福岡出身の4人組、yonawoが1stアルバム『明日は当然来ないでしょ』を11月11日(水)にリリースした。
荒谷翔大(Vo. / Kye.)、田中慧(Ba.)、斉藤雄哉(Gt.)、野元喬文(Dr.)からなるyonawoは、2018年に自主制作した2枚のEP『ijo』、『SHRIMP』のCDが即完売。地元のカレッジ・チャートにもランクインし、早耳リスナーの間で話題に。2019年からはライブ活動も本格化させ、『Local Green Festival』や『Sunset Live』などの野外フェスにも出演を果たした。
昨年11月にはシングル「ミルクチョコ」にてメジャー・デビュー。また、彼らはSpincoasterが手がける映像プロジェクト「TOKYO SOUNDS」の人気企画Music Bar Sessionにも登場しているが、撮影前にSNSにて行った出演希望アーティストを募るアンケートでも上位を獲得するなど、地元・福岡だけでなく全国レベルで急速的に認知と支持を獲得していったことが伺える。
今年はコロナ禍で大半のフェスが中止/延期を余儀なくされたが、本来であれば今夏も各所フェスにて引っ張りだこであっただろう。また、米・オースティンにて毎年開催されている世界最大の見本市フェスティバル『SXSW』にも出演予定であったことにも言及したい。
異例のスピードで活動の規模を拡大させ続けながらも、今も地元・福岡を拠点としているyonawo。今回はそんなyonawoが福岡のローカル・シーンからどのように羽ばたいていったのか、メジャー・デビューまでの道のり、そしてパーソナリティにも迫るべく、福岡の音楽シーンのキーパーソンに話を訊くことに。
YOHLU、MADE IN HEPBURN、GOiTOなど、総勢15名からなるコレクティブ、〈BOAT〉の中心人物であり、MADE IN HEPBURNにも在籍する野村祥悟。そして『Sunset Live』を始めとしたイベント・プロデュースやラジオ、TVなどでも福岡のシーンを発信する深町健二郎。7インチ・シングルのリリパ開催、そして「ミルクチョコ」のMVにも映し出された福岡・今泉のミュージック・スタンド「como es」の店主であり、自身もDJとして活動する西田陽介の3名のインタビューをお届けする。
Interview & Text:Takazumi Hosaka
Assistant:Ai Kumagai
【INTERVIEW】 野村祥悟(BOAT/MADE IN HEPBURN)
■野村祥悟(BOAT/MADE IN HEPBURN):福岡のコレクティブ〈BOAT〉代表、MADE IN HEPBURNのメンバー・YaungTa oとしても活動。また、ラジオ番組の制作に携わる中で出会ったAttractionsやMega Shinnosuke、STEPHENSMITH、カンバス、colteco、about a ROOM、NOZOMI PIENA:TAなどをサポートしつつ、MADE IN HEPBURNと盟友・YOHLUを中心に〈BOAT〉を設立。そこから派生した〈Arias〉ではレーベル・オーナーの虎太朗をサポートしつつ、I’mやshakyといった若手を輩出している。
・MADE IN HEPBURN
[Twitter / Instagram]
==
――yonawoとの出会いについて教えて下さい
野村:元々、僕らのライブやイベントにも遊びに来ていたみたいで。1番印象に残っているのは、福岡のROOMSという箱で僕がDJをしていた時、Michael Jacksonか何かをプレイしたらギターの(斉藤)雄哉くんがめちゃくちゃ反応してくれて。そこで少し喋ったことを覚えています。その後、実はyonawoのメンバーだということを教えてもらいました。その時はまだ自主制作CDもリリースしていなくて、SoundCloudしかなかったんですけど、福岡のシーンでは名前をちょいちょい見かけるようになってきたタイミングで。
――彼らの音楽の第一印象は?
野村:たぶん当時はGarageBandとかで作ってたと思うんですけど、いい意味でチープというか。その中にローファイ・ヒップホップみたいなテイストも感じられたりして、「あぁ、こういうテイストをバンドに落とし込むやつらがついに現れたんだな」って感じました。あと、ボーカルの荒谷くんのソングライティングは当時から個性的で、「おもしろい曲を書くな」って思っていました。
――yonawoがシーンで注目を集めていくまでの流れを、野村さんはどのように見ていましたか?
