オーストラリアのデュオ、Cosmo’s Midnightが4月2日(水)に東京・渋谷 WWW Xにて一夜限りの来日公演を開催する。
2012年に双子の兄弟であるPatrick Liney、Cosmo Lineyで結成されたCosmo’s Midnightは、当時盛り上がり始めていたSoundCloudやBandcampを軸としたオンライン上での音楽的潮流──フューチャーベースやフューチャービーツと共鳴し、大きな影響力を有していたMajestic Casualからも公開されたヒット曲“Walk With Me (feat. Kučka)”や、リミックス楽曲でも脚光を浴びた。
キャリア初期はクラブミュージック〜DJフレンドリーなサウンドが多かった彼らだが、着実にキャリアを重ねるにつれて、そのソングライティングはよりオーセンティックなダンス/ポップミュージックへとシフトチェンジ。また、近年ではSIRUP & Shin Sakiuraとのコラボや、BTSへの楽曲提供というトピックでも話題を呼んだ。
そんな彼らが昨年リリースした最新作『Stop Thinking Start Feeling』を携え再来日。クラブではなくライブハウスでの公演はこれが初となる。Spincoasterではこれを機にPatrick Lineyへインタビュー。最新作の制作背景から上述の外部ワークスについて、そしてSIRUPとShin Sakiuraからの質問など、一つひとつ真摯に答えてくれた。
Interview & Text by Takazumi Hosaka
Interpreter:Yuna Munakata
Photo by Jordan Kirk
「音楽が今いる場所ではないどこかへ連れて行ってくれる」
――昨年リリースされた3rdアルバム『Stop Thinking Start Feeling』について教えて下さい。制作に3年ほどの年月を費やしたとのことですが、当初はどのようなテーマ、コンセプトを描いていたのでしょうか。
Patrick:前作『Yesteryear』は2020年の10月にリリースしたんだけど、残念ながらCOVID-19の影響でツアーができませんでした。だから、その代わりに新しいアルバムのためのアイデアを集めるのが最善だと考えました。
その過程で、アルバムタイトルでもある「Stop Thinking Start Feeling」というコンセプトを、私たちの制作スタイル、あるいはイデオロギーのようなものとして考え始めました。それは正確に、批判的なスタイルで作曲するというよりも、より感情的に作るということ。
祝福的な感覚を持ちながら、音楽体験に浸るような方法で制作したかったんです。それはDaft Punkの“Lose Yourself to Dance and Give Life Back to Music feat. Pharrell Williams”で表現されているような感覚です。
Patrick:COVID-19やツアーのこと、自分の人生やキャリアに関する全ての物事、あらゆる種類のストレスを脇に置いて、音楽を書いたり音楽を聴いたりするこの体験に浸る。私たちにとって本当にエキサイティングだったのは、このアルバムを新しい視点/観点から作って、それに夢中になれたことだと思います。
――COVID-19によるパンデミックはあなたたちの活動にどのような影響を及ぼしましたか?
Patrick:一番の問題は、やはりツアーを開催できなかったことです。オーディエンスからのリアクションをもらうということは、私たちにとってはとても重要なことなんです。なぜなら、それが音楽制作のモチベーションやインスピレーション源になるから。
音楽に関するインスピレーションの多くは、外での体験に起因している気がします。スタジオで作業をするとき、コンサートや映画での体験、自然に触れたり、ビーチに行ったり、美しくてクリエイティブな気分にさせてくれるシーンを思い出します。その一方で、パンデミック期間は外に出れなかったので、そういった刺激を得るのがとても難しかった。だから、その時期は作曲方法を再構築しようと試行錯誤していました。
――今回のアルバムはLA、ロンドン、オーストラリア東海岸のあちこち、友人の家などを転々としながら制作したそうですね。
Patrick:私たちはスタジオを持っていますが、ここに長くいるのは一種の労働という感じで、効率よく作業するための場所なんです。実際にアルバムの楽曲を書いた場所は、海岸沿いのビーチハウスだったり、大きな山々を望める家などです。美しい自然に身を置いていると、それが音楽にも反映されるような気がします。
自然と繋がることは私たちの曲作りにとって何よりも重要なことです。私たちにとっては、完璧な防音や高級なスピーカー、機材などが必ずしも必要なわけではありません。
――それはあなたたちの育った環境が影響しているのでしょうか。
Patrick:そう思います。私たちはとてもエクレクティック(折衷的)で、芸術作品に溢れた家で育ちました。父は画家で、母はピアノを弾く作曲家であり音楽教師だったので、両親が作った芸術作品に囲まれていました。そういった美しい環境からエネルギーやインスピレーションを見出し、創造性を見つけるということは、幼少期から私たちに備わっていたのだと思います。
基本的に、私たちがいる場所は音楽にとってとても重要です。なぜなら、このアルバムで私たちが本当に表現したかったのは、音楽があなたを今いる場所ではないどこかへ連れて行ってくれるという感覚だったからです。そういった感覚は、アルバムのティーザー映像で表現しています。
「一番大切なのは、音楽を作ること自体にエキサイトすること」
――『Stop Thinking Start Feeling』はこれまでの作品の中で最も生楽器の割合が多いように感じました。エレクトロニックミュージックというよりは、ディスコ、ソウル、ファンクと言った言葉で形容した方がしっくりきます。こうしたサウンドになったのはなぜなのでしょうか?
