FEATURE

INTERVIEW / Mom


「ただの現実逃避はもうやめようぜ」――Momが混沌とする世界へ投げかける音楽。そしてメッセージ

2020.06.17

Momがニュー・アルバム『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』を7月8日(水)にリリースする。

昨年から制作を進めていたという本作には、先行シングル「マスク」「ハッピーニュースペーパー」を含む全13曲を収録。初期のシグネチャーでもあったローファイ・サウンドは影を潜め、時にカオティックに、時にポップなトラックが炸裂。相変わらずのカラフルさを体現している。そんな本作だが、アルバム全体を通して伝わってくるのは、混沌とする世界へ対するやるせない怒りや諦念。しかし、そんな中でも時折顔を覗かせるMomの本音と思しき言葉の端々からは、一筋の希望を失っていないことが伺える。

まるで昨今の状態を予見していたかのような、不可思議なリアリティを有している本作を持ってしてメジャー・デビューを飾るMom。緊急事態宣言発令直前に行われた本インタビューでは、率直な現在の心境、そして本作が生まれた背景を探ることに。

Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Maho Korogi


“カルトボーイ”誕生秘話

――今作は自身の感じる怒りや負の感情といったものを、SF的、ディストピア的世界観の物語に上手く昇華しているなという印象を受けました。昨年のインタビュー時から制作していたとおっしゃっていたので、今作が今の状況を描いているわけではないことは理解しているのですが、アルバム全体を聴くとどうしてもリンクして感じられてしまいます。

Mom:前にも言っていたと思うんですけど、アルバムを作り始める段階から全体を通して大きな物語を描きたいっていう構想があったんです。前作の『Detox』は衝動的に作った部分があったので、その反動もありつつ。ちょうどその頃から藤子不二雄さんの『藤子不二雄異色短編集』、筒井康隆さんの『笑うな』などを読んだ影響もあり、ああいうスラップスティックSF的な作品を音楽で表現したいと思うようになったんです。

――『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』というタイトルもとても印象的です。

Mom:最初は『2040 Slapstick』みたいな仮タイトルを付けてたんですけど、今回のアルバムの曲の中に出てくる主人公たちって、僕の中でみんな精神的に孤立しているイメージがあって。そのニュアンスを上手く表現する言葉はないかなって考えていた時に、「カルトボーイ」っていう言葉がフッと浮かんできて。カルトボーイって、何か良くないですか?(笑)。なんだろうな……強化人類とか軍事兵器みたいなイメージも少しあるし、キャラクターっぽさもある。明確なソースがあるわけじゃなく、本当に僕の頭の中での空想でしかないんですけど。

――荒廃とした近未来でカルトボーイがスケートボードに乗っている、そんなイメージが浮かび上がります。

Mom:今作の制作過程において、スケボーっていうアイテムが自分の中で大きな存在になっていたんです。元々90年代のスケート・ビデオとか、Xbox360のゲーム・ソフト『Skate』とかも好きで、スケート・カルチャー自体への憧れはとてもあったんですけど、実際に自分でやる経験はこれまでなくて。アルバムの制作に際して、何か新しいエネルギーを欲していた時があって、昨年末くらいにふと「スケボーやろう」って思い立ち。近所の土手でひとりで練習をはじめました。単純にフレッシュな体験がしたかったっていう気持ちがあったんですよね。

――なるほど。

Mom:最初は当然コケて傷ができたり、アザだらけになるんです。「骨折れたかも」って思うこともいっぱいあって(笑)。でも、楽しいから全然笑ってられる。人間ってこんなにタフなんだなって改めて思いました。大人になってから思いっきり転んだり血が出たりするようなことって、あまりないじゃないですか。そういう部分で少年の心みたいなものを思い出せた気がして。あと、スケボーをやってると、周囲の人たちからはあまり良い目で見られないんですよね。ちょっと疎ましく思われるというか。それもカルトボーイが生まれる要因のひとつになっていると思います。

――昨年末といえば、フォーク・アルバム『赤羽ピンクムーン』のサプライズ・リリースもありましたよね。あの作品はどのような立ち位置なのでしょうか?

Mom:今、僕の中では作品を作るに当たってのスタンスがみたいなものが2軸あって。あの作品はどちらかというと『Detox』寄り、衝動的に作った感じです。自分の中ではフォークっていうスタイル自体にそういう側面があるとも思っていて。ちょうどこのアルバム(『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』)の制作途中に悶々としてきて。ずっと画面とにらめっこしながら制作していると、気が滅入ってしまうんです。特に今回はある意味真っ向勝負とも言えるサウンドを作り上げたかったので、とても集中力やエネルギーみたいなものが必要で。そういった諸々の捌け口として、弾き語りでサクッと作ったのが『赤羽ピンクムーン』ですね。

――まさに前作『Detox』のような、言葉通りのデトックス効果もあるような作品だと。

Mom:そうですね。この先も定期的にああいうアルバムは作ると思います。

――『赤羽ピンクムーン』を制作して、気持ちは軽くなりましたか?

