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Interview / Akufen


「僕はシーンの過渡期に影響を与えるために曲を作っているわけではないんだ」ーAkufen インタヴュー

2015.12.07

Akufen(アクフェン)の『NF #2 -SEN-』への出演は、かねてより両アーティストの作品を追っていたエレクトロニックミュージック・ファンはもちろん、山口一郎が度々メディアを通してレコメンドしていたことでAkufenの名を知っていたサカナクションのファンにとっては、どうしてもワクワクしてしまうトピックだったと思う。それも今回はサカナクションからの熱烈なラヴコールによって実現したコラボレーションだというのだから、『NF』のイベントとしてのステップアップと、そして新たなアクションの始まりを感じざるをえない。実際、Akufenの出演によって『NF』への印象が変わったという人も僕の周りにはいて、こういった些細なことはイベントにとってもクラブ・シーンにとっても活発化の要素へと変わっていく。

カナダのモントリオール出身のAkufenことMarc Leclair(マーク・レクレール)は、1990年代後半からAkufen以外にもReno Disco、Horror Inc.など6〜7つの名義を使い分けながらリリースを重ね、自らも「マイクロ・サンプリング」と称する独特なレングスのサンプリングと、そのユニークなサンプリング・ソースによって組まれる上モノで、古典的なテクノ/ハウスに変革と拡張をもたらし続けてきた。またその延長として在るDJとライヴによって、ロンドンやベルリンを中心に世界中のエレクトロニックミュージック・ファンを魅了しきた約20年のキャリアは、誰がどう見てもMarc Leclairをベテランの領域へと押し上げている。

恵比寿リキッドルームの楽屋で会ったMarc Leclairは風貌も佇まいも想像以上にベテランらしくなっていたが、言葉や話し方から受け取れる熱量はかなり若々しかった。ただ話を聞いていくと、やはり彼の中にもシーンをリードしてきた者としての次世代へと繋げていこうという意志が確固として在るようで、どうやらその意志は彼のいまの重要な原動力にもなっているようだ。

NF#02のレポート&インタビュー(山口一郎/江島啓一)はこちら!
Interview & Report NF#02 -SEN-

Akufen Interview

(Text & Interviewer: Hiromi Matsubara (HigherFrequency), Interpreter: Hikaru Yamada, Photo: Kohei Kojima)

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ーまず、今回あなたをイベントに呼んだサカナクションについてお聞きしたいのですが、彼らについてどのような印象をお持ちですか?

今日(11月6日)の午後にラジオのインタヴューを受けたんだけど、このプロジェクトに参加できて本当に光栄だよ。派手ではなく控えめなやり方で人々を育てていく取り組みは、すごく立派なものだと思う。今回のイベントのために招待したという12歳の少年と昼に会ったけど、今夜彼がここにいるということに驚きを隠せないよ。でも、これはとても素晴らしいアイデアだと思うよ。

ー今回のオファーはどのような経緯で受けたのですか? サカナクションとは以前から何か繋がりがあったんですか?

いや、これまで彼らとは直接の繋がりはなかったよ。少し前に知人を介して今回のオファーを聞いたんだけど、経緯がどうだったかは思い出せないな……。でも日本に来ないかと言われたからもちろん引き受けたよ。日本が好きだし、断る理由がないからね。サカナクションはバンドなんだっけ?

ーそうです。サカナクションのメンバー皆さんがあなたのファンで、ヴォーカルの山口一郎さんがよくあなたの音楽をラジオで紹介していたんですよ。彼らには会いましたか?

ついさっきバックステージで会ったよ(笑)。彼らは忙しそうだね。

ーサカナクションの音楽を聴きましたか?

まだ聴いたことないんだ。けど、これから彼らは演奏するんだよね? だからそこで聴くよ。

ーちなみに日本のアーティストの音楽を聴くことはありますか?

個人的には、しばらく日本の音楽から離れてしまってるけど、Yellow Magic Orchestraと坂本龍一からはいつもすごく影響を受けているよ。それからRADIQ(半野喜弘)に田中フミヤ、あと名前が思い出せないんだけど……今日聴いた『Hello 88』っていう作品の……あー! Takeo Toyama(トウヤマタケオ)だ! とても綺麗な音楽を作っている人で、子供向けにレコードを作ったりもしているんだ。よくSoundCloudに上がってる音楽を聴くけど、日本の音楽には本当にいつも圧倒されるよ。本当に繊細で音楽性に富んでいるよね。あとは、難しい名前なんだけど、Ingern。彼のもSoundCloudにあるよ。素晴らしいんだ。これまで長いことお互いに連絡を取り合っていてね。音源をたくさん送ってくれるんだ。とても面白いよ。なんというか……とても軽やかで無邪気さがあって、でも深い感情が感じられるんだ。

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ーこの『NF』というパーティは、ファッション、アートワークや映像制作、ライティングといった音楽に関わる仕事を詳しく知ってもらうための空間を作ったり、普段クラブ・ミュージックには関心のない人を惹きつけようという目的があるのですが、このパーティの試みをどう思いますか?

