3組のミュージシャンが〈New Balance〉の人気モデル「550」を着用し、そのブランドやストーリーとリンクする部分を探る本連載。第3弾となる今回は、オルナタティブな音楽を追求する2人組ユニット・鯱に登場してもらった。
鋭児のボーカル・御厨響一と、HIMIとのユニット・D.N.A.での活動でも知られるDr. Payによる鯱は、それぞれ異なるルーツを持っている。御厨は役者として活動していた経歴があり、Dr.Payは現在ダンサーとしても活躍中だ。キャラクターも役割も違う2人が作り出す音楽は、それらを飲み込んだ上で端正な世界観に結実している。たとえば2022年にリリースされた『SIGNIFIANT×SIGNIFIE』では、ダブやハウス、90年代のWarp Recordsが実践していたブリープ・テクノを彷彿とさせるサウンドスケープが実現されている。
2人に普段聴いている音楽を訊くと、実に様々なアーティストや作品の名前が挙がってきた。そこには時間の制約を越えた審美眼があり、今回のテーマである“タイムレス”と符合する。
Interview & Text by Yuki Kawasaki
Photo by Keigo Sugiyama
バスケやダンス、それぞれのシーンにフィットする「550」
――今回、御厨さんは「BB550 STA」、Dr. Payさんは「BB550 STF」をセレクトされています。履いてみた感触やイメージはいかがでしょうか?
御厨響一(以下、御厨):〈New Balance〉には元々“ラクに履ける”印象があったんですが、この靴は手に取った瞬間からしっくりきましたね。実際に履いてみてもイメージ通りで、クラシックなデザインでさらに安定感があるというか、一歩がデカくなる感じ。俺は学生時代バスケ部に所属していて、今でもよくプレーするんですけど、〈New Balance〉はジョグのシーンとかにも合いそうです。
Dr.Pay:初めて〈New Balance〉のスニーカーを履いたのは幼稚園生ぐらいの頃なんですけど、当時から僕も履きやすいイメージを持っています。その後18〜19歳の頃にも親父から〈New Balance〉の靴をもらって、ダンスの練習のときに履いてました。今回履かせてもらったこの「BB550 STF」も、見た目はオーセンティックだけどやっぱり動きやすくて。まさにダンスするときとかにピッタリですね。
――お2人とも今の段階で着用するシーンを具体的に想像できているんですね。
御厨:そうですね。普段使いからバスケまで、そのまま行けそうなイメージがあります。元々がバスケットボール・シューズなだけあって、本当に安定感があって踏ん張りも利きますね。僕は足首を捻挫しやすい体質なので、それは本当にありがたい。たとえばクロスオーバーで相手を抜くとき、体重移動でフェイクをかけるんですけど、そのときに踏ん張れる靴をずっと探してました。駒沢公園あたりで試してみたいですね。
Dr.Pay:今、僕がダンスのときに履いてるのは軽めのシューズなんですけど、それとはまた違った良さがあります。ダンスするときに履く靴にはフィット感を求めるんですけど、このスニーカーは良い感じです。さすがにまだ足に馴染ませる必要はあると思いますが、今の段階でもだいぶしっくりきてます。
――御厨さんは鋭児でのライブ・パフォーマンスを見ると、音楽活動においてもアクションが多い印象があります。Dr.Payさんももちろんダンサーとして動きの多いパフォーマンスをされていますが、そういった表現形態がファッションに反映されることはありますか?
