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REPORT | It’s All About R&B !! 『オルタナティヴR&Bディスクガイド』刊行記念イベント


進化し続けるR&Bの現在地。つやちゃん、aimiら参加のトークショーをレポート

2024.10.24

書籍『オルタナティヴR&Bディスクガイド』の刊行を記念したイベントが9月25日(水)に東京・明大前 Cafe Bar LIVREにて開催された。

R&B好きによるR&B好きのためのコミュニティ「R&B Lovers Club」がサポートを務めた本イベント。当日はディスクガイドの監修を務めた川口真紀とつやちゃんはもちろん、インタビュイーとして登場したaimi、執筆で参加したダンサー/DJ/ライターのYacheemiらによるトーク & DJ(+ミニライブ)が展開された。

当日はディスクガイド編纂についての苦労話や裏話も挟みつつ、終始和やかな雰囲気で進行。本稿ではそのトークパートをテキストで振り返る。なお、先述の「R&B Lovers Club」によるオリジナルTシャツの販売も本日よりスタート。バックにはロゴが大々的に、フロントにはR&B好きであればピンとくるような一節がデザインされている。こちらも合わせてチェックを。

Tシャツ販売ページ

Text by Takazumi Hosaka


今だからこそ聴きたいクラシックR&B。現在のオルタナティヴR&Bとの繋がり

川口:ここにいらっしゃるみなさんはR&B好きな方々だと思うので、説明不要とは思いますが、一応ざっくりと「オルタナティヴR&B」とはどういったジャンルなのか、ということを説明させてもらうと、アンビエントで浮遊感のあるボーカル/サウンド、シャウター系とは対象的な、繊細で官能的、アンニュイなボーカルだったり、内省的な歌詞。こういったものがオルタナティヴR&Bを定義づける主な要素かなと思います。「オルタナティヴ」という言葉の意味通り、これまでのメインストリームなR&B、オーセンティックなR&Bとは違う、新しく刺激的なR&Bということですね。

ただ、その解釈も近年ではどんどん拡大化してきて、最近ではクラブミュージックや実験的な要素を取り入れた作品も多く出てきて、それらも「オルタナティヴR&B」と呼ばれている。

なので、このディスクガイドではUsherやAriana Grandeといった、一見「オルタナティヴ」とは言えないようなアーティストの作品も取り上げています。アーティスト単位ではなく、曲や作品単位でセレクトしている。それもこのディスクガイドのおもしろい点のひとつなのかなと思います。

つやちゃん:2010年代からずっと「オルタナティヴR&B」という言葉はあったんですけど、みんな実態は掴めていないように感じていて。便利な言葉なので我々業界の人間も使ってきたんですけど、その言葉が指すものはぼんやりしていた。それを改めて定義付けするような作業もあまり行われていなかったのかなと思うんです。そういった経緯から、今回我々はその難題に挑戦してみました。

このディスクガイドを読んで、載っている作品をチェックして頂ければ、何となくその輪郭みたいなものが掴めるんじゃないかなと。今、どんどんR&Bが拡大していて、みんなの共通言語もなくなってきているなか、ちょっとでも共通認識や共通項みたいなものができたらなと。

川口:今日、最初に私がお話するテーマは「変化してきたR&B。今だからこそ聴きたいクラシックR&B。現在のオルタナティヴR&Bとの繋がり」。私が意識的にR&Bを聴くようになったのは94年頃、Mary J. BligeやJodeci、TLC、SWVなどがヒットを飛ばしていた時期です。当時、才能あるアーティストが山のようにたくさん現れて、私は一気にR&B沼へと引きずり込まれたわけです(笑)。そしてそんなヒップホップソウル、Mary J. Blige以降のメインストリームR&Bへのアンチテーゼと言わんばかりに、当時は「ニュークラシックソウル」と呼ばれていた「ネオソウル」と呼ばれる面々も登場します。

「今だからこそ聴きたいクラシックR&B」というお題に対して、ロックファンなど全方位から人気があったD’AngeloやMaxwellを挙げるのはもちろん正解でもあるし、簡単なんですけど……今日はD’Angeloと同じくらい、よりコアなR&Bファンの間で評価されていた、Adriana Evansの1stアルバム『Adriana Evans』(1997年)をご紹介します。

