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INTERVIEW | orlik


2005年生まれの新鋭が紡ぐ、東京の風土と身体性から立ち上がる新たな音像

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2026.04.03

2005年生まれ、東京育ち。中島輝智はorlikという名を用いて、そのバックボーンを最大限に瑞々しい形で世に問うた。

その1stアルバムのタイトルは『New contemporary』。ボカロやJ-POPから出発し、いつしかRadioheadをきっかけに古今東西のオルタナティブなサウンドを探求するようになった中島は、「風土感」や「身体性」といったキーワードを軸に、鮮やかな交通整理を行う。東京という都市を新たな視点で捉え直す彼に、影響と独自性の狭間で葛藤しながらもオリジナルに留まらない表現を模索する現在地について訊いた。

Interview & Text by Ikkei Kazama
Photo by Koya Yaeshiro


多様なバックグラウンド、「オルタナティブ」に惹かれる理由

――「様々なものを咀嚼した上でアルバムに辿り着いたんだろうな」というのが『New contemporary』を聴いた率直な感想です。周りの友だちと音楽の話で盛り上がったりします?

orlik:大学で本当に趣味が合うのはひとりかふたりくらいですね。芸術系の学科なんですけど、国外の音楽を聴いている人はほとんどいなくて。僕はXと、あとは「Record Club」っていう海外のアプリでずっとディグってます。同時代性があるんですよね、どちらも。

――かなり能動的に探してますね。最近は何を聴きました?

orlik:そうですね……Ben Wendelっていう人のアルバムがカッコよかったです。4人のヴィブラフォン奏者とサックスが混じるっていう、めっちゃおもしろかった。それとJohn BeltranとPlacid Anglesが作った『Canada』ってアルバムがあって、結構ぶっ飛んだエレクトロニカでした。あとはMoonchildとかJill Scottの新譜も良かった。

――ご自身のテイストにはどのような共通点があると思いますか?

orlik:オルタナティブなものが基本的に好きなんです。例えばThe Internetとか、超オルタナティブじゃないですか。『Ego Death』とか完璧なアルバムだと思うんです、曲によってはプログレヒップホップみたいな曲も入ってたりして。 あとはTheo CrokerとかYussef Dayesとか、最近はジャズと他の要素をクロスオーバーさせるものが好みなんですよ。

――特定のジャンルというより、「オルタナティブ」という在り方自体に惹かれているというか。

orlik:あぁ、まさにそうです。僕はRadioheadが一番好きなんですけど、彼らはバンドとして現代音楽まで取り込んでいたりするじゃないですか。そういう姿勢に惹かれますね。

――そのテイストって子供の頃から変わらないんですか?

orlik:いや、子供の頃は流行ってるものばっかり聴いてました。小学生の頃はもうボカロばっかりですね。歌い手がアリーナとかでライブしたり、ぬゆりとかDECO*27とか、とにかく黄金時代だったんです。カゲロウプロジェクトとか、ありえないぐらい流行ってたし。それで中学生に上がったらKing GnuとかYOASOBIとかも聴くようになって。あと、中2でRADWIMPSに憧れてギターを始めたんですけど、そこから音楽観が変わったとは思います。歌じゃなくて楽器を聴くようになったんです。

――中島さんの世代だと『君の名は。』の影響ですか?

orlik:いや、“ギミギミック”とか“ハイパーベンチレイション”とかが好きで。そのときに「俺ってギターのカッティングが好きなんだ」って気づいたんですよ。そこからはとにかくカッティングに夢中になって、the band apartのコピーとかもしてました。そのときはギターソロに魅力を感じなかったんですよね。

――なるほど。思えばボカロもYOASOBIも、ギターソロと同じかそれ以上にカッティングがフィーチャーされてますよね。

orlik:そう、the band apartでも荒井さんのフレーズばっかり弾いてて。だけど、突然変異的にLed Zeppelinを聴くようになって。Jimmy Pageにハマって、SGギターを買って“天国への階段(原題:Stairway to Heaven)”をコピーしたり(笑)。Led Zeppelinも当時の価値観ではオルタナティブなことをしていたわけで、ハマったのには正当性があると今では思います。それが中学校の思い出ですね。


〈残響レコード〉とBOOM BOOM SATELLITESからの影響

――高校の頃もギターを触っていたんですか?

orlik:まず、高2の頃に頭の手術で入院したんですよ。その時に『Ergo Proxy』ってアニメを観てたら、エンディングでRadioheadの“Paranoid Android”が流れたんです。それが稲妻に打たれた体験というか……その後に『OK Computer』を聴いても何もわからなかったんですけど(笑)。大学1年生で再び出会うまでは“Paranoid Android”ばっかりリピートしていました。

――それで今となってはRadioheadが一番好き、と。

orlik:大学で趣味が唯一合う友だちに「お前、Radiohead聴けよ」みたいな感じで勧められて(笑)。それでちゃんとハマりましたね、大学の最初の1年はRadioheadばっかり聴いていたかも。

