Text by Naoya Koike
Photo by Yosuke Torii, Wataru Umehara, Kentaro Hasegawa
ジャズ・ピアニストのJason Moranが昨年12月14日(土)、東京・足立区のMURASAKI PARK TOKYOでスケートボーディングとジャズ・ミュージックの即興セッション企画『Jason Moran “SKATEBOARDING” Tokyo』を行った。『SKATEBOARDING』は、創造性/身体性/即興性で共通するスケボーとジャズをつなぎ、新たな化学反応を起こすことを目的に開催されている。
これまでワシントンD.C.のケネディー・センターや、サンフランシスコのジャズ・センターなどで開かれてきた当イベントだが、今回が初の日本上陸となった。Jasonは現代ジャズの最重要ミュージシャンのひとり。自身も以前スケーターだったという彼が日本にこの企画を持ち込むとあり、創造的な空間になることは間違いなかった。
MURASAKI PARK TOKYOにピアノ2台、ベース、ドラム、DJブース、スピーカーが設置されている。それだけで異様な光景だ。DJ ConomarkによるDJがはじまり、4ビートが鳴り響くと、いよいよジャズとスケボーのコラボが現実味を帯びてきた。
暗転後、オープニング・アクトとして登場したのはスガダイロー(p)とJason Moran(p, Rhodes Piano)。向かい合った2台のグランド・ピアノで両者は対話をはじめた。この演奏のテーマは「Round About Jason Moran. Suga Dairo “Plays Thelonious Monk”」となっており、ジャズの歴史でひと際ユニークな存在として知られる巨星Thelonious Monkをオマージュする。
フォーキーな質感で発進してから、まずスガダイローが鍵盤の中域以下で即興を展開。Jasonがそれよりも上の音を用いてリフを繰り返した。続いて役割が反転し、Jasonがソロを取り、スガが3拍子のリフをキープ。アブストラクトな演奏のなかで、「Criss Cross」などMonkの楽曲が見え隠れする。取り囲むようにして眺めるオーディエンスは、先の読めない展開に釘付け。
Jasonはピアノだけでなく、フェンダー・ローズを弾いたり、時に鈴を鳴らすなど演奏にスパイスを加える。音楽は抽象的な質感から、スウィンギーだったり、ブルージーなものまで様々に展開。ハイライトはスガダイローが再低音、Jasonが最高音をパーカッシヴに打鍵する瞬間だった。最後は両者とも笑顔を見せて演奏が終了。固く抱き合って互いを称える姿も感動を覚えた。
休憩をはさんでから、メイン・イベントである『SKATEBOARDING』へ。戸枝義明、池田幸太、北詰隆平、有馬昂希、本郷真太郎、日本を代表する5名のスケートボーダーに対するのは、主宰のJason、須川崇志(b, cello)、石若駿(ds)によるピアノ・トリオだ。
バンドがヒップホップ的なビートを鳴らし、前例のないセッションがスタート。特に画一的なテーマはなく、スケーターたちが演奏上で思い思いのトリックにチャレンジする。Jasonはその光景をじっくりと観察しながらバンドを統率し、自らの演奏にフィードバックさせていた。瞬間的に生み出されるジャズとスケートボーディングが相互に刺激し合う。
演奏はWes Montgomeryの楽曲「Four On Six」を挿み、4つ打ちの踊れるビートなどを提示してスケーターの背中を押す。アクロバティックなオーリーやフリップが決まるたびに観客からは大きな拍手が。ボードの着地音がリヴァーブの効いたスネアのようで、音楽の一部として響くのも興味深かった。演奏は中盤に若手サキソフォン奏者の松丸契がシットインしたり、須川が情熱的なチェロを披露したり、石若が攻めたドラム・ソロで切り込むなど見せ場をそれぞれ作りながら加速。
熱を増す演奏に鼓舞されたスケーターたちは、ひたすらトライ&エラーをくり返す。どちらかと言えば失敗の方が多かった。しかし彼らはそれを恥ずかしがらないし、隠そうともしない。転んでも子どもの様な笑顔を見せて成功するまで立ち上がり続ける。ジャズも同じである。Charlie ParkerやJohn Coltraneを始め、現代の奏者に至るまで、ジャズメンは努力の積み重ねで革新を続けてきたのだから。
以前ベーシストのThundercatが、伝説的なスケーターを父に持つAustin Peralta(p)との思い出を回想してから語っていたことを思い出す。「反復することが大切なんだ。ある程度は生まれつき備わっているかもしれないが、練習からは逃れられない。筋肉も鍛えないと使い物にならないだろ?」。その通り、音楽家は膨大な時間を演奏のために費やさなければならない。特に即興スキルが求められるジャズはなおさらである。
今やネットやSNSが整備され、ほとんどの物ごとが即時的に完了する。ビジネス書を読めば手軽に実用的な知識が得られるだろう。それに比べたら、スケーターやジャズメンの生き方なんて合理的とは言えないかもしれない。しかし彼らの共演を観ていると、なぜか何とも言えない、勇気がこみ上げてくる。彼らはなぜ諦めないのか、何が彼らを突き動かすのか、それを知りたくなる。そして我々にもそれがあるかもしれない、自分も立ち上がれるかもしれない、そう思わせてくれる何かを感じた。
演奏は最終的にMonkの「Rhythm-A-Ning」を経て収束。それに伴いスケーターも演技を終了し、演奏者とハグをする。スケートパークを囲むオーディエンスからも惜しみない拍手が贈られた。演者とオーディエンスともに満足度が高い様子で、前代未聞のコラボレーションは大成功だったと言えるだろう。密度の高いクリエイティヴな時間が終わってしまうのが惜しかった。スケートボーディングとジャズに「創造性/身体性/即興性」という共通性を見出し、両者をつなげたJason Mornに感謝したい。そして2020年はもっと日本にこういう場が増えてほしいと願っている。
【イベント情報】
Jason Moran 『SKATEBOARDING』 Tokyo
日時:2019年12月14日(土) Open 14:00 / Start 15:00
会場:ムラサキパーク東京
出演:
[Opening Act]
“Play Thelonious Monk”
Jason Moran (Piano) x スガダイロー (Piano)
[Main Session]
“SKATEBOARDING”
Jason Moran (Piano)
石若駿 (Drums)
須川崇志 (Bass)
[Skater]
戸枝義明
池田幸太
北詰隆平
本郷真太郎
有馬昂希
[DJ]
Conomark