パートナーであるDred Scottというラッパーがプロデュースを手がけていて、70年代ソウルへの憧憬が全面に出ているノスタルジックで瑞々しいサウンドだけど、Tyrone DavisやCameoなどをサンプリングしたり、ヒップホップ的手法も取り入れていて。当時、雑誌bmrのライター陣も大興奮していた記憶があります。

川口:やっぱりDred Scottがラッパーだから、文字通りヒップホップを通過したソウルなんですよね。あと、AdrianaはライブではChaka Khanのようにバリバリ歌う人なんですけど、アルバムだとMinnie Ripertonのように繊細なボーカルスタイルで。今のシーンで活躍するMaetaやKehlaniなんかもライブと音源で全然異なるスタイルだし、そういったR&Bのおもしろさっていうのは今も昔も変わらないのかなと。それと、パートナーと2人で作り上げるというのも、密室性みたいなところで後のオルタナティヴR&Bと通ずるものがある気がしています。

※アルバム『Adriana Evans』は現在ストリーミングサービスなどで配信されていないため、川口持参のLPをプレイしようとしたところ、DJのYacheemiが「僕、(PCに)入ってますよ」というナイスサポートも飛び出した。

川口:そしてネオソウル旋風が吹き荒れる中、もうひとつの大きなうねりがR&Bシーンに生まれます。それがThe NeptunesやTimbaland、Swizz Beatzといったプロデューサーたちが生み出した無機質でインダストリアルなサウンド。今回、ディスクガイドを作っていく中でAaliyahの影響力の強さを改めて感じたんですけど、彼女が当時まだ無名だったTimbalandと作り上げた2ndアルバム『One In A Million』の影響力の大きさは、現在のオルタナティヴR&Bに続く流れを語るうえでも欠かせないし、それ以降のオルタナティヴR&Bシーンにも多大な影響を与え続けているなと。

Aaliyahの歌唱もさることながら、Timbalandのサウンド──「チキチキ」って表現された倍速のハイハットを使用したメタリックかつダークなトラックは、当時「なんじゃこりゃ」って思いましたけど、その後着実にR&Bシーンに浸透していったことを覚えています。

川口:あとはTimbalandと並んで、もしくはそれ以上にオルタナティヴR&Bの隆盛に貢献しているのは、The NeptunesというかPharrell Williamsなんじゃないかと思っていて。TimbalandやSwizz Beatzはトラックメイカーだけどメロディメイカーではないんですよね。TimbalandにはMissy Elliottという素晴らしいメロディメイカーがいたし、Swizz BeatzもAlicia Keysと結婚する前はヒップホップクルー・Ruff Rydersのプロデューサーだった。

かたやPharrellはTeddy Rileyの舎弟で、SWVやBlackstreetの作品にも関わっていて。Noreaga(N.O.R.E.)の“Superthug”でドカンといきましたけど、それ以前からR&B職人だったわけですね。Kelisの“Milkshake”やBritney Spearsの“I’m A Slave 4 U”みたいなポップな曲でもその手腕を存分に発揮していた。

川口:かなり個人的な話になってしまうのですが、Pharrellのすごさを身を以て体感したことがあって。2011年頃、オルタナティヴR&Bのうねりがきたとき、当時絶賛されていたJames Blakeの1stアルバム『James Blake』(2011年)とか、The Weekndのミックステープとか、あまりピンとこなかったんです。2011年2月に出産して、3月には震災もあり、正直言って音楽どころじゃなくて、「私もついに(現行の)R&Bから離れるのか」とも思ったんです。

そんな中で、Frank Oceanの歴史的名盤『channel Orange』(2012年)がリリースされまして。その収録曲“Sweet Life”を聴いたときに、「私、まだまだR&Bいける!」って思ったんです。この曲はPharrellプロデュースで、浮遊感のあるいわゆるオルタナティヴR&Bな1曲なんですけど、すごくメロウで、私のような古参ファンも魅了するような美しさがあって。

川口:次の『Blonde』(2016年)でも“Pink + White”という最高に美しい曲をPharrellがプロデュースしていて。私はSWVの作品の中で、The Neptunesプロデュースの“Use Your Heart”という曲が一番好きなんですけど、あのとき感動したメロディの美しさが時代を超えて再び届けられた気がして。それは本当にすごいことだなと。