とても良いアイデアだと思うよ。やり続けるべきだね。もしもクラブ・ミュージックにあまり関心のない人々を引き付けたいなら、こちらから押し付けるようなやり方じゃなく、また派手過ぎないやり方がいいね。偽りではない、本物のクラブ・ミュージックと向き合って取り組むべきだと思うよ。

ーもしあなたがクラブ・ミュージックにあまり興味のない人にアプローチするとしたら、どのような方法でアプローチをしていきますか?

そうだね、やっぱり人から人へ、口コミで伝わっていくのが良いんじゃないかな。人と人との繋がりを作るんだよ。クラブ・ミュージックに興味のない人々に近しい人から徐々に浸透させて、伝えていってもらう。大きな宣伝を打つように、人から人へと伝えていって、来たい人は来るというようなさ。来るか来ないかはその人次第。選択肢は残しておかないとね。

ーあなたの地元のカナダのシーンでは、ロック・バンドのアーティストとクラブ・ミュージックのアーティストが一緒にイベントをやったりすることはありますか?

あり得るだろうし、イベントも成立すると思うけど、それは正しい目的のもとで正しい方法でやる必要があると思うよ。繋がりを持たないアーティスト同士が集まって、利益を生み出すことだけに注力すると、本来の目的やアイデアを見失ってしまう。音楽性やジャンルの異なるミュージシャン同士が一緒になってシーンを作る1番の方法には、それぞれのアーティストの間に何かしらの類似性が必要なんじゃないかな。例えば、僕はミュージシャンとしてはエレクトロニック・ミュージックを作っているけど、いろんなジャンルの音楽を好んで聴いているんだ。もし僕がロックやコンテンポラリーのような異なるジャンルの音楽を演奏するアーティストと一緒になることがあっても、僕自身は彼らとの繋がりを感じられるから、それは上手くいくと思うよ。

ー去年あなたが出た『TAICOCLUB』というのは、たぶん日本の中でもかなり異なるジャンルを繋げることをトライしたイベントだと思うのですが。

そうだね、『TAICOCLUB』は良い例だね。あれは、そういう試みをよく体現してたと思うよ。ギターものからサイケデリックなものまで、いろいろあったけど僕はそうした音楽に敬意を払っているし、それらの音楽からも刺激をもらっているからね。

ーこれまで『TAICOCLUB』など日本の色んなイベントに出演されてきて、日本のオーディエンスや日本のクラブ・シーンに対してはどのような印象をお持ちですか?

全てのアーティストの場合を一括りにして話すことはできないけど、ただ言えることは、日本のオーディエンスは僕らが知っている中でもベストだよ。日本のオーディエンスはとても好奇心があるよね。彼らは音楽的に多くの知識があるし、音楽をよく知ってる。CDショップに行けばレコードがあって、よくレコードを集めているし。日本にはジャズとファンクの文化があるよね。それはとても好ましいことだと思う。一言でいうとすれば、それは惜しみない寛大さかな。相手に寛大で誠実であろうとすれば、彼らはまたその比じゃないくらいにそれを何倍にも増して返してくれるんだ。僕はかれこれ20年近くヨーロッパで活動していて、こういう質問には何回も答えてるけど、ヨーロッパのオーディエンスは音楽に対する感謝の気持ちみたいなものを忘れている気がするな。それに比べて日本のオーディエンスは、音楽にとても敬意を払っているのが素晴らしいよ。

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ーたぶんあなたがよく目にするオーディエンスはクラブのオーディエンスですよね。例えば日本だと、「マイクロハウス(Micro House)」と称されたAkufenも、また別名義のHorror.incも”クラブ・ミュージック”という枠にカテゴライズされてしまうのですが、そのような状況をあなた自身はどのように思っていますか?

カテゴライズには2つの側面があると思うんだけど、1つは、良く言えば「マイクロハウス(Micro House)」っていう言葉のカテゴリーによって、それがシーンに影響を与えているとか何とか色々なことを言えるよね。
もう一方で、自分の中では、そうやって分類してまとめられるのは嫌いなところがあるかな。”それはそれ”と決めつけてしまうことは、ある種の限界のようなものだから好きじゃないんだ。自分がもっと別のことができるとき、大抵の場合、みんなが思っている以上に自分を認知させたいと思うでしょ?

