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特別対談 | Half Mile Beach Club × Calm


海辺の記憶が紡ぐHMBC新作から探る、日本発バレアリックサウンドの可能性

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2024.08.22

神奈川県逗子市出身の4人組バンド、Half Mile Beach Club(以下:HMBC)がニューアルバム『Days of the Ocean Waves』を8月2日(金)にリリースした。

5年ぶり2作目となる本作は、「インストバンドとしてもう一度1stアルバムを作る」という志のもと、近年の制作に引き続きサイトウ“JxJx”ジュン(YOUR SONG IS GOOD)をプロデューサーに迎え、数年かけて制作された意欲作だ。

サイトウ“JxJx”ジュンを迎えたシングル“Vibrant Sun”(2022年)を機にバンドのスタイルをよりダンスミュージックにフォーカスしたインストスタイルへと進化させ、バレアリックなサウンドを探求するHMBC。本作ではそのバレアリックサウンドの探究がさらに推し進められ、AORの雰囲気やトロピカルなリズム、サイケデリックなギター、アンビエント、人力テクノなど多様な要素が融合することで、HMBCならではのバレアリックサウンドが展開されている。また、逗子という海沿いの街をルーツに持つ彼らならではの日本の風土・文化がもたらすバレアリックサウンドの独自性も感じられる。

そこで今回は、日本のバレアリックサウンドの第一人者として知られるCalmを招き、彼らがそれぞれ考えるバレアリックサウンドや音楽制作におけるこだわり、そして海外でも反響を呼んでいるHMBCによる日本発のバレアリックサウンドの新たな可能性を探るべく、対談を行った。

Text by Jun Fukunaga
Photo by Narihisa Kudo

L→R:Calm, ミヤノ(Gt.), ヤマザキ(Ba.), アサクラ(Syn.)

※HMBCツヅキ(Dr.)は体調不良で欠席


それぞれが考える「バレアリック」の定義

――HMBCとCalmさんは以前からお互いに面識がありましたか?

ヤマザキ:今回、僕らのアルバムのリリースパーティを江の島OPPA-LAで開催するにあたり、ゲストとしてCalmさんに出演をお願いしたくてご連絡しました。それまで特に面識があったわけではなく、単に僕が以前から大ファンだったんです。

Calm:僕はそれまで彼らのことは知らなかったんですけど、オファーのメールに添付されていた音源を聴いて興味を持ったので、リリパも出演させてもらうことにしました。

――今回の対談では2組の音楽性における重要な要素・バレアリックについて教えてもらいたいのですが、まずはそれぞれバレアリックとの出会いについて教えてもらえますか?

ミヤノ:多くのレコード店で紹介されていることもあって、バレアリックというジャンル自体はかなり前から知っていました。ただ、HMBCの活動当初からそのことを意識していたわけではありません。意図的にバレアリックな音楽を作ろうとしているわけではなく、UKジャズやハウス、ロックなど、僕らが聴いてきた音楽をミックスして作ったものが、結果的に聴いてくれた人にバレアリックとジャッジされたという感じです。

……ただ、改めてバレアリックの定義を調べてみると、「その土地の情景にあった音楽を流す」という僕らの根本的な考えやコンセプトと近いことがわかりました。ちょうどHMBCのサウンドとスタイルを要約できる言葉を探していた時期だったので、僕らとしてもバレアリックという言葉がしっくりきたんです。

Calm:逆に僕はバレアリックというジャンルの認知が曖昧だった時期から聴いていますが、最近になって、ようやくその言葉だけでみんながなんとなくこの音楽性を理解してくれるようになった印象がありますね。

90年代初頭、イタリアの老舗ダンスミュージックレーベル〈DFC〉が、いわゆるバレアリック的な音源をリリースするようになって、その後に有名な『Cafe Del Mar』のコンピレーションが出てきました。当時はバレアリックとか意識せずにそういった音源を聴いていましたね。バレアリック自体が音楽的に曖昧なジャンルだし、そもそもこれらの音源もすごく対照的なんですよ。ただ、僕自身は基本的に海や夕陽を感じさせるような音楽がバレアリックな音楽だと思っています。

――Calmさんは以前からこのシーンを見てこられたと思いますが、世間に認知されたのはいつ頃からだと思いますか?

