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REPORT / 鋭児 presents “Propaganda”


時代に逆らうはみ出し者たちの集会――鋭児が仲間たちと作り上げた白熱の一夜をレポート

2022.01.11

2021年12月17日、この日の東京はどこか不思議な気候だった。渋谷駅に降り立つと12月も後半に差し掛かっているにも関わらず、やたらと生ぬるい風が吹いており、駅から渋谷WWWに到着する頃にはすでに薄っすらと汗ばんだ状態。まるでこれから幕を開けるイベントの熱量が先んじて漏れ出しているかのような、そんな空気が漂っていた。

2021年、急速的にシーンにその名を轟かせた新鋭バンド、鋭児による自主企画『Propaganda』。この日の1番手は同バンドのフロントマンでもある御厨響一と、HIMIとの2組ユニット・D.N.A.での活動でも知られるDr.Payによるユニット、鯱。定刻を少し過ぎた頃、会場のSEが鳴り止み暗転。舞台が青い照明に包まれ、8人のダンサーと共にDr.Payが登場。どこか80年代テイストを感じさせる4つ打ちのディスコ〜ハウス的トラックに合わせて、ダンサーとしてもTENDRE「LIFE」のMVに出演しているDr.Payを中心に、キレのいい華やかなダンスを披露する。途中、後方でノッていた御厨もダンスに参加し、明らかにアドリブであろう様子も伺えるフリーキーなパフォーマンスでオーディエンスを沸かせた。


御厨はスタンド・マイクでの歌唱も挟み、次の曲ではまさかのドラム・セットへ。先ほどの曲からは一転、グランジ〜ハード・ロックを想起させるナンバーで、Dr.Payはギターをかき鳴らし、御厨はドラムを叩きながら、ときにはシャウトも織り交ぜて歌う。続く楽曲では再び御厨がステージ中央に立ち、Dr.Payはシンセを担当。妖艶なファルセットでの歌唱と重低音の低いトラック、演奏、そしてシュールでキッチュなVJ、再び登場したダンサーが混然一体となってカオティックな世界観を演出する。

レゲエやダブを想起させるベースラインに、お得意のファンキーなラップを混ぜ合わせた「Sunpay」を挟み、現時点での唯一の正規リリース楽曲となる1stシングル「New World Believer」へ。ふたりの出会いを誰にも聞こえない超音波で会話する2匹の鯱に例えたのであろう美しい詞と、滑らかなボーカル、ミニマルながらもメロウなトラックが秀逸だ。ギターには鋭児から及川千春が加わり、MV同様にダンス・シーンも贅沢に挿入。静と動の対比で魅せる美しいパフォーマンスだった。

最後は再びダビーなベースラインとアシッド感漂うシンセが印象的な、ダークかつミニマルな演奏に、即興のような早口ラップやファルセットのハミングを乗せるサイケデリックな1曲。比喩でなく、最後まで全体像が掴めない摩訶不思議な、しかしそれでいて実に魅惑的なステージだった。


続いてステージに表れたのは、SHINKI(Gt. / Vo.)、WAHTZ(Ba.)、YAP(Dr.)からなるスリーピース・バンド、Nastie。正直、事前情報は全くといっていいほどない。鳴らされるのはファジーなギターを軸とした武骨なバンド・サウンド。とにかく楽器の音がでかく、ボーカルはほとんど聴こえない。「意味があるようでない。そんな曲」、果たしてそれは今プレイした曲に対してなのか、それとも次の曲のことなのか。

ファジーなギターといってもシューゲイザー的なサウンドではなく、8ビートを基本としたオーソドックスなロックンロール。轟音サウンドの中から薄っすらと顔を覗かせるメロディは意外にもキャッチーで甘い。ソングライティング・センスの高さが伺える。しかし、後半はダークなトーンの曲が続く。90年代のグランジを想起させるパワフルなロック・ナンバーから、最後はドロドロとしたグルーヴでサイケデリックな世界へと引きずり込む長尺の楽曲でフィニッシュ。終盤のフリーキーなギターが会場の熱をまた一段と上げたように感じた。