御厨:ライブのときは動きやすい格好にしようと思ってたんですけど、やっぱり重めのブーツとかも履きたくなるので、特定のイメージが反映されることはあまりないかもしれないです。必ずしもスポーティーなファッションだけじゃないというか。
Dr.Pay:響一は本当に着る服がコロコロ変わるんですよ。ライブが近い日に出会った仲間からもらったアイテムをそのままステージでも着用するとか、ファッションから交友関係が見える(笑)。
御厨:それはあるね。
Dr.Pay:僕の場合はもっと実用的な視点でアイテムを選んでるかもしれないです。1日の流れを考えたときに、今日の作業や動きに合った靴をセレクトしてますね。デザインに惹かれることももちろんあるんですけど、結局は“踊りやすさ”を基準にしていることが多いです。
「服は“回りもの”だと思ってる」
――以前のインタビューでは、御厨さんが役者論を語っている場面がありました。そこでは、「自分は役者としては“憑依型”である」と仰ってましたが、まさにファッションでもそれが起きているわけですね。
御厨:マジでその通りで、めちゃくちゃ暴論なんですが、俺は服を“回りもの”だと思っていて。親父にも「お前、それやめた方がいいよ」って言われるんですけど、借りパクするのもされるのも別に構わないというか。そう思ってない相手にとってはマジで迷惑な話なんですけど、「まぁ。結局いい感じに回るでしょ」みたいに思ってるんです。
今日も友人から借りた服を着てるんですが、自分のものじゃないのに、匂いから何かを思い出すんですよね。……という僕のだらしない部分を、Payが良い感じにフォローしてくれたんですけど(笑)。
――借りパクに共感するかは置いといて(笑)、ファッションから特定の記憶を呼び起こされる感覚はよく分かります。まさに“タイムレス”というか、音楽にもその手の経験がありませんか? 個人的には2020年にリリースしされた鯱の1st『SIGNIFIANT×SIGNIFIE』にも顕著に感じました。
Dr.Pay:ありがとうございます。あのEPはMassive Attackとかに影響されて作りました。今も好きですけど、曲の作り方は少し違う方向にシフトしてるかもしれないです。
御厨:色んな音楽聴いてるもんね。PayがDJで回すときとか、俺よりナウい曲をディグってるのがわかります。俺はどちらかというと、Kula Shakerとか90年代~2000年代の音楽を好んで聴くので、PayのDJからはいつも刺激をもらってます。
Dr.Pay:自分にとって最も重要なルーツはMichael Jacksonなので、旧譜も聴きますけどね。なんなら、僕も最近はむしろオールドスクールの方が……(笑)。
御厨:やべぇ、適当なこと言ったかも(笑)。
――(笑)。Payさんは最近どういう音楽を聴いてるんですか?
Dr.Pay:レジェンドダリーなDJ/プロデューサーの曲が多いですかね。Kerri Chandlerとか。ハウスって言っても色々あると思うんですけど、最近は意識的にジャンルで聴いているところがあります。元々はあまりジャンル分けして音楽を考えたくないんですが、デトロイト・テクノとかテック・ハウスで括ると歴史も知ることができるんですよね。少し前から、意識的にそういう聴き方をしてます。
――UKロック界隈も“ブリットポップ・リヴァイバル”と呼ばれるムーブメントもあるぐらい、歴史や文脈に意識的ですよね。Kula ShakerもThe Beatlesが実践していたインド音楽やサイケを継承しているように見えましたし。御厨さんもそういったコンテクストに意識が向いているのでしょうか?
御厨:俺の場合は完全にフィーリング先行で音楽と接してますね(笑)。実は最近、家庭環境があまりよくなくて、両親の間にめちゃめちゃ不協和音が鳴り響いてたんです。親父は割と昔気質の人間なんで、「夫婦は死ぬまで仲睦まじく暮らすべきだ!」みたいな結婚観を持っていて、その状況に全く納得できなかったんです。そういう状況を乗り越えるために、俺はTame Impalaの「Let It Happen」を聴いてました。そこからKula Shakerまで、サイケの系譜を結果的には辿ってるんですけど、要はそのときの自分にはガンダーラ的な“ピース(平和)”が必要だったという話で。
――お話伺っていると、お2人のキャラクターが相当違っていて、それがユニット間の役割にも反映されているのかなと推察しております。演劇の関係に言い換えれば、御厨さんが役者で、Payさんが監督というか……。
御厨:それはそうかも!(笑)
Dr.Pay:言われてみれば、確かに。
御厨:実際、Payはブレインですから。俺だけかもしれませんけど、鯱の間には男と女のカタルシスでは語れない関係があると思っていて。「俺が男であなたは女だから、俺が守ってあげるよ」みたいなステレオタイプな男女の関係が、異性間以外の間柄になると変わってくるというか。そこで結びついた絆ってめっちゃ大事で、ジジイになっても変わらずにありたいですね。
「偽りなく何かを表現したもの」──2人が考える“タイムレスな表現”
――時間軸のスケール感がまさしくタイムレスです。今回の連載企画としてすべてのアーティストにお聞きしているのですが、お2人にとって“タイムレスな表現”とはどういうものですか?