野村:僕はそんなに間近で見ていたわけではないのですが、どこからともなく現れて一気にブレイク、という形ではなく、福岡で積み重ねてきたカルチャーの元、ステップアップしていったという印象です。Attractionsのメンバーも仲良くしていたと思いますし、福岡の歴史ある箱・Kieth FlackのDJや店員も彼らのことをフックアップしていたと思います。
yonawoの広がりに関して、印象に残っていることがあって。去年の夏くらいに、yonawoが福岡のローカル・シーンで徐々に注目を集め始めてきた頃、東京で僕ら〈BOAT〉のイベントを打ったんです。その時、渋谷のホステルに泊まったんですけど、そのフロントのカフェでお喋りしてたらBGMでyonawoがかかって。すごいびっくりしたので、ホステルの方に聞いたら、店員の方が個人的に好きでかけていたみたいで。福岡の外に広がっているっていうことをわかりやすく実感しました。
――では、メジャー・デビューについてはどう思いましたか? 速度感でいうとかなり早かったように感じます。
野村:早かったですね。ちょっと前までだと、育成枠とかで話を進めつつ2〜3年くらいメジャー・デビューまでかかることも少なくなかったですよね。yonawoのケースは、ある意味後続のアーティストたちに道を作ったような気もしていて。今の時代に適したスピード感で、メジャーにいけるんだっていうことを示してくれたんじゃないかなと。今はYouTubeやTikTokからヒーローがパッと生まれちゃったりする時代ですし。
――yonawoの「天神」は史上初となる福岡のFM3局同時パワープッシュを獲得したことも話題となりました。現状の福岡での広がりはどのように感じていますか?
野村:これまで福岡のラジオ局が連携するのってあまりなくて。当たり前ですが、本来はそれぞれ競合関係にあるわけですし。おそらく、ここ最近福岡から全国的に注目されているアーティストがどんどん出てきていること、それこそRin音くんは『Mステ』にも出ましたし、それも影響しているのかなと思います。あと、コロナ禍を経て、改めて自分たちの周囲のシーンについて見直す機会にもなったのかなと。彼らは「天神」という曲名しかり、他の曲でも福岡の情景を出したりして、地元をすごく大切にしているのが伝わってくるので、地元のラジオ局がそれをプッシュするというのはすごく健全なことですよね。ある意味使命というか。
――yonawoの1stアルバム『明日は当然来ないでしょ』の感想もお聞きしたいです。
野村:一聴してやっぱりyonawoなんですけど、次第に幅は広がってきているなと感じました。特にアレンジ力が素晴らしいなと。このアレンジ力って、もしかしたら彼らが昔から持っていたものなのかもしれないんですけど、それをよりクリアに実現できるようになってきたんじゃないかなって。たぶん、昔は「こういう風にしたい」と思っても、技術的だったり機材的な面でできなかったこともあったと思うんです。それがよりたくさんのリソースを得て、クリエイティビティがグンと高まった。早くも次の作品が楽しみだなという気持ちです。
野村:あと、これは個人的にいつか本人たちに聞きたいと思っているんですけど、音像が本当に独特ですよね。メジャーの音像じゃないというか。それも最初にリリースした自主制作のEPから、そこまで変わっていないというか。もちろん音は引き締まってはいるんですけど、全体的な“yonawo感”みたいな部分はブレない。たぶん、やろうと思えばバキッと派手な音像にもできると思うんです。でも、その片鱗すら感じさせないのはなぜなんだろうって、気になってます。
――今後のyonawoに対して、野村さんが望むことは?