Patrick:アルバム制作は毎回少しずつ違うことに挑戦するチャンスだと考えています。今指摘してくれたような変化は、バンド編成でツアーを行ってきたことが影響している気がします。私がキーボードを弾きながら歌ったり、Cosmoがベースやギターを弾いたり。そういったライブの楽しいジャムセッションのような瞬間を、スタジオに持ち込みたかったんです。
また、両親の影響で私たちはディスコやソウル、ファンクなどが昔から大好きでした。実家のリビングルームには父のレコードコレクションがあって、その多くはBill EvansやJim Hallのようなジャズや、CHICやSister Sledge、Rufus、Chaka KhanといったNile Rodgers関連作品だったり。
正直、ディスコやソウルがソングライター/プロデューサーとして私たちに与えた影響はとても大きいです。どんなジャンルの作品を作っていても、それらのジャンルの要素を取り入れられるし、そういったジャンルを通して学んだ基礎的な部分は、とても応用しやすいものだと感じています。
――レコーディングでは実際にあなたたちが楽器を弾いているのでしょうか。
Patrick:曲によって違いますが、基本的にはCosmoがギターとベース、私がキーボードとボーカルを担当しています。楽曲によってはギタリストのTimi Templeと、ドラマーのMichael Hassettにも参加してもらいました。
ドラムに関しては1日で様々なバージョンのループを録音して、独自のサンプルライブラリを作成しました。それを用いてアルバム全体のビートを構成しています。
――あなたたちが脚光を浴びてからこの10年ほどの間、音楽シーンのトレンドは変化し続けています。それこそ初期の頃はフューチャーベースやEDMといったジャンルにカテゴライズされることも多かったですよね。変わりゆく音楽のトレンドについて、どのように考えていますか?
Patrick:本当に一番大切なのは、音楽を作ること自体にエキサイトすることで、「今どんな音楽が人気なのか」という点は必ずしも重要だとは思っていません。ただ、自分たちが特定のジャンルやスタイルに魅了されると、それをどのように自分たちの音楽に取り込めるか試してみたくなるんです。
10年以上前、音楽を作り始めたときの私たちは高校を卒業したばかりで、SoundCloudに夢中でした。世界中の人たちがジャージークラブやトラップ、ボルチモアクラブ、UKガラージなどの楽曲を発表していて、そこで多くのプロデューサー、コンポーザーたちと交流しました。最初はDisclosureなどに影響を受けて、その後に〈Soulection〉──特にKaytranadaやSam Gellaitryといったアーティストにすごく興奮しました。……ただ、今振り返ってみると、オンライン上で急速に音楽が変化していく風景にエキサイティングしていた部分もあるかもしれません。
Patrick:私たちはこの10年間で大きく変わったし、特定のジャンルだけに留まるつもりはありません。過去の成功を模倣するのではなく、自分たちがその時々に興奮する音楽を求めるだけです。そのために、日々新たなインスピレーションを探しています。
例えば、同じくオーストラリアのYoung Francoとは友だちで、スタイルは違うけどお互いにクリエイティビティを刺激し合う存在だと思っています。
SIRUP、Shin Sakiura、BTSとの協業。国境を越えたコラボレーションについて
――日本のアーティスト・SIRUP、Shin Sakiuraとのコラボ曲“BREAKTHROUGH”について教えて下さい。まず、このプロジェクトはどのようにして実現したのでしょうか。