Calm:おそらくDJ HarveyがリミックスしたPlanet Funkの“Inside All the People”がリリースされたことがきっかけです。この曲を通じて、バレアリックと呼ばれる音楽が世界中に定着し始めた印象があります。その頃には『Cafe Del Mar』のコンピも人気シリーズになっていたし、そこでようやくみんなが認知し始めた印象がありますね。

――社会が加速し続ける今だからこそ、2組のようなバレアリックサウンドは若い世代にもリヴァイバル的に届くような気がします。Calmさんが考えるバレアリックの最盛期は、いつ頃になりますか。

Calm:個人的には、イビザが今のようにパーティアイランド化する前が、実はバレアリックの最盛期だったんじゃないかなと思っています。要はお金持ちがイビザに別荘を持ち、限られた人だけがイビザにアクセスできた時代が、リアルなバレアリックを楽しめた時代というか。そこからイビザが観光地になり、高級ナイトクラブができて、今のように商業的になっていきました。

それ以前のイビザは超富裕層のリゾート地という感じで、すごくいいお金の使い方をしていたし、その周辺にミュージシャンやアーティストもたくさんいたはずです。結局、パンクと同じでパッケージングされる前が一番よかったというか、ビジネスとして消費され始めると、認知度自体は上がるけどファッション化してしまうんですよね。

――では、バレアリックサウンドが日本に入ってきた当時の国内クラブシーンの状況はいかがでしたか?

Calm:2000年代初頭、DJ MARBOさんという方がDJ Harveyや初期の『The Loft』()を日本に招聘していたし、その周辺の人が少しずつそういう音楽をかけるパーティをやっていました。でも、テクノやヒップホップのように色々な場所で行われていたわけではなかったし、当時はそこでどんな音楽がかかっているか説明しづらい感じでしたね。だからこそ、そういう時代にバレアリックな音楽を日本に持ち込んでいたのは、今考えるとすごく先進的な取り組みだったと思いますね。

※David Mancusoが70年代に立ち上げた伝説的パーティ

――バレアリックの定義や本質をどのようなものだと捉えていますか?

ヤマザキ:サウンドデザイン面でいえば、ロックや他のジャンルのような特定のアレンジ論がある音楽ではないと思っています。僕の中のバレアリックっぽさは、ダンスミュージック的で構築的な音楽でありながら、完全な打ち込みではないという印象。パーカッションやフルート、ギター、ウッドベースのような生楽器も入っていて、プログラミングされた音とそれらが混在しているイメージですね。曲調に関してはハウスっぽいものもあれば、イージーリスニングできるようなものもあるし、音楽性の幅がすごく広い印象もあります。

Calm:サウンド面では爽やかでカラッとしているけど、そこに胸がキュンとするメロディの要素が入ってくると、すごくバレアリックさを感じます。たとえば、シティポップを聴いていても、そういった要素があると「ちょっとバレアリックっぽいな」と感じますね。そう考えると今はバレアリックな要素を切り取りやすくなった気がします。

一方で、歴史がある他のジャンルなら、アーティスト名や曲名を出せばある程度伝わるのに、バレアリックに関してはそれが難しい。さっきお話した〈DFC〉の作品には激しいビートの曲もあれば、ビートが少ないソリッドな曲もあるし、本当に多様な音源があります。それらを大量に聴けば、なんとなく「バレアリックってこういう音楽なんだ」ということが理解できるのかもしれません。

Calm

2組の表現と「海」の関係性

――HMBCのアルバム『Days of the Ocean Waves』では、どのようにバレアリックの定義や本質を反映していると思いますか?

ヤマザキ:今回、「ジャンルで考えて曲を作るのはやめよう」という話をしました。たとえば「この曲はディスコっぽくしよう」と言うと、それぞれの考える「ディスコ観」みたいなものにズレが生じることもある。だから、ジャンルではなく、「サンセットのビーチに合う感じ」とか、自分たちがイメージする曲の情景について話し合いながら制作しました。この発想が自分たちの音楽をバレアリック的な音像に落とし込む上で、すごく有効だったと思っています。

――Calmさんの音楽も「バレアリック」と称されることが多いと思いますが、制作時にバレアリックな要素を意識することはありますか?