野村:yonawoだけでなく、福岡の若いミュージシャンをもっともっと大きなステージで観てみたいですね。特にRin音くんが『Mステ』に出たときに思ったんですけど、自分たちに近しいアーティストが、全国的に認められたっていうのがわかりやすく伝わってくると、やっぱり誇らしいんです。福岡っていい街だよねっていうのを再確認できるというか。もしかすると、福岡の人たちって他の地域の方よりもそういう思いが強いのかもしれない。
――郷土愛が強いというか。
野村:そうです。別にそこまで背負ってほしいとは思わないですけど、彼らがすごく評価されることで「福岡に行きたい」とか、「福岡っていい街ですよね」って言ってくれる人が増えたらいいなと。これからも福岡の景色を感じさせる曲を定期的に作ってくれたら、なおさら嬉しいです。
――現在の福岡のシーンについてお聞きしたいです。イベントなどはコロナ禍で厳しい状況だと思いますが、少しずつ再開、再興していっている機運はありますか?
野村:10月には市役所の前の大きなイベント・スペースで2回イベントが開催されて、来年へと向けてこれから徐々に増えていくんじゃないかなと。あと、これは僕個人の印象なんですけど、他の都市もそうかもしれないのですが、福岡も地元の伝統的なお祭りをやっていなくて。それこそ『山笠』とか『どんたく』とか、福岡市民とか福岡県民が総出で「あ、この時期やってきたね」って感じるようなお祭り。それに対する後ろめたさみたいなものもあるんじゃないかなと。『山笠』や『どんたく』ができていないのに、他のイベントをやるのは……みたいな。なので、それまではまだまだ試運転、お試し、みたいな雰囲気は拭いきれないというか。
来年5月の『どんたく』か7月の『山笠』が無事に実施できたら、やっと“始まったね”っていう感じになるのかなと。全然音楽は関係ないんですけどね。でも、基本的に福岡は音楽単体ではエンターテイメントが成り立たないので、祭りや地域との結びつきが大事だと思っていて。
――〈BOAT〉やMADE IN HEPBURNの動きはいかがでしょうか?
野村:僕らは元々イベント重視、ライブ・バンドっていう感じの活動スタイルではなかったので、2020年は逆に制作に集中することができました。〈BOAT〉のコンピレーションも発表することができましたし。yonawoもどこかのインタビューで言っていたと思うんですけど、自分たちのミュージシャンとしての在り方を見つめ直さざるを得なかったというか。自分たちは音楽活動において、どこに重きを置きたいのか、制作なのかライブなのか、それとも別の何かか。それをじっくり考えた結果、やっぱり僕らの場合は“モノづくり”という部分だなと。今年は音楽から映像まで結びつけるということに力を入れています。ただ作品を配信したりCDでリリースして終わりじゃなくて、それ以上のクリエイティブにしたい。これは来年も引き続き目標にしていくと思います。
――luteとの協業で映像コンテンツも多数発表されていますよね。
野村:はい。あとは今、福岡のカルチャーを紹介するYouTube番組『FUKUOKA COLLECTIVE』にもガッツリ制作で入らせてもらっていて。映像でしかできないことができていると感じています。
おもしろいなって思うのは、『FUKUOKA COLLECTIVE』にも出演してくれたRin音くんやICARUSくん、あとクボタカイくんなどとMega Shinnosukeくんが仲良かったり。そのMega Shinnosukeくんが以前やっていたバンドのドラマーが、虎太朗がやっている〈Arias〉っていうレーベルのshakyっていうバンドに在籍していたり、Mega Shinnosuke自身もyonawoと交流がある。新世代のアーティストの子たちって、ジャンルとかサウンドがバラバラでも不思議と繋がっているんですよね。年齢もバラバラなんですけど、もしかしたら10年後、20年後に振り返ってみると、今の福岡のシーンが転機になっているのかもしれないなって考えたりします。
Rin音くんとかクボタカイくんのトラックを作っているShun Marunoくんもshakyのことがすごい好きみたいで。音楽性とかシーンというより、人と人との繋がりで何か大きなものが形成されているというか。下の世代を見ていると、それをすごく顕著に感じます。僕らの世代にはあまりなかった感覚なので、今後の動きがとても楽しみですね。
【INTERVIEW】 深町健二郎
