US・ロサンゼルスを拠点とする新鋭アーティスト、MOSSSがデビューEPとなる『Pale Blue』を10月11日(金)にリリースした。インディからR&Bまで、オルタナティブな質感を呈する楽曲群より、特に残響たっぷりの「Bound to Happen」を紹介しよう。
何よりもまず、脳の縁をなぞるシンセティックな音色が印象に残る。こうした怪しくスウィープする電子音を聴くのなら、ぜひ照明を落としてもらいたい。硬質なベースがよい刺激となり、曲はさらに薫り立つ。終始、在るのは親密さだ。“関係性”で言えば、簡素なリズムとバランスを取るクラップの彩り。さりげないメイクのようで何とも愛らしい。添えられた詞の弱々しさも、なぜだか愛おしく思える。
ところで、幾重ものレイヤと大胆な余白で構成される楽曲にはとても心地よい重みがある。この「Bound to Happen」も、リスナーを押し潰すことは決してないだろう。それに一度でも構造的に捉えてしまえば、聴き手自身のイメージを自由に与えてやれる。コズミックなシンセサイザーの音色や効果はたしかに特徴的だが、果たしてそれは私たちを縛るものだろうか。
これは例えば、“オブジェのある部屋”に似ている。内装の一部と化すブロンズが意識せずとも溶けているのと同様に、サウンドもまた調和するのだ。破綻ではなく円かな時間として、会話の中の沈黙を楽しもうと初めて思えたのはいつ頃だろう――と、ふと考えてしまった。
哀しみに包まれるようなEPだけれど、その様子はふんわりとしていて低温で、沈んだ態度も肯定する優しさがあると私は思う。明るさが過度に求められるなら、むしろ潮の引き際を強調してこそちょうどいい。
Text by hikrrr
【リリース情報】
MOSSS 『Pale Blue』
Release Date:2019.10.11 (Fri.)
Label:Yum
Tracklist:
1. Here If You Want (Pale Blue)
2. Bound to Happen
3. IDK
4. Till You Sink
5. Sleeping With You