Frank Ocean以外にも、今回のディスクガイドで言うとSZAの“Hit Different ft. Ty Dolla $ign”とかSnoh Aalegraの“IN YOUR EYES”(共にThe Neptunesプロデュース)、他にもSolange、Daniel Caesar、Kehlaniなどなど色々と手がけていて。間違いなくオルタナティヴR&Bの隆盛に一役買っている人だと思います。

川口:Y2Kサウンド、EDM、アフロビーツにアマピアノなどなど……R&Bはいろんなジャンルを取り込んできて、その流動性も間違いなく魅力のひとつだと思います。でも、その一方で美しいメロディなど普遍的な部分もR&Bの重要な要素であって。それがあるからこそ、時が経っても多くの人々から愛され続けているんじゃないかなって。今後もそういった変わりゆく、変わらないものの美しさを楽しんでいけたらなと思います。


ポップシーン全体におけるR&Bの影響。こんなところにもR&B

つやちゃん:川口さんが語ってくれた時代からさらに進んで、今はR&Bが大きな広がりをみせていて、もはや誰もその全貌を捉えられない感じだと思うんです。そしてその波はポップシーンにも及んでいるんだけど、あまりそういったところではR&Bにスポットを当てられない。それが個人的には少し寂しく思うからこそ、我々は日々こういった啓蒙活動を行っているのですが……。

aimi:わかります。過小評価されてるって思っちゃいますよね(笑)。

つやちゃん:そうなんです。で、昨年から今年にかけて世界で一番ブレイクしたポップシンガーということで、今回はSabrina Carpenterを中心に語っていきたいんですけど、彼女はR&B文脈で語られることが少ないなと感じていて。パブリックイメージで言うと、キャラが立っていて、リリックにもパンチラインというかミーム化しやすいものが多い人ですね。最近ではセレブリティの仲間入りも果たしている気がするんですけど、実は結構長いキャリアのある方で、過去作にはわかりやすいR&B曲も多いんです。

例えば2020年の“Honeymoon Fades”という曲を聴いてもらえばわかると思うんですけど、とても多彩な歌い方ができる方ですね。で、そのバリエーションの中には間違いなくR&Bの素養もある。そういった着眼点で、今いろんなところでかかっている大ヒット曲“Espresso”を改めて聴いてみると、例えばAmerieなど2000年代前半のR&Bの匂いも若干感じられるんじゃないかなと。

つやちゃん:もう1曲、最新アルバムから“Good Graces”という曲を聴いてもらいたいんですけど、このイントロとかもはやジャパニーズR&Bなんじゃないか、とすら思っちゃうんですね。J-POP感があるというか。

つやちゃん:Sabrina Carpenterの今年のアルバムって、レーベル的には超重要作なはずですよね。莫大な予算をかけて、大きなチームで「絶対に売れる作品を作るぞ」っていうプロジェクトだったと思うんです。そこでY2K R&Bが採用されている。しかも、この曲のプロデューサーはJohn RyanというOne Directionなどの作品を手がけている方で、R&B畑の人ではないです。そんな人が、この注目作で「ドR&B」な曲を作る。そしてそれがアルバム前半に収録されるというのは、R&B、とりわけY2K R&Bが今本当に流行ってるんだなと思います。

それに加えて、今年はTikTokからDoubleの“Strange Things”がリヴァイバルヒットを記録しましたけど、Y2K R&Bの中でも日本っぽいもの、あの頃のジャパニーズR&Bに世界が注目しているタイミングが来ている。

aimi:“Strange Things”はアルバム曲で、リードシングルとしてカットされているわけでもなかったと思うんですけど、それをキュレーターというかインフルエンサーがディグって大きなリヴァイバルヒットに繋がったんですよね。

