次世代ミュージシャンが一堂に会し、ジャズを超えた(beyond JAZZ)次世代の音楽(beyond NEXT)の創造に挑戦するスペシャル・イベント、『TOKYO LAB 2019』が9月26日(木)に東京・渋谷CLUB QUATTROにて開催される。
今年で3回目を迎える同イベントには、井上銘(Gt.)、ものんくる・角田隆太(Ba.)、石若駿(Dr.)、Yasei Collective・松下マサナオ、WONK・江﨑文武などが参加する、冨田ラボこと冨田恵一が牽引するT.O.C BANDを筆頭に、西田修大と中村佳穂による新ユニット、井上銘と西田修大のツイン・ギターをフロントに据えたMeetz Twelve、新世代トップ・ドラマーとして確固たる地位を築いた石若駿の最新プロジェクト・SMTKなど、何が起こるのか当日までわからない、刺激的なラインアップが実現した。
今回は開催迫る同イベントへ向けて行われた、冨田ラボ、松下マサナオ、石若駿の3名による鼎談の様子をお届けする。世代は異なれど、核となる部分にはリンクするものを持つ3名の会話から、『TOKYO LAB 2019』の魅力を紐解いていく。
Interview by Naoya Koike
Text & Photo by Takazumi Hosaka
――今回は今年の『TOKYO LAB 2019』について色々とお聞きできればと思います。まず、バンマスとして、冨田さんに本日のリハの感想をお聞きしたいです。
冨田:○みなさんはすぐ形にしてくれるから、全然心配とかはないですね。ただ、僕はこの10年くらい自分が仕切る以外のライブをやっていないので、他のみなさんがどういうリハをやっているかっていうのがよくわかってないんですよ(笑)。例えば、何回も演奏を繰り返すのか、ある程度キメる部分だけ詰めて終わりにするのか、とか。もちろん自然発生的な部分も残しておきたいんですけど、体に覚えさせた方がいいんじゃないかっていう昔ながらの考えもあるので……。どうでした? 大丈夫でしたか?(笑)
松下&石若:大丈夫ですよ(笑)。
冨田:よかった。みなさん、初見でも上手くできちゃうからさ。
松下:いや、あれは初見ではできないですよ(笑)。リズム・チェンジ(三連符を用いた数段階のスピード・ダウン)が次のバースに書いてある時点で無理です(笑)。
――ハハハ(笑)。リハーサルのやり方という話ですと、様々なバンドやプロジェクトに関わっている石若くんなんかは、みっちり詰めるっていうやり方は難しくなってくるんじゃないですか?
石若:いや、結構がっつりやるタイプのバンドさんに参加させてもらうことが多いと思います。制作ではなくライブのためのリハのほうが多いので、同じ曲でも何パターンか試して、「ここはこうした方がいいよね」って少しずつ修正していくような感じで。最後に、時間を見ながらセットリスト通してやるっていう。
冨田:石若さんのバンドも同じ感じですか?
石若:僕のバンドは全然やらないんです。譜面や音源だけ渡して、後は本番でっていうことも多くて。
冨田:本番で育てていくというか。
石若:そうですね。僕のバンドは結構即興性が高いので。
冨田:T.O.C Bandも即興性に任せる部分は結構あるんだけど、このイベントって年に1回しかないじゃないですか。本番が何回かあるのでであれば、そこで育っていく部分もあると思うんです。それこそ「100回リハをやるより2回本番をやった方がいい」という言葉もあるわけで。でも、それができないので、ある程度、この貴重なリハで過不足ない状態にしておかなければいけない。もちろん、本番ではいい意味でのハプニングも起こってほしいなと思いつつ。
――ツイン・ドラムという部分で、何かディレクションは行っていますか?
冨田:ツイン・ドラムというのは、プロデューサーの柴田さんからの最初のオファー(2017年)を頂いた段階から決まっていて。当初はどうしようかすごく悩みました。通常のアンサンブルとは違いますからね。Kamasi Washingtonはツイン・ドラムだけど曲構造が違うし、ストレートに参考にしたものはないんですよ。今はこのふたりがドラムを叩いているサウンドを自然にイメージして作曲できるようになりましたけどね。
冨田:松下さんも石若さんもその音源やプレイは知っていたけど、T.O.C BANDでご一緒する前は直接お話する機会もなくて。おふたりは、その前から一緒にやっていたんですか?
