INTERVIEW

eill

「10代で勝手に幕を開けちゃったので、もうやるしかない」――次世代の台頭を強く予感させるSSW・eill。未だ謎多き彼女の素顔に迫る

東京を拠点とするSSW、eillが10月3日(水)に1stミニ・アルバム『MAKUAKE』をリリースした。

高らかに物語の幕開けを告げる表題曲を筆頭に、本作にはフューチャー・ベースやフューチャー・ビーツ的な音像を通過した先鋭的なR&Bナンバーから、そこにバンド・サウンドのエッセンスを加えた楽曲、果てはJ-POP的なフックの効いたポップなナンバーまでを収録。韓国のK.vsh(キャッシュ)、HYE SUNG(ヘ・ソン)、そして国内からはLUCKY TAPESの高橋海、MONJOE、Kick a Show、EXPCTRなども参加した、他に類を見ないハイブリッドな作品となっている。k-POPも欧米のメインストリームもフューチャー・ベースも、分け隔てなく並列で捉え、咀嚼するその感性はなんとも今日的と言えるだろう。

今回のインタビューでは、本格始動してからわずか1年足らずとなるeillの活動と、それ以前のパーソナルな部分にも迫りつつ、未だ謎多き彼女の素顔を探ることに。果たして、幕が開けた今、彼女の目に映っている景色とは。

Interview & Text by Takazumi Hosaka


――今回、Spincoasterとしては初のインタビューになるので、eillとしての活動以前のこともお聞きできればと思います。そもそも音楽に興味を持ったのはいつ頃なのでしょうか?

eill:すごく小さい頃、それこそ3歳くらいからピアノを習っていて、一番最初に音楽に触れたのはそこですね。その後小学校に上がってからピアノはやめてしまったんですけど、今度は映画『ヘアスプレー』とか、ディズニーのミュージカル映画が好きになって。真似して歌ったり踊ったりしてみたり。高学年になったらKARAとか少女時代がすごく流行って。みんなと同じように歌やダンスを見よう見まねで覚えて、みんなで動画撮ったりしていましたね。そこからK-POP、韓国ドラマとかにも興味を持つようになり、韓国の芸能高校を舞台にしたドラマ『ドリームハイ』を見て感化されて。私も彼らと同じようにスターに、アイドルになりたいって思って、中学生になってからは色々な韓国のオーディションを受けるようになりました。中3の時の進路を書く紙にも韓国の芸能学校の名前を第一志望に書いて。授業中もひっそり韓国語の勉強をしていたので、成績も一気に落ちてしまって(笑)。

――韓国のカルチャーのどういう部分に惹かれていったのでしょうか?

eill:女性アイドルでも、歌やダンスで媚びていない感じというか。ストイックですよね。自分自身で曲を作っている、アーティスト・タイプの方も多いですし。その一方で、ドラマはベタな展開がその当時の自分には刺さってしまったみたいで。キュン死にした、みたいな(笑)。

――ハハハ(笑)。

eill:結局、色々あって韓国の学校には行けなかったんですけど、その代わりに韓国人のボイス・トレーナーの先生に教えてもらうことになりました。その先生は本当にスパルタで、毎日レッスンの後は泣いていました。上手く歌えないのがすっごく悔しくて、自発的に毎日通っていたんですけど、それでも韓国のオーディションには毎回落ち続けて。そしたら「韓国で活躍したいなら、まずは日本の龍になりなさい」って先生から言われて。ちょうど自分で曲も作り始めていた時期だったので、そうなると自然と日本語で歌詞を書くじゃないですか。それもあって、まずは日本でやってみようという気持ちになりました。

――曲を作り始めたということは、何か心境の変化があったのでしょうか?

eill:そうですね。もう一人日本人の先生に習っていて、その先生はジャズを軸にしている人なので、レッスンの時にスタンダード・ナンバーをたくさん教えてくれて。あとは映画『ドリームガールズ』(Beyoncé主演のミュージカル映画。〈Motown Records〉とThe Supremesの実話をモデルにしたと言われている)を観て、終盤で流れるBeyoncéの「Listen」に感銘を受けてしまい。徐々に「シンガーになりたい」から、「SSWになりたい」とい気持ちになっていったんです。それこそ「Listen」は完璧に歌えるように、ワンフレーズずつ猛練習しましたね。同時期に〈Motown〉の作品なども聴くようになって、それからボイトレの先生に連れて行ってもらったジャズ・バーやブルース・バーでスタンダード・ナンバーを歌わせてもらったりもしました。

