Photo by 粂井 健太
Text by Takazumi Hosaka
8月22日(日)、『FUJI ROCK FESTIVAL ’21』(以下:フジロック)最終日のRED MARQUEEに登場した4s4ki(アサキ)は、まるでアニメから飛び出してきた主人公のような輝きを放っていた。燃え盛るような赤い髪の毛を振り回し、縦横無尽にステージを駆け巡る。ロック・スターでもラッパーでもないその異質な存在に、少々の戸惑いを抱きながらも不思議と目が離せない、そんなオーディエンスの姿も印象的であった。
作詞・作曲から歌唱、編曲、トラックメイクまで自身で行う4s4kiは、今年4月に〈Victor Entertainment / SPEEDSTAR RECORDS〉よりメジャー・デビュー。7月にリリースしたメジャー1stアルバム『Castle in Madness』には国内アーティスト/プロデューサーに加え、海外からZheani、Puppet、Smrtdeathも参加。国境や言語を軽やかに飛び越える、傑作であり怪作となった。
また、昨年から話題の潮流“ハイパーポップ”を取り入れた――というよりは自然発生的に“共鳴”したという方が正確な気がする――先鋭的な音楽性でも注目を集めている4s4kiだが、奇しくもこのRED MARQUEEというステージはハイパーポップに多大な影響を与えたアーティストのひとり、SOPHIEが2016年に出演したステージでもあり、クラブ・ミュージック的な音響も映える。まさにうってつけの環境だ。
定刻を少し過ぎた頃、赤い鳥居と大型スクリーンが設置されたステージにノスタルジックなSEが流れ始める。それがフェードアウトすると同時に盟友・gu^2との共作曲「m e l t」のイントロが、そして一呼吸おいてシャウトしながら4s4kiが登場。全身を使ったアグレッシブなパフォーマンスで一気に会場の空気を掌握する。ステージ上を所狭しと駆け回り、そしてときには寝転んだりもしながら4s4kiは歌う。オートチューンがかかった声でときにメロウに歌い、ときにハードにシャウト。決して成熟しきったパフォーマンスとは言えないが、むしろこのギリギリのラインで成立しているかのような、綱渡りのような緊張感が、パフォーマンスを特別なものにしているようにも思えた。特に息も切れ切れに「楽しい……!」と叫んだときは、正直少し心配になったほど。
海外アーティストとのコラボ曲「FAIRYTALE feat. Zheani」、〈TREKKIE TRAX〉のMasayoshi Iimoriプロデュースの「I LOVE ME」といったレイヴィーかつトラッシーなエレクトロニック・ミュージックとロックの要素が同居した、100 gecs以降のハイパーポップとリンクしたサウンドは、アンダーグラウンドな質感を強く有していながらも、思いの外大きなステージが映える。今思えば、ハイパーポップが大きな注目を集めたのは2020年から。そのほとんどの期間がコロナ禍と重なっているため、ハイパーポップ的なサウンドを鳴らすアーティストたちがリアルなライブ・パフォーマンスを行う場というのは、世界的にみてもかなり少ないのでは。それもアンダーグラウンドな小箱ではなく、大きな野外フェスならなおさらだ。そういった意味でも、4s4kiのフジロック出演はエポック・メイキングな出来事だったと言えるかもしれない。
4s4ki自身がギターを掻き鳴らしながら歌った「gemstone」から一転、4s4kiのメロウな側面を強く出した「escape from」ではピアノのみのシンプルな弾き語りを披露。オートチューンも使わず、その触れれば壊れてしまいそうなほどに繊細な歌声と演奏は、思わず息を飲むほどの美しさを湛えていた。4月に開催された初のワンマンでもEP『UNDEAD CYBORG』収録曲「ずっとお前を殺したかった」をピアノ弾き語りで披露し話題を呼んだが、やはりこの両極端な要素も4s4kiの大きな魅力のひとつなのだろう。
後半はKOTONOHOUSEとのコラボ曲「おまえのドリームランド」、2019年発表の人気曲「超破滅的思考」など、フューチャー・ベースやEDMを軸としたポップなナンバーも挟みつつ、終盤はドンク・ベースの効いたアグレッシブな「35.5」、DJとして共にステージに立つGigandectとの共作曲「OBON」で性急に駆け抜け、アンセミックな「STAR PLAYER」でフィニッシュ。何度も何度もオーディエンスへと感謝を伝え、溢れ出しそうな感情をこらえるようにして歌う姿が強く印象に残った。
今年のフジロックは配信もされており、国内最大級のフェスということもあり、4s4kiのライブもこれまで以上に多くのリスナーの耳目を集めたに違いない。この日のパフォーマンスはエクストリームかつエキセントリックなサウンド・スタイルをオーバーグラウンドへと押し上げる一助になったと同時に、若い世代へ新たな種を撒くような、そんな機会になったのではないか。4s4kiのこれからの道のりを追いかけるのと同時に、彼女が国内シーンに与える影響にも注目したい。
なお、先述したこの日のSEは、Fragment「Polygonair」の4s4ki自身によるリミックス。これは今も彼女のマネージメントを務める〈ササクレクト〉を運営するkussyとdeiiにユニットの作品であり、彼らがフジロックに出演した際に最後に披露した楽曲だったという。奇抜なルックスやサウンド・スタイルばかり語られがちな4s4kiだが、以前のインタビューでも「〈術ノ穴〉(ササクレクト)でないと音楽活動はできない」「〈術ノ穴〉に恩返しをしたい」と語っている。こういった愛に溢れた人間臭い一面も、多くのリスナーからの支持を集める理由なのかもしれない。
fragmentから4s4kiがフジロックを受け継いだ意味で、SEを秘密裏にREMIXしちゃいました🩸 https://t.co/UKNDiPwoL8
— 4s4ki (@0311asaki) August 22, 2021
【リリース情報】
4s4ki 『Castle in Madness』
Release Date:2021.07.07 (Wed.)
Label:Victor Entertainment / SPEEDSTAR RECORDS
Tracklist:
1. gemstone feat. Puppet
2. FAIRYTALE feat. Zheani
3. m e l t
4. ALICE feat. Smrtdeath
5. 天界徘徊 feat. 釈迦坊主
6. moonlake
7. 幸福論
8. Sugar Junky
9. OBON
10. UNICORN
11. STAR PLAYER
12. kkkk