Calm:バレアリックな音楽は大好きですけど、僕自身は自分の音楽を「バレアリック」と言ったことは一度もないんです。なので、曲を作るときはその都度異なるテーマを設けています。HMBCと同じように曲に込めたい情景──たとえば海やサンセットだったり、ときには自分の息子の顔だったり──などを思い浮かべながら作っていますね。

――先ほどバレアリックの定義について、「その土地の情景にあった音楽を流す」という話も出ましたが、逗子で育ったというバックグラウンドは、HMBCの音楽性にどのような影響を与えていますか?

ミヤノ:僕が育ったのは逗子の山側ということもあって、曲を作るときはその山から見下ろした海の情景をイメージすることが多いですね。逗子に対しては単純に海沿いの街というより、「山があって緑があって、それから海もある街」という印象があります。

逗子はいわゆる湘南エリア代表の茅ヶ崎や藤沢のようなアッパーな街ではなく、どちらかといえば落ち着いた街なんです。カラッとしているというよりは湿度を感じる。そういう街で育ったこともあって、音楽に関しても少し湿った音楽が好きで、そういう音楽が聴けるイベントが地元になかったこともHMBCを始めるきっかけのひとつでした。

ヤマザキ:今はメンバー全員が東京に住んでいるからこそ、少し客観的に「逗子」をイメージできるようになったと思います。メンバーそれぞれ差異はあると思いますけど、僕の場合は海をイメージするとき、やっぱり地元の海が一番最初に浮かび上がってくる。そうなると、自分たちの作る音楽と、地元で過ごした10代の頃の思い出は、どうしても不可分な部分が出てきますね。

ヤマザキ(Half Mile Beach Club)

――アルバムでは「海の近くで過ごした日々」をテーマに掲げているそうですね。

ヤマザキ:基本的にサンセットのビーチや夜の海を散歩してるときだったり、自分たちがグッときた瞬間を情景としてキャプチャーし、それを曲にしているので、そういった海の近くで過ごした思い出がモチーフとして浮かぶことが多いんです。だから、今回もアルバムのテーマとして自分たちの日々を振り返るということがしっくりきたんですよね。

アサクラ:でも、今回は地元の海辺だけでなく、これまでに訪れたことがある他の海辺のことも思い浮かべながら作りました。完全に自分たちのノスタルジーだけで作っているわけではなく、ある程度のパブリックイメージも参考にして。

――Calmさんはこれまでに海にインスパイアされて曲を作ったことはありますか?

Calm:それで言うと僕の場合は、大好きな屋久島の自然をモチーフにすることがありますね。屋久島の自然のサイクルにとって、海は始点であり終点でもある。海をテーマにした曲を作るときはそのことを意識しながら、曲のイントロとアウトロを始まり、終わりのどちらとも取れるような構成にすることが多いです。

――HMBCの皆さんにとって、Calmさんの曲の中で海を感じる曲はありますか?

ヤマザキ:直接的に海を感じるというわけではないけど、Calmさんのベスト盤『Mellowdies for Memories…Essential Songs of Calm』にはすごくインスパイアされていて。初めて聴いたとき、僕は大学のジャズ部に所属していたこともあって、そのジャズっぽいサウンドアプローチにすごく興味を持ちました。

ヤマザキ:たとえばサックスやピアノなど生演奏っぽいフレーズが随所に入っている一方で、シンセのアルペジエーターやパッドの音が入っていたり、バンドと電子音楽が上手く調和している点がすごく新鮮に感じました。その影響もあって、HMBCの曲でも打ち込みパートをいかに有機的に聴かせるかということを意識していて、そこで悩んだときはいつもCalmさんの曲を参考にしています。

Calm:僕は典型的な音楽を作るのが苦手なんです。たとえば、一時期日本でもジャズっぽいヒップホップやハウスが流行りましたが、その中に正面から入っていくのは自分の中でちょっと違うかなと思っていました。そういう天邪鬼な部分があるからこそ、僕の音楽はカテゴライズしにくい。でも、ヤマザキくんが指摘してくれたように生音と打ち込みの組み合わせ方のバランスは、自分の中で上手く取るようにしています。

――アルバムではAORの雰囲気やトロピカルなリズム、サイケデリックなギター、アンビエント、人力テクノなど多様な要素の融合が印象的でした。どのようにサウンドデザインの方向性を定めていったのですか?

