INTERVIEW

Jordan Rakei

ロンドン・シーンに深く根ざすJordan Rakeiが語る、テクノロジーと人間の関係性。新作『Origin』のバックグラウンドを紐解く

いまやサウス・ロンドンのジャズ・シーン、ネオソウル・シーンを象徴するSSW/プロデューサー/マルチ・プレイヤーとなったJordan Rakeiが、およそ2年ぶりとなるニュー・アルバム『Origin』を6月14日(金)にリリースした。

2015年にオーストラリア・ブリスベンからサウス・ロンドンへ移住したJordan Rakeiは、Tom Misch、Alfa Mist、Barney Artistらと親密な交流関係を築き上げ、近年ではLoyle Carner、Rosie Loweなどの楽曲に参加。シーンに深く根ざしながら、上質なネオソウルを生み出すソロ・アーティストとして、はたまたロンドン・コミュニティを支えるコラボレーターとして、独自の存在感を発している。

そんな彼による最新作『Origin』は、日々進化するテクノロジーの脅威によって晒されていく「人間性の根源」がテーマとなっている。なかでも、Netflixシリーズ『ブラック・ミラー』を始めとするディストピア作品に強くインスパイアされたという本作は、いわば人類の未来と彼自身の思索が結びついた「SF的ネオソウル・アルバム」とでも形容できるだろう。

テクノロジーが進化していくなかで彼自身が抱える懸念、そしてディストピアな世界観からどのような影響を受けたのか。さらに、プライベートで実現したNile Rodgers、Terrace Martinとの邂逅に至るまで、彼の世界観の根源を、インタビューを通じて紐解いてみた。

Interview & Text by Takato Ishikawa


――ニュー・アルバムの完成おめでとうございます。前作『Wallflower』からおよそ2年ぶりのリリースとなりましたが、今作の構想はいつ頃から練っていたのでしょうか。

ありがとう。やっとアルバムとして形にすることができて、すごく嬉しいよ。2017年の9月に『Wallflower』をリリースしてから、そのまま続けてこのアルバムの制作に取り掛かったんだ。10月には『Origin』の曲を書き始めていた。曲は常に書いてはいるけどね。アルバム制作っていうのはソングライティングを終えてから、レコーディングとかマスタリング、ミックスとかがあって、さらにプロモーションも含めると合計で6ヶ月はかかるよね。だから、今は曲を書き終えて半年経ったぐらいの段階。制作は、できる限り最短のスパンでやっていきたいと思ってるんだ。常に曲を書いておいて、期間をあまり開けずにリリースを続けたい。

――アルバム・タイトル『Origin』は、今作のテーマである「人間性の根源」を示していると思われますが、改めてタイトルの由来を教えてください。

このタイトルは、進化するテクノロジーによって、人間が本能を失いつつあるのではないかっていう懸念を表している。人間がテクノロジーに翻弄されてしまうんじゃないかってね。だから、種としての人類に人間性を失ってほしくない、テクノロジーに翻弄されず、自分が何者なのかを忘れてほしくないという想いを込めているんだ。

――新作『Origin』では、ディストピア的な世界観を持つSF作品にインスパイアされていると聞きました。Netflixシリーズ『Black Mirror』や、Huluオリジナル・ドラマ『The Handmaid’s Tale』(邦題:侍女の物語)、デヴィッド・リンチ監督作『Twin Peaks: The Return』を影響元に挙げていますが、これらの作品から具体的にどのような印象を受けたのでしょうか。

特に『Black Mirror』にだけど、あのドラマはテクノロジーが人間に対してどんな風に作用していくのかをすごく風刺的に描いていて、素晴らしい作品だなと思ったんだよね。SFのドラマで1話完結っていうのもあんまりないし。エピソード毎にひとつのストーリーがあるっていうのは今回の僕のアルバムにも共通していて、1曲毎に違うストーリーがある。コンセプト・アルバムみたいな感じかもしれないね。全ての歌詞がアルバムのテーマを表現してはいるんだけど、曲自体が持つストーリーはそれぞれ違うんだ。

それから、『Black Mirror』で記憶が記録されてて、それが再生されるみたいなエピソードがあるんだけど、そのアイディアをちょっと拝借したりもした。男女がいて、彼らの全ての記憶がクラウドに保存されているんだけど、それが再生されることによって自分の記憶が追体験される怖さとか、プライベートが侵害される恐ろしさを知るっていう話でね。頭の中が記録されているから、空想にふけったりもできなくなるんだ。あのエピソードは最高だったな。

――アートワークに写っているのは男性でしょうか? 女性でしょうか?