――ご自身で作曲をスタートさせた時、最初はどのような曲を書いていたのでしょうか?

eill:最初はK-POPとR&Bを合体させたような感じですかね。でも、日本でのオーディションを受けるようになってからは、ギターで弾き語りをしている子たちと友達になれて。そこで日本のバンドとかSSWを教えてもらったんです。それこそYUIさんクリープハイプとか。そこでまた影響を受けて、日本っぽい要素も取り入れるようになるんです。その友達の影響もあって、ライブハウスに鍵盤弾き語りで出演するようにもなり。

――それが前の名義であるENNEとしての活動?

eill:そうですね。ただ、ENNEと名乗って活動していく中でも、音楽性は大きく変化していくんです。高校と並行して通っていた音楽学校で、ボーカル科の友達は全然できなかったんですけど、代わりにビートメイカー、トラックメイカーの友達はたくさんできて。学校にはスタジオもあったので、彼らの音源に歌入れをお願いされるようになったんです。そこからビート・ミュージックであったり、R&B的なサウンドにまた回帰していって。オーディションきっかけで繋がった縁から、PAELLASの作品にも参加させてもらったり、Seihoさんとも繋がれたり。

――なるほど。

eill:あとは、その音楽学校でルンヒャン先生(リ・ルンヒャン / Rung Hyang / 李 綾香)に出会えたことも大きいです。自身もSSWとして活躍している一方で、Ms.OOJAさんのプロデュースや青山テルマさんの楽曲の作詞も手がけてらっしゃる方なんですけど、レッスンの一環で一緒に曲を作っていく中で、歌詞の大切さを学んだりすることができました。今でもたまにお茶をすることもあって、SSWとしても、ひとりの女性としても尊敬する方です。

――ENNEとeillにおける意識の違いのようなものはありますか?

eill:全く新しいプロジェクトとしてスタートさせたというよりは、私の中では正統的な進化というか。ENNEあってのeillだし、そのままの自分が花開いた、みたいな感じなんです。それこそ今回のアルバムにも収録されている「メタモルフォーゼパラマジーノ」じゃないですけど、「メタモルフォーゼしよう」っていう。だから、意識の違いとかは別にないですね。

――韓国における音楽シーンも、おそらくeillさんがハマったという小学校高学年の頃から現在に至るまでで大きく変化していると思うのですが、そういった変化をeillさんはどのように捉えていますか?

eill:ここ最近では『SHOW ME THE MONEY』(ラッパーによる勝ち抜きオーディションを軸とする人気TV番組)に代表されるようなヒップホップやR&Bに注目が集まってますよね。私も今はそういった音楽ばかり聴いています。例えばJay-ParkとかLocoみたいに今トップに君臨するような人たちが、まだアンダーグラウンドとまではいかないですけど、今ほど大きな脚光を浴びる前から追いかけていて。例えば、2014年にJay-Parkの来日公演(“ONE NATION ASIAN HIP-HOP SUMMIT 2014”)も観に行っていて、あれはすっごくヤラれましたね。それ以来、そのシーンや界隈の情報をより熱心にチェックするようになりました。韓国のシーン、業界自体も、アイドル・グループからアーティスト自身にフィーチャーする傾向になってきているなって思います。

――限定販売のデモCDには、韓国のRHEEHAB、OCEANとコラボした「721」も収録されていますよね。

eill:RHEEHABくんはSoundCloudをディグっている中で発見して。トラックがすごくカッコよかったので、直接連絡したんです。でも、連絡返ってくるペースが遅くて。いても立ってもいられなくなって、彼のライブがある日を目がけて韓国まで会いに行ったんです。「ライブに行くからね」って連絡して、ひとりきりで(笑)。その時のライブにOCEANくんも出演していて、その場で「ヤバい!」って思って、ライブ後に「一緒に曲を作りたい」って直談判しました。そしたらあっさりと承諾してくれて。あの曲はそれぞれ意見を出し合いながら、セッション的な感じでレコーディングしました。

