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SPIN.DISCOVERY vol.05 アーティスト対談:小原綾斗(Tempalay)× 常田大希(King Gnu)


今年新作をリリースし、共に大きな注目を集めた2バンド。東京を拠点にしながらも、異彩を放ち続ける彼らの共通点を探る

2017.11.28

12月3日(日)に表参道のWALL&WALLにて開催するSpincoaster主催イベント“SPIN.DISCOVERY vol.05”。本イベントに連動した企画として、今回はTempalay・小原綾斗とKing Gnu・常田大希による両バンドのフロントマン同士の対談を実施した。

音作り、そして楽曲の骨格からは間違いなく海外からの影響を感じさせつつも、メロディやコード感などから日本人独自の感性も見て取れる両バンド。さらに、その音楽スタイルだけでなく、東京を拠点に置きながらも“SXSW”やUSツアーを敢行したり、“FUJI ROCK FESTIVAL”内“Rookie A Go Go”ステージへの出演など、両者の共通点は多岐に渡る。

今年の下半期に新作をリリースし、共に大きく話題を集めた両バンドの共通点はどこにあるのか。そして彼らは今後の国内シーンを牽引する存在となってくれるのか。その答えはこのインタビューと、12月3日のイベントで確かめてみて欲しい。

Interview & Text by Kohei Nojima
Photo by Takazmu Hosaka

[L→R:常田大希(King Gnu)、小原綾斗(Tempalay)]


――お二人は既に顔見知りなんですよね。最初の出会いはいつ頃ですか?

小原:2ヶ月くらい前に明大前の居酒屋で一緒に飲んだのが最初ですね。まだ合うのは2、3回目くらいなんですけど、シラフで合うのは今回が始めてです(笑)。

常田:9月にKing GnuのMVを手がけてくれたPERIMETRONっていうクリエイティブ集団のShu(Shu Sasaki)がやっているイベント(“Cosmic Rocks”)が渋谷のclub asiaで開催されていて、そこにTempalayが出演していたんですよね。その時は喋ってないんですけど、僕はそこで初めてライブを観ました。

小原:あれ、来てたんや? そのイベントの後、Shuと明大前で夜の10時ぐらいに飲んでて「大希を呼んでくれ」って連絡してもらったら「寝てる」って言われて(笑)。
でも、その後なんやかんやで合流して、一緒にスナック行ってカラオケで歌いました。僕が勝手にミッシェル(THEE MICHELLE GUN ELEPHANT)を入れて歌ってもらったりして(笑)。彼、見た目がチバユウスケみたいなんで。

――それぞれのバンドの存在を初めて知ったのはいつ頃なのでしょうか?

小原:今年のフジロックですね。パンフレットの“FUJI ROCK FESTIVAL”の出演者欄にKing Gnuって書いてあって、名前が超カッコイイなと思ったんです。それまで全然知らなかったんですけど、アーティスト写真もいい感じに生意気そうで(笑)。そこでめっちゃ興味が湧きました。実際には僕はフジロックで怪我をしてしまったので、ライブは観れなかったんですけど。入院中にKing Gnuってどんなバンドなんやろ? ってYouTubeでチェックしました。

常田:本当かよ(笑)。

小原:「McDonald Romance」って曲が特に印象に残ってて、かなりアカデミックな集団なんだなと。同世代でこんな音楽やってるやつがいるんだって、興奮しましたね。ただ、生意気そうだし、友達にはならないだろうなーと思ってました(笑)。

常田:おれは「革命前夜」からですね。名前は前から知っていたんですけど、あの曲は本当に今年を代表する曲だと思います。今年、一番聴いたかもしれません。

小原:本当かよ(笑)。

常田:そこからアルバムを聴いて。僕はあんまり他のバンドを好きとか言わないんですけど……(Tempalayは)好きですね。曲と歌詞、あとはアレンジが絶妙で。印象としてはフワッとしているんだけど、すごく難しいラインをついているなと思いますし。

小原:僕はかなり感覚的に音楽を作るのですが、King Gnuはすごく狙って作ってる感じがしましたね。感覚的な部分と論理的な部分が共存してるなって思いました。街一番のワルが東大行ったみたいな、センスもいいし頭もいい、みたいな。そういうちょっとズルいやつみたいな印象です。

――King GnuもTempalayも歌やメロディ、サウンドのミクスチャー感など、個人的には共通点の多いバンドだと思うのですが、どうでしょう?