つやちゃん:自分もTikTokとかで色々調べているんですけど、海外で日本のY2K R&Bを紹介している方は他にもいて。あの時代の作品から新たなリヴァイバルヒットがいつ生まれてもおかしくない。今日言いたかったのは、そうやって日本のY2K R&Bが世界から注目されているということと、Sabrina CarpenterのR&B色にみんな気づいてください、ということ(笑)。

aimi:なるほど(笑)。でも、きっとSabrina Carpenter以外のポップスターにも同じことが言えますよね。

つやちゃん:そうなんです。今、グローバルなヒットチャートを見ていると、随所にR&Bの要素、影響を見出せると思います。

aimi:「R&Bがみんなのものになっている」というか。いろんな音楽とクロスオーバーする形で幅広い層に浸透していっている。

つやちゃん:そう。ぜひ、ポップスのヒット曲の中にあるR&Bの要素にも注目してみましょう、という話でした。


マニアックに語る、シンガー視点のR&B

aimi:私はシンガーなので、その視点からお話をさせていただきたいと思います。そして先に言っておきます、マニアックな話になるかもしれません(笑)。

このディスクガイドの中でインタビューもしていただいて、そこでもお話させてもらったんですけど、新世代R&Bアーティストの方たちは「ピッチの到達が早い」と感じています。例えばMary J. BligeやBeyonceといったオーセンティックなR&Bシンガーって、下(の音程)からぐわーっとしゃくり上げるような歌い方が印象的というか。この「しゃくり」があってこそR&B、みたいな風潮があったと思うんですね。

その一方で近年活躍されているアーティストたちは、声を出してすぐに当てたいピッチまで到達する。今流れているJhené Aikoもすごくピッチの到達が早いアーティストのひとりなんですけど、こういった点についてもっと掘り下げたいなと。

aimi:従来のR&Bアーティストの作品では、オートチューンやピッチを修正する「Melodyne(メロダイン)」と言われるソフトウェアなどがまだそこまで使用されていなかった。ということは、音程を修正したり編集せずに、音源化されるわけですよね。だからこそ、ああいった生々しい歌い方になるのかなと。

その一方で最近では、軽やかでネオソウルやジャズの要素も感じられるAlex Isleyだったり、気だるく、はっきり発音しない感じで歌うSummer Walker、一方で音域も広く昔ながらのR&Bマナーを継承しているMuni Longなどなど、挙げるとキリがないですが、様々なスタイルが確立されている。それぞれ歌い方が違うけど、それでも全員「今っぽく」聴こえるんですよね。その理由こそが、ピッチ到達の早さなのかなって思うんです。

……なぜそうなったのかなと考えていくうちに、個人的にひとつの仮説を立てました。それは「コライト文化の影響」なんじゃないかということ。コライトってひとつの曲を複数の人で作る手法なんですけど、海外ではかなり前から広く普及していて。日本でもここ数年でそういった手法を取り入れるアーティストさんが増えたなという印象です。

私もJhené Aikoなどを手がけているLEJKEYSというプロデューサーだったり、USのソングライターの方と曲を作ったりしているんですけど、そうした際に、「トップライン書くときにオートチューンかける?」って絶対聞かれるんです。つまり、曲を作るときからオートチューンをかけるのが当たり前になっている。「なんでそういう作り方をするの?」って聞いたら、「プレイバックした(聴き返した)ときにカッコよく聴こえた方が気分がノるじゃん」って言われて、なるほどなと思ったんです。

aimiがLEJKEYSと制作した楽曲“I’m OK”

aimi:コライトの現場だと、A&Rだったりアーティストがいることもあって、その場でソングピッチしたりするんですね。ソングピッチというのは日本だとコンペって言われる手法と同じようなことなんですけど。コライトセッションでオートチューンをかけながら、ソングライターやアーティストによってどんどん楽曲を生み出され、実際に採用されている。それがピッチ到達の早さに影響しているような気がしているんです。……みなさん、どう思いますか?(笑)

川口:まさしくシンガーならではの仮説だなと思いました。私なんかは全然思いつかなかったです。

aimi:それに加えて、ひとつ思うこともあって。コライトの現場にはエンジニアもいて、トップラインを書く人に「ここはこうした方がいいんじゃない?」とか、プロデューサーだけでなく、みんなでそういう意見交換を行ってるんです。

プロデューサータグ(トラックやビートに自身が制作したことを印象付けるように入れる固有の音)の存在感もあり、リスナーやメディアも「誰がプロデュースしたか」にクローズアップしがちだけど、今後はソングライターだったりエンジニアだったり、もしくはコライトクルー/チームに注目する時代がくるんじゃないかなって思っています。

