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INTERVIEW / gato


2ndアルバム『U+H』でオーガニックなグルーヴを追求したgato。“no local”なバンドが今、見据えるものとは

2021.10.13

gatoが2ndアルバム『U+H』を10月13日(水)にリリースした。

前作『BAECUL』からおよそ1年。クラブ・シーンとバンド・シーン、さらには音楽以外のカルチャーも含めて横断的な活動を展開。共鳴する仲間たちと新たな磁場を作り上げていた矢先にコロナ禍に突入してしまったgato。しかも、このパンデミックがこれほど長く続くなんて、当初は誰しもが想像だにしなかったことだろう。まだ“出口”を待ちわびていた去年から、明確な“終わり”を諦め、多くの人々が別の在り方を考え始めた2021年。果たして、現場や仲間たちとの繋がりを大事にしてきたgatoはどのような思いでこの新作『U+H』を作り上げたのか。

今回はバンドのフロントマンにしてメイン・ソングライターのageとドラマーでありアートワークも手がけるhirokiにインタビュー。バンドの現在地に迫った。

Interview & Text by Takazumi Hosaka
Photo by Kazushi Toyota


「道を作る」――gatoが目指すもの

――まず、前作リリース以降のバンドとしての動きについて教えて下さい。

age:1stアルバム『BAECUL』はそれまでバンドでやってきたことと、クラブで培われた要素を上手く融合させることができた作品だと思っていて。それをクラブでプレイしてもらいたいからリミキシーズをリリースして。やはりライブがなかなかできないので、音源の制作/発表に重きを置いていました。

――1stアルバムをリリースしたのが10月、リリパを行ったのが11月。その後、年末年始を経て、2021年は緊急事態宣言とまん延防止等重点措置により再び強い外出自粛ムードとなりました。バンドとしてのコミュニーケーション面はいかがですか?

age:全員で集まる機会は減ったんですけど、個人で連絡取り合う機会は増えた気がします。hirokiだったらアートワークのことだったり、VJのhanaちゃん(sadakata)には映像関係のこと、楽曲についてはtakahiroやkaiと連携を取ったり。特にこれといった不便は感じていないですね。

hiroki:制作に関してのやり取りはもちろんのこと、それ以外のことで連絡を取ることも多くなったと思います。お互いコミュニケーションを密に取るようになったことで、ぶつかったときもしっかりと意見を言い合えるようになったり、バンドとしてはどんどんいい状態になっているんじゃないかなと。

――おふたりはここ最近、聴く音楽は変わりましたか?

age:メインストリームのポップ・ミュージックを意識的に聴くようになりました。正直、今ってトレンドとかがあまりないと思うので、純粋にどういう音楽が多くの人に支持されているのかっていうことに興味が湧いて。

hiroki:僕はあまり変わらないというか、むしろほとんど音楽を聴かないようになってしまいました。ageがリファレンス用に作ってくれたプレイリストなどは勉強する気持ちで聴いたりするんですけど、自発的にはあまりインプットしてなくて。

――前作『BAECUL』はその時点までの自分たちをパッケージングした、乱暴に言ってしまえばシングル・コレクションやベスト・アルバム的な側面もあったと思います。それに比べて、今作はより統一感を感じさせる作りになっています。何かコンセプトやテーマを設けていたのでしょうか。

age:前作はクラブ・ミュージックの要素も強かったし、おっしゃる通りバラエティ・パック的というか、gatoの色々な側面を見せた作品だと思うんです。それに比べて、今作『U+H』はよりバンド・アンサンブルに振った作品になっています。クラブやダンス・フロアを意識するというよりは、もう少しホーム・リスニング寄りというか、生活に寄り添った作風になっているのかなと。テーマやコンセプトを挙げるとするならば、“有機的”というか、オーガニックなサウンド。例えば家の観葉植物とか料理してるときの匂い、お風呂に浸かってるときの水など、そういった質感を出すことを意識しています。エレクトロニックな音ももちろん使っているんですけど、一方で木を叩くような音をスネアとして使用したりもしています。

とはいえ、そういったコンセプトを話した上でメンバーに曲を聴いてもらったら、「結局何でもやるじゃん」って言われたり(笑)。それが自分の個性なのかなとも思いつつ制作を進めていました。

――今おっしゃったような作風の変化には、ライブがなかなかできないことだったり、長らく続くコロナ禍の影響を感じますか?

