FEATURE

INTERVIEW / WILD BUNCH FEST.2018


中国地方最大級のロック・フェスティバル“WILD BUNCH FEST.”オーガナイザーにインタビュー! 写真と共にイベントを振り返る

2018.08.16

山口県山口きらら博記念公園で開催された、中国地方最大規模の野外音楽イベント“WILD BUNCH FEST.”。

“SETSTOCK”の後継イベントとして2013年にスタートし、今年で6回目の開催となった同フェスは、例年の8月下旬の開催から今年は7月28日(土)、29日(日)と開催時期を変更。さらに、フェスそのものを別会場の広大な芝生広場に移動するなど、これまでと比べ大きな変革を伴う開催となった。さらに、今年はイベント会場内にSpincoasterのDJブースを展開。開放的な会場の随所で新しい試みが行われた。

残念ながら台風12号の接近により、2日目(29日)は中止となってしまったが、その時間を活用し同フェスを統括する大山高志(株式会社夢番地)にインタビューを敢行。フェスの成り立ちから、今年の新たな試みについて、そしていちオーガナイザーとしての想いなど、今後に向けてゆっくり話を伺うことができた。

Interview & Text by Kohei Nojima

大山 高志(株式会社 夢番地)

――今年は台風の影響で2日目が中止になってしまいましたね。

大山:もう残念としか言えないですね……。今年は場所も新しくなって2日間かけて完結させたかったというのが正直なところです。でも、こればっかりはしょうがないですよね。来年は3日間やろうかな(笑)。

――今年は日程や会場の大幅な変更など、例年に比べてよりチャレンジングな開催となったのではないでしょうか。

大山:今年は9月に“山口ゆめ花博”というイベントの開催を予定していて、その準備のために日程を動かさざるを得なくて。「その代わりに、こっち(新会場)を使わせて下さい」という交渉から今年はスタートしました。なので、本当はまだ公園になる予定ではなかったんですが、“WILD BUNCH FEST.”のために前倒しで開園して頂くことができました。

――会場を刷新したいという思いは、以前からあったのでしょうか?

大山:そうですね。去年は(芝生広場を)キャンプ・サイトとして使っていたのですが、これくらいの規模感があったのでイベントとして「勝てるな」っていうのが見えていて。今年で6年目ということもあり、思い切ってガラッと変えてみるのもいいかなと。

ー“WILD BUNCH FEST.”の主催者としてインタビューを受けるのはおそらく今回が初めてですよね。なので、このフェスの成り立ちをお伺いできればと思います。

大山:元々は夢番地として“SETSTOCK”というフェスを広島で10年間開催していたんですが、8年目くらいに会場のキャパシティに限界がきて。それで新しい場所を探して、この公園(きらら博記念公園)に相談してみたんです。「芝生の広場でコンサートをやりたいんですけど」って。でも、その時は本当に門前払いでした(笑)。
翌年にまたトライに来て、“SETSTOCK”が最後の年だったんですけど、「これを来年ここに持ってきたいんです!」って言ったら、その時はすごくいい反応をしてくれました。ただ、もう公園の方では判断できるレベルではないので、県庁の公園担当者を紹介してもらって、「ここで10年やりたいんです」って(フェスに特別協力している)JTBの方と一緒に説得して、なんとか開催に漕ぎ着けることができました。それがこのフェスのスタートですね。

開催初年度(2013年)のメイン・ステージ

ー決して最初から歓迎されていたというわけではなかったと。

大山:それでもなんとか1年目を開催させて頂いて、その時は2日間で34,000人くらいのお客さんが来てくれました。すると「あの公園に、なんかよくわからんが30,000人くらい人が来た」っていう感じで、県の中でも話題になったみたいで。翌年、「今年もまたここでやりたいです」って言ったら「ぜひ、お願いします!」と、すごく協力的になって頂けました。

――やはり、地域の経済効果が目に見えたことが大きいのでしょうか。

大山:そうですね。2年目は2日間で45,000人もの方が来てくれて、そこから山口市の方や隣の宇部市、防府市の方、自治体の方たちも参加してくれて。今やチケットがふるさと納税の御礼の品にもなるくらい(笑)。それだけ手厚くサポートして頂いています。

――なるほど。ちなみに、“WILD BUNCH”というネーミングはどこから?