すでに日本でも同じような動きをしている方たちもいて、例えば〈w.a.u〉の人たちはそういう作り方をしているんじゃないかなと思うし、私も仲間たちと一緒にコライトすることが増えました。あと、こういった制作手法がR&Bの多様性にも繋がっているような気がしていて。多様な人種、バックグラウンドの人たちが集まって共同制作するからこそ、いろんなジャンルの要素がミックスされていく。それが現代R&Bのカラフルさに繋がっているのかなと。


ダンサー目線で語るR&Bの変化

Yacheemi:僕はダンサーでありDJでもありまして、ダンサーのときはダンスホールレゲエとかを踊っているのに、昔からR&Bも大好きという、ちょっと掴みどころのない人間なんです。そんな僕がダンサー目線で最近のR&Bについてお話させてもらおうかなと。

最近の傾向的には、僕がやってたようなダンスホールレゲエとガーナやナイジェリアを中心に隆盛したアフロビーツ、そして南アフリカ発祥のアマピアノ、この3ジャンルがR&Bのダンスシーンにめちゃくちゃ喰い込んできています。そもそもアフロビーツは世界的に流行って久しいですよね。どのR&Bアーティストも1曲はアフロビーツな曲を持っていたり。その流れでダンスにもアフロ的なムーブが入ってきている。

Yacheemi:でも、昔はジャマイカの人はジャマイカの踊りしかやらなかったんです。当時は南アフリカとガーナのダンスも結構はっきりと分かれていて、あまり混ざらなかった。それがここ5年ぐらいで、どの国のどのダンサーも様々なジャンルを混ぜることが主流になった。昔は腰の回し方を見ただけで、アフリカのどこの地域か大体わかったんです。それが今は南アフリカの人もジャマイカのダンスを踊ったり、それがまるまるアメリカに入ってきたり、すごいミクスチャーになってきている。

わかりやすい例を挙げると、Kehlaniの“After Hours”のMVのフックのところ、これは南アフリカとジャマイカのダンスが混ざり合っています。おそらく振付師が各国のトレンドを取り入れて、巧みに落とし込んでいる。

aimi:でも、この曲のビートってアフロビーツではないですよね。

Yacheemi:オケはNina Skyの“Move Ya Body”に代表されるようなクーリーダンスなので、ジャマイカですね。そこに乗っているボーカルはR&B、ダンスはミクスチャーなので、すごい時代ですよね(笑)。

今のR&Bのトップ振付師はSean Bankheadという人で、NormaniやVictoria Monetの最近出ているものはほぼ全部手がけています。この人は昔のJanet Jacksonなどを想起させるようなクラシックなテイストと、最近のトレンドを混ぜるのがすごく上手い印象です。みなさんもぜひチェックしてみてください。

Yacheemi:あと、お話したかったことがもうひとつあって。Kenyon DixonというアメリカのR&Bシンガーがいて、古き良きR&Bに特化した作品を出しているんですけど、元々ダンサー出身らしく、彼のインスタを見てみたらめちゃくちゃ踊れる、Usherばりに踊れることがわかって。しかも最近知ったんですけど、Alex Isleyとご結婚されていて、娘さんもひとりいらっしゃるようで。とんでもないサラブレッドなんじゃないかと密かに注目しています(笑)。


これからのR&B大予想

aimi:最後に全員で、これからのR&Bシーンはどうなっていくか大予想できればと思います。川口さんはいかがですか?

川口:難しいですよね。今後も多様性に富んだ作品が出てくることは間違いないと思うんですけど、その上で個人的な願望を言わせてもらうと、私は90年代ヒップホップというか、ヒップホップソウル世代なので、サンプリングを多用したR&Bがいっぱい出てくると嬉しいです。こう思ったのは、Marsha Ambrosiusが今年『CASABLANCO』というアルバムをリリースしまして。Dr. Dreプロデュースの一作なんですけど、大胆なネタ使いばかりで。Nas、Wu-Tang Clan、KRS-Oneネタとか、Dr. Dreがやりたい放題やっていて超最高なんですよね。

川口:あと、今年CommonとPete Rockのアルバム『The Auditorium Vol. 1』でもAretha FranklinやEsther Williamsをネタ使いしていたり。何かそういうサンプリング回帰というか、90年代回帰みたいな流れがきているのかなって、希望観測的に思っています。

aimi:元ネタにちゃんと気づけるっていうコミュニティやリスナー層があるからこそ、堂々と大ネタ使いできる、みたいな部分もありますよね。

川口:若い子はわからないんじゃないのかなって思ったりもするけど、Nasの来日であれだけSNSが沸いたんだから、意外とクラシックって受け継がれているのかもしれませんね。

aimi:つやちゃんはいかがですか?