age:少なからずあると思います。シンプルに僕もクラブにほとんど行けなくなりましたし、音楽を聴く機会として家や移動中が中心になった。そうなったとき、ある程度の柔軟性を持ってないと適応できないんじゃないかなって考えました。聴き手のことを考えずに、自分たちの感性で振り切るのもアリだと思うんですけど、僕らとしてはやっぱり多くの人に聴いてもらいたいし、今この時代を生きているということも反映させたい。そういった思いから、今回の作風に変化していったんだと思います。

あと、1stアルバムの前、2018年にリリースした『luvsick』というEPはポスト・ダブステップやR&B、ジャズといった要素を取り入れた、僕個人の核となる部分を表現した作品だったんですけど、今作はバンドとしての核、芯となるような部分を出したいという思いもありました。

――ageさんは先ほど“振り切るのではなく、多くの人に聴かれたい”ということをおっしゃっていましたが、その背景にはどのような思いや考えがあるのでしょうか。

age:作品の間口というか、入り口は広く開けておきたくて。その上で、バックグラウンドにある様々な要素を、好き勝手に読み解いてほしい。そのためにgatoとしてはキャッチーな要素というのは絶対になくしたくないんです。アンダーグラウンドだったりエクスペリメンタルな音楽は自分の場合DJとして表現している部分がありますし、先人たちがやってきたことだとも思うので、それはgatoでやるべきことではないのかなと。自分のカラーも出しつつ、ポップな形でアウトプットして、様々な音楽への道を作る。それが自分のなかでの目標というか、指標としている部分なんです。

――なるほど。

age:gatoとして目標としているのはサカナクションや海外でいえばMura Masaなど、ヒット・チャートに入るのに音は尖っているというか。ポップで親しみやすいんだけど、カッティングエッジで、突き放さない。そういった絶妙なバランス感に自分はすごくアートを感じるんです。


gato以前の過去と今が接続した新作『U+H』

――アルバム・タイトル『U+H』にはどのような意味が込められているのでしょうか。

age:今作で一番最初に作り始めた曲が「21」なんですけど、これは2021年に作ったことに加えて、自分が21歳だったときの曲でもあって。前作『BAECUL』はgatoを始めて以降の自分を詰め込んだ作品だったのに対し、この曲ではgatoを始める前の自分について歌っていて。それはさっきの“道を作りたい”っていう部分にも繋がるんですけど、自分のこれまでの足取りやルーツを今の曲作りと接続させたいなと思って。それでYouth(若者)を意味する『U+H』と名付けました。

Uは“You”を、+とHで“th”を表しているんですけど、前者は第3者から見た自分で、U(自分)とH――つまりは“Heart”や“Happy”などの単語がくっ付くイメージ。ただ、頭文字にしているのは、その自分にくっ付くものをそれぞれ探してほしいという思いを込めています。

――そういった思いは、メンバーには共有していますか?

age:大事な部分は説明するんですけど、それ以外はあまり細かくは伝えていないです。みんなそれぞれバックグラウンドが違うし、感じ方や受け取り方もバラバラだと思うんですけど、それが逆にバンドらしさにも繋がるのかなって。

hiroki:漠然としたワードをもらうだけの方が、余白があっていいのかなって思いますね。各々が噛み砕いて、各々のフレーズや音色で表現すればいいのかなって。

――「21」はageさんが21歳の頃を歌った曲とのことですが、当時やそれ以前のご自身を今振り返ると、どういう印象を抱きますか?

age:自分で言うのもなんですけど、ピュアで真っ直ぐだったなと思います。本格的に音楽活動を始めてからは、色々なことを体験したし知識も増えた。その上で選択肢も増えたけど、だからこそ迷いが生まれたり、色々と悩むことも増えた。

――「27’s club」も同じく年齢がキーワードになった曲ですよね。これは今の年齢でしょうか?

age:そうです。あとは世間一般的に“若者”という言葉が指す年齢もこのくらいなんじゃないかなと思ったのと、27歳で亡くなってしまったミュージシャン/アーティストを指す“27 Club”という言葉ももちろんかけていて。自分はバンドをやってるけど、27歳で死んでないのでロック・スターじゃないなっていう意味も込めています(笑)。

――この曲はアルバム中、唯一ダンス・トラックに振り切った曲ですよね。

age:僕が元々好きなディープ・ハウスなどの要素を取り入れつつも、オーガニックな音色で表現したつもりです。自分が今いるクラブのシーンも表現したいし、gatoとしてもこういう曲もなくしたくないので。