松下:ドラマー同士としては、結構やっていましたね。最大4ドラムまでやったことがあります。
冨田:すごい(笑)。
松下:ピアノを囲む形で、ポンタさん(村上”PONTA”秀一)、森山(威男)さんに、若手枠として僕と駿っていう編成で。すごく良かったよね。
石若:めっちゃ良かったですね。マサナオさんは結構ドラムのイベントをやっていたりしていて。
冨田:なるほど。僕はそういう情報もなかったから、最初の曲ではだいぶ細かく音符書いてましたね。フレーズの絡みは当然だけど、音量も考慮しなきゃ、とか考えながら。「一応こういう感じで考えています。ここから自由に変えて頂いても構いません」っていう感じでしたけど。
松下:でも、基本は僕ら譜面を通りですけどね。これまでの自分の引き出しにはないプレイなので、すごくおもしろくて。打ち込みみたいな要素もあるし。
冨田:でも、1年に1回しかやらないバンドなのに、2年目にはしっかり初回を上回る出来に仕上がったと思います。去年書いた曲も今年書いた新曲も、デモ音源では1台分のガイド・ドラムだったり、大まかな作りだったり、後はおふたりにお任せする感じにしています。
――おふたりはツイン・ドラムの棲み分けという部分に関して、どのように話し合っているのでしょうか?
松下:基本的には自由にやらせてもらっています。というのも、駿が本っ当に自由なやつなんで(笑)。
石若:人のせいにしないでくださいよ(笑)。マサナオさんの方が自由です。
松下:確かに僕も自由ですけど、「駿が自由だからおれも」ってつられてる部分もあるんです(笑)。ただ、元を辿っていくと、T.O.C BANDのツイン・ドラムに関しては、僕に責任があるんです。最初に(プロデューサーの)柴田さんから最初にオファーを頂いた時、まだ冨田さんが仕切るっていうことも聞かされてなかったんですけど、「駿とだったらツイン・ドラムやります」って返答したんです。そしたらその案が通って。駿とはライブとかで一緒にやる機会はあっても、これまで曲を作り上げていくっていう経験はなかったので。僕自身も彼のいちファンで、色々経験したいなって思って。
冨田:嬉しい結果になりましたね(笑)。
松下:ただ、毎回スケジュールが僕と駿の間で止まってしまって申し訳ないという気持ちもありつつ……。
冨田:みんなお忙しいですからね。だから、1回きりのリハなんですけど、本番まで2週間くらいある今日しか日程フィックスできなくて。本当だったらもっと直近にできればなとは思うのですが、中々難しく。
松下:2週間空けると、また新鮮になっちゃいますもんね(笑)。
――毎年リハは1回だけなんでしょうか?
冨田:そうなんです。去年なんかは午前中〜14時くらいで終わり、みたいな。それだけなのに、翌年になると完成度が高まっているような気がしていて、そこが有機的でおもしろいなと思いますね。
――少しだけリハの様子を拝見させて頂きましたが、今年の新曲について、どのような作品になったかを教えてもらえますか?
冨田:アフロ・ビートっぽいけどだいぶ崩しているというか、オスティナートっぽい感じというか。メイン・ボイスとしてはホーン・セクションがあって、同じパターンを繰り返すことによる陶酔感と、浮遊するようなハーモニーの組み合わせを考えながら作りました。
――その新曲を叩いてみていかがでしたか?
石若:今年も新曲を楽しみにしていたので、最初は敢えてデモ音源を聴かないようにしていて(笑)。いざやってみたら、僕のパートにはバスドラがなくて。ということは、マサナオさんが重役を担っているなって(笑)。僕、こういう構成好きなんですよ。メイン(ドラム)が別にいて、パーカッション的に上音で隙間を埋めていく、みたいな。
松下:今回、ドラムの譜面が2種類あって、①の譜面には 4段目くらいからキックが入ってきて、ビートもしっかりしていて。もう一個の方には結構パーカッシヴな動きが書いてあったので、「絶対こっちを駿にした方がおもしろいだろうな」って思って、割振りました。個人的には、結構意外な感じの曲でしたね。
冨田:僕は「こういう感じにしてもらえたら」っていう要素だけ譜面に書いて、割振りはおふたりにお任せしました。絶対当人たちの方が、どちらが合うかとか理解されていると思ったので。
松下:あと、こっちの譜面(①)は1ページだったから。
石若:え? どういうことですか? 僕3ページありましたよ。
冨田:①の方は同じパターンが続きますからね。
松下:タブレットでめくるのが嫌だなと思って(笑)。
石若:ハハハ(笑)。
冨田:でも、おふたりを見ていると「〇〇の後ろで叩く時はどっちが担当」とか、そういうところはどういう風に決めてるんだろうなって思うんです。ふたりで叩くときもあるじゃないですか。