常田:とても近いなと思っています。そういう風に感じるのは、本当にTempalayくらいしか今は思いつかないっすね。比重は違うんですが、音に対しての意識の持っていき方とかが似ている感じがしますね。

――それは、バンドとしてのルーツが近かったりするから?

常田:お互いに邦楽リスペクトはありますよね。スナックで歌いまくってたしね。小林明子とか(笑)。

小原:邦楽リスペクトというか、日本には超カッコいいものがいっぱいあると思っているから、そういったところからの影響が自然に出ているんでしょうね。別に日本人であることをレペゼンするつもりはないんですけど、世界で一番って言えるくらい多様な音楽がグチャグチャな形で共存している国だと思うんですよね。それをお互いにわかっているというか、肌で感じているというか。そういうところが原因なんじゃないかなと思います。僕はKing Gnuに90年代のジャニーズをめっちゃ感じるんですよ。

常田:それ、前も言ってたね。

小原:KinKi Kidsとか、山下達郎さんが作った曲とかがあるじゃないですか。ああいう感じというか。見た目はギャングなんですけど(笑)、全体的に90年代を感じますね。僕が小さい頃に親父とかが車で流していたような懐かしさがあるんですよね。相川七瀬とか……そんな感じです。

――実際はどうなんですか? そういったところが自身のルーツにあるという自覚は?

常田:全然知らないんですよね……(笑)。僕は邦楽を聴いて育ってないんですよね。海外のオルタナティヴ・ロックとかブラック・ミュージックを聴いていましたし。

小原:でも、あの頃の邦楽って、J-POPでも海外からの影響を落とし込んだものが多いですよね。それこそブラック・ミュージック的な要素の強い曲もいっぱいあるし。だから、その先にある、ルーツまで遡っていくと繋がる部分があるのかもしれないですね。

常田:それはあるかもね。そういえば、ミッシェルやブランキー(BLANKEY JET CITY)は聴いていました。

――メロディやボーカルとしての原点はそういうところなのかもしれませんね。

常田:ブランキーとかも90年代ですよね。じゃあ、言われてみればそうなのかもしれませんね。

――両バンドとも色々な音楽を吸収していると思うのですが、多種多様なサウンドを混ぜ合わせる方法論をそれぞれお伺いしたいです。

常田:おれは自然と作っているうちにそうなっているっていうパターンが圧倒的に多いですね。何か意図的にこういった音を入れよう、みたいなことはほとんどないです。

小原:一緒ですね。

常田:「今回はヒップホップの要素を入れようぜ!」みたいな話しはしないよね?

小原:しないしない。

常田:後付けで説明するために言語化することはありますけど。なので、割りと自然に混ざってしまうんですよね。デモとかはどうしてる?

小原:Logic(DTMソフト)で骨組みを組んで、みんなに送ってそこからみんなでアレンジしていくって感じですね。

常田:じゃあ、やり方としてはウチと近いね。

小原:大希はソロの音源とかを聴いていると、ひとりで全部できちゃうタイプの人なんだなって思うんですよね。僕はめっちゃアナログ人間なんで、ギターから組み立てないと曲が作れないんです。大希はトラックからも曲が作れるタイプだと思うので、そこは大きな違いだと思います。大希のトラック・メイキングは、何ていうか「頭いいな」って感じがするんですよね。到達するところや感覚的なところはTempalayと近いのかもしれませんが、その曲作りの入り方は全然違うんじゃないかなって。

常田:僕はクラブ周りのイベントにも出ていたので、ひとりだけで完結させようと思えばできるんですけど、King Gnuの場合はソロとは違うので。もっとメンバーと一緒に作り上げていくっていう感じですね。

――デモはガッチリ作り込むタイプですか?