――Radioheadにハマったタイミングは『New contemporary』の制作期間とも被っていますし、作品にも多大な影響を与えたのではないでしょうか?

orlik:そうなんですけど……Radioheadって唯一無二すぎて、影響を受けすぎると「Radioheadでよくね?」っていうものしか作れなくなるんです。誰かのフォロワーになるのだけは避けたかったので、その点については上手く隠そうとしました。

――どのようなもので「隠した」のですか?

orlik:アルバムを作っているときに聴いてたのは〈残響レコード〉のアーティストです。ハイスイノナサとかthe cabsとか、あとPeople In The Boxから影響を受けているとは思います。あとはSquarepusherとかDOMi & JD BECKですね。例えば“PRET-A-PORTE”の、シンセのウワモノに手数の多いドラムを乗っけるみたいな音は〈Warp〉のアーティストがやっていたことですよね。そういうのが好きなんです。

――全体的に『New contemporary』のビートには浮遊感がありますよね。低音のズドンとした響きを抑制しているというか。

orlik:あぁ、でも“Another Killer”とかはドイツのGesaffelsteinとかBOOM BOOM SATELLITESとかのビートを参考にしてます。高3でBOOM BOOM SATELLITESと出会ったときに衝撃的で、あのデジタルロック感がとても新しいと思ったんですよね。例えばPrimal Screamの『XTRMNTR』とかは90年代のシンセパンクっぽい音に聴こえるんですけど、BOOM BOOM SATELLITESだけは最新のものとしか思えない。

――わかります。BOOM BOOM SATELLITESのテーマとも重なる点として、『New contemporary』では打ち込みと生演奏をどのような塩梅でミックスさせたんですか?

orlik:曲によってバラバラですね、ギターだけは全部自分で弾いているんですけど、後は打ち込みだったりサンプルを使ったものもあって。あと“iAmAcitykidiliveintheplAzAhotel”はLogic(DAWソフト)のアップデートで追加されたセッションプレイヤー機能っていうのを使ったんですよ。AIがコード進行に対して「こんなのはどうですか?」っていうのをMIDIで出してくれるんです。それがよかったけど惜しかったので、出てきた音を整形してベースラインを作りました。AIのキモさと自分の身体性のハイブリット、みたいになってるかもしれません。

――「自分の身体性をハイブリット的に表現する」というのはorlikというプロジェクトにとって重要なテーマであるようにも感じます。

orlik:そう、まさにBOOM BOOM SATELLITESのライブを観に行ったときに身体性を感じたんですよ。ツインドラムのインパクトもあるし、もうNine Inch Nailsとか超えてるんじゃないかって(笑)。


冷たいビル群、工事の終わらない渋谷……orlikが描き出す「東京」

――〈残響レコード〉もそうですけど、ゼロ年代の邦楽が今の中島さんの関心事なんですね。

orlik:〈残響レコード〉に関しては、あれが東京の風土感を最も表現している音楽だと思っているんです。ピアノもドラムも全部冷たい、そして変拍子とかも入ってくるという。ただ個人的には白すぎるというか、ブラックミュージックの影響があまりないように聴こえるんですよね。だからその要素を足したらおもしろいことができるんじゃないかなって。『New contemporary』を作っている最中はそんなこと考えていなかったんですけど、今はそういうミクスチャーに興味があります。

――あまり言及されていない「日本らしさ」ですよね、それって。

orlik:海外で今ウケている音楽って、アニメのタイアップとかインターネットカルチャーみたいなサブカルの文脈が中心じゃないですか。それによって、「日本らしさ」が内向的なコンテンツとして受け止められているような気がしているんです。ただ、僕が表現したい東京観は、冷たいビル群とか工事の終わらない渋谷みたいな街で。「東京のビルってめっちゃカッコよくない?」みたいな、そういうポジティブなものなんです。

――なるほど。

orlik:東京に対してネガティブなイメージを持ってる若者が多いと思うんです。それは広告主義だったり、社会に対しての不信感だったりする。『チェンソーマン』みたいな物語が流行るのもわかるんですよ、そういう意味でみんな内向的なんじゃないかって。ただ、そうは言っても大体の人は一日3食は飯を食ってるし、そのギャップって何なんだろうなって。

――中島さん自身は「東京のビルってめっちゃカッコよくない?」という、物質そのものに興味があると。

orlik:エドガー・ドガは黒人で売春婦のバレリーナを見たときに、「黒人」や「売春婦」といったコンテクストを排除して「バレリーナ」としての美しさだけを取り出した彫刻を作ったと聞いたことがあるんです。そんな風に、ある種の問題を孕んでいようと、まず外見に惹かれるということで新しいものが生まれた側面もあると思うんですよね。ヒップホップのサンプリングとも近しい思想というか。

――ただ、ルーツにはないものを取り入れた結果として、軽薄なものと見做される場合もあるじゃないですか。

orlik:そうなんです。国内でもR&Bから影響を受けて、それをオシャレに見せようとしているだけで、単にフォロワーの音楽になってるものが結構多いような気がしていて。確かにいい曲は作れるんです。ただ、それで新しいものはできないですよね。だから最終的には作家性を出して深く切り込んでいかなきゃいけないというか。