■深町健二郎:1961年福岡市生まれ、音楽プロデューサー/ミュージシャン/タレント。大型音楽イベント『Sunset Live』などのイベント・プロデュースを手がけるほか、音楽を中心にTV、ラジオへも出演。『Fukuoka Music Month』総合プロデューサー、日本経済大学教授も務める。
==
――yonawoはすでに『Sunset Live』にも出演していますが、深町さんが彼らのことを知ったきっかけを教えて下さい。
深町:2016年か2017年あたりだと思うんですけど、福岡のKieth Flackというヴェニューのイベントに顔を出していた時に、古着屋「BINGOBONGO」の宮野くん(音楽レーベル〈GIMMICK-MAGIC〉も運営)が紹介してくれました。話してみるとバックボーンにブラック・ミュージックがあることがすぐに伝わってきたし、たまたまそのちょっと前に僕がNYでDaniel Caesarのライブを観ていて、携帯で撮ったその映像を見せてあげたらすごく盛り上がってくれて。あと、ボーカルの荒ちゃんは僕と同じ高校出身で。そういう部分でも親近感を覚えたりしました。
深町:その少し後に初めてライブを観たんですけど福岡のシーンにあまりいなかったタイプのバンドだなと思いました。チルな雰囲気は今っぽさを感じるし、ポップでありながらマニアックで、緩いけども激しい。激しいっていうのは音楽的にっていうことではなく、尖った詞の世界観だったり、内に秘めたエネルギーというかパッションというか。そういうものを感じました。明らかにネオソウルやR&Bなどの影響がありながらも、それをちゃんと自分たちなりのフォーマットに落とし込んでいる。思いっきり寄せるのではなく、自分たちなりの解釈を大事にしている感じがすごくいいなと。
――『Sunset Live』にオファーした経緯、理由などは?
深町:『Sunset Live』には「森のステージ」という色々なタイプのバンドが出るステージがあるんです。ビーチの方のステージとは違って、そんなに狭いわけじゃないんだけど、割と密なスペースというか。ここだったらハマるんじゃないか、ということもあってオファーしました。
深町:これも彼らの魅力のひとつだと思うんですけど、物怖じしないというか、変なプレッシャーとか緊張感を感じさせないんですよね。結成間もない状態で野外フェスに出演しているのに、自然体なスタイルで演奏していて。MCとかも全然準備してなかった(笑)。
このガツガツしてない感じは、今の時代感を反映しているなと。だからこそ今、同世代からも大きな支持を集めているのではないでしょうか。
――なるほど。
深町:あと、不思議に思っているのは、〈BOAT〉の野村くんたち周りのアーティストもそうだし、少しチルアウト気味で、ブラック・ミュージック的な要素をバックグラウンドに持ち、ゆったりとしたグルーヴを鳴らすアーティスト、バンドが今の福岡には群雄割拠していて。シーンの形成を感じるんです。
かつて80年代の福岡には“めんたいロック”というシーンがあって。ザ・モッズ、ロッカーズにルースターズ、シーナ&ザ・ロケットなどが注目を集めて、全国へと飛び立っていきました。もちろんそれ以降もNUMBER GIRLやスピッツの草野くん、MISIA、椎名林檎ちゃんなど、何人もの才能が出てきてはいるんですけど、“シーン”っていう意味では40年ぶりと言ってもいいんじゃないかなって思っていて。
深町:僕もついこないだ10月にようやくリアル・イベントをプロデュースしたんです。市役所の前の広場で、10バンドくらいに出演してもらったんですけど、そのほとんどが若手。しかも平均年齢20歳前後だったんじゃないでしょうか。それくらい若いアーティストの勢いを感じています。
――しかも、誰かひとりのカリスマが牽引しているわけではなく、同時多発的に生まれてきているようですね。
深町:おっしゃる通りです。加えて、様々なジャンルやスタイルのアーティストが出てきている。基本的には『Sunset Live』も、これまでは東京や関西圏といった他の都市を拠点としているアーティストさんを招くことが多かったのですが、このコロナ禍を受けて、ローカルのイベントは地元のアーティストで成立させなくちゃっていう流れになってきていて。今だったら、福岡のアーティストだけでフェスや大型イベントも成立するんじゃないかという思いも芽生えてきています。
――“めんたいロック”の時代と、今のシーンにおいての違いについてはどう感じていますか?