松下:あんまり事前には決めずに、その場でこうやって(手で合図)ます。あとは、独特のドラマーのキューみたいなのがあって。「このフレーズきたら入っちゃう」みたいなのあるよね。
石若:そうですね。
冨田:それが見ていてすごくスムーズで自然で、いつもすごいなって思わされます。それこそ最初の年はそういう部分まで書くかどうか悩んだりして。たまに、書いていることしかやりませんっていうタイプの演奏家の方もいるじゃないですか。
松下:すごいですね。僕は「(なるべく)書かないでくれ」って思ってますけどね(笑)。あと、書き譜の人ほど、「このドラム・パターンは無理だろ」っていうのがあったりして。MIDIのまま譜面に起こしたようなやつを渡されたり。
石若:でも、そういう時、結構ドラマーのドM精神みたいなものが出たりするんですよね。「これやってやるぞ」って(笑)。
松下:わかる。でも、頑張ってやった結果、「ちょっとナチュラルじゃないですね」って言われたりして。そりゃそうだろと……(笑)。
冨田:おふたりの場合は、なんでも演奏できるって思われているのかもしれませんね。
松下:全然ですよ。僕は苦手なこといっぱいありますし、お断りしたり、他の人を推すこともいっぱいあります。駿とは年齢が10歳違うこともあって、最近では音楽活動のための休みもすごく大事にするようになったし。本当は40歳くらいで音楽やめて山に籠もってみたりしたいなって思うこともあるんです(笑)。でも、そういう中でこういうプロジェクトがあると、すごく刺激になるんですよね。普段はなるべくストレスのない環境のみを選んでいるんですけど、今回みたいな、ノー・ストレスな環境だけど、ストレスフルな技術を必要とされるっていうか。そういう非常に音楽的な環境に身を置くっていうのは、すごく楽しいですね。あと、さっきも話していたんですけど、(冨田が手がけた)MISIAさんの音源とかを聴いて「あれは打ち込みだ」とか「いや、これは叩いてる」とか、大学の部室であーだこーだ友達と研究してた自分が、そのご本人と一緒に演奏できる。しかも自分たちのために曲を書いてくれるっていうことを思うと、とても嬉しいし、(音楽を)やめなくてよかったなって思いますね。
――リハの様子を見ていると、石若さんが紙で、松下さんがタブレットでっていうそれぞれの違いも見えて興味深かったです。
石若:僕、手汗がすごくて。一回タブレットでやった時にめくれなくて焦ったときがあったんです。それ以来、紙の譜面にするようにしています。
冨田:フット・スイッチとかで変える方もいますよね。
松下:個人的にはあれの方が無理ですね。絶対ハットに戻れない気がする。
石若:確かに。
松下:理想を言えば、見ないでできるようになるまで詰められればいいんですけどね。タイム・モジュレーションする部分とかは、見てるか見てないかで全然入り方とかが変わってくるので。
冨田:そうですよね。あと、おふたりともバンドとかグループの全体像を見れる方ですよね。石若さんもリーダー・バンドをやってるし、松下さんはYasei Coellectiveでアートワークまで担当されているんでしたっけ?
松下:アートワークもディレクションだけはやってますね。
冨田:ふたりとも一流ドラマーとしての視点に加えて、バンドやグループの音像を大枠としても捉えられているところがすごく大きいと思うんです。それがあるから、毎回違うことがあっておもしろいですし、バンド全体のグルーヴも引っ張っていってくれる。だからこそ、もっと本番やりたいなって思うんですけどね(笑)。
松下:来年のイベントをもう組んどいてもらった方がいいのかもしれませんね。3デイズ公演とかクアトロ・ツアーとか、やってみたいですね(笑)。
石若:曲もどんどん増えていくのが嬉しいですよね。
冨田:持ち曲が3曲に増えると、バンド感でますよね。
松下:まだ打ち上げもできていないですからね(笑)。
――石若くんは自身のバンド、SMTKでも出演されますが、こちらはいかがでしょうか?
石若:去年の8月からやっているバンドで、「SMTK」っていうのはメンバーの頭文字を取ったものなんです。僕とベースのMarty(Holoubek)、細井徳太郎っていう僕と同い年で、フリー・ジャズ方面で活躍するギタリスト、あとパプアニューギニア出身で、去年東京に戻ってきたサックス・プレイヤーの松丸契くん。彼はバークリー(音楽大学)を出てるんですけど、バークリー内で撮った動画を観て、すごいカッコいいなって思ってたんです。その後「東京に戻ります」って彼がSNSで呟いているのを見て、「今度こういうイベントがあるんですけど……」ってアプローチしました。バンドの音楽性としては、結構ロックっぽく聴こえると思うんですけど、ジャズのループというか、インプロも組み込みつつ。あと、メンバー全員のオリジナルもやります。
冨田:サックスの松丸さんもお若いんですか?
