今後のシーンのアイコンとなる可能性を秘めた新世代アーティスト総勢17組の楽曲を収録したコンピレーション・アルバム『S.W.I.M. #1 -polywaves-』が9月9日(水)にリリースされた。同アルバムは音楽シーンに新たな波を立てるアーティストをリスナーの元へと送り出すことを目的とした〈ULTRA-VYBE〉による新プロジェクト『S.W.I.M.』の第1弾リリース作品であり、アルバムのタイトルでもある『S.W.I.M.』はそれぞれ“Seek、Wonder、Iconic、Music”の頭文字から取られたものである。
9月26日(土)には同アルバムのリリース・パーティが東京インディ・シーン/サブ・カルチャーの重要拠点、下北沢はmona recordsで2フロア往来サーキット形式イベントとして開催。同時に生配信も実施され、コンピレーション参加アーティストが全国から一堂に会する貴重な公演となった。
Text by Ai Kumagai
Photo by 大地
トップ・バッターを飾ったのは緩さと居心地の良さをグッド・メロディで紡ぐ1MC&1ギター&2合いの手から成る4人組変則バンド、UNERI。軽快なサマー・ナンバー「Plantation」からライブはスタート。続く「バッコフ」ではアッパーなチューンで会場を盛り上げる。コンピ収録楽曲の「ちょっといいこと」では一転、ゆったりとしたチルな空間を演出しつつ、最後の曲「PISCO」では観客との熾烈なダンス・バトルも繰り広げるなど、熱量の高いパフォーマンスを披露。再び彼らが魅せるサウンドの幅の広さに誰しもが心を鷲掴みにされたに違いない。
続いて登場したのは先日の『FUJI ROCK FESTIVAL’20』の新人登竜門企画『ROOKIE A GO-GO 2020 LIVE』に出演したことでも話題となったMÖSHI。1曲目は現時点での代表曲であり、コンピにも収録されている「Back And Forth」。エクスペリメンタルかつインダストリアルな音世界でガラリと空気を塗り替える。英語と日本語を自由に行き来し、低空飛行なフロウからファルセットまで駆使するラップ/歌唱も見事だ。未発表曲も織り交ぜつつ、力強くも美しいダークな世界感を描き出した。
カメレオン・ライム・ウーピーパイは「Free Elephant (S.W.I.M.Mix)」からキックオフ。ステージを縦横無尽に駆け回るメンバーとサイケデリックなVJも相まり、会場内のボルテージを一気に高めていく。先日MVが公開されたばかりの「Who am I」をパワフルに歌い上げたChi-(Vo.)は、そのまま床に倒れ込むといったエモーショナルな演出も。また、“ウーピータイム”と称したウーピーズ1号、2号の見せ場ではそれぞれがサンプリングを盛り込んだDJやベース・プレイの高い技術/演奏力を見せつけ、観客たちを圧倒するパフォーマンスとなった。
続いて大阪から駆けつけた19歳の新鋭SSW、asmiが2Fフロアに登場。この日は音源とは異なりギター1本のシンプルな弾き語りでのライブ・パフォーマンスだ。コンピ収録曲「anpan」はasmiの柔らかな甘い歌声がギターの温もりと共に胸に刺さる。MC中も常に笑顔を絶やさず柔和な雰囲気を感じさせたが、それとは裏腹にあまりにもリアルな恋愛の苦悩などが垣間見える、少し毒を含んだ歌詞が彼女の魅力をより一層引き立てているかのようであった。
パイソン柄のワンピースに身を包んだYOCOと、beabadoobeeのロンTをラフに着こなすMAIYA。ファッショナブルな出で立ちのilliomoteは登場するなり「Sundayyyy」「TELEDISCO」「BLUE DIE YOUNG」を立て続けに披露。ソリッドな演奏、スリリングなパフォーマンスとは異なり、MCでは一度話し出すと2人だけの世界を作り出す、幼馴染みユニットらしい仲の良さも伺えた。リリース後に各所でピックアップされた人気曲「What is??」ではMAIYAがギターのヘッドで同期を止めてしまうハプニングもあったが、それすらも楽しんでしまう2人の自然体な姿、に観客からはマスク越しでもわかるほどの笑顔が溢れていた。
ここで再び会場は2Fに。やや緊張した面持ちで登場したのは、大阪を拠点とするSSW、Peggy Doll。ギター1本ながら、ルーパーを使い、リフやコーラスを幾重にも重ねていく。1stシングル「Yah」やコンピ収録の「Beautiful Like That」など、ソウルフルかつメロウな音世界を展開。滋味深い歌声と、ノスタルジーなそのサウンドは、陽が傾き出したこの時間帯にぴったりとハマっていた。