地元で盛り上がってきてはいるのですが、それと同時に全国にも飛び火しているのが今っぽいなと感じています。今はネットの時代なので、どこからでも発信できるし、逆にどこにいてもフックアップされる可能性がある。yonawoのブレイクのひとつのきっかけになったのが、川谷絵音さんによるピックアップでしたよね。
――なるほど。そういえば、yonawoはインタビューで福岡にスタジオを構えたいとおっしゃっていました。
深町:エンタメ業界ももう東京一極集中の時代ではなくなってきているし、東京に出ずに、福岡でコストを抑えつつ自分たちのスタジオ環境を整えるのも賢い手段ですよね。あと、これは僕もひとつの課題として感じていたことなんですけど、福岡は音楽都市と銘打っていながらも、これまではどんどん人材が東京へ出ていくのが当たり前になっていて。結果として、“福岡でしか聴けない”、“福岡でしか観れない”ものがあまりなかった。でも、yonawoのようにメジャー・デビューしても地元を拠点にするアーティストがどんどん現れたり、かつて東京へ行ったアーティストが戻ってきたりすると、より音楽都市としての文化レベルも高まるんじゃないかなって。
――では、yonawoの音楽性についても再度お伺いしたいです。1stアルバム『明日は当然来ないでしょ』がリリースされましたが、深町さんはどのように感じましたか?
深町:メジャーになったからと言って、サウンドが抜本的に変わったということはもちろんなくて、そこはある意味、自主制作の時からでき上がっていたも言えるかもしれません。確信犯的にそれを貫いている感じもしますよね。ただ、ようやく大きな舞台に飛び出たばかりなので、これから変化していく可能性ももちろん秘めていると思います。彼らはまだまだ若いし、今はどんどんスポンジのように色々な音楽を吸収している時期でもあると思うので、様々な事象から影響を受けていくでしょうし。例えばThe Beatlesがシタールに出会って変化したように。ただ、変に大人というか、業界の人の助言やアドバイスで左右されることはなさそうだなとも思っています。音楽的には自分たちの核をしっかり持っているはずなので。
――では、今後のyonawoに期待することは?
深町:ローカルに止まらないで、日本全国、延いては海外からも高く評価されるくらいの存在になってほしいですね。そしたら福岡の景色も変わっていくでしょうし、“こういう活動スタイルもあるんだ”って後続に示してくれたらいいなと。とはいえ、あまり気負うのも違うと思うので、彼らの緩いノリは残しつつ、活動の規模をどんどん広げていくというか。そういう存在であってほしいです。もちろん今後も『Sunset Live』にも出演してもらいたいですし、最終的にはトリを務めてくれるような存在になって、例えばですけど東京や関西から迎えるアーティストも彼らのステージに飛び入りしてくれるようになったりだとか。そうなると、より独自の音楽シーンというものができたと言えるんじゃないかなと。
――深町さんが手がけている『Sunset Live』やその他のイベントについても、今後の展望などを教えてもらえますか?
