいかがでしょうか?
あっこゴリラ:“キメラ”と“generations”はTaigen(Taigen Kawabe、Bo NingenのVo., Ba.)がデモから作ってくれたんですよ。“generations”のダダダダダーダダーダダーダーダー(ビートのフレーズを口ずさむ)……みたいな、あの感じは最初からあって。そこにベースラインとか、ミサみたいな変なコーラスや謎シンセを入れたりとか……そういう部分は私がやったんです。最終的には結構エモーショナルな感じの曲になったけど、そこに至るまではかなり試行錯誤しましたね。
――noteでセルフライナーノーツを出されていましたが、1曲1曲に濃いエピソードがあるんですね。その中で特に思い入れのある曲ってありますか?
あっこゴリラ:やっぱり全部ですね。それぞれに深いストーリーがあるので。でも、聴いてくれる人のレスポンスが感じられて嬉しかったのは“逆境天使”と“generations”ですかね。
――これからはやってみたいことは何かありますか?
あっこゴリラ:『キメラ祭』を全国各地でやって、その集大成的なワンマンをデカ箱で、年一でやりたいです。この前のWWWでは私のキャリア史上断トツNo. 1ワンマンができたので、この感じで規模をもうちょっと拡大したいなと思いました。
あっこゴリラ:規模はそこまで大事だとは思わないけど、もうちょっとお金になったらみんなももっとハッピーになるよなって思うんです。今、いい種が撒けたなって思っているんです。今の時代、みんな大変だと思うけど、私のライブやパーティではいろんなことを気にせず、頑張らなくてもいい。ただピースなだけじゃなくて、日々感じていることを曝け出しちゃう。全てがカオスに混在していて、祝われているような、解放装置としての場を作りたいっていうのは昔からずっとありますね。
――まさにお祭りっぽい場所というか。
あっこゴリラ:本当にそう。「お祭り」って言葉を使ってなかっただけで、昔からずっと同じことを考えていたんだなって。あと、今後は言語化することをもうちょっと頑張った方がいいなと思ったので、ポッドキャストとかも考えています。引き続き作品作りも頑張って、『キメラ』をあと2枚ぐらい出したい。あとは旅ミュージシャンとして(笑)、全国各地を巡りたいです。

【リリース情報】

あっこゴリラ 『generations』
Release Date:2025.01.08 (Wed.)
Label:KAMIKAZE RECORDS
Tracklist:
1. noroshi
2. キメラ
3. sawanobori
4. generations
5. danziri
6. 笑う野良犬の冒険 feat. BSC
7. human’s ham
8. 逆境天使
9. あとのまつり
10. 髪様
11. 湿煙
12. 着火
13. ふぉえば✌️
14. D.P.D.G.
15. 10000yen-Taiko remix-
16. magma rave
17. あさいゆめ
18. from zero
Marketing & PR:ArtLed
Distribution:NexTone Inc.