常田:曲によりけりって感じですね。

小原:僕らもそうですね。曲によっては一切アレンジしないものもありますが。

常田:へぇ。やるじゃん(笑)。

小原:上から目線(笑)。

――小原さん的にKing Gnuの曲で特に気になった曲はありますか?

小原:どの曲を取り上げていいかわからないくらいに好きなんですが、強いて挙げるならば、「あなたは蜃気楼」っていう曲。あれは完全にジャニーズですよ(笑)。
本当にあの曲はおもしろいし、カオスです。あと「ロウラヴ」とか「Vinyl」のコード感と進行が、どこの音楽を通過しているのかわからないんですよね。ジャズとかクラシック的な要素もあるし、すごく感覚的な部分もあるような気がするし。歌詞のパンチラインもヤバイですよね。「さよなら 愛を込めて」とか「君とトーキョーランデブー」とか、ジェームズ・ボンド感を感じるというか。こんないぶし銀でカッコイイ、J−ROCKをやっているやつは最近マジでいなかったですよね。ギターもめちゃくちゃ上手いし。

常田:コード感っていう意味で言うと、あまりコピーとかをしてこなかったんで、いわゆるコード進行の型みたいなものがわからないんですよね。「Vinyl」とかはD’Angeloの「Really Love」みたいなイメージで作ったり、そういうのはあるんですけど。

――あと、それぞれ「Tokyo Rendez-Vous」(King Gnu)、「This is Tokyo」(Tempalay)など、東京をテーマにしている曲がありますよね。お二人それぞれの東京観とはどのようなものになるのでしょうか?

小原:僕らは埼玉で結成したんですけど、最近ではもう東京に馴染み過ぎてわからなくなってきてしまっていますね。ただ、先日とあるファッション・ショーに行ってきたんですが、そこでは改めて「狂ってんな」って思いました(笑)。
でも、その「何やっても許される感」は増してきた気がしますね。中国みたいになってきたというか。おもしろいなと思います。「Tokyo Rendez-Vous」はめっちゃ東京のことを皮肉ってるよね。

常田:そうね。カルチャーが溢れすぎている感じというか、ハチャメチャな感じは東京ならではな感じがしますね。みんな好き勝手やってんな、みたいな。ある意味ではすごい厳しいけど、「何をやっても許される」っていうような感じもそうですね。そういったことをちゃんと作品に落とし込んでいるのが、今の東京のバンドっぽいところなのかなって思っています。この2組は特にそうかなと。

――あと、“SXSW”とUSツアーを経験してきたというのも2組の共通点ですよね。アメリカはどうでしたか?

小原:お客さんのテンション感というか、根付いているものが全く違うなと思いましたね。ライブハウスがお酒を飲むための場所だったり、音楽との距離感が近いのは羨ましいですよね。逆に、日本で音楽をやることのハードルの高さも痛感しましたし。ギュウギュウのライブハウスで最前列を確保するために走るとか、バンドマンはノルマを払ってライブをして、音楽でご飯を食べるために必死になってるとか、日本では音楽が気軽なものではないんだという事実に改めて気付かされたというか。
バンドのレベルは日本の方が高いんですけど、音楽が身近にあるからこそ、スリー・コードでやってるだけでカッコいい、みたいな文化になるのかなと思いました。そして、そういうカルチャーを日本人が取り入れることは絶対に無理だなと。

――なるほど。常田さんは?

常田:とにかく移動が多くて辛かった……。その思い出しかないす(笑)。あと、このジージャンをシカゴで買いました。すげぇいいブランドの古着がすごく安く売ってて。それくらいですね(笑)。

――行く前と後で何か変わったこととかはありますか?