Mom:う〜ん、多少は……っていう感じですね。本当に気休めって感じですけど。その時の自分にとっては作らずにはいられなかったんですよね。だから、iPhoneのボイスメモで録ってパパっと作りました。


時代の空気感を湛えたポップス

――今作の制作を加速させた、もしくはターニング・ポイントになった曲はありますか?

Mom:「2040」と「カルトボーイ」になると思います。「2040」は一番最初にできた曲で、「Logic」(DAWソフト。以前までは「GarageBand」を使用していた)処女作です。「2040」で物語の大げさなエンディングを最初に作り上げて、他の曲でそこまでの道のりを描くという流れでアルバムを制作していきました。「カルトボーイ」はタイトルにもなっていますし、少し独白色の強い曲になっていて。映画や小説でも、作り手の想いや作家性が最も色濃く出る瞬間、シーンってありますよね。今作においてそういう立ち位置の曲になると思います。

――出だしから「血生臭いニュース 馬鹿のエクスキューズ / エンタメじゃないよ現実 やいやいと言う0時半」というリリックがとても印象的です。

Mom:世の中や社会との関係は断ち切れるものではないし、自然と今の空気感も作品に表れてくると思うんです。逆にそれを感じさせない作品は僕は信じられないです。

――逆に、ちょっとした怖さすら感じますよね。

Mom:ディストピア的ですよね。それこそ「これ、AIが作っているんじゃないか?」って勘ぐってしまう時があります(笑)。リアリティっていうのは明るい曲でも暗い曲でも絶対に必要だと思うんです。過去の良質なポップス――特に後世に残るようなものは必ずその時代の空気感を強く感じさせるようなものになっていると思いますし、僕もそういった作品を作りたいという意思があって。「カルトボーイ」は曲の前半と後半でガラッと曲調が変わるんですけど、それは自分の中の異なる側面みたいなものを表現していて。制作時に、ふと曲を作るために負のエネルギーを欲している自分がいるんじゃないかって思った時があって、すごい自己嫌悪に陥ったんです。自分自身を攻める自分と、それを受け入れて愛する自分が共存している。そんな曲ですね。

――「カルトボーイ」もそうですが、1曲目の「胎内回帰」などはロック的な要素も強く感じられます。少し前に流行ったエモトラップ的なサウンドとはかなり距離を置いていて、とても新鮮なように感じました。

Mom:単純に僕が好きなだけっていうのもあると思います。エモトラップって、元々はエモが好きな人たちが生み出したものだと思うんですけど、それが大きな注目を集めるようになってからは、「エモトラップを作ろうとして作ったエモトラップ」みたいな感じに、どんどん形骸化していっているような気がしていて。そういうルーツが見えない音楽もおもしろくないし、かといって直接的な影響が見え過ぎてしまうのも嫌なので。それでも、自分がこれまでに触れてきた作品、それこそ音楽以外にも映画や小説とか、そういったところからの影響は無意識に出ていると思います。

――あまり具体的なリファレンスなどは設定しないと。

Mom:作っている途中で「これ、〇〇〇っぽいな」とか思う時はありますけど、最初から意識して作ることはほとんどないですね。

――今作には「カルトボーイ」「胎内回帰」のような途中で曲調がガラッと変化する曲や、ビートと上モノの組み合わせに違和感を感じるような曲などが多く収録されているように思いました。躁鬱的とも言える、このカオティックな構成は何が要因として挙げられると思いますか?

Mom:今回の作品のコンセプト的に、自分の中ではいくつものレイヤーが重なっているというイメージがあって。例えばゴリゴリのギター・サウンドもたまに顔を出すけど、それを本気でやっていない感じが大事というか。そういったテクスチャはあくまでも歌やラップを乗せるため、言葉を届けるための土台でしかない。今作ではそうやってサウンドと言葉をわかりやすくリンクさせるっていうことを意識しました。

Mom:あと、今回はトラックもリリックもそれぞれのデモ版みたいなものが無数に存在していて。アルバムに全く使用していないものもいっぱいあるんですけど、一部はたまにセルフ・サンプリング的に使用しています。例えば「レクイエムの鳴らない町」っていう曲は、最終的にベースと歌だけの構成になったんですけど、元々はもっとポップなトラックだったんです。一旦ほぼ完成という段階まで作り上げたんですけど、仕上げの時に何か違うなって思ってガラッと差し変えて。そのボツにしたトラックをアウトロで少しだけ使っています。他にも元々は「Old Friend (waste of time)」のリリックとして書いていた部分をカットして、「2040」の終盤にポエトリー・リーディングのような形で使ったり。そういう複雑なプロセスを経て完成した曲がすごく多いんです。

――前回のインタビューでは、曲作りに対するスタンスが「外からの出来事に対して球を打ち返したいという方向に向いてきた」と語っていましたが、リリックの書き方や意識にも変化は起こりましたか?