石若:23歳です。彼はバークリー時代から一番レベルの高いクラス、John PatitucciとかDanilo Perezとか、Wayne Shorter Quartetの人たちが講師を務める授業を受けているんです。英語もペラペラだし、世界的に活躍できる人だなって思ってますね。
――『TOKYO LAB 2019』ではそういう新しい才能も観ることができると。新プロジェクトとしては、西田修大さんと中村佳穂さんによるユニットも気になるところです。
冨田:そのおふたりがどういうことをやってくれるのか、全然聞いてないので、本当に楽しみですね。
石若:メンバー聞きました? ベースが千葉広樹さん、ドラムが山本達久さんらしいです。
松下:最高じゃん。
冨田:中村佳穂さんが普段やられている音楽とはかなり異なるアプローチが観られるみたいで、とても期待しています。
――回をこなすことに、イベント全体が進化しているというか、より音楽的に広がっているような印象を受けます。
冨田:そうですね。今回はダンサーのアオイヤマダさんさんにも出てもらいますし。SMTKとのコラボと、T.O.C部分のオープニングでは僕の作ったトラックでパフォーマンスをしてもらいます。あとは井上銘さんと西田さんによるMeetz Twelveもありますし。
石若:Meetz Twelveには僕も参加してますしね。
――演奏する冨田さんの姿を観る機会っていうのも中々貴重だと思うのですが、間近で拝見いるおふたりからの感想をお聞きしたいです。
石若:いや、すごいですよね。もっと一緒にやってみたいです。昔はジャズ・ギタリストだったんですよね?
冨田:いや、全然ジャズ・ギタリストじゃないですよ(笑)。ただ、たしかに20代の頃はギタリストとしての仕事が多かったですね。その頃からジャズやフュージョンが好きだったから、そういうのばっかり聴いてました。
松下:僕がLAで仕事をしていた時、作曲家さんがたまに現場に来て、「ちょっと1曲やるわ」って感じでギター弾くとめちゃくちゃ上手かったりすることがあって。冨田さんにも同じような印象を受けましたね。すごいレイドバックしているのに、思想がオントップだからタイムラグも感じない。上の世代の方と一緒にやると、聴いてきた音楽の違いのせいか、タイム感のズレを感じてしまうこともあるんですよ。でも冨田さんにはそれがない。井上銘みたいな若手筆頭みたいなギタリストとふたりでソロをやっても、目つぶって聴いたらわからないくらい。もっとライブとかで弾いたらいいのになって思いましたね(笑)。
冨田:いや、練習不足なので(笑)。本当はもっとやりたいんですけどね。こういうプロジェクトがあると、そこへ向けてちゃんと練習しようってなるので、いい機会を頂いています。
――では、最後に冨田さんから今回の『TOKYO LAB 2019』へ向けた意気込みをお伺いできますか?
冨田:繰り返しになってしまうのですが、年に1回きりなのに、どんどんバンドっぽくなってきているんです。なので、1年目よりも2年目よりも、より有機的なバンド・サウンドが楽しめるんじゃないかと思います。期待していてほしいです。
【イベント情報】
『TOKYO LAB 2019』
日時:2019年9月26日(木)
会場:東京・渋谷CLUB QUATTRO
出演:
●T.O.C Band featuring 冨田恵一(冨田ラボ)
冨田恵一(プロデュース/作・編曲/Key. & Gt.) with 松下マサナオ(Dr. from Yasei Collective)、石若駿(Dr. from SMTK)、角田隆太(Ba. from ものんくる)、井上銘(Gt. from STEREO CHAMP)、江崎文武(Key. from WONK)、類家心平(Tp. from RS5pb) And THE INCREDIBLE HORNS [滝本尚史(Tb.)、武嶋聡(Sax. / Fl.)、後関好宏(Sax. / Fl.)】
●西田修大+中村佳穂プロジェクト
●Meetz Twelve
featuring 井上銘(Gt.) & 西田修大(Gt.) with 石若駿(Dr.)、千葉広樹(Ba. from スガダイロー・トリオ)
●SMTK
featuring 石若駿(Dr.)、松丸契(Sax.)、細井徳太郎(Gt. from DNA) & Marty Holoubek(Ba.)
●アオイヤマダ(Dancer)