コンポーザー/プレイヤー/プロデューサーとして活動するSudan Archives(スーダン・アーカイヴス)は、〈Stones Throw〉所属のバイオリニスト兼ボーカリスト……この一文だけで彼女の多才さがひしひしと伝わってくる。
アメリカ合衆国オハイオ州シンシナティに生まれ育った彼女は、小学4年生のときその弦楽器を手にすることとなる。なんと、耳が弾き方を教えてくれた(!)そう。そして、アフリカ大陸最北流のプレイスタイルと出会ったFiddler(バイオリン弾き)の目には、バイオリンという楽器の可能性が映っていた、とのこと。「クラシックとは異なるやり方で彼らがそれを弾いたとき、私はそのスタイルに共鳴しました。『この弾き方は電子音楽のなかで使えるかもしれない』そう思ったのです」と、彼女は述べている。
以上が、公式情報の大まかなところ。それでは今回は、5月下旬にリリースされた2nd EP『Sink』から、リード曲「Nont for Sale」のMVを紹介しよう。
似合いの言葉をほかに探す隙もなくエレガント。音楽的に分析してみれば確かに、R&Bとエクスペリメンタルな電子音楽の要素を内包したナンバーと言えよう(ぜひともYves Tumorあたりにリミックスしてほしい……!)。
ピチカート(指で弦をはじく奏法)の響きはある意味“エレクトロニック”に、ボーカル&コーラスが形作る空間へ広がる。そうすることでミニマルな反復とメロウな歌い回しとが見事、有機的に絡み合う。そのおかげで、ついに楽曲全体が唯一無二の艶っぽさと実験的なリズム感を有するに至っているように思う。
自己の尊厳を謳う詞、それから曲の抑揚。そこには少しのサッドネスが通底している気がする――それが顕著なのは冒頭の静けさのなか。
なんだかこの曲を聴いていると、“すっきりとした生クリームの美味しさ”を落ち込んだ気分とのマリアージュで楽しんでいるかのような錯覚に陥る(甘い甘いケーキを珈琲もなしに頬張るほどの悲しみ、それとは違うニュアンスを分かってもらえたら嬉しい)。
円熟したフロウを評すると同時に、私はSudanの声質の淡白さにも聴き惚れている。実際のところ、これこそが先の内容を裏付ける一因なのかもしれない。
そして彼女の作品には(セルフタイトルの1st EPも同様に)無機質なクラブ・ミュージックに近い要素も見え隠れする。ただやはり叙情的な雰囲気、それに加えて“草木の生い茂った感じ”を残しているのが“刺さる”のだろう、少なくとも私のようなリスナーには(Laurel HaloやTTとの相性もなかなか!)。
さて今回の話は、対称とその融合というところに集約できそうだ。ひとつの文化に縛られずに周りを見渡すことで、意外な(?)親和性を発見できるもの――例えば、イギリスのグライムと南アフリカのダンス・ミュージックであるGOQMの関係に見られるような。それがジャンル同士のものなのか、Sudan Archivesのように個人の内のものなのかという違いは問題ではない。
また、かつてはロックがオルタナティヴな方向へシフトしたわけだが、現在R&Bがその状況にある。だから今そこから目を離してはいけないし、アーティストの実験性や挑戦には大いに呼応していきたい(その一方で新たなバンド・サウンドへの期待も)。
Text by hikrrr
【リリース情報】
Sudan Archives 『Sink』
Release Date:2018.05.25 (Fri.)
Label:Stones Throw
Tracklist:
1. Sink
2. Nont For Sale
3. Pay Attention
4. Mind Control
5. Beautiful Mistake
6. Escape