――曲の序盤では囁くようなポエトリー・リーディング調のボーカルも入っています。

age:ミックスでも大分下げましたし、あと逆再生なのでたぶん誰も聴き取れないと思います(笑)。最初普通に歌ってみたんですけど、トラックをすごい邪魔してしまって。それでポエトリー・リーディング風に入れてみたんですけど、思いつきで逆再生にしたらしっくりきて。


――詩という面でいうと、独特の文体で綴られた「月兎」も印象的です。

age:小さい頃からおばあちゃんに仏教の話を聞かされたりして、以降神話が好きで調べたりすることが多くて。この曲は『かぐや姫』をベースにしているんですけど、《月宮照らす蒼》という一節は(かぐや姫が帰る場所とされる)月宮殿を地球から見ている様子を表していたり。自分の小さい頃の思い出から着想を得た、物語的な1曲です。

――新録曲でいうと、「××(check,check)」はフックでしっかりと歌っていますし、バンドとしてのアンサンブルも味わえます。エキゾチックな音色使いも含め、先ほどのおっしゃったコンセプトやテーマをすごく体現している1曲だなと。

age:この曲はライブのときの高揚感を表現したくて、ステージ上で感じる楽しさやテンションが上がっている状態について考えながら作りました。なので、レスポンスしやすかったり、声を張った歌い方だったり、ライブでも盛り上がりそうな要素が詰まった曲になりました。

――リリックの最後には“松果体”という言葉も出てきます。これはageさんのDJパーティの名前ですよね。

age:そうです。パーティにしろライブにしろ、ユートピアを作りたいという気持ちが強くて。クラップ音を入れたのも、お客さんと一緒にそういったユートピアを目指したいっていう気持ちの表れで。

――先行配信曲「high range (feat. who28,さらさ)」は、バンドとしては初のフィーチャーリング・ゲストを迎えた曲になります。

age:リミックスを作ってもらったり、Kyazm(SATOH、phaiなど)と一緒に作ることはあっても、バンドで他のアーティストをお呼びするのは今回が初めてで。色々な人と共作、コラボしてみたいという思いはありつつも、僕が他の人と共同作業するのがあまり得意ではなくて、なかなか実現しなかったんです。そこで、今回はトラックを作り上げた状態で、その上にカッコよく乗っかってくれそうな方にお声がけしました。whoくん(who28)は以前から知り合いでしたし、さらさちゃんも共通の知り合いを通じて、「いつか一緒にやりたいね」と話していたので、このタイミングで実現して。

age:リリックは何か物事が終わったときの寂しさをテーマとしていて。2人にも画像などを加えてお伝えしました。「高校の文化祭の頃の終わった後の寂しさとか、そういう感じ」っていう風に(笑)。

――メロウなトラックはどこか韓国のヒップホップ勢、例えばGroovyRoomなどを想起させます。

age:実は仮タイトルが「Kポ」で(笑)。ちょうどその頃、Omega Sapienや〈88rising〉のアーティストなどをよく聴いていたので、韓国の音楽からの影響は出ていると思います。あまり重い感じにはしたくなくて、ああいう軽やかな音色使いになりました。

――「noname」や「teenage club」もノスタルジックな感情や刺激するような、過去を振り返るような感覚の作品なのかなと。

age:自分で説明できない感情になったときだったり、周りから“厨二病”と言われていてもその“厨二病”という言葉を知らないとき、そういった名前のない状態ってすごいパワーを持っていると思っていて。「noname」はそういったことを考えながら作った曲です。「teenage club」はバンド感を意識しながら、シューゲイズやドリーム・ポップっぽいサウンドを自分たちなりに咀嚼した作品です。

――最後を締めくくる「no local」はほぼビートレスな幽玄な1曲で。これも今までのバンドにはなかったような曲だと思います。

age:僕らはバンドだけどバンド・シーンに立っているわけでもなく、かといってラッパーとかDJのコミュニティにどっぷりかというと、そうでもない。それに加えて、よくライブをさせてもらっていた渋谷のLOUNGE NEOも閉店してしまって、何だかどこにも根を下ろしてないというか、そんな感覚を感じていて。でも、きっとそれって良くも悪くもgatoの特徴だと思うんです。そんな自分たちを表して、「no local」という言葉をタイトルとしました。サウンド的にはそのときよく聴いていたJónsiの新しいアルバム『Shiver』や、たまたま聴き返していたJames Blakeから影響を受けていて。壮大なスケール感を出すためにあまりビート感は出さずに、空間的な鳴りを意識しました。