大山:よく、言われるんですが「夢番地」のバンチは後付けなんです(笑)。

ーでは、西部映画の『ワイルドバンチ』(原題:The Wild Bunch)だったり?

大山:それも由来ではないです(笑)。ネーミング会議をしている時に、どうしても濁点が入れたくて、そこからスタートしています。“Wild Bunch”って「荒くれ者の集合」っていう意味なんですが、ロック・バンドが集まるフェスのイメージとマッチしているなと。

――前身のフェスである“SETSTOCK”は“ウッドストック”(Woodstock Music and Art Festival)から?

大山:そうですね。

ー調べてみたら、“Woodstock”も映画の『ワイルドバンチ』も1969年の開催と上映なんですよね。どっちも69(ロック)の年ということで、意図的なのかなとも思ったのですが。

大山:すごい! そうなんですね。いや、完全に偶然なんですけど(笑)。

ー来場するお客さんは、県内と県外の割合はどれくらいなのでしょうか?

大山:県内が4割くらいですかね。そもそも山口県はイベント公演が少ないので、ここに来たら一気に色々なアーティストが観られるということで、地元の方々からしたらお得感があるみたいで。

――全国ツアーを組むとしても、西日本は福岡、広島、大阪辺りが多いですしね。

大山:はい。逆に遠方の方で言うと、北海道から来てくれてる方々もいて。少ないのは東北ですね。東北の方々にもぜひ、たくさん遊びに来てほしいですね。

ー1日券と2日通し券はどのようなバランスで売れているのでしょうか?

大山:おかげさまで、2日券が6割強となっています。ラインナップに左右されず、毎年両日来てくれるお客さんも定着してきている感じはしますね。

――ということは、チケットの初動も大きい?

大山:そうですね。うちはインパクト勝負なので、最初の発表でラインナップの8割くらいを一気に出すという手段を取っていて。そのタイミングでもう7割くらいが売れます。

――ラインナップについてですが、地方のロック・フェスだとどうしても対象の裾野を広げないといけないので、ラインナップが他のフェスと似てきたり、毎年あまり入れ替わりが激しくない印象を持つのですが、その中で、“WILD BUNCH FEST.”としてのカラーや特色というのはどのようなところにあると思いますか?

大山:“WILD BUNCH FEST.”に限らず、夢番地はいわゆるロックやラウド系を核としていて、色々なジャンルやカラーのアーティストを呼ぶと、フェスのカラーとしてはブレてしまうんじゃないかと思う時があって。

――今回の出演者もほとんどがバンドですよね。

大山:やっぱり「バンド好きが集まるフェス」って感じですね。そこから「荒くれ者の集まり」っていうところにも繋がるのかなと思います。

――バンドではありませんが、今年のタイムテーブルで言うとサカナクションの“NF AFTER FES”が大きなトピックスになったのではないでしょうか。

大山:サカナクションには去年も出てもらったんですが、その時YCAM(ワイカム/山口情報芸術センター)のブースの方がクロージングの前に映像を使ったライブをやっていたんです。そしたらサカナクションの山口さんにすごく興味を持って頂いたみたいで。今年はちょっと新しい形として取り入れてみようということで実現に至りました。結局、演出周りでYCAMさんと上手くリンクさせることができなかったんですが、たくさんのお客さんが最後まで観てくれて、すごいよかったですね。

NF AFTER FES

――ライブ以外のコンテンツでは、今年はどういった取り組みを行っていましたか?

大山:新しい会場を見た時に、すごく“Coachella”(米最大規模の野外フェスティバル。以下:コーチェラ)っぽいなって思ったんです。実際に今年のコーチェラに視察に行けることになったので、現地も色々と見てきて。コーチェラに近づけるのは中々難しいのですが、世界観、雰囲気を近づけたくて。ヤシの木も発注してみたんですが、日本では大量に確保できず、今回は断念しました。その代りにタワーを建てて、待ち合わせ場所として機能するようにナンバリングしてみたり。

――入場ゲートには水が出る象のオブジェもありましたね。

大山:僕が手書きでデッサンしたものを無茶振りで「作れないか?」と相談したら「できますよ」ということで。手がけたのはメンデルっていうオランダ人なんですけど。最初は休憩所の入り口に動物をくっ付けるつもりだったんですが、こういったCGが上がってきたので、これならドームはいらないから、もうエントランスのゲートにしちゃおうと。

――巨大なギターのオブジェも今回のために作ったのでしょうか?