ヤマザキ:サウンドデザインの面では、プロデューサーとして参加してくれたYOUR SONG IS GOODのサイトウ“JxJx”ジュンさんの存在が大きいです。

これまでの僕らの作品はもう少し音数が多かったのですが、コロナ禍を経てスタジオに入ったときに、みんなと生演奏でする楽しさに改めてフォーカスしたいという想いが生まれました。そこで、まず楽器の生音をある程度活かすというアイデアが出てきて。たとえば、エレクトロニックな部分ではそれまでの「なんでもあり」な状態から、生音に合った音を探っていく形で、方向性を少しずつ定めていきました。アサクラが使うシンセの音も、制作の過程でかなり絞り込んでいきましたね。


グルーヴを引き立たせる引き算の美学

――昨年リリースの『Glare EP』以降、どのように制作を進めていったのでしょうか?

ヤマザキ:『Glare EP』は元々アルバムを見据えて作った作品なので、それを完成させた上で感じた「こういう曲が足りない」という部分から考えていきました。1コードでダンスミュージックっぽいところに軸足を置いた“Remain in Brightness”や、BPM遅めの“Tide Loop”が生まれたのも、そういった全体のバランスを考えたからですね。

“Tide Loop”はいわゆるローファイヒップホップっぽい曲なんですけど、ありふれた曲ではなく自分たちらしさを出すため、オルタナティブな感覚でジャズっぽくなりすぎないコードにするなど、サイトウさんと相談しながら作っていきました。

ミヤノ:個人的には『Glare EP』の制作を通じて、各メンバーがHMBCらしいサウンドや方法論を見つけたと思っています。その結果、ヤマザキが言ったように仮にローファイヒップホップっぽいものでも、独自のアプローチができるようになりました。

アサクラ:そうだね。バンドとしての立ち位置が明確になったので、自分がどういうアプローチをするべきかもはっきりした。その結果、バンドの音にも自然と統一感が出たと思います。

アサクラ(Half Mile Beach Club)

――プロデューサーのサイトウさんのアドバイスや意見が強く反映されたポイント、楽曲などはありますか?

ヤマザキ:今回のアルバムはサイトウさんからのアドバイスの積み重ねで完成したので、反映されている部分はたくさんあります。個人的に一番印象的だったのは、生楽器の音の細かい変化でループを展開させていくというアドバイスですね。

あとは曲の中で、一番気持ちよくグルーヴしているパートに、他の楽器は寄り添う形で調整していくという方法。バンドでグルーヴ感を出そうとすると足し算になりがちなのですが、変に難しいことをしないで、逆に引き算するという意見は本当に勉強になりました。

――Calmさんは普段からどのようにグルーヴを捉えて作曲されていますか?

Calm:グルーヴが強すぎると、そっちに耳が向き過ぎてしまって、他の音の要素よりも印象が強くなってしまいます。だから、僕の場合はその曲をどう聴かせたいかということをまず考えて、そこから曲全体のバランスを取るようにしています。

ただ、基本的には上音やコードを聴かせたいと思うことが多いので、グルーヴを全面に出さず、さっき話に出たようにあくまでそれに寄り添う形にすることが多いですね。逆に意識してダンスミュージックを作るときは、もう少しグルーヴに重きを置いて、逆に上音やコードをそこに寄せます。

アサクラ:シーケンスを担当している僕としてはできるだけ打ち込み感をなくすことを意識しました。たとえば、さっきヤマザキが言ったように生楽器の音の細かい変化でループを作ることで、今回のアルバムは前作よりも人間性を帯びた作品になったと思います。そこに僕がシーケンスを加わえることで、イビサのダンスミュージックのようなバレアリックさが生まれたのかなと。

