ミュージック・ラヴァーにとってベルリンと聞いて想起するものと言えば、“壁”よりも先に“クラシック”や“テクノ”が挙げられるかもしれません。
1742年に開かれたベルリン国立歌劇場といったオペラハウスが点在しつつ、世界でも名高いベルリン・フィルハーモニー管弦楽団をはじめとする数々のオーケストラが牽引するクラシック音楽の聖地と言える場所です。
一方、ベルリンとテクノ音楽も不可分の関係にあります。テクノ・カルチャーの原点と言える世界的なレイヴ、『Love Parade』は1989年にベルリンで150人ほどの小さなパレードから始まりました(2010年の死傷事故により以降永続的に中止となったが2022年に復活の噂も)。さらに、テクノ・ミュージックの聖地であり世界最高峰のクラブと評されるBerghainはドイツ政府に“文化的に価値のある重要な施設”として認定されています。他にも2021年にテクノ文化をユネスコの無形文化財に登録しようという活動を取り上げたニュースも話題を呼びました。
テクノ文化のユネスコ無形文化財登録を推進しているRave The Planetによるドキュメンタリー映像
また、ベルリンは近年、アーティストやノマドワーカーが溢れる都市としても注目されており、ドイツの移民政策の兼ね合いも合って、世界中から多様な人々が集まるクリエイティブでダイバーシティな場所ということも見逃すことができません。
そんなベルリンにあって、まさに彼の地の現在地を体現するような作品が4月15日(金)にリリースされます。Dario Lessingによるアルバム『Frequency』です。
Dario Lessingはベルリンを拠点に活動するソングライターでもともとクラシック音楽の教育を受けたピアニストでもあります。彼のスタジオには国際色溢れるミュージシャンが集い、才能の交感が日々行われているのだそう。『Frequency』はまさにそんなクリエイティブの爆心地と言える場所で生み出された産物と言えそうです。
この作品にはアメリカ(Stimulus)、オーストラリア(James Chatburn)、ニュージーランド(Graham Candy)、オーストリア(Rezar)、そしてもちろんドイツ(SHAMS、Mario)をそれぞれ出自とするボーカリストを招いた11曲を収録しています。Frequency=周波数というタイトルが象徴するように、多様なバックグラウンドをもったアーティストと楽曲ごとに影響し合いながら、波長を合わせることで、オルタナティブに花開くDario Lessingのソングライティングの高さ。それは先行配信されている数々の曲を聴けばわかるはずです。
ピアノを基調とした曲風は彼のクラシカルな素養を裏付けるものですが、それに留まらずヒップホップのリズムやラップを取り入れていることも特徴のひとつ。
実妹SHAMSをフィーチャーした楽曲では神秘的なサウンドスケープとアブストラクトヒップを彷彿とさせるトラックの融合が印象的です。
クラシック音楽やエレクトロニカ、ヒップホップなどをエクレクティック(折衷的)に取り込みながら育まれるDario Lessingの最新作がまさに前述したようなベルリンという都市の持つ性格と呼応するものになったのは偶然ではないはず。そして、そんな遠い異国の地の空気感を醸し出してくれる音楽が今の社会状況では特に尊いものであることも胸に刻んでおきたい2022年の春です。
Text by Silent Trade
【リリース情報】
Dario Lessing 『Frequency』
Release Date:2022.04.15 (Fri.)
Label:Modern Recordings
Tracklist:
1. Overflow (feat. James Chatburn)
2. My Place, My Home (feat. Stimulus)
3. Dreamer (feat. Graham Candy)
4. Planet 9 (feat. James Chatburn)
5. Shepherd (feat. Shams)
6. Moving Slow (feat. Shams)
7. Behind the Moon (feat. Rezar)
8. The Lesson (feat. Graham Candy)
9. Victorious (feat. Graham Candy)
10. Sukhino (feat. Shams)
11. Silent Star (feat. Mario)