書き方は変わった気がします。上手く口で説明できないんですけど、リリックを書く時の姿勢、心持ちみたいなものが変わったんじゃないかなって思います。

――リリックを書いている時に、聴いている人、読んでいる人を意識することはあるのでしょうか。

Mom:聴き手としての自分がアガるかどうかっていう部分しか意識していないかも知れません。未だに自分に対してシンガーとかプレイヤーっていう自覚をあまり持っていなくて。だからこそ、自分の作品に対してもある程度冷静な視点でみれているような気がします。自分以外のリスナーを意識したり、そこに寄り添うっていう感覚はないですね。もちろん常に感謝はしています。


メジャー・デビューしてやるぞっていう意気込みはあまりないです(笑)

――1stアルバム『PLAYGROUND』の時からおっしゃっていましたが、今作にも“アルバム”というフォーマットに対する強いこだわりを感じさせます。

Mom:今、音楽って数あるクリエイティブの中でも最も始めやすいものだと思うんです。楽器を弾けなくても曲は作れるし、ラッパーだったらタイプ・ビートを買って、そこにラップを乗っければすぐにそれなりの作品を作ることもできる。でも、だからこそ、そういったインスタントな創作はしたくたいんです。ストリーミング主流の時代になって、正直自分もアルバム1枚通して聴くのはしんどいなって思う時もあるりますが、そういう時代のバランス感覚を持ち合わせつつ、アルバムというフォーマットにこだわっていきたいと思ってます。

――1枚のアルバム通して自分の感情を架空の物語に昇華するという、これまでの作品とは異なる手法で今作を作り上げたわけですが、こういったスタイルは今後も取り入れていくと思いますか?

Mom:今作で自分に合った作り方がやっと見つかったなっていう感覚はあるので、曲を作る姿勢として、今後も軸となるのはこの感じなのかなって思っています。社会と繋がりを持って生きている以上、世の中からの影響は絶対に受け続けるし、世の中に対して何も感じない、何も見ない人間にはなりたくない。今、こんだけ混沌とした世の中で、音楽をただの現実逃避のためだけのエンターテインメントにするのはもうやめようぜって強く思います。優れたエンターテインメントって、受け手がどこかでハッとさせられる要素を含んでいるものだと思うんです。音楽は直接的に世の中を変えるものではないけど、人々の潜在意識だったり、内部に変化をもたらすことのできるものだと思うので、今後もそういった作品を目指していきたいです。

――今作には人の嫌な部分、人間が作り出す社会の負の側面が多く描かれていると思いますが、その一方で、お話を聞いているとMomくんはそれでも人間が好きなんじゃないかな、と思いました。

Mom:確かに寂しがり屋ではあると思います(笑)。でも、「胎内回帰」では人間の嫌な部分から完全に切り離された世界へ行きたいという想いを綴っていて。でも、実際にはそんなこと無理だし、外界と切り離されたままじゃ生きていけない。そんな矛盾した気持ちがあるかもしれないです。

――最後に、本作を持ってメジャー・デビューを果たすことになりますが、その心境を教えてもらえますか?

Mom:この作品がどういう風に聴かれるんだろうっていう興味はありますけど、メジャー・デビューしてやるぞっていう意気込みはあまりないです(笑)。とにかくおもしろいことが起こればいいなって思いますね。



【リリース情報】

Mom 『カルトボーイ』
Release Date:2020.05.27 (Wed.)
Label:JVCKENWOOD Victor Entertainment
Tracklist:
1. カルトボーイ

配信リンク

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Mom 『ゴーストワーク』
Release Date:2020.06.10 (Wed.)
Label:JVCKENWOOD Victor Entertainment
Tracklist:
1. ゴーストワーク

配信リンク

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Mom 『21st Century Cultboi Ride a Sk8board』
Release Date:2020.07.08 (Wed.)
Label:JVCKENWOOD Victor Entertainment
Tracklist:
1. 胎内回帰
2. あかるいみらい
3. 食卓
4. アンチタイムトラベル
5. マスク
6. レクイエムの鳴らない町
7. スプートニクの犬
8. ゴーストワーク
9. カルトボーイ
10. ハッピーニュースペーパー  
11. Old Friend (waste of time)
12. 2040
13. (open_mic)

Mom オフィシャル・サイト


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