REPORT

Koji Nakamura『Epitaph』ハイレゾ試聴会

ナカコーが語る、新作『Epitaph』制作背景。そしてDAW時代、アクセス・モデル時代における音楽表現の在り方

ナカコーことKoji Nakamuraが6月26日(水)にリリースした最新アルバム『Epitaph』のハイレゾ試聴会が7月5日(金)にSpincoaster Music Barにて開催された。

2014年発表の『Masterpeace』以来およそ5年ぶりとなる今作は、ストリーミング・サービスにて同名のプレイリストとして発表されてきた楽曲をコンパイルしたもの。同プレイリストは楽曲の追加や入れ替え、更新も行われるなど、発表してからも変化を続けるといった特殊な、そして今日的なアウトプットの手法でも話題を集めた。2016年に発表されたKanye West『The Life of Pablo』ともリンクするその形態は、音楽を取り巻く環境がドラスティックな変化を遂げる昨今において、これまでの常識、「当たり前」を打ち壊すかのような姿勢を感じさせた。

ナカコーの意志を尊重し、現段階ではダウンロード販売が行われていないという同アルバムだが、リスナーの要望に応える形で今回のハイレゾ試聴会の開催が決定。さらに、この日のために益子樹が新たにマスタリングを加えた特別なハイレゾ音源も用意されるという贅沢さ。エアコンも止め、防音環境が整えられたSpincoaster Music Barにて、存分にその音世界に浸ることに。

本稿では、当日試聴会の後に行われた音楽雑誌『MUSICA』編集長・有泉智子を司会に迎えたトーク・セッションの様子を中心にお届けする。

Text by Takazumi Hosaka
Photo by 中島未来



試聴会自体が初めてだというナカコー。ハイレゾのリリースに関しては、「前作もハイレゾではリリースしてないんですけど、今後はどうなるかわからないですよね。う〜ん。いや、やっぱりないですね(笑)」と、開始早々会場の笑いを誘う。トークはまず、『Epitaph』というプレイリスト企画が始まった2017年当時の背景から遡ることに。

その頃、ナカコーはCDという媒体でリリースすることについて全く興味が湧かず、そしてフィジカル・リリースにまつわるあれこれに頭を割くことも嫌になっていたという。そんな時、スタッフからの提案でストリーミング・サービスに興味を持つことに。「これまでの手法とはちょっと違うかな。おもしろいかもって感じた」と語るナカコー。先述のKanye Westの件についても、「やっぱりそうやるよねって思った」と、同じ時代を生きるアーティストとしての共感を露わにした。

「(プレイリスト企画を始動する前に)SoundCloudに勝手にデモ音源とかをUPするっていうのはやってて。スタッフからは怒られてたんだけど(笑)。これはおもしろいなと思った」と、できた楽曲を限りなく時差のない状態で世に放つ楽しさ、快適さを感じつつも、「一度発表した楽曲をアップデートしていくことは、アーティストにとってはある意味自然なことなのでしょうか」という有泉の質問に対し、「作ったらすぐにリリースできる世の中になったから、突発的に発表してしまうこともある。でも、その後にもう一度咀嚼してみたり、作り直したいなって思うことはあります。それはすごく自然なことだと思う」とコメント。

続けて、CDとしてリリースされた『Epitaph』は、この2年ほど続けてきたプロジェクトにおける「完成版」なのか、それとも「通過点」なのか、という問いには「この先についてはまだ話し合ってないし、どうしようかなっていうのは考えてるところ。今はただ『Epitaph』がCDになったっていうのを実感しているだけ」と正直に打ち明ける。

「No Face feat. abelest」でNyantora名義で2018年に発表された「Bonten」(『マイオリルヒト』収録)やMECABIOtH(ナカコーと現代美術作家・三嶋章義を中心にしたプロジェクト)で演奏していた曲と同じ音を使用していることを指摘されると、「それは意図的にやっていることなんです。絵描きさんや作家さんだと、過去の作品をモチーフにしている方もいますよね。そういう作品に触れた時に、『こういう表現ってアリなんだ』って思ったんです。『RE:SUPERCAR 1』(自らスーパーカーの楽曲に手を加え“リデザイン”した音源集)を作ったのもすごくいい経験になっていて。ある人たちにとっては過去の作品の記憶だけど、それが新しい作品に落とし込まれる。それはこれからの音楽において、キーになるんじゃないかな」と、今後を示唆するような発言も飛び出す

アンビエントを主軸にしながらも、自身のボーカルにも大胆にフィーチャーした作風については、「ノン・ビートの曲もあるけど、自分のなかではビートがあって。それは具体的なキックやスネアではない」と語り、1940年代〜1950年代のレコードからの影響があったことを明かす。自身のボーカルについては「自分が歌うっていうことにはそんなに積極的な人間ではなかった」というナカコーだが、今作の制作に際して、改めて「歌」そのものへの再発見があったのだという。

「歌っていうのはおもしろいぞっていうことに気づいた」「自分でも意外。超意外。やりながら『意外だな』って思ってた(笑)。でも、それが心地悪いものではなかった」と続ける。検証を重ねた結果、ある種ミニマルな構造となった今作では、歌を大切にすることがそのまま楽曲の強度に繋がるということに辿り着いたのだという。「バンド・サウンドだったら歌はごまかせるけど、こういう作風だとごまかせない」。