そこは曖昧にしたいんだよね。見る人に解釈を委ねたいから。人間が水の中から浮かんできている様子を描いてるけど、サメだとかクジラに見えるって人もいる。飛行機とかね。まあ、一応人間が水の中から浮かび上がってきているところなんだけど、人間の体の70パーセントくらいは水分でできているし、産まれる時には羊水から出てくるよね。それに、人類の起源は何百年も前の海洋生物だったっていう説を唱えている人もいる。水と人間っていうのは密接な関係にあるから、今回『Origin』で人間の起源を問う上で、このアートワークにしたんだ。

Jordan Rakei『Origin』カバー・アートワーク

――これは絵? それとも写真ですか?

これは写真なんだよね。1960年のオリンピックでダイバーが撮影したものなんだけど、当時その写真がテレビで流れたらしくて、その映像をさらに写真に撮ったものなんだよ。だから粗い画像になってる。色も結構調整しているから、すごく手がかかった写真なんだよね。テクノロジーについてのアルバムのアートワークがアナログに作られてるってところで、おもしろいなと思ってる。

――テクノロジーの発達によってもたらされるディストピアな影響について、自身の日常生活ですでに感じている変化などはありますか。

人間はどんどんテクノロジーに依存していっていて、この世界自体がテクノロジーの影響と切っても切り離せない関係になっている。日常生活にしても、テクノロジーの影響を受けずにはいられないようになってるよね。そのうち、食料品を注文する必要さえなくなるかもしれない。ただ、僕自身が強く思っているのは、自分がひとりの人間であって、自分自身の選択は自分でできるんだっていう、それを忘れないようにしたいってこと。人間として、自分のことはできる限り自分自身でコントロールしたい。そして、僕のこの考えを周りにも広めることができたら、それは素晴らしいことだなと思ってるよ。

――「AIシステムに立ち向かう人間の未来」について、ご自身が考える理想の未来像があれば教えてください。

AIの進化についてはふたつの可能性があるなと思っている。ひとつは、まず人間よりも知能の高いAIシステムが開発されたとして、複数のAIシステム同士が処理能力を高めようといたちごっこを始めるんじゃないかっていうこと。それによって、人間の力が到底及ばないようなシステムがAI自身によって開発されてしまうっていうところにはすごく関心があるね。それからもうひとつは、ヴァーチャル・リアリティみたいな話だけど、何らかの形でAIのシステムが人間の体に結合されて、人間が人間でなくなってしまうこと。それはひとつの進化の形でもあるのかもしれないけどね。いずれの可能性にしても、すごく興味深い未来が待っているなとは思ってる。まあ、もしくはもうAIのことなんか忘れて、人間は人間らしく生きていく可能性もあるかもね(笑)。

――音楽活動の面でも、SNSやストリーミング・サービス、制作ツールなど、あなたはテクノロジーの恩恵を多く受けている世代のひとりだと思います。これらを有効活用するために、普段から心がけていることはありますか。

今自分がここにいられるのは、そういうテクノロジーのおかげっていう部分がものすごく大きい。SNS世代のアーティストだからね。特にSoundCloudはすごく活用していて、そのおかげで色々な機会が得られた。SNSに関しては、InstagramとかTwitterのフォロワーは僕と個人的に繋がっているような感覚になっていると思う。プライベートの写真をアップしたりもするから、個人的に知っているような感覚になるというか。気をつけたいのは、SNSにがんじがらめになりすぎて、スマホの中に囚われてしまわないようにすること。自分がどう見られているか、過度に気にしてしまわないようにね。