Patrick:SIRUPとShinから「一緒に曲を作ろう」と連絡をもらいました。SIRUPのことはすでに知っていて、曲も聴いていました。最初にいくつかのアイディアのようなビートを送ったんですけど、上手く噛み合わなくて。それからオンライン上でミーティングして、またいくつかのアイディアをお互い出し合いました。そこで私が日本語で歌ったらクールなんじゃないかって提案してくれたんだけど、言葉を理解して練習するのはすごく時間がかかりました(笑)。
Shinはギターのパートをたくさん送ってきてくれて、どこに配置すべきかもアドバイスしてくれました。彼らはとても才能に溢れているのと同時に、とても謙虚で、「気に入ったら使って」という感じだったんだけど、お互いの要素を同じくらい主張させることを意識して仕上げたことを記憶しています。
Patrick:彼らとの共作はとても楽しい経験だったし、今回ようやく一緒に演奏できる機会をもらえて嬉しく思います。私たちはこれまで多くのコラボレーションを行ってきましたが、ときには完成させるのが非常に難しいケースもあります。オンライン上でのやり取りならなおさら。でも、“BREAKTHROUGH”は最後までとてもリラックスした状態で進めることができました。
――同じミュージシャンとして、SIRUP、Shin Sakiuraにはどのような印象を抱きましたか?
Patrick:SIRUPは本当に素晴らしいボーカリストだと思う。R&Bやソウルを感じさせるスタイルがあり、幅広い音域を持っている。Shinは素晴らしいギタリストなだけじゃなく、プロデューサーとしてもすごく優秀だと感じました。
もし可能だったら彼らとスタジオに入ってみたいですね。2人はプロフェッショナルだから、たとえ2〜3時間しかなかったとしてもすごくクールな作品が作れると思う。
▼来日公演での共演に向けて
やっと一緒に“Breakthrough”をパフォーマンスできるのが本当に楽しみ! そもそも2人とも直接会うのは初めて!
▼共作時のエピソード
コロナ禍になったばかりの頃にZoomでセッションをして、繋げたままお互いのパートを作って合体させたり、別日にまたZoomしたりと、細かく何度か遠距離でやり取りしたのはいい思い出です。何より、とても2人の楽曲の大ファンだったし、すごく楽しかったです。


――何度も聞かれているかもしれませんが、あなたたちはBTSの“Fly to my Room”(アルバム『BE』収録)に作曲で参加しています。この楽曲の制作背景を教えてもらえますか?
Patrick:本当におもしろい体験でした。BTSのマネージメントかレーベルのスタッフから、「BTSの作品に採用できそうなデモを探している」っていう感じで連絡がきたんです。彼らは私たちに指示することはなく、ただただ「いいアイディア」を求めていて、そして私たちには上手く仕上げられなかったデモがあったんです。ロンドン出身のとても才能のあるシンガーと作っていた曲なんだけど、最後まで仕上げるアイディアが思いつかなくて。
あと、Instagramを見ていたら、日本の伝統的な修復技能「金継ぎ」についての投稿が目に入って。それにインスパイアされて、「壊れたものを修復することで、より美しくなる」というコンセプトについて曲を書くことに決めました。彼らに送ったら気に入ってくれて、リリックのほとんどは韓国語に翻訳されたけど、私たちが書いた《Broken is Beautiful(壊れたものは美しい)》という一行はそのまま残してくれました。そのありふれたリリックが曲になったのはとてもクールなことだと思います。
――デモとなった曲の構成などは変えずに?