つやちゃん:今、ヒップホップの世界ではどんどん細分化が進んでいて、ひとつのジャンル内で複数のサブジャンルが生まれたり、それぞれのジャンルの分断も起きている気がします。その一方で、R&Bってサウンド自体は多様化してきたけど、R&B好きっていうだけで繋がれるような一体感もある気がしていて。やっぱり、R&Bってピースでラブな音楽じゃないですか。こういうR&B好きの方々のコミュニティの特性というのは、今の時代に求められるものなんじゃないかなと思いますね。

ヒップホップのお互いにバチバチ戦うようなカルチャーも大好きだし、それはそれで素晴らしいものだと思うんですけど、そういったゲームに疲れた人たちに、今後はR&Bが愛されていくのかなと。

aimi:私はコロナ禍にaimi名義での活動をスタートさせたので、最初は誰にも会えなかったんですけど、ここ最近はR&BやR&Bとヒップホップを掛け合わせたようなイベントも増えた気がしていて。そこでいろんな方とお会いして、アーティストやクリエイターの友人もすごく増えました。

R&Bがメインストリームだった時代と違い、今こういった音楽をやられている方ってインディペンデントで活動している方が多いので、連帯感が生まれるのはそれも大きい気がしています。事務所とかスタッフを通さずに、アーティスト同士が直に繋がっていくというか。

つやちゃん:あと、もうひとつ思うのは、今はいろんなジャンル内でミクスチャー、ジャンル折衷が当たり前になっていると思うんですけど、そういうバラバラな要素をひとつにまとめ上げるのって、歌の力しかないんじゃないかなって思うんです。一見散漫になってしまいそうな組み合わせでも、個性的なボーカルの力で受け止めて、まとめ上げる。そういったR&Bの本質的な力は、いろんなジャンルで見直されることになるんじゃないかなと。

aimi:なるほどです。Yacheemiさんはいかがですか?

Yacheemi:個人的にはMuni Longが今年リリースしたアルバム『Revenge』に喰らって。何がいいかって、収録曲の半数以上にブリッジがあるんですよ。今をときめくアーティストがそういう古き良き美学を受け継いでいってくれるのも最高だなと思いつつ、DJ的には最近ジャージークラブがR&Bに入ってきてますよね。同じように10〜20年くらい前に流行ったダンスミュージックという点で、次はブラジルのバイレファンキがR&B界でくるんじゃないか、という声もDJの先輩から耳にしています。合わせるのちょっと難しそうだけど(笑)。

aimi:これはDJの方とも話していたことなんですけど、R&Bって世代間での分断が起きにくいというか。みなさんが語られていたように、新しい要素やサウンドを取り入れて進化しているけど、同時に変わらない美学、スタイルも受け継がれていて。だからこそ、世代が離れていても一緒に楽しむことができる。そんな素晴らしい音楽=R&Bを、今後も「R&B Lovers Club」の活動を通して盛り上げていけたらなと思います。


【リリース情報】


『オルタナティヴR&Bディスクガイド
フランク・オーシャン、ソランジュ、SZAから広がる新潮流』

監修:川口真紀+つやちゃん
体裁:A5判/オールカラー208ページ/並製
予価:本体2,500円+税
発売日:2024年3月29日(金)
ISBN978-4-86647-248-5

書籍詳細


【イベント情報】


『aimi – First One Man Live』
日時:2025年2月21日(金)OPEN 19:00 / START 20:00
会場:東京・渋谷 WWW
料金:ADV. ¥4,000 / DOOR ¥4,500(各1D代別途)
出演:
aimi

チケット(e+)
一般発売:10月28日(月)19:00〜

INFO:WWW 03-5458-7685

公演詳細

aimi オフィシャルサイト

R&B Lovers Club オフィシャルサイト


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