ただ、自分の音楽のキャリアを底上げしてくれたのもそういうツールだから、バランスはすごく大事だなと思ってる。これからもっと優れたテクノロジーが生まれるだろうし、そうなるとSNSともっと離れられなくなってくるからね。ミュージシャンの友人たちも自分のキャリアのためにSNSをすごく上手く使いこなしてる。ファンの声を聞けるっていうのは大きいしね。例えば、数年前だけどケープタウンに来てほしいっていうコメントをたくさんもらったから、エージェントにそれを伝えてライブが実現したことがあった。そういう意味では、SNSっていうのは素晴らしいツールなんだよね。

――以前から内省的でパーソナルな作品性が特色でしたが、今作では「Say Something」を筆頭に、他者に対する警鐘や働きかけも垣間見えます。前作と比べて、ご自身ではどのような変化を感じていますか。

前回のアルバムは、社会と自分自身に対しての不安についてのものだったからね。今回は同じ不安や懸念にしても、外に開けたテーマについて扱いたかった。だから、「Say Something」は人々が結託して声を上げることについての曲なんだ。近くにいる友達や周りの人たちに、自分の意見を提示することについて。だから、今までの作品よりも普遍的なテーマについてのものになっているんだ。

――そういったテーマを取り上げる中で、サウンドとしても普遍性のあるものが求められたのではと思います。なかでもトラック・メイキングやレコーディングについて、特に意識したことはありますか。

サウンドに関しては、よりファンキーに楽しく、カラフルにっていうところを意識していた。リリックに関してはさっき話したようなテクノロジーとの拮抗についてをテーマにしているけど、サウンドはエネルギッシュで活発なものにしたくてね。それは全ての曲のサウンドについて言えることだね。

――今作では、幼少期からのフェイバリットであるStevie Wonder、Steely Danのような古典的なソングライティング、音楽性に目を向けたと聞きました。そのようなアプローチを取った理由を教えてください。

今回は自分の音楽の出自を活かしたいと思ったんだ。自分が純粋に楽しいと思う音楽を作りたいし、シンガロングできるようなナンバーだったり、ジャズとかソウルとか、R&B的なナンバーも入れたくて。彼らからの影響でそういう志向を持つようになったからね。

――過去に自身のフェイバリット・アルバムのひとつとして、Radiohead『In Rainbows』(2007年)を挙げていました。今作のテーマと少し共通する音楽性を感じたのですが、制作にあたって、Radioheadの作品から受けた影響はありますか。

影響はすごく受けてる。一番好きなバンドとも言えるんじゃないかな。サウンドにしてもプレゼンテーションにしてもずば抜けていて、僕の作品も直接的にインスパイアされているから、聴く人も僕が具体的にどんな影響を受けてるかすぐにわかるレベルじゃないかな(笑)。『In Rainbows』みたいなサウンドを作りたいとは予てから思っていることだね。

Jordan Rakei

――2014年にリリースされた2nd EP『Groove Curse』を経て、ブリスベン(オーストリア)からロンドンに活動拠点を移したことが、その後の音楽活動にとって大きなターニング・ポイントのひとつになっていると思います。当時、どのような経緯で移住を決意しましたか。

すごく大きな決断だったね。人生のレッスンとも言えるような経験になった。オーストラリアでは母親と一緒に住んでいて楽な生活をしていたから、ロンドンでは生活に関しても頑張らないといけなかったんだ。音楽に関しては色々なタイプのミュージシャンと会って、色々なライブを観に行って、ヨーロッパでツアーもしてっていう感じで、生活が完全に変わったね。実は曽祖母がイギリス人っていうことで、ビザが取りやすかったっていうのも理由のひとつなんだ(笑)。ベルリンも考えたんだけど、ドイツ語を習得しないといけないから(笑)。

――ロンドン・コミュニティに根ざしておよそ5年経つなか、移住当初と比べてどのような人間関係の変化がありますか。

オーストラリアではあまり社交的な性格じゃなかったんだけど、こっちに来てから社会性を身につけないといけなくて(笑)。色々なミュージシャンに会ったりとか、交友関係の幅はかなり広がったね。

――ロンドンを拠点とするアーティスト、ミュージシャンのなかで、最近のホットな存在を教えてください。

たくさんいる。特にAlfa Mistは素晴らしいし、Loyle Carnerも最高だよね。あとはギタリストでMatt Calvertっていうアーティストがいるんだ。『Typewritten』っていう素晴らしい作品を出してるんだけど、不思議なことにロンドンでもあまり知られていないんだよね。だから、ここでは特に彼の名前を挙げたいな。