――デモCDに収録された楽曲には、ENNE時代から書き溜めていたものもあったのでしょうか?

eill:いや、eillになってから書いたものだけですね。それこそeillになるんだっていうことを意識して、それまでやっていなかったようなサウンドやフロウを取り入れたつもりです。なので、今振り返ってみると、「これ、どうやって作ったんだっけ?」っていう曲も多くて(笑)。あの時はちょっと背伸びしていたというか。

――それから一転、6月にリリースされたデビュー・シングル「MAKUAKE」では思い切りポップに弾けた作風となり、ここでもまた大きな変化が感じられました。

eill:あの曲は、出だしの「雨上がりの空 一言で言い切れる」とかも全て現実に起きたことで。中々曲をリリースできずに悶々としていた時、「そうだ、もう自分で曲書いちゃえ」って思ったんです。そしたら本当にタイミングよく雨が上がって。「もうこれを曲にするしかない」と思い、その時の私の気持ちを素直に反映させた曲です。最初は色々なビートメイカーの方と一緒に曲を作っていたのが、結局「MAKUAKE」ではまたイチから自分で作るようになったっていう意味でも、すごく大事な曲になったのかなって。自分で勝手に幕を開けちゃったので、もうやるしかないぞって(笑)。

eill:アルバムに収録されている「FUTURE WAVE」は、その「MAKUAKE」をさらに進化させたような作品にしたくて。2曲とも同じバンド・メンバーでスタジオに入って、私の書いた曲を元に1日でアレンジまで完成させるっていうおもしろい作り方をしています。リリックの内容も、幕が開けたので、「私がこの時代を作るんだ」「私はもうスポットライトの下にいるんだ」っていうことを意識して作っていて。「MAKUAKE」にはカーテンを開ける音を入れているんですけど、この「FUTURE WAVE」にはエンジンがかかる音や自転車、歩く音を入れています。気持ち的にも、「MAKUAKE」から一歩進んだ状態なのかなって。MVは「レトロ・フューチャー」をテーマに、幕が上がった後の、「自分が思い描く世界」をマザーファッ子さんに創り上げてもらいました。歌詞には「come on look at me nancy」という一節があるんですけど、そこに合わせていかにもナンシーっていう感じの女性が振り向く演出とかも入れてくれたりして、すごく気に入っています。

――アルバムには他にも先程話に出た「メタモルフォーゼパラマジーノ」など、変化、変貌願望を感じさせるような楽曲もありますよね。

eill:この曲もeillになったタイミングで書いた曲で。私が呪文を唱えてみんなを踊らせる、みたいな。そういうイメージの曲です。今回、アルバムに収録されるっていうことでEXPCTRさんに編曲をお願いしたんですけど、最初は原曲を活かした感じで返ってきたので、「もっとEXPCTRさんっぽくアレンジしてください」って返したら、今度は同じ曲とは思えないぐらいガラッと変えてきて。元々はちょっとジャズっぽいアレンジだったんですけど、それが思いっきり壮大なベース・ミュージックみたいな感じに仕上がって。サビなんて本当にシマウマが草原を走ってるかのようですよね(笑)。

――一方、「HUSH」はティーンエージャーが年上の男性に対して背伸びして歌い上げる内容となっていて、ある意味フィクションを演じているような印象も受けました。

eill:「HUSH」は、実は友達の話を元にしていて。だから演じているといえばそうなんですけど、実話と言えば実話で。その当時、周りの友達がみんな年上の方に恋をしていて。好きなんだけど、あまり相手にされないってい悩みを聞かされていたので、そういう気持ちを曲にしようと思って書きました。LUCKY TAPESの高橋海さんと一緒に、好きな韓国の音楽について話したりしながら作り上げていって。ボイス・サンプルの作り方とかも教えてもらったり。元々はOOHYOの海さんのリミックスがすごく好きで。この曲を海さんにお願いすれば間違いないだろうなって思ってお願いしました。

――「ONE」には先述の「721」と同様、韓国のシンガー・K.vshとプロデューサーのHYE SUNGが参加していますが、これはどういった経緯で?