常田:ライブ慣れはしたと思いますね。音や機材が劣悪な環境とかで死ぬほどライブしたので。日本の環境のありがたさは身に沁みましたね。

小原:それは本当に感じた。あと、クラブの音はめっちゃよかったですね。音もデカイしローもしっかり出ているのに、喋るしキツく感じないっていう。

常田:へぇ〜。音楽的にはどうだった?

小原:僕は2週間ライブをした後に、もう2週間遊ぶためにアメリカに残ってロスとかサンフランシスコとかを回って。その時に『5曲』っていうEPに入っている曲を書いたりしてたんですけど、空気とか見る景色とか、そういう自分の周りの環境によって作る音楽が変わるんだなっていうことは感じた。音楽って、それを作っている瞬間の環境にめっちゃ影響受けてるんやなって。なので、アメリカで作った曲を日本で聴くとめっちゃ恥ずかしい、みたいな(笑)。
あとは左耳を失いました。毎日、飛行機移動なので、航空性中耳炎になって、ツアー半分は左耳が聴こえない状態でライブして。日本帰って病院行ったらその場で切開することになり(笑)。

常田:えぇ……。そんなんばっかやん(笑)。

小原:先日まで中国ツアーに行ってたんですけど、中国でもお風呂で滑って左半身打撲しました。誰も見てないところで負傷して……(笑)。

――ボロボロじゃないですか(笑)。中国ツアーはいかがでしたか?

小原:おもしろかったですね。めっちゃ高い建物が乱立してるし、みんな空港で平気でタバコ吸っていたりして、日本よりも何やっても許される感がありました。意外とライブハウスの音響もしっかりしてるし、キレイで。あとは地域によって反応が違う。北の方に行けば行くほどシャイな人が多かった気がしますね。南のほうが開放的でノリ方がエッチな女の子がいました(笑)。

――Tempalayはアジアで活動を広げていきたいといった思いはありますか?

小原:今回はそういった意図を持って行ったと言うよりは、誘ってくれたから行ったという感じなのですが、“Glastonbury Festival”とか“Coachella”とか、欧米の大きなフェスにはもう「日本人枠」というものはなく、「アジア枠」みたいなものがあるらしくて。視察もほとんど日本には来なくなってしまったらしいんですね。なので、中国とかアジア圏で名前を売ると、そこにも届くという流れがあるみたいで。昔は日本にも視察に来ていたらしいんですが、今はタイとか台湾のフェス辺りを観に行っているらしいんです。ヤバいですよね。なので、アジアで名前を広げる意味は大いにあるのかなと思います。

――King Gnuはいかがでしょう? 海外での活動などについて考えたことはありますか?

常田:そうですね……。移動がツラいんであんまり(笑)。

小原:まずは日本で売れないと。

――なるほど。それでは最後に、12月3日(日)の“SPIN.DISCOVERY”について一言もらえますか?

常田:ROTH BART BARONは前から好きだったので、共演できるのは個人的に嬉しいですね。前に観たライブもすげぇよかったので。

小原:最近、国内にまた新しい層ができている気がするんですけど、King Gnuはその中心になるバンドだと思ってるんで、バチバチやりながらこれからも色々なところで関わっていきたいなって思ってます。今回はそれの第一弾みたいな形で、いい狼煙を上げられたらなって思ってます。

常田:ね。楽しみすね。


【イベント情報】

Spincoaster Presents “SPIN.DISCOVERY vol.05”
日時:2017年12月3日(日)
OPEN 17:00 / START 17:30
会場:表参道 WALL&WALL
出演:
Tempalay
ROTH BART BARON
King Gnu
SIRUP

Ticket:
早割.¥3,000 ※SOLD OUT
一般. ¥3,500

※入場時に1ドリンク代が別途必要となります。

■イベント詳細://spin-discovery-vol-05

■チケット購入URL: spindiscovery05.peatix.com
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