――Tom Misch、Alfa Mist、Barney Artistとの共同プロジェクト『Are We Live』の活動でも注目を集めています。ロンドン移住後、Twitterを通じて彼らとは早々と知り合ったそうですが、現在に至るまでどのような交流が続いていますか。

すごく良い関係だよ。3年前に立ち上げたポッドキャストで業界についてとか、ジャズについてとか色んなことについて話してるんだけど、自分たちのキャリアとはまた別枠の活動としてやってる感じだね。バーニーはUKのヒップホップ・シーンを、アルフィーはヨーロッパのジャズ・シーンを牽引してる存在だし、トムはいまや、世界的なスターになっちゃったしね(笑)。だから僕らはお互いの音楽をシェアして、色んなことについてしゃべって、っていうのをこれからも続けたいなっていう、そういう感じだね。

――2018年、ケープタウン(南アフリカ)で開催された“Cape Town Jazz Festival”への出演を通じて、R+R=NOWと知り合ったと聞きました。その後、Terrace Martinに招かれてLAのスタジオでレコーディングを行なったそうですが、その時の様子を教えてもらえますか?

最高だったね。Terrace MartinやRobert Glasperは現代のソウル・ミュージックやジャズ界になくてはならない、ものすごく重要な存在だから。Terrace Martinのスタジオではたくさん学ばせてもらった。Kendrick Lamarのアルバムをプロデュースした時のエピソードだったり、Dr. Dreについてだったりの話を聞かせてもらって、夢みたいな時間だったね。僕の音楽についても熱心に聞いてくれて。だから、LAに行く時はいつも連絡を取らせてもらっているし、これからも関係性を続けていきたいなと思ってる。最高の体験だったよ。

――先日、Nile Rodgersと共同制作を行なったことをInstagramに投稿していました。どのような経緯から実現に至ったのでしょうか。また、コラボの感想も教えてください。

ブラインド・デートみたいな感じだったんだ(笑)。あれが初対面だったんだけど、僕らがスタジオに行ったらNile Rodgersが座っていて、「うわぁ、本物だ!」ってね(笑)。彼は自分のこれまでの音楽史について色々と教えてくれて、僕は彼にアルバムを聴いてもらった。Nile Rodgersと一緒に音楽ができるなんて、すごくクールな経験だよね。ギターとキーボードとドラムを使って、自然とセッションが始まった。色んなレジェンドたちとやってきた人だし、ジャンルも多岐に渡っているから、スタジオを後にする頃にはNile Rodgersぐらいのレベルになるとどういう風に音楽に向き合っているのかっていうのが少しわかった感じでね。また彼とやりたいと思っているし、彼も前向きになってくれているみたいなんだ。すごい経験だったよ。Stevie Wonderとか、Herbie Hancockとコラボした時の話も聞いてね。素晴らしい経験になったな。

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Wrote a song with @nilerodgers yesterday… And the amazing @thektna

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――あなたはこれまでに2度、来日公演を行っています。日本のオーディエンスに対してどのような印象を持っていますか。

僕も、僕の友人たちも何度か日本で演奏しているけど、日本人のオーディエンスは音楽に詳しいっていうのが一番の印象なんだよね。僕の曲についても全部知っていて、でも一方でライブをすごく尊重してくれて静かに聴いてくれる。一回ジャズ・ハウスで演奏したことがあるんだけど、その時もマナーがすごくしっかりしていてね。だから日本で演奏するのは一番好きかもしれないな。


【リリース情報】

Jordan Rakei 『Origin』
Release Date:2019.06.14 (Fri.)
Label:Ninja Tune
Tracklist:
01. Mad World
02. Say Something
03. Mind’s Eye
04. Rolling into One
05. Oasis
06. Wildfire
07. Signs
08. You & Me
09. Moda
10. Speak
11. Mantra
12. Always Coming [Bonus Track for Japan (BRC-598)]

※国内盤特典、ボーナス・トラック追加収録 / 歌詞対訳・解説書封入

リリース詳細

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