ヤマザキ:生楽器のレコーディングは一発録りにしたので、グルーヴに関しても後から極力修正しないようにしました。もちろんそれをシーケンスと組み合わせたときに、ちゃんとグルーヴしていることを絶対条件にしつつ、多少演奏が揺らいでいても、それが心地よければそのまま採用しています。

なので、特にリズム隊のパートに関してはかなり練習して詰めていきましたね。そこのクオリティが以前よりも上がったことが、今回のアルバム全体のクオリティに直結していると思います。

アサクラ:ヤマザキとツヅキはめっちゃスタジオに入って練習してたよね。

ヤマザキ:生楽器で演奏することの価値を考えつつ、ベースは最初シンセサイザーのような音を出したいと試行錯誤していたんですけど、最終的にフラットワウンドという、ウッドベースに近い音を採用しました。そのおかげで音が短くポツポツした感じになり、シンセサイザーのような広いレンジは出ないけれど、柔らかくて気持ちいい、ゴム毬みたいな音になりました。

ドラムに関しても細かいゴーストノートをたくさん入れるなど、生っぽさを意識していて。それこそCalmさんのLIQUIDROOMでのライブアルバム(『MILESTONE-MOONAGE ELECTRIC QUARTET 2000.8.26 LIQUID ROOM』)は、ドラムがジャズっぽかったのですごく参考になりました。

――「インストバンドとしてもう一度1stアルバムを作る」という気概で制作したとのことですが、インストバンドになったことで制作はどのように変化しましたか?

アサクラ:採用されなかったアウトテイクなどを使って、メンバーそれぞれがデモを作ることになったことが大きな変化ですね。そのまま放置するのはもったいないけど、どう使っていいかわからなかった素材やアイディアなどが、今回のアルバムでは随所に取り込まれています。

――Calmさんはボーカル曲を作る時とインスト曲を作るときでは作り方を変えていますか?

Calm:僕の場合、ボーカルも楽器として考えているので、特に作り方を変えることはないですね。ただ、ボーカル曲はどうしても歌詞が乗ることで歌が前に出てしまいます。そこは仕方がないので、ミックスでバランスを調整するようにしています。僕の場合、J-POPのようにボーカルが全面に出てるようなバランスにはしないですね。

アサクラ:僕らのアルバムにも声ネタは入っていますが、以前の作品とはその音量バランスが変わりました。どちらかというとテクスチャーっぽく、サウンドの後ろの方で鳴っている感じにしていて。インストバンドになったことでそういった部分でのアプローチも変わってきました。

――アルバムにはゲストパーカッショニストとしてYOUR SONG IS GOODの松井泉さんも参加されています。その経緯を教えていただけますか?

ヤマザキ:僕らが2022年に“Vibrant Sun”をリリースしたとき、松井さんがその曲を褒めてくれていたとサイトウさんに教えてもらって。それをきっかけに、『Glare EP』の制作から参加してもらっています。

ミヤノ:レコーディングでは松井さんがたくさんのパーカッション楽器を持ってきてくれて。サイトウさんとの阿吽の呼吸というか、松井さんに対するディレクションの飲み込みの速さにも驚かされました。

ミヤノ(Half Mile Beach Club)

――先ほどパーカッションもバレアリックの特徴のひとつに挙げられていましたが、Calmさんはパーカッションに対してどのようなこだわりがありますか?

Calm:サンプル音源を使うときもあれば、生音を使うこともあります。自分で打ち込むときは好きなように作るんですけど、セッションする場合はある程度イメージだけを伝えて、大抵はプレイヤーに任せることが多いです。でも、パーカッションは聴いたときの印象が強いから、シンプルに聴かせたいときは結局入れないという判断を下すこともあります。ただ、逆にシンプル故に入れた方がいいときもあって、その匙加減が難しいですね。

あと、パーカッションはディケイ(音の減衰)がそんなに長くない割に圧は強いので、ミックスが難しいんです。だから、ドラムパターンを増やすか、その代わりにパーカッションを入れるかどうか、よく悩みますね。ただ、曲を作る上ではやっぱり引き算が重要だと思います。若いうちは曲作りに関しても足し算で考えがちですけど、年を重ねるごとにだんだん引き算の重要性がわかってくる。そこを意識することが大切だと思いますね。


日本独自のバレアリックの可能性

――Calmさんは日本の風土や文化がバレアリックサウンドにどのような独自性をもたらしていると考えますか?