先日新作EP『MOIST FUTURE』のリリース・パーティを大盛況のうちに終えたSPENSRは、同EPのオープナー・トラックである「LIPS」で幕開け。バンド編成で行われたこの日のライブは、パワフルなドラムに唸るようなベースが生み出す骨太なグルーヴに、SPENSRの甘くソウルフルな歌声とSP404から放たれる眩い音の数々、その全てが絡み合うような至極のライブ・パフォーマンスとなった。
イベントもすでに終盤。転換を挟み、下北沢発の多国籍6人組バンド、American Dream Expressがステージに。こちらも先日の『ROOKIE A GO-GO LIVE』への出演が記憶に新しい。ツイン・ギターが炸裂する「Make me stoned」、サイケデリックなサウンドスケープを描き出す「Dominican shit」など、ステージ狭しと熱量の高い演奏を展開。ジャンルやシーンを横断する本イベントのラインナップの中でも、一際異質な存在感を放っていた。
American Dream Expressからバトンを受け継いだのは、福岡在住のSSW・Alex Stevens。アコースティック・ギターとサポート・ドラムというシンプルな編成で、人気プレイリストへのピックなどで注目を浴びた「BEACH HOUSE CLUB」や「Love Like She Do」などのシングル曲を披露。サポート・ドラムとも息の合った掛け合いを見せながら、終始リラックスした雰囲気で進行。まるで真夏の海辺を連想させるように爽やかで陽気な空気を湛えていた。
7時間弱に渡る本イベントのトリを飾ったのは、愛知からやってきたSSWの碧海祐人だ。普段はひとりで活動しているという彼だが、この日は東京のバンド・砂の壁をバックに従えての出演。「秋霖」や「Comedy??」といったシングル曲も、バンド編成ならではのアレンジで聴かせてくれる。メロウで幻想的なサウンドに、文学的な歌詞。シルキーかつ少し気怠さを覚える歌声は、時にヒップホップやブラック・ミュージック由来のフロウも感じさせる。1st EP未収録であるという「泡影」の弾き語りを挟み、最後は石若駿が参加したことでも話題となった「夕凪、慕情」を披露。碧海自身が誰よりも楽しそうに、体を揺らしながらエネルギッシュに歌い上げる姿がとても印象的だった。
昔よりも格段に音楽制作に挑戦するハードルが下がった今、次世代のアイコンとなりうるアーティストが次々に生まれている。今回のイベントでは若きアーティストたちの漲る力や未来への溢れんばかりの希望が感じられた。また、どのアーティストも有観客でのライブができる喜びに溢れるようなステージであった。これからも各出演者の動向、そして『S.W.I.M.』プロジェクトの動きに注目したい。
【イベント情報】
mona records 『S.W.I.M.』 PARTY
日時:2020年9月26日(土) OPEN 14:00 / START 14:30
会場:東京・下北沢 mona records
出演:
asmi
SPENSR
碧海祐人
カメレオン・ライム・ウーピーパイ
American Dream Express
MÖSHI
Peggy Doll
illiomote
UNERI
Alex Stevenes
【リリース情報】
V.A. 『S.W.I.M. #1 -polywaves-』
Release Date:2020.09.09 (Wed.)
Label:ULTRA-VYBE, INC.
Tracklist:
01. VivaOla / Runway
02. YOHLU / &I
03. I’m / BATHROOM
04. Alex Stevens / BEACH HOUSE CLUB
05. Gi Gi Giraffe / Jail Out
06. asmi / anpan
07. Peggy Doll / Beautiful Like That
08. SPENSR / LIPS
09. American Dream Express / Make Me Stoned
10. gato / G0
11. kycoh / Life-size
12. MÖSHI / Back And Forth (prod. Pause Catti)
13. TOKYO RAVE GROUPIE / Mellow Down Easy
14. カメレオン・ライム・ウーピーパイ / Free Elephant (S.W.I.M.Mix)
15. illiomote / ブラナ#15
16. UNERI / ちょっといいこと(2020re-edit)
17. 碧海祐人 / 夕凪、慕情