深町:福岡という街全体で音楽を盛り上げていきたいと考えています。実は今、行政とも連携していて。例えば、福岡は今までオフィシャルにストリート・ライブができる場所はなかったのですが、正式に許可をとって、審査を通ったアーティストは自由にライブをやって、投げ銭も募ってOKな場所を作りました。それが第1弾の仕掛けですね。これから年末にかけて新しい発表も控えています。
今年はちょっと開催できなかったのですが、福岡では9月に『Sunset Live』を皮切りに5つのフェスが毎週末に行われていて、これを『Fukuoka Music Month』としてパッケージングしているんです。その取り組みをおもしろがってもらえたのか、世界の音楽都市でミュージック・コンベンションを開催しているロンドンの企業から声を掛けてもらったことがあって。その時はオーストラリアのメルボルンで実施となったのですが、メルボルンってオーストラリアの最大の都市というわけではないけど、音楽を始めアートに特化した推進活動を展開しているんです。実際に現地に行って、関係者たちとも色々話し合っていく中で、都市と音楽の可能性を強く感じて。これは福岡でもできるんじゃないかって思ったんです。
深町:音楽好きな方が実際に福岡に遊びに来た時に、ライブハウスやイベント以外に音楽を体感できる場所を作りたい。言ってみたらエンターテインメント・ミュージアムみたいな。福岡の音楽の足跡、歴史を展示できるかもしれないし、若手をラボ的に取り込んでいきながら、制作/実験の場にすることもできるかもしれない。もちろんそれは観光リソースにもなるし。そういった計画を、一歩ずつ進めていければなと考えています。
【INTERVIEW】 西田陽介(como es)
■西田陽介(como es):福岡市生まれ。DJ、空間選曲家。90年代初頭からDJとして活動。約2年をかけて50ヵ国以上を渡り歩いた旅で、世界中の音、厳しくも豊かな自然や食、人、アートなどの異文化を吸収。5年の東京活動を経て帰福した今、25年以上をかけた2万枚のレコードを駆使し、変幻自在なミュージカル・ジャーニーへと耳を誘う。今泉にて音楽と様々な文化を伝える「como es」店主
==
――「como es」について教えて下さい。どのようなコンセプトのお店なのでしょうか。
西田:元々僕がクラブでDJをしたり、イベント・オーガナイズ、飲食と音楽のコラボ企画を行っていたこともあり、音楽と飲食、アートなどが寄り添いながら、力を抜いて自然体で同居できるようなお店をイメージして2018年12月にオープンしました。「como es」という言葉はスペイン語で「自然体」という意味があるんです。
西田:音楽を扱うからには音にもこだわらなければと思い、店内の音響に関しては原音を忠実に届けることを念頭に置いて設計しました。お店は一軒家なので、音楽用の電源を別で引いてきたり、ノイズを除去するためにアース棒を地中に打ち込んだり、ミキサー卓へ送る電源はノイズを削る昇圧トランスを使用したりと、色々なことを試しました。そういった施策が本当に音質に影響するかどうか、僕らも最初は半信半疑ではあったのですが、実際に比べたら明確に違いが感じられて。音楽好きな方、特に海外の旅行客の方からも音響に関しては褒めていただくことが多いです。yonawoの(斉藤)雄哉も遊びに来た時にうちの音響をすごく気に入ってくれて。話してみたら、音楽に対する造詣も深いし、人間的にもとてもいい子だったので、うちで働いてもらっていたこともあります。
――「ミルクチョコ」のMVの舞台にもなっていますよね。
西田:彼らが7インチ(『yonawo “矜羯羅がる / ijo (DMT MIX)” 7inch Release Party』)をリリースした時、僕は元々レコード・ショップもやっていたくらいレコード愛もあるので、うちでリリパを開催してもらって。その時に、荒ちゃん(荒谷翔大)から「実際のイベントの様子を収録したい」って言われたので、サポートさせてもらいました。
――yonawoを始め、福岡の若いアーティストが出入りするようになったのは、どれくらいのタイミングだったのでしょうか。
西田:それもyonawoがきっかけと言ってもいいかもしれません。基本的には横の繋がりがメインになっていると思います。イベントでyonawoを観に来た方がまた来てくれたり、〈BOAT〉周りの子も遊びに来てくれるし、ちょっとしたコミュニティみたいなものができてきたのかなって感じています。福岡は狭いので、音楽好きだったり音楽をやっている人が繋がりやすいんですよね。あと、クラブやライブハウスよりも敷居が低いのも、人が集まってくれる理由になっているのかなと。クラブにまだ入れない10代の子もいっぱい来てくれるので。
――福岡の若いリスナーやアーティストの感性などについて、ご自身との違いを感じることはありますか?