そういえば、「マイクロハウス」っていう言葉はその当時のジャーナリストが流行らせた言葉だったんだ。知っての通り、僕は「マイクロサンプリング(Micro Sampling)」っていう手法を考え出した。それは確かに僕がその当時やっていたことだよ。でも、それはもう僕がアピールしようとしていることではないんだ。僕はいつもサンプリングをしていた。それそのものは、僕がやっていたことを表しているものだと思う。でももうそういうことはやっていないんだ。いまは実際に楽器を使ったりもするし、もちろんサンプリングを使うこともあるよ。自分があるカテゴリーに入れられたとして、もしそのカテゴリー通りのことをしなかったとしたら、みんな興味を失うよね? 分類し始めると、そのカテゴリーの音楽はこういうものだと期待するんだ。それにそぐわないと期待外れということになってしまう。だから、カテゴライズは僕にとっては少し窮屈かな。

ーちなみに最近はどういうサウンドで、どういうものを描きたいか、またどういうインスピレーションを与えたいと考えていますか?

良い質問だね。実は、ここ最近曲を作っていないんだよね(笑)。ちょうどこの前、Horror.inc名義で〈Perlon〉からアルバムを出したけど、それ以来そのままの状態なんだ。もちろん、自分が今後どういう風に音楽にアプローチするべきかは日々探っているんだけどね。次に何が来るのか、とか。

さっき問われた質問に立ち返るようで面白いけど……カテゴライズのことね。みんなカテゴリー化して音楽を捉えると、新しく出てきた曲が前のものに似ているとか、同じとか、枠にはめたがるよね。そして、次は何が出てくるのかと期待する。それは、以前よりも劣って見えたり、移り変わっていくように見えたり、という感じだと思う。例えば、シーンを語る上での重要な作品があると思うんだけど、僕はそういうシーンの過渡期に影響を与えるために曲を作っているわけではないんだよ。それよりも、「ひとつの時代が終わって、次に向かっていく」というような流れが大切だと思う。それが最も難しいことだけどね。

……すぐには思い付かないけど、何か実験的なことに取り組みたいな。僕はいつでも実験をしてきたし、若い時からやってきていることだからね。これまでそう捉えて色んな音楽プロジェクトをしてきたよ。シーンにおいては政治的なことというか、勢力図みたいなものがあって、そこに落ち着くこともできるけど、いまの自分をオーディエンスにどう見せていくのが自分のあり方として相応しいのか、何よりもそのバランスを取ることが大事だと思う。曲を作って、有名になって、食べていくのは、大変なことだよ!
でもそれは僕が音楽を作る目的じゃない。僕はただ曲を作って音楽で表現したいだけなんだ。例えば、自分には子供がいるけど、その子供が自分の音楽を聴いた時に、ただ音楽を作るためじゃなくて、お金のためにやっていたとか、音楽を作る行為そのもののためじゃなくて、商業的なことのためにやっていたという風に覚えられたくないんだ。だから、いま自分の持っているもの全てを注ぎ込んで、それを次の世代に伝えたいと思っているよ。

ー今あなたが仰ったことは、今日あなたが会った12歳の少年がAkufenの音楽に興味を持って楽しんで聴いているというのがまさに良い例としてありますが、そういった今後を担う次世代のアーティストもしくはリスナーにぜひアドバイスをお願いします。

技術的なことに関しては僕からは何も言えないけれど、とにかくどういうキャリアを築くかとか、そんなことは意味が無いと思うよ。ただ君のやりたいことをやる。君の信じることに従ってそれを貫き通す。それをやるだけだよ。すごくありきたりな言い方だけど、でもそれが僕の人生においてやってきたことなんだ。僕が子供の頃から曲を作り始めて以来ね。最後に、まずその日1日を始める時、あらゆる先入観を捨てるんだ。他人が何と言おうと、自分が心から望むものに従って動く。本当に好きなことに取り組むんだ。それは人に伝わるものだよ。どんなに名声を求めても、最後にやっていて良かったと心から思えないと意味が無いからね。あとは、他人が何と言おうと決して諦めないことだよ。ああしろこうしろと周りの人はいろいろ言ってくるかもしれないけど、そういう声に従う必要は無いよ。君は君のやり方でやるべきだ。それから、君は君自身で学ばないといけない。全て自分自身の失敗から学ぶんだ。

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