eill:K.vshくんはRHEEHABくんとかOCEANくんとかと同年代の韓国のアーティストで、私とも同い年なんです。今回は同じく韓国のHYE SUNGくんがプロデュースしてくれということもあって、歌詞も「私たちがアジアのNo.1を狙うんだ」っていうような内容になっていて、「MAKUAKE」や「FUTURE WAVE」とはちょっと違う視点、サウンドになっています。

――そのHYE SUNGは同じく「初恋」もプロデュースしていますよね。

eill:そうなんです。この曲はトラックをもらった段階で、「ピンクのネオンをバックに女の子が泣いている」っていう絵がパッと見えて。客観的な視点でその女の子を見て書きました。あの、個人的に失恋した時に、「初恋」をテーマにした曲を聴きまくったことがあって。でも、どの曲も全然ピンとこなかったんですよね。たぶん、その「わからない」っていう感情も含めて「初恋」なんだなって思って。そういう感情を込めてあの曲は書きました。

――今回のミニ・アルバムを経て、eillとしての今後の展望のようなものは見えていますか?

eill:J-POP、K-POP、バンド、R&Bっぽい要素、サウンドは全部私の中にあるものなので、それをもっとギュッと濃縮した作品を作りたいというのがひとつ。周りの人からは、「もっとジャンルを絞った方がいい」みたいなことを言われることも多いんですけど、でも、私はそういうことはしたくなくて。ストリーミングが普及してきた今、みんな音楽を聴く時にジャンルなんて意識していないじゃないですか。私自身も普段からそういう聴き方をしているし、私の周りの友達もJ-POPからK-POP、アメリカのヒット・チャートものまで分け隔てなく聴く子が多くて。なので、「eillは〇〇〇」っていう風に決めつけずに、聴く人のその時々の感情に寄り添うような、プレイリストのような存在になりたいですね。「全部引っくるめて、eillっていうジャンル」みたいな。それこそ、昔に書いた弾き語りっぽい曲も今後引っ張ってくることもあるかもしれないし。あとは、そういった様々なジャンルを詰め込んだ作品を、より多くの人に届けることができればなって思います。

――そういうジャンルを超越した存在という意味で、見本とするアーティストなどはいますか?

eill:そういう意味では、宇多田ヒカルさんや安室奈美恵さんはダンス・ミュージックからしっとりとしたバラードまで何でもできて、しかもそれぞれが「宇多田ヒカル」「安室奈美恵」っていうジャンルとして確立できているなって思うので、憧れではありますね。どデカイことを言ってしまえば、日本人だとやっぱり宇多田ヒカルさんや安室奈美恵さんのような存在を目指したいです。海外だと The Internet のSydはバンドとソロで違ったアプローチで上手く表現していたりして、カッコいいなと思います。

――なるほど。では、音楽的にやってみたいことはありますか?

eill:オートチューンはやってみたいなって思っていて、自分の声にオートチューンをかけた曲とか作ってみたいですね。あとは韓国じゃないですけど、Lidoが大好きなので、いつかリミックスとかやってもらいたいなと(笑)。


【リリース情報】

eill 『MAKUAKE』
Release Date:2018.10.03 (Wed.)
Cat.No.:XQBZ-1039
Price:¥2,200 (Tax in)
Tracklist:
1. MAKUAKE
2. FUTURE WAVE
3. ONE feat. K.vsh
4. HUSH
5. メタモルフォーゼ パラマジーノ
6. shoujo
7. 初恋
8. special girl
9. HUSH-MONJOE Remix- feat. Kick a Show

リリース詳細


【イベント情報】

eill 『MAKUAKE』 発売記念 ミニライブ(フューチャーセット)&サイン会
日時:2018年10月13日(土) 21:00
会場:タワーレコード新宿店 7F
参加方法:
タワーレコード新宿店、池袋店、秋葉原店、横浜ビブレ店にて10月3日発売(10月2日入荷)『MAKUAKE』(XQBZ-1039)をお買い上げいただいた方に(予約者優先)、先着順でサイン会参加券を差し上げます。サイン会参加券をお持ちの方は、ミニライブ終了後にサイン会にご参加いただけます。

※サインはCDにさせて頂きますので、当日忘れずにお持ち下さい。

イベント詳細

Spincoaster

Spincoaster

Spincoaster(スピンコースター)は、独自に厳選した国内外の新鋭MUSICを紹介する音楽情報メディアです。