西田:僕らの若い頃は得られる情報の母数が少なかったと思うのですが、今の子たちはネットで様々な年代の音楽に簡単にアクセスできることもあって、やはり感覚が全然違うなと感じます。もちろん情報が多ければ多いほどいいというわけではないんですけど、その中でもyonawoのメンバーなどは取捨選択するセンスが抜群によくて。たぶんそういうセンスって、バンドでの音の選び方にも繋がってくるし、雄哉はコーヒーを淹れるのも上手いのですが、そういう細かい場所にも表れているのかなと。もちろん親御さんの影響もあると思うのですが。
――yonawoの音楽の第一印象は?
西田:初めて聴いた時、「DJでかけたい」って思ったんです。最初に聴いたのは「しあわせ」だったかな。The Isley Brothersの「Between the Sheets」ともリンクするような気がして。もちろん本人たちが意識しているかどうかはわかりませんが。こういうサウンドを鳴らすバンドはあまりいないんじゃないかなと思いました。技術はまだまだだけど、明らかに非凡なセンスが感じられて。
――yonawoが福岡のシーンで注目を集めていった様子を、西田さんはどのように見ていましたか?
西田:スピード感が早かったですよね。大丈夫か? って思う時もありました。サトピー(田中慧)とかはバンド結成当初はベース未経験者みたいな感じだったので、『Sunset Live』に出た時とかは親のような気持ちで、ハラハラしながら観ていました(笑)。
去年の1〜2月にうちでライブをやって以降、色々な繋がりがありつつ一気に注目を集めていったなと。ただ、メジャー・デビューしても基本的には変わらず緩いですけどね。この前も店で『ウイイレ』やったりしてました(笑)。流石に最近は忙しそうで、うちに来る機会は減りましたが。
――yonawoの後続のようなバンド、アーティストはすでに出てきていますか?
西田:はい。音楽性は異なりますが、特にまだ10代の子もメンバーにいるshakyは勢いと可能性を感じますね。うちにもよく来てくれる子たちで、音楽の学校にも通っていたり、すでにカチッとした、完成度の高い音楽を鳴らしています。あとはyonawoとも親交の深いnape’sもそうですし、うちで今働いてくれているAlex Stevensにも期待しています。彼はSSWですが、声もいいですし、弾き語りだけじゃなくてトラックメイクもできる。今後もサポートしていければなと考えています。
――今後のyonawoに期待することは?
西田:まずはやっぱり今後もレコードを出してほしい。個人的にはレコードでしか聴けない音源とかも出してくれたら嬉しいですね。あとは彼らもよく言っているんですけど、海外へも進出してほしい。福岡から世界へ羽ばたくひとつのケースを作ってくれたらなと。僕は若い頃に2年間くらいかけて世界50カ国ほど回ったのですが、海外の色々な場所でyonawoのライブを観てみたいという思いもあります。
あと、何よりも今後も自由に音楽を作り続けてほしいですね。活動の規模が大きくなればなるほど、色々な制約も生まれてくるかもしれないけど、やっぱり音楽は自由じゃなくちゃいけないと思うので。
――「como es」はコロナ禍以降、配信企画なども行っていますよね。今後の動きについて教えて下さい。
西田:3月くらいからこれまで想像もしていなかったような状況になって、音楽の伝え方も変わってしまいましたよね。臨機応変に状況を見ながら、できる方法で音楽を届けられればいいなと考えています。アナログ感は大事にしながらも、たぶん今後は配信でもxRだったり様々なテクノロジーが重要になってくると思うのですが、できるだけそういう新しい試みも取り入れていければなと。
とはいえ、うちの場合、配信ライブでマネタイズするというのはまだまだ現実的じゃなくて。TV局の人とかにカメラ回してもらったりして、めちゃめちゃ予算と労力を費やしたけど、金銭面だけでみると全然回収できていない。でも、こういう状況下でもアーティストに音楽を鳴らす場所を提供するというのは、それだけでもひとつのリターンになっているというか。配信アーカイブがプロモーションになって、別の仕事が決まることもありましたし。今後も無理ない範囲で続けていきたいなと。
――なるほど。
西田:あとはアートの展示ですね。うちは元々お店でも展示などを行っていたのですが、この前福岡市役所のイベントもお手伝いさせてもらって。最初にも言った通り音楽好きだけが集まるんじゃなくて、色々なアートやカルチャーが集まる場所を作りたい。それは自分にとっても福岡にとってもすごく意味のあることだと考えています。
西田:他には「como es」主導でフェスなどを開催できたらいいなと画策していたり、考えていることはたくさんあります。僕個人としては、DJ/選曲家として「como es」以外の施設などのBGMを担当させてもらっていて。人が集まる空間において、音楽はとても大事な要素のひとつで。雰囲気や会話の弾み方だったり、歩く速度も変えることができる。そういった個人の活動も、今後はもっと広げていければなと思っています。
Alexを筆頭に、「como es」のスタッフは才能豊かな子たちが集まっているので、僕は彼らをサポートしていきたいです。
【リリース情報】
yonawo 『明日は当然来ないでしょ』
Release Date:2020.11.11 (Wed.)