Patrick:BTSメンバーの音域に合わせるために曲のキーを変えたくらいですね。あと、ラップのブレイクダウンのようなものを欲しがっていたので、それも私たちが追加で作りました。
後から、この曲が“Dynamite”と同じアルバムに収録されることを知って驚きました。そして、それまでK-POPの曲を書いたことがなかった私たちの世界を広げてくれました。K-POPはグループごとにスタイルが独特かつ多様で、もはや音楽ジャンルとは言えないですよね。そしてトレンドも目まぐるしく変化していく。
だから、私たちにとって本当に重要だったのは、時代を超越した曲を作ることだったのだと思います。そうすれば流行に合わせる必要はないですし、それがBTSが得意とすることなんじゃないかなと。彼らは本当に自分たちのリズムで動いていると思います。
Patrick:この経験はとても幸運なことだったし、それ以降、K-POPの曲作りの機会も増えました。私たちは曲作りが大好きで、Cosmo’s Midnightのスタイルとは異なるスタイル、ジャンルにもトライすることができます。個人的に、(BTSの)Jung Kookのソロプロジェクトが大好きなので、彼に曲を書く機会がもらえたら嬉しいですね。
――“Fly to my Room”の制作に際したやり取りもオンラインで完結したのでしょうか。
Patrick:そうです。2020年の初め頃だったので、海外への移動は規制されていて。でも、昨年はソウルの江南で行われたK-POPのライティングセッションに参加しました。韓国はもちろん、ロンドン、アメリカ、ヨーロッパ、日本など世界中からソングライターが参加していて、国際的なプロジェクトでしたね。
私は可能であれば、直接会って曲を作りたいです。エキサイティングな音楽を作るためには、全員が同じ部屋で意見交換をするのが一番だと思います。
過去曲もアップデート。きたるライブへの意気込み
――4月には久しぶりの来日公演が控えています。どのようなショーになると思いますか?
Patrick:さっき名前を挙げたTimi Temple(Gt.)とMichael Hassett(Dr.)が参加してくれて、私がキーボードとボーカル、Cosmoがベースを担当します。あと、女性ボーカルパートは友人のAsta Binnieが歌ってくれますし、曲によっては私とのデュエットも披露します。
昔の曲を再解釈したり、ときには他アーティストの曲のマッシュアップも披露するかもしれません。私たちはこの10年ほどでたくさんの楽曲を発表してきたので、ショーをどのようにまとめるか、少しクリエイティブに考える必要があります。
セットリストはできるだけ詰め込もうと思います。きっと誰しもが演奏してほしいと思う曲が1曲くらいは入っているんじゃないかなと。昔の曲も多数演奏しますが、元の形に忠実であり続けることも意識しながら、同時にそれをアップデートしようとも考えています。様々なスタイル、様々なBPM(テンポ)をパズルのように解いて、それをひとつのライブショーとして再構築する。それはとても楽しいことだし、オーディエンスにとってもユニークでエキサイティングな体験になると思います。
――SIRUPとShin Sakiuraから質問を預かってきました。まずはSIRUPさんから、「日本のファンと、この特別な夜(来日公演)をどう過ごしたいですか?」
Patrick:以前、Astaと一緒に3人でプレイしたことはあるけど、日本でのフルバンドセットは今回が初なので期待していてほしいです。今までに見たことのないような形でCosmo’s Midnightの楽曲を体験してもらえることを、私たちもとても楽しみにしています。
――続いてShin Sakiuraさんから。「制作やライブ、いろんなスタイルの仕事があると思うけど、オンオフを切り替えるのにおすすめのリフレッシュ方法などはありますか?」
Patrick:音楽制作以外のリラックス方法は、ビーチでサーフィンや海水浴をすること。2020年にロッククライミングを始めて、今でも毎週やっています。あとは愛犬のプルートと散歩やランニングをすること。最近は新しい『Monster Hunter』をプレイしています。
――ちなみに、日本に滞在している間、どこかに訪れる予定はありますか?
Patrick:今回の滞在は短いので、1日中遊ぶ予定です。新宿には夜通し開いているバッティングセンターやビリヤード場があったことを覚えています。以前、日本を訪れたときは東京だけでなく大阪、長野、新潟など様々な場所を巡りました。神奈川の沖合にある猿島にもフェリーで行きました。もちろん、東京、大阪のナイトクラブでのパフォーマンスも強く記憶に残っています。また日本に行けることがすごく楽しみだし、私たちも最大限楽しむつもりです。
【イベント情報】
『COSMO’S MIDNIGHT JAPAN TOUR 2025』
日時:2025年4月2日(水)OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京・渋谷 WWW X
料金:スタンディング ¥6,600(1D代別途)
出演:
Cosmo’s Midnight
[SPECIAL GUEST]
SIRUP
お問い合わせ:SMASH 03-3444-6751
■公演詳細