Calm:バレアリックに限らず、日本の音楽にはすごく独自性があると思っています。わかりやすい例だと、韓国人はアメリカの音楽を取り込むのがすごく上手い。完璧に自分たちのものにできるからこそ、BTSのようにアメリカでも大ヒットする作品を作ることができる。その一方で、日本人は海外の物を真似るのが上手だけど、良くも悪くもどこかに独自性を入れてしまう。それが理由で海外にはいまいち受け入れられないという時代がずっと続いてきました。でも、アニソンが世界で広がって以降、そういった日本の独自性が少しずつ受け入れられるようになってきたと感じています。

――HMBCのようなバンドが登場したことは、日本のバレアリックシーンにどのような影響を与えていると思いますか?

Calm:日本においてはバレアリックシーンが確立されたと言えるほど、まだこのジャンルは市民権を得ているとは思いません。でも、HMBCの存在を知って、新たにそういったシーンが生まれるかもしれないし、今後はおもしろいことになりそうだなって感じますね。アニソンやシティポップといった日本独自の音楽が海外の人から受け入れ始めていることを考えると、日本で生まれた「バレアリックの亜種」的な音楽をおもしろがってくれる可能性もあるんじゃないかなと。

――最後に、9月のリリースパーティに向けての意気込みを聞かせてください。

ヤマザキ:自分たちのライブでベストを尽くすのはもちろんですけど、遊びに来てくれた人に「HMBCのライブがよかった」というより、「パーティが楽しかった」と思ってもらえるような時間を作りたいです。

よくライブハウスでやっているような、ライブのときだけステージに集中して、それ以外の時間は「待ち時間」みたいな、そういうイベントにはしたくないんです。僕らはパーティがしたいので、最初から終わりまで時間の経過も含めて楽しい空間を作ることを意識しています。そういった考えがあった上で、今回は僕らの大好きなCalmさん、そしてOgawa & Tokoroさん、バンドの初期からお世話になっているライターの田中亮太さんにDJとして出演してもらいます。日没の少し前から始める予定なんですけど、OPPA-LAは時間の経過によって景色がすごく変化していく会場なので、早めの時間から遊びに来てもらいたいですね。

Calm:僕も長年DJパーティを主催していますが、いつも「DJなんてお客さんから見えなくてもいい」と思いながらやっているんです。なぜかと言うと、多くのDJパーティはどこかお客さんがDJのことを自分たちとは違う、一段上の存在として崇めている感じがあって、僕はそこに違和感を覚えるんです。そういったことをなくした、全員がフラットなパーティを作りたいなって思っているのですが、そういう意味でHMBCのパーティのコンセプトにはすごく共感します。当日は彼らの期待に応えられるよう、DJを頑張ります。


【リリース情報】


Half Mile Beach Club 『Days of the Ocean Waves』
Release Date:2024.08.02 (Fri.)
Label:P-Vine
Tracklist:
1. Sugar Vista
2. Remain in Brightness
3. Flowing
4. Drifted
5. Tide Loop
6. Turquoise Route
7. Vibrant Sun
8. Reef Chorus
9. All Sunlight Must Fade

配信リンク


【イベント情報】


『“Days of the Ocean Waves” Release Party』
日時:2024年9月28日(土) OPEN & START 16:00 / CLOSE 22:00
会場:神奈川・江ノ島OPPA-LA
料金:ADV. ¥3,000 / DOOR ¥3,500 (各1D代別途)
出演:
[LIVE]
Half Mile Beach Club

[GUEST DJ]
Calm(DJ set)
Ogawa & Tokoro(DJ set)
Ryota Tanaka

チケット予約(LivePocket)

Half Mile Beach Club オフィシャルサイト


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