また、今作はサウンド・プロデューサーにmadeggことKazumichi Komatsuを迎えたほか、ゆるふわギャングのRyugo IshadaとNENE、ビートメイカーやラッパー、映像作家としても活動しているabelestといった新世代アーティストとのコラボも展開している。彼らのような新世代と自らの差異について、作曲におけるスタート地点が楽器演奏かDAWかという視点から紐解いていく。

「(DAWからスタートした)madeggくんとかは、最初からルールがない。思い描いたものをすぐに形にできる」「madeggくんから来たデータには解明できないようなやつが結構あって。例えば、『テンポは130です』って言って送ったデータが、『129』とかで返ってきたりして。それをこっちで検証するんです。これは間違いなのか、それとも意図的なのか。意図的なものはもちろん取り入れて。たまに『ここはミス?』って聞いてみたりすると『ごめんなさい、そこはミスです』って言われたりする(笑)」。戸惑いながらも新たな感性と交わった、今作の制作背景が伺えた。

「若い世代とコラボすることで、自分の価値観を再構築しようとする意図があったのではないか?」との有泉の問いには、「(彼らの)感覚だけはわかった。でも、その感覚を自分の血肉にするのは全くの別物。彼らと一緒に制作していく中で生まれてくるモノが自分の身になる」と、今回の制作における成果についても言及してくれた。

ここで話題は「DAW時代、アクセス・モデル時代だからこそできる音楽表現」に移る。「どう使うかで人それぞれ」「ただ、DAWはあくまでプラットフォームでしかないという俯瞰した目線で見て、自分の表現はその枠から飛び出すものなのか、それともそこで完結するものなのか。そういうことを考えるのが大事だと思う」「僕は飛び出していってしまう人の方がおもしろいと思う。ただ、そんな人ばかりだと世の中おかしなことになるから(笑)、両方いて良いと思う」。会場の笑いを誘いながらも、アーティスティックな面と、職人的な面、ナカコーのなかに併存する2面性が垣間見れた瞬間だ。そしてアルバム『Epitaph』が擁しているフリーキーな側面とポップネスも、このバランス感覚が故に成立しているのだということがよくわかった。その証拠に、「abelestくんやmadeggくんからきたもの(データ)はすごく自由で、難解に聴こえるものもあった。それをだいぶ優しく(ポップに)したつもり」とも語っていた。

最後に、CD、ダウンロード、ストリーミングと遷移していく音楽の発表形態について意見を聞かれるナカコー。「ダウンロードは最初っから嫌い。その後のモラル(違法コピーなど)と音質の問題」と、バッサリ切り捨てる。「この音質でこの金額なら、CD買った方がいいよって提示する方が、リスナーに対しても誠実なスタンスだと自分は思ってる」とも。ただし、震災以降、徐々に普及していったストリーミング・サービスに関しては肯定的だ。「いつでもどこでも聴けるのは素晴らしい」と、素直にその利便性を評価。

また、プレイリスト企画として始まった『Epitaph』然り、SoundCloudでの音源発表然り、ストリーミング・サービス以降、激的に変化した制作とリリースの関係性。果たして、それは今後どのように発展していくのだろうか。ナカコーは最後にこう話した。「もはや制作とリリースがセットになっている。作っている僕ら、それこそmadeggくんたちもそう考えている。あとはそれを売る側、レーベルだったりメディアだったりがその想いにどう応えていくか。それが今後おもしろいことになっていくかどうかに繋がるんじゃないかな」。有泉は思わず「……頑張ります」と真摯に返答し、思わず来場者から笑みが溢れる。

トークは短いながらも、切り口も鋭く、随所で深い考察が飛び交っていた。今作『Epitaph』以降、ナカコーがどのような動きを見せるのか、今から楽しみで仕方がない。


【リリース情報】

Koji Nakamura 『Epitaph』
Release Date:2019.06.26 (Wed.)
Label:Sony Music Labels Inc.
Tracklist:
1. Emo
Lyrics by Arita shohei
Music by Koii Nakamura

2. Lotus
Lyrics by Arita shohei
Music by Koji Nakamura

3. Wonder feat. Ryugo Ishida & NENE
Lyrics by Ryugo Ishida & NENE / Arita shohei
Music by Koji Nakamura

4. Reaction Curve #2
Lyrics by ACO
Music by Koji Nakamura

5. Open Your Eyes
Lyrics by Arita shohei
Music by Koji Nakamura

6. Influence
Lyrics by Arita shohei
Music by Koji Nakamura

7. Hood
Lyrics by Arita shohei
Music by Koji Nakamura

8. Sense(3:44)
Lyrics by Arita shohei
Music by Koji Nakamura

9. Being
Lyrics by Arita shohei
Music by Koji Nakamura

10. 1977
Lyrics by Arita shohei
Music by Koji Nakamura

11. Night
Lyrics by Arita shohei
Music by Koji Nakamura

12. No Face feat. abelest
Lyrics by abelest
Music by Koji Nakamura

※Produce, programming & editing by Kazumichi Komatsu (Madegg)

Koji Nakamura オフィシャル・サイト

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