大山:いや、あれは実は違くて。イベンターの仕事をしていると、ツアーのステージ・セットとかを貰えることもあって。「これ、捨てるんですよね? フェスでオブジェに使いたいんですけど……」って言って貰えたやつなんです。他にも同様に頂いたオブジェが会社に保管してあるんです。なので、費用的にはかなりお得なんですよね(笑)。

――ツアー・セットを貰えると言うのはイベンターならではですね。

大山:あと、コーチェラと言ったら観覧車じゃないですか。あぁいうのも欲しくて。これも日本では流石に無理なので、気球を入れてみました。今年は風があって飛ばせなかったんですが……。

――あとは、有料の「WILD BUNCH LOUNGE」も挙げられますね。

大山:去年はテントをウリに出していたんですが、今年はコーチェラのVIPエリアみたいな感じでトライしてみました。日陰だけでなく、クーラー完備のトイレとか、Wi-Fiも入れてみたんですが、中々コーチェラみたいにはならないなと思いました(笑)。

WILD BUNCH LOUNGE

――コーチェラのVIPエリアには本物のVIPやセレブがウジャウジャいますからね(笑)。加えて、今年はSpincoasterのDJブースも作って頂きました。

大山:Spincoasterのブースも中々評判が良かったですよ。

Spincoaster Booth

――ロック・フェスのDJブースというと、もっと異なるイメージを持っていた方も多いと思うので、難しいところもありましたが、賑やかなライブ・ステージからチル・アウトする空間としてはいい場所にできたのではないかと思います。それでは、“WILD BUNCH FEST.”の今後のお話をお伺いできればと思います。今年の開催を受けて、来年以降で何か新たに考えていることはありますか?

大山:お客さんの声や現場の声を聞いて、改善すべきところは改善して、将来的にはドームと月の海の海上ステージまで広げたフェスにしたいなと思っています。炎天下のイベントなので、屋内のドームはやっぱり必要ですね。最終的には1日で40,0000人規模のフェスにしたいと思っています。

ーそこまで行くと、“SUMMER SONIC”大阪会場以上の規模になりますね。ちなみに、来年の開催日程はどうでしょう?

大山:来年はまた8月下旬に戻せればと思っています。フジロックとも被りません(笑)。

ーよかったです(笑)。最後に、大山さんの考える理想のフェスとは、どういったものかを教えてもらえますか?

大山:またコーチェラの話になりますが、ストレスのない環境というのはとても大事だなと思っています。食べるところとトイレはもちろん、涼める場所があったり、充電ができたり、Wi-Fiが飛んでいたり。まだまだですが、できるだけそこに近づけるようにしたいなと思っています。あとはアーティストに動員を頼らないイベント作りをしっかりとしていきたいですね。どんなアーティストが出ても一定数のお客さんは来てくれるように。“SETSTOCK”の時はそれを疎かにしていたという反省があって、出演アーティストによって動員の波があったんですよね。アーティスト目当てのお客さんと、イベント目当てのお客さんが半分ずつというのが理想的な状態かなと思います。


インタビュー内には登場しなかったが、会場内には恐竜のいる「WILD BUNCH CAFE」やワークショップ・エリア、YCAMブース、山口出身のバイオリニストやキャラクター、大道芸パフォーマンスなど、たくさんのエリアやコンテンツが設けられており、また、女性用のパウダー・ルームや充電ブース、ミスト・ゾーンなど、ホスピタリティの充実ぶりにも目を見張るものがあった。




会場は広大な芝生の広場となっており、何度も話に出てきたように、コーチェラの雰囲気を随所に感じる、素晴らしいロケーションのフェスであった。これだけのスペースがあれば、ステージの増設や新たなエリア、アトラクションの設置もまだまだ可能だろう。

そして、何よりも会場内に作り手たちの好奇心と遊び心が溢れていたのが印象的であった。すでに1日3万人規模の集客がありながら、まだまだ伸びしろを感じられるフェスは国内では珍しい。Spincoasterのブースも来年以降さらに規模を広げていければと考えているので、ぜひ“WILD BUNCH FEST.”の今後の展開にも注目して頂きたい。

WILD BUNCH FEST. 2018 オフィシャル・サイト


Spincoaster SNS