御厨:そこに“嘘がない”ということですかね。役者をやめて音楽をやりたいと思ったのは、自分が演技の仮面を信じられなくなってきたからなんですね。もちろんフィクションを全否定したいわけではなくて、アーティストとして嘘をつきたくないという話で。僕の場合、付き合ってた女の子とのやり取りが曲になったりするので、そこで本当のことを表現しないと誠実じゃない。ただでさえ女の子に頼りすぎてるのに…(笑)。
Dr.Pay:鋭児の曲でいう「Lisa」がそうだよね。
御厨:当時付き合ってた恋人にフラれたときのことを歌ってます。公園の道路近くのスペースでボールをダムダムついてたら「メインストリートにボールが転がったらどうするんだ、危ないからやめろ!」みたいに怒られて、それに「それは失敗するところを想像してるからでしょ? 俺は失敗しない」と反論したらフラれましたね。「響一とはもうやっていけない」と……。
――小説論なんかでも“個人的なことにこそ普遍性が宿る”みたいな話はよく聞きますもんね。Payさんは“タイムレスな表現”についてどう思いますか?
Dr.Pay:偽りなく何かを表現したものには僕もパワーをもらいますね。自分が作る作品もそうありたいですし、それゆえに生き方が重要だと思っています。僕の場合は、それを上手く言葉にできないから音楽になってる感覚がありますね。
御厨:ワールドを作るって話なのかもね。2人ともステレオタイプが苦手な人間なので、周りの人たちとの縁や繋がりは大事だと思いつつ、型にハメられると結構キツいっていうか。Payは唯一無二だし、俺はそこにシンパシーを感じて一緒に曲を作ってます。そういう無二の感覚をお互い認め合ってる気はしてます。その延長線上にできた曲が「New World Believer」だと思いますね。
――最後に、今後の展望などがあれば教えてください。
御厨:鯱のアルバムが来年あたり出せるかもしれない……! いやー、本当に曲を作らないとな。本当は2023年のうちにリリースしたかったんですけど、上手くまとめられなかったですね。世界観としては完全に2ウェイあるんです。ひとりの人を守って、ワンラブを追求していく道と、ヒッピー・カルチャーみたいなフリー・セックス的世界観。めっちゃ極端なんですけど、自分の中では表裏一体というか。多分前者の世界に行きつくんじゃないかと思います。鋭児としては、バンドのメンバーの環境をそれぞれリスペクトしあった上でアルバムを作れたらとは思ってます。
Dr.Pay:僕は最近DJで呼んでもらえる機会が多いので、そっちも楽しみにしてもらいたいです。あと、ドラマ『パリピ孔明』にもプロデューサーとして参加させてもらっていて、僕が制作した「タイム・トラベル」も配信されています。原田真二さんの楽曲のカバーなんですが、シティポップの要素を絡めつつ、かなり今っぽいアレンジに仕上げました。曲としてはすごい展開になってます(笑)。聴いてみればわかると思うので、ぜひ。
【リリース情報】
鯱 『SIGNIFIANT×SIGNIFIE』
Release Date:2022.07.20 (Wed.)
Label:鯱
Tracklist:
1. ELISA
2. Sunpay
3. FMFMAO
4. Gray Midnight at September
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