最後はこの日の主役、鋭児。この日はツイン・ドラムを構えたフルセット。1曲目は未リリース曲の「Love is All We Need」で幕開け。手数の多いドラムと扇情的な御厨のボーカルで一気に会場を掌握する。「最高の日にみんなでしましょう」との言葉から、シームレスに3rd EP『連理』収録の「$uper $onic」へ。疾走感溢れるサウンドと高速ラップ、そして激しく明滅する照明 & VJで聴覚と視覚共にふっ飛ばされるような、エネルギッシュなパフォーマンスだ。御厨は自身が敬愛するRage Against The MachineのZack de la Rochaを想起させるような切れ味鋭いラップやシャウトで沸かせたと思いきや、同じく『連理』収録の「Vivid」では妖艶なファルセットを操り、「Lisa」ではソウルフルなシャウトやアドリブも取り入れるなど、変幻自在のスタイルでオーディエンスを魅了する。

続いてインプロ的なセッションから「Zion」へと雪崩込む。4つ打ちのビートにトライバルな上音、FKTEYとしても活動する藤田聖史のキャッチーかつ華やかなシンセで会場は一転してダンス・フロアと化す。グルーヴィーにうねるベース、及川千春のワウのかかったギターなど、バンド・メンバー6人が渾然一体となって会場をヒートアップさせ、この日のピークを更新した。


曲間ではスタッフからの耳打ちを受けた御厨が苦笑いを浮かべながら、「あまり俺の口からは言いたくないんですけど」と前置きをしつつマスクの着用と歓声を挙げないなど、改めて感染症対策を呼びかける。演者もオーディエンスも、もちろん会場スタッフも含めその場の全員がやりきれない気持ちを抱えていたことだろう。お行儀のいいコンサートとは対局に位置する鋭児のライブは、このコロナ禍ではかなり不利だ。本来であれば大きな歓声やコール・アンド・レスポンス、そしてモッシュが起こり、そのエネルギーがバンドへも還元。オーディエンスと相互に作用し熱量を高めていくタイプであることは一見すればすぐにわかる。そんな彼らが今できる最良の形を模索しつつ、黙々と演奏する姿には強く胸打つものを感じた。

この日唯一のゲストとしてヴィオリストの村松ハンナを迎えて披露したのは、未発表曲の美しいバラード「大往生」。断片的ではあるが聴き取れたリリック――《俺たちはこの時代に/逆らって/悩み悩み生きていく/もしも明日世界が終わったら死にきれない/何かを残さなきゃな》――の切実さ、そして喉を痛めることなどお構いなしとでも言わんばかりの鬼気迫るボーカルには会場の多くの人が圧倒されたのではないだろうか。静まりかえる会場と、ワンテンポ遅れて響き渡る拍手の大きさがその感動を物語っているようであった。

「飛ばしますか」の一言と共に披露された「Fire」ではハイエナジーなパフォーマンスでこの日のピークを再び更新。本編最後はマシーン・ビートを軸としたミニマムかつファンクな未発表曲「IGNITE」。VJが映し出す艶めかしいダンサーの映像とリンクした、色気を湛えた1曲だ。そして「最後の曲は、これからたぶん封印することになりそうです」と言い放ち、アンコールでプレイされたのは2nd EPの表題曲「銀河」。ツイン・ドラムとアンサンブルを下支えするベース、咽び泣くギター、神秘的な世界観を演出するシンセでこの日を締めくくるに相応しい壮大なサウンド・スケープを描き出した。御厨が繰り返し歌い上げるリリック――《森羅万象に秘められた感情と/愛情こそが世界の振動》という核心を突く一節と、何度も何度も感謝と愛を伝える御厨の姿が強烈に印象に残った。

Text by Takazumi Hosaka


【イベント情報】

『鋭児 presents “Propaganda”』
日時:2021年12月17日(金) OPEN 18:00 / START 18:30
会場:東京・渋谷WWW
出演:
鋭児

Nastie

主催:鋭児
企画/制作:To U MUSIC株式会社 / ATFIELD inc.

鋭児 オフィシャル・サイト


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