――中島さんの場合、それが「東京に住んでいる青年」というアイデンティティに繋がると。例えば“Another Killer”では《High like the tower.》や《High at the mirror.》など、都会的なモチーフが反復されていますよね。恐らくorlikについて何も知らない人が聴いても、「東京の若い人が歌ってるんだな」って伝わるような歌だと思うんです。

orlik:それは……初めてTalking Headsの『Remain In Light』を聴いたとき、「ニューヨークのバンド」という情報を知らない状態でもDavid Byrneの声で「ニューヨークっぽいな」って思ったのと近いかもしれません。『Remain In Light』ってFela Kutiとかのアフリカ音楽から影響を受けて作られたもののはずなのに、“Born Under Punches”が流れた瞬間、僕の中でいかにも神経質そうな細身のニューヨーカーみたいな感じが浮かんできたんですよ。それで調べたら本当にニューヨークのバンドだった(笑)。そういう点は意識しているかもしれません。

――だからこそ自分で歌うことに意味があったんですね。

orlik:はい。最初は自分で歌うのが恥ずかしくて、高3まではボカロで作っていたんです。ただレーベルに音源を持っていくとき、「自分で歌うのもいいな」ってふと思ったんですよね。それに、東京の風景を描くときに、変な脚色をしたくなかったんです。やりすぎると『AKIRA』みたいになるというか、ネオトーキョーのようなイメージになっちゃうのが嫌だったんですね。それよりはリアルなものを描きたかったんです。


早くも膨らむ次作の構想。キーとなるのは「風土感」

――今後はそのコンセプトをより広げる構想でしょうか?

orlik:そうですね。 新しい音楽を作るのって途轍もなく難しいことですけど、その突破口として「風土感」はめちゃくちゃキーだなと思っていて。 例えばKiasmosとかmúmってアイスランドでしか作れない音楽だと思うんですよ。だから日本の、さらに東京で僕もそういうものをやろうと。

――例えば琴の音色を無理矢理入れるとか、そういう「風土感」では……。

orlik:ないんです。そういうことじゃないんですよね、まさに脚色された日本像でしかない。

――近い世代で同じような問題意識のアーティストって思い当たります?

orlik:ショックを受けるレベルでセンセーショナルだったのはCHO CO PA CO CHO CO QUIN QUINですね。ここまでやられたか……っていう(笑)。民族音楽と日本のトロピカルな文脈が融合していて、しかも電子音楽も乗っかっている。すごいですよね。

それと、ヨルシカの新譜に収録されていた“雲になる”はパーカッションが足腰になってモロに〈残響レコード〉のような変拍子のギターリフが乗っていて驚きました。ちょっと近いこと考えてるかも、みたいな。今作っている2作目のアルバムのデモもYussef Dayesの足腰にポストロックのような線の細い音のギターを鳴らしていたり、〈Warp〉や〈R&S Records〉のようなアイデアの音を重ねて、そこに今の東京に生きてる日本人の声が乗るという相乗効果を狙っています。

――中島さんってBattlesとか好きですか?

orlik:めっちゃ好きです。

――個人的に、『New contemporary』を聴いて最初に想起したのがBattlesなんです。足腰とウワモノを対比させて異物をぶつけるアイデアが近いというか。

orlik:あー、めっちゃあるかも。BOOM BOOM SATELLITESの系譜でBattlesを知ったんですよね。ちょっと前の音楽だとTalvin Singhとか、色んな民族音楽の上にエレクトロニカが乗る感覚ですよね。あの辺りがヒントかもしれません。


【リリース情報】


orlik 『New contemporary』
Release Date:2026.03.18 (Wed.)
Label:APOLLO SOUNDS
Tracklist:
01. New contemporary
02. AUX-PC
03. iAmAcitykidiliveintheplAzAhotel
04. PRET-A-PORTE
05. 5O
06. Hanky-Panky
07. Youth terrorism
08. 非O
09. Humanistic approach
10. OLDTAPE
11. Another Killer
12. untitled(2005,19)

[Credit]
Written, Composed & Arranged by Terutomo Nakashima(orlik)

Guest Musician
New contemporary:Daichi Kitagawa(drums)
Youth terrorism:Shunya Takasugi (bass, drums)

Recorded at Recording Studio GOATEE(track1), Setagaya REC Studio(track7)
Recording & Mix Engineer:Roku Segawa
Mastering Engineer:Kentaro Kimura
Album Design:Wataru Yoshioka
Jacket Art Work:Terutomo Nakashima
Promotion & Managemnet:Marina Hamada(APOLLO SOUNDS),Ryoga Okuma(APOLLO SOUNDS)
Directed by Jun Abe(APOLLO SOUNDS)
Produced by Terutomo Nakashima(orlik)

配信リンク

■orlik:Instagram / X


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