Label:WARNER MUSIC JAPAN / Atlantic Japan
[初回限定盤(CD+DVD)] ¥3,600 + Tax WPZL-31783/4
[通常盤(1CD)] ¥2,800 + Tax WPCL-13245
Tracklist:
01. 独白
02. 逢えない季節
03. トキメキ
04. rendez-vous
05. good job
06. cart pool
07. 蒲公英
08. 202
09. 天神
10. ムタ
11. 麗らか
12. close to me
13. 生き別れ
14. 告白
[初回盤特典DVD収録曲]
01. 矜羯羅がる
02. ijo
03. しあわせ
04. 26時
05. Mademoiselle
06. ミルクチョコ
07. 202
08. good job
09. 天神
10. トキメキ
11. 蒲公英
【イベント情報】
『yonawo 1st full album「明日は当然来ないでしょ」release one man live tour』
日時:2020年11月22日(日) OPEN 17:00 / START 18:00
会場:愛知・名古屋 CLUB QUATTRO
料金:前売 ¥4,000 (1D代別途)
問:JAILHOUSE 052-936-6041
日時:2020年11月23日(月・祝) OPEN 17:00 / START 18:00
会場:大阪 BIGCAT
料金:前売 ¥4,000 (1D代別途)
問:YUMEBANCHI 06-6341-3525
日時:2020年11月28日(土) OPEN 17:00 / START 18:00
会場:北海道・札幌 BESSIE HALL
料金:前売 ¥4,000 (1D代別途)
問:WESS 011-614-9999
日時:2020年12月20日(日) OPEN 17:00 / START 18:00
会場:福岡 BEAT STATION
料金:前売 ¥4,000 (1D代別途)
問:BEA 092-712-4221
日時:2020年12月23日(水) OPEN 18:30 / START 19:00
会場:東京・渋谷 TSUTAYA O-EAST
料金:前売 ¥4,000 (1D代別途)
問:ホットスタッフ・プロモーション 03-5720-9999
※全公演ソールドアウト
==
『yonawo presents 「LOBSTER」』(振替公演)
日時:2021年3月31日(水) OPEN 18:00 / START 19:00
会場:東京・恵比寿LIQUIDROOM
料金:前売 ¥3,500
出演:
yonawo
[Guest]
韻シスト
==
『yonawo presents 「LOBSTER」』(振替公演)
日時:2021年4月2日(金) OPEN 18:00 / START 19:00
会場:大阪・梅田Shangri-La
料金:前売 ¥3,500
出演:
yonawo
[Guest]
君島大空
【配信情報】
『yonawo 1st full album「明日は当然来ないでしょ」release one man live』
日時:2020年12月23日(水) OPEN 18:30 / START 19:30
会場:東京・渋谷 TSUTAYA O-EAST
料金:通常 ¥2,500 / ツアー・チケット購入者限定 ¥1,000*
問い合わせ:ホットスタッフ・プロモーション 03-5720-9999
チケット(ぴあ):11月11日(水)午前0時〜
※アーカイブ期間:12月31日(木)まで
*ツアーチケット購入者にはぴあより別途メールにて詳細をご案内いたします。