「“no local”な僕らの役割」

――先行シングル含め、ノスタルジックかつオーガニックなイメージを想起させるアートワークも印象的です。こちらはこれまで同様、hirokiさんが手がけていますよね。

hiroki:ageから単語や画像で方向性を共有してもらって。前作はグラフィック寄りの作品だったのですが、今回は生っぽい質感、フィルム写真とか、そういった温かみのあるものにしようと考えました。「high range(feat. who28, さらさ)」の場合はそれに加えて、いい意味でインスタントというか通俗的な印象も受けたので、再生バーをデザインしたり。アルバムのアートワークはageから『U+H』(Youth)っていうタイトルを聞いて、自分のなかで若さって考えたときに、“時間”という言葉が浮かんできて。“若さ”や“時間”って武器であり呪いでもあって、与えられるものだけど奪われるものでもある。そういった2面性があるなと。それらを司っているのはきっと人ではない何かなんじゃないかという妄想の上で、アートワークに映っているのはageなんですけど、その象徴として天使のようにも悪魔のようにも見えるような作品にしました。

age:アートワークに関してはいつもhirokiにお願いしていて。外部の人間にも頼むっていう選択肢もあると思うんですけど、やっぱり身近で色々な気持ちを共有できる人間に作ってもらうのが、一番自分たちらしい作品になると思っていて。今回もすごく気に入っています。


――感染者数が下り坂になってきているとはいえ、まだまだ先が見えない状況ですが、今後の展望も含めバンドは今どういったムードでしょうか。

age:この状況って、先輩方も含めて誰も経験したことがないじゃないですか。なので、これを耐えたら、生き抜いたらどういう景色が見えるだろうっていう風に、意外とポジティブに捉えています。もちろん音楽活動におおける悩みもありますが、「ライブができないなら家で聴いてもらえるように」という感じで前向きに考えるようにしていて。

hiroki:僕も同じですね。ライブができない期間でも、メンバーと連絡を取り合いながら制作を進めたりするのが楽しいですし、バンド全体としてもネガティブな雰囲気はないと思います。

――11月には今作のリリースを記念し、初のワンマンが控えています。ライブ面での新たな試みなどは何か考えていますか?

age:モジュラー・シンセの導入を検討しています。音源とは違ったライブ感がより出せるんじゃないかなと思って。あと、実現するかどうかわかりませんが、自分も久しぶりにベースを弾きたいなって考えています。

――では最後に、前回のインタビューでもお聞きしたと思いますが、コロナ禍前からgatoと親しい仲間たちで作り上げてきた勢いのあるシーンやコミュニティは今、どういう状況なのか。gatoの視点からはどう見えているのかを教えてください。

age:厳しい状況だとは思います。このパンデミックがこんなにも長く続くとは思ってもいなかったので。当然、気持ちが落ちてしまっている人もいると思います。現場を最大の生きがいとしていたら、それも当然のことで。とはいえ、発信する側が下がったら、受け手も絶対に楽しくないと思うので、僕らとしてはネガティブなことは言いたくない。「gatoがいるから希望が持てる」って思ってもらえるように、色々な作品やコンテンツをドロップして、ポジティブな方向に引っ張っていきたい。そういったフィールド・メイクをするのが、“no local”な僕らの役割なのかなって思っています。


【リリース情報】

gato 『U+H』
Release Date:2021.10.13 (Wed.)
Tracklist:
1. intro
2. 月兎
3. ××(check,check)
4. high range(feat. who28,さらさ)
5. interlude #1
6. noname
7. teenage club
8. 27’s club
9. 21
10. no local

*CD:チェンジング・ジャケット仕様
*タワーレコード限定特典:secret link card


【イベント情報】

『gato 2nd album U+H release party ONEMAN LIVE』
日時:2021年11月13日(土) OPEN 17:15 / START 18:00
会場:東京・渋谷WWW X
料金:¥3,000(1D代別途)
出演:
gato

・チケット
一般発売(e+):10月13日(水)10:00〜11月12日(金)23:59

問い合わせ:WWWX(03-5458